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特集

中東ビジネスのリスクマネジメントのあり方と実務対応|サウジアラビアの地政学リスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点


座談会メンバー

パートナー

大澤 大

M&A・コーポレート案件の豊富な経験と、日米欧中をはじめとする各国の経済安全保障に関する深い政策・運用知見を融合し、企業法務全般をサポート。経産省で外為法等の立案から審査・執行、各国連携まで担った経験を背景に、戦略的かつ実務的な助言を提供している。

アソシエイト

松永 隼多

国内外のM&A、買収ファイナンス、金融取引等、企業法務全般にわたりアドバイスを提供している。また、欧州及び中東地域における執務経験を踏まえて、欧州・中東・アフリカ地域における日系企業に関連する法律業務に従事している。

KPMGコンサルティング 地政学・経済安全保障リスク支援サービス マネジャー

滋野井 公季

地政学リスク対応、中長期戦略策定に向けたビジネス環境分析、企業のインテリジェンス機能・体制構築支援、公共部門向けの経済安全保障関連支援などに従事。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程満期退学。アルジャジーラ研究所客員研究員、ハマド・ビン・ハリーファ大学客員研究員、外務省専門分析員などを経て2024年より現職。

CHAPTER
01

サウジアラビアのビジネスオポチュニティ

大澤

本連載の第3回目は、サウジアラビアについて取り上げます。サウジアラビアは広大な国土を有し、日系企業にとっても近年多くのビジネスオポチュニティが生まれている地域といえます。まずは、日系企業が進出するうえでのオポチュニティという観点から、サウジアラビアについてご説明いただけますか。

滋野井

私が10年以上中東を見てきたなかで、最も変わったなと思う国の1つがサウジアラビアです。2017年頃、当時のムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子が解任されて、現在のムハンマド・ビン・サルマーン皇太子に代わりました。このムハンマド皇太子になりたての頃のサウジアラビアは不確実で大きな転換期のさなかにあったというのが当時の評価です。
サウジアラビアは、2017年にUAE、バーレーン、エジプトなどと一緒にカタールと外交関係を途絶し、中東に外交危機が生じました。しかし、現在では就任当初とはまったく異なり、非常に安定しています。外交面でも地域の指導的な役割を果たしていると評価されています。

大澤

ムハンマド皇太子と言うと、個人的にはリベラルな改革の旗手というイメージがあります。

滋野井

仰るとおり、ムハンマド皇太子は就任当初から改革路線を打ち出しており、たとえば女性が自動車を運転できるようになったり、映画館が解禁されたりといった文化的な面でも大きな変革をもたらしていました。この変化は経済面でも顕著に見られます。2016年にはポスト石油戦略を見据えた経済の多角化を戦略文書にまとめて「ビジョン2030」を公表しています。ここでは雇用創出、女性の社会進出、教育改革などが提唱されました。

大澤

中東最大の産油国で、確認埋蔵量もベネズエラに次いで世界2位と言われるサウジアラビアですが、ムハンマド皇太子のもとでの都市開発や事業投資を強化し、経済を開放する改革は企業にさまざまな機会を提供しています。

滋野井

観光・エンタメ・スポーツなどのソフトパワー戦略も打ち出しており、たとえばサッカー、格闘技、eスポーツなどの分野でサウジアラビアは近年大きな頭角を現しています。また超巨大な近未来都市NEOM構想があります。これには砂漠の真ん中に「The Line」と呼ばれる直線的な並行の壁に囲まれた近未来型都市や、オクサゴンと呼ばれる産業都市、トロジェーナという山岳リゾート地帯の建設などが含まれます。他にもディルイーヤという文化的な観光地や、エンタメ都市のキッディーヤ、スポーツ都市のブールバード、環境再生型リゾートを打ち出した「The Red Sea」などがあります。
こういったさまざまな政策によって外国資本や高度人材を呼び込み、金融、物流、テクノロジー、さらには観光の中心として躍り出ようという動きをしており、これにより、UAEと競合する状況になっています。サウジアラビアに地域拠点を誘致する「RHQプログラム」といった政策も進められていますが、これによって法人税の免除、公共入札の資格取得、ビザの優遇措置などの政策が講じられています。こういった大胆な政策の後押しもあり、最近ではITや消費財、コンサルティング企業などがサウジアラビアに地域本社を移転する動きが起こっています。

大澤

サウジアラビアでビジネスを行う際に重要な法規制について、概要を説明いただけますか。

松永

従来、サウジアラビアにおいては法制度の未整備やシャリーアの原則の適用による予測可能性の低さが指摘されていました。そのようななか、2023年12月には成文法たる民法が施行され、2025年2月には新たな投資法が施行されています。

大澤

サウジアラビアの法制度は、歴史的に見て大きな転換点を迎えているのですね。

松永

実務上重要な点として、サウジアラビアの裁判所は、原則として、当事者間の準拠法の合意にかかわらず、サウジアラビアの法令を適用すると考えられています。したがって、サウジアラビアの法令および実務を把握しておくことは大変重要になります。
また、民法は、契約の成立や損害賠償、不可抗力といった広範な事項について初めて成文化した法律であり、所定の事項を除き、施行日より遡って適用されます。施行されてまだ日が浅いため、当該民法に基づく法律実務が十分に確立されていない側面がある可能性にも注意が必要です。

大澤

加えて、実際にサウジアラビアでビジネスを行う日本企業にとっては、人事労務の観点も重要なポイントといえます。たとえば、サウジアラビアでは、サウジアラビア国民を一定割合雇用しなければならない義務が法定されていますが、この義務の遵守が実務上課題になることも多いと理解しています。

松永

適切な現地国民の採用と雇用の継続が容易ではないケースも考えられ、その結果、現地国民との雇用終了の検討を要する場面も想定されます。その場合には代わりの現地国民を雇用することに伴い、人材の採用コストが高まるうえ、一般論として人材の流動性により情報の漏洩リスクが高まることも懸念されます。

大澤

実務的にはどのような対策が考えられるのでしょうか。

松永

一般に、法令上許容されている最長の試用期間を設けることや、各従業員に取り扱わせる情報を適切な範囲に限定することも検討に値します。

大澤

中東地域、とりわけサウジアラビアにおいては、人事労務管理は意識すべき論点の1つですね。
サウジアラビアのリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点 サウジアラビアのリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点
CHAPTER
02

サウジアラビアの地政学リスク

大澤

次に、サウジアラビアの地政学リスクについてはいかがでしょうか。

滋野井

地政学リスクについては、第2回でUAEとサウジアラビアの対立が表面化したことについて議論しました。安全保障上のリスクに関しては、かつてはイランとの地域最大のライバル関係があったのですが、第1回で触れたように、現在この対立関係は改善しています。今後はイエメン南部の動向を受けてフースィー派との紛争がどのように進展するかに注目が集まっています。
こうした地政学リスクに加えて、前述した都市開発の縮小や停止のリスクは最近注目を集めています。たとえばNEOMの象徴であるThe Lineは、元々は幅200m、高さ500mの巨大な壁が全長170km続き、同国の人口の25%にあたる900万人が居住するメガシティ構想として打ち出されていましたが、一部の報道では最初の稼働区間が1〜1.5kmほどに縮小したという観測もあります。
山岳リゾートのトロジェーナは当初2029年の冬季アジア大会の候補地ともされていましたが、計画が遅延して国際イベントのスケジュールにも影響が出ているとも言われています。また、エンタメ都市キッディーヤは、パリの3倍の面積にあたる360km2という巨大エンタメ・スポーツ・文化都市の構想で、日本のIPコンテンツを使ったテーマパークも計画されています。一方で、2025年末にオープンした時点では、5〜10km2規模という観測もあり、当初のメガ構想がどこまで実現するかは未知数とされています。
とりわけNEOMの縮小は、世界の鉄鋼や建設資材の需給に大きな影響を与えると言われており、そのような財の国際価格にも影響が及ぶ可能性があります。

大澤

都市開発が白紙になったり、ビジネスの縮小や撤退が生じたりすることはよくありますが、サウジアラビアでは事業規模が大きいこともあり、その場合の法的イシューは事前に検討して理解しておく必要がありますね。サウジアラビアの民法上の規定に関連する内容はあるのでしょうか。

松永

サウジアラビア民法上、債務の履行が不可能になったか否かに応じて、不可抗力と事情変更に関する定めがそれぞれ設けられています。前者については、不可抗力により債務の履行が不可能になった場合の当該債務の消滅と契約の終了や、契約上の債務の一部または一時的な履行の不能に関する、その部分の債務の消滅等に関する規定が設けられています。

大澤

事情変更についての規定はいかがでしょうか。

松永

契約締結時に予見できなかった例外的な事情が生じ、その結果、債務の履行が債務者にとって重大な損失を生じるおそれがあるような過度な負担となる場合に、債務者は、遅滞なく、相手方に対して再交渉を求めることができる旨が定められています。再交渉の結果、合理的な期間内に合意に至らない場合には、裁判所は債務の内容を合理的な水準まで減少させることができるとされています。
さらに建設に関する契約については、契約締結時に予見できなかった例外的な事情により当事者間の契約上の義務のバランスに支障が生じ、契約の前提が妥当しなくなったような場合には、裁判所は履行期間の延長や報酬の増減その他契約の終了を含めた契約上のバランスを回復するための措置を命ずることができること等が定められています。

大澤

サウジアラビアにおける建設プロジェクトは大規模なものが多い一方で、当初のスケジュールどおり、あるいは構想どおりに進まない例も生じているのだとすると、そのような場合におけるサウジアラビア民法上の処理を念頭に置きながら、万一に備えた法的手当についても事前に講じておくことはほとんどマストですね。
サウジアラビアに関しては、近年では各種の誘致施策が打ち出されている点で魅力的である一方、事前の検討や対策が欠かせないことは、他の中東諸国と変わりませんね。
サウジアラビアのリスクとオポチュニティおよび現地法律実務の論点

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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