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中東ビジネスのリスクマネジメントのあり方と実務対応|アラブ首長国連邦(UAE)の地政学リスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点


座談会メンバー

パートナー

大澤 大

M&A・コーポレート案件の豊富な経験と、日米欧中をはじめとする各国の経済安全保障に関する深い政策・運用知見を融合し、企業法務全般をサポート。経産省で外為法等の立案から審査・執行、各国連携まで担った経験を背景に、戦略的かつ実務的な助言を提供している。

アソシエイト

松永 隼多

国内外のM&A、買収ファイナンス、金融取引等、企業法務全般にわたりアドバイスを提供している。また、欧州及び中東地域における執務経験を踏まえて、欧州・中東・アフリカ地域における日系企業に関連する法律業務に従事している。

KPMGコンサルティング 地政学・経済安全保障リスク支援サービス マネジャー

滋野井 公季

地政学リスク対応、中長期戦略策定に向けたビジネス環境分析、企業のインテリジェンス機能・体制構築支援、公共部門向けの経済安全保障関連支援などに従事。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程満期退学。アルジャジーラ研究所客員研究員、ハマド・ビン・ハリーファ大学客員研究員、外務省専門分析員などを経て2024年より現職。

CHAPTER
01

UAEのビジネスオポチュニティ

大澤

第2回以降は中東各国にフォーカスして、地政学と現地法律実務を融合したリスクマネジメントの対応について検討してみたいと思います。今回は、中東地域のなかで特に日系企業の進出が多いアラブ首長国連邦(UAE)をピックアップします。UAEは、近年、産業の多角化にも積極的に取り組んでおり、日系企業にとってもさまざまなビジネスチャンスが生まれている地域です。そこで、まずは、UAEにおけるビジネスのオポチュニティに着目してみたいと思います。

滋野井

UAEには多くの日本企業が進出しておりますし、ドバイが象徴的ですが、地域経済の中心としてさまざまな形で存在感を発揮している国だと思います。UAEは、湾岸地域のビジネス拠点として、あるいは近未来的な都市建設であるとか、積極的な誘致政策、規制緩和を背景として、ドバイ、アブダビを中心に金融・物流・航空のハブとして発展してきました。
企業目線では税制優遇やフリーゾーン、100%外資所有を原則として容認することなどによって多国籍企業を中東における地域本社として誘致してきた実績があります。こういった目覚ましい発展と並行して、脱石油の多角化戦略を推進し、観光・エンタメ、再エネ、最近ではAI、宇宙開発、フィンテックなどの分野を中心に積極的に投資を拡大しています。とりわけAI開発には力を入れており、AI専科の大学・研究機関を設立し、世界各国から才能を呼び込んでいます。

大澤

フリーゾーンについて言及がありましたが、そもそもUAEはどのような法制度になっているのでしょうか。

松永

一般にシビルローに基づく法体系が採用されていますが、同時にイスラム教の教義であるシャリーアも主要な法源の1つとされています。また、連邦政府が制定する法律のほかに各首長国が制定する法律もあります。さらに、主に外資による投資を奨励する目的で設立されているフリーゾーンと呼ばれる地域と、メインランドやオンショアと呼ばれるフリーゾーン外の地域が存在しますが、各フリーゾーンにおいても独自の規則が制定されていることがあります。フリーゾーンのなかでも、ドバイのDIFCやアブダビのADGMにおいては、コモンローに基づくルールが適用されているという特徴があります。

大澤

進出先によって法規制環境が異なり得るのですね。実際に進出するにあたっては、外資規制の有無やその内容が検討ポイントになるのではないかと思いますので、UAEの外資規制について簡単にご説明いただけますか。

松永

フリーゾーンにおいては、以前より、原則として外資規制の適用はありません。メインランドにおいては、従来は外資による出資比率を49%に制限していましたが、近年の外資規制の緩和により現状は多くの事業において原則として外資100%による出資が認められるに至っています。ただし、安全保障および防衛に関する活動を含めて、戦略的影響を有する事業活動として指定されている活動については引き続き所定の外資規制に服する点には注意が必要です。
アラブ首長国連邦(UAE)のリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点
CHAPTER
02

UAEの地政学リスク

大澤

ドバイには日本企業が400社近く拠点を構えていると聞きました。地政学リスクの観点で日本企業が知っておくべきことは何でしょうか。

滋野井

先ほどのような非常に魅力的な機会がある一方で、地政学リスクという観点でよくメディアや専門家に指摘されるのは、まさに最近サウジアラビアとの対立が表面化しましたが、地域情勢への介入が挙げられます。たとえばイエメンでは、2015年以降にサウジアラビア主導の有志連合が対フースィー派の軍事作戦を展開しましたが、UAEはそこに加わりつつも、独自路線として南部移行評議会(STC)などの非国家主体を独自に支援し、南イエメンの分離独立運動を後押ししてきたと報道されています。
この背景にはUAEの戦略として、港湾の権利・権益を拡大させて、グローバルな物流のハブを目指すという国家戦略があります。専門家には、このグランドストラテジーに基づいて、イエメン南部に対する影響力の拡大や、グローバルな物流の拠点となる地中海や紅海にそれぞれ面するリビアやスーダンに進出していると説明されています。

大澤

2025年末から2026年初頭にかけてもイエメンをめぐってUAE・サウジアラビア間の係争がありました。また年初にはイスラエルによるソマリランドの国家承認もありましたが、どうやらUAEが関与しているのではないかという話も出ています。

滋野井

この2つの事案は直接的なつながりはありませんが、同一の戦略的文脈に位置付けると見通しがよくなります。まず地理的に、同地域には紅海からバーブ・ル=マンデブ海峡を通じて、アデン湾、インド洋へとつながるグローバルな海運の回廊があります。UAEが影響力を拡大している国・地域をみると、スーダン、エリトリア、ソマリア(ソマリランド・プントランド)、そして対岸のイエメン南部やソコトラ島となり、これらの港湾、空港、島嶼、海峡を線で結ぶと国際貿易の大動脈となります。
そのうえで、サウジアラビアによるイエメン南東部ムカッラー空爆の事案ですが、2025年末にかけて、STCが首都アデンからアビヤン、シャブワ、ハドラマウトと東へと影響力を拡大していたとされます。ムカッラー港はハドラマウト県の州都にあるアデン湾に面した東部イエメン最大級の港湾であり、STCの同地域への進出はサウジアラビアにとってレッドラインだったと解釈されています。サウジアラビアの軍事介入とイエメン政府軍の攻勢の結果、STCは崩壊したと報じられています。

大澤

STCの代表団がサウジアラビアのリヤードに集まるなか、イエメン南部ではサウジアラビアの支援を受けた政府軍が地上作戦により反政府地域を制圧し、STCの指導者がソマリランド経由でアブダビに逃亡したというニュースが出ていましたね。一方で、STCに対する攻撃とほぼ同時期にイスラエルがソマリランドを国家承認しましたが、これをUAEの動きと結びつける見方があります。どういうことなのでしょうか。

滋野井

時系列的には2025年12月26日にイスラエルがソマリランドを国家承認しました。なぜ専門家はイスラエルによるソマリランドの国家承認とUAEの関与を結びつけて論じているかと言うと、元々イスラエルはソマリランドと深い関係があったわけではない一方、UAEはソマリランドのベルベラ港への投資や軍事・治安協力、外交代表部設立などの関係を進展させていたからです。今回の事案を受けて「UAE・イスラエル枢軸」と形容する専門家もいました。
いずれにしても、サウジアラビアとUAEの戦略的な競争が、第三国で代理勢力を交えた戦闘にまで発展しました。多くの有識者が、両国関係は大きく悪化したと分析しています。このUAE・サウジアラビア関係の悪化は今後中東情勢にどのような影響を及ぼし得るのか、現在さまざまな分析が行われています。このようなリスクがあることも把握しておくとリスク対応や中長期の事業戦略を立てる際に役立つと思います。

大澤

このようなさまざまなリスクがあることを踏まえると、UAEでビジネスをしている日本企業としては、普段から取引関係の法的な部分、特に日本国内の取引関係ではあまりフォーカスされない内容についても意識をしておく必要がありそうです。たとえば、有事が起きて取引関係の停止や終了を検討しなければならない可能性も相応にあり、不可抗力条項をきちんと意識しておくことも必要になるでしょう。UAEにおける不可抗力に関する法規制について簡単に説明してもらえますでしょうか。

松永

UAE民法においては、不可抗力事由によって債務の履行が不可能になった場合のその債務の消滅や契約の終了、また債務の一部のみの履行が不可能になった場合や、継続的契約について一定期間のみ債務の履行が不可能になった場合のその部分の債務の消滅等に関する規定が設けられています。もっとも、実務上は、有事に際して可能な限り疑義を排した対応を速やかに取ることができるよう、契約書において具体的な不可抗力事由やその手続き・効果などを一義的に定めておくべきと言えます。

大澤

有事が起こった場合やレピュテーションリスクの観点などから、既存のサプライチェーンの見直しが必要になる場面もあり得ますね。UAEには比較的代理店フレンドリーな代理店法制があるので、そういった点にも気をつけて検討を進めないといけないと理解しています。

松永

UAEの商事代理法のもとでは、経済省に登録された商事代理店に関しては、契約書における準拠法の定めにかかわらず、UAEの商事代理法が適用されると考えられています。特に、経済省に登録された代理店は、登録された地域における関連製品の取引に関して手数料を受け取る権利を有すること、そして、既存の代理店契約を解約することには実務上困難を伴うという特徴があります。

大澤

そうすると、UAEの一般的な法的リスクとして、既存代理店の解除がなかなか順調に進まないというリスクもあるのでしょうか。

松永

近年の商事代理法の改正によって、一般論としては商事代理契約の解約・終了事由が広がったと考えられています。もっとも、実務上は引き続き代理店の解約や終了には困難を伴う可能性があるため、柔軟な対応を可能にするための方策をあらかじめ複数検討しておく必要があります。解約事由について明確に合意しておくことも重要なポイントです。

大澤

中東地域のなかでも、UAEは特に多くの日系企業の進出が見込まれる地域ですが、オポチュニティとリスクを正確に把握し、現地特有の法律実務もタイムリーかつ正確に踏まえた手当をしておくことが欠かせませんね。
アラブ首長国連邦(UAE)のリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点 アラブ首長国連邦(UAE)のリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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