1. グローバル・ミニマム課税への対応
(1) 米国税制との共存
大綱において、「グローバル・ミニマム課税と米国をはじめとする一定の要件を満たす国の税制との共存等に係る国際的な議論が継続している状況にあり、近く国際合意に至る場合には当該合意に則り早急に見直しを検討する等、議論の状況を踏まえて今後対応を検討する」とされています。2025(令和7)年6月にG20においてOECDと包摂的枠組み(IF: Inclusive Framework)のグローバル・ミニマム課税と米国のミニマム課税(NCTI: Net CFC Tested Income)とが併存する(side-by-side)旨の合意が成立していますが、その「併存」とはどういう意味かはまだ明確になっていません。この点については、大綱の上記記載のとおり、国際合意の行方を注視する必要があります(大綱「第一、4、(6)」24~25頁)。
(2) グローバル・ミニマム課税の計算方法に関する改正(繰延税金資産・負債)
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(グローバル・ミニマム課税)について、以下の見直しがなされます(大綱「第二、五、1」132頁)。グローバル・ミニマム課税は我が国では既に2024(令和6)年4月1日以後に開始する会計年度から適用されており、3月期決算会社については2026(令和8)年9月末に最初の申告及び納付を控えています。今回の改正はOECDの2025(令和7)年1月行政ガイダンス(モデル規則9.1.2条に関するもの)を我が国の国内法に反映するものであり、グループ会社(構成会社等)の実効税率(=調整後対象租税額/個別計算所得等の金額)の計算の際のやや細かいルールの一部です。
具体的には、移行対象会計年度(適用開始年度)前の対象会計年度において、以下の①及び②の事由によって計上された繰延税金資産又は繰延税金負債を無視するというものです。
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国又は地方公共団体との間で締結された税額控除等に係る取り決め(2021(令和3)年12月1日以後に締結されたものに限る。)
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構成会社等の所在地国の法令(2021(令和3)年12月1日から移行対象会計年度開始の日の前日までの間に制定されたものに限る。)における資産又は負債の時価評価
すでにモデル規則第9.1条において、2021(令和3)年12月1日以後、移行対象会計年度(適用開始年度)前に行われた事由によって計上された繰延税金資産又は繰延税金負債について、所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)を含むグローバル・ミニマム課税の計算上、無視又は制限する旨の規定があり、我が国の法人税法においても同様の規定が置かれていました(法人税法施行規則38条の28①一ヌ・ル・ヲ・ワ参照)。これらの規定により、移行対象会計年度(適用開始年度)前に行ったグループ内取引や時価評価を理由とする租税の前倒しや繰延べにより、その反対の効果(後の年度で支払った又は支払わなかったものとみなすこと)を移行対象会計年度(適用開始年度)以降に生じさせることで、実効税率が過大又は過小に評価されることを防止しています。今回の改正は、さらにその事由を追加するものです。
2. 外国子会社合算税制(CFC税制)の見直し
外国子会社合算税制(CFC税制、タックスヘイブン対策税制)について、大綱は「『第2の柱』の導入以降も、外国子会社を通じた租税回避を抑制するための措置としてその重要性は変わらない。」と述べており(大綱「第一、4、(6)」24~25頁)、思い切った簡素化は想定されていません。他方で「対象企業に追加的な事務負担が生じること」を踏まえた見直しをするとされており、以下のとおり、やや細かい手直しがなされています(大綱「第二、五、2」132~134頁)。
(1) 解散した部分対象外国関係会社又は外国金融子会社等に係る特例の創設
受動的所得の合算課税の対象となる「部分対象外国関係会社」※1が解散した場合において、合算の対象となる受動的所得の計算に改正が加えられます。すなわち、部分対象外国関係会社が解散により「清算部分対象外国関係会社」に該当することとなる場合、一定期間※2、「部分対象外国関係会社」とみなして、従前どおり部分合算課税の対象とする一方で、部分合算課税が過大にならないようにするための手当てが行われます。
前提として、「部分対象外国関係会社」とは、外国関係会社のうち、経済活動基準※3を満たすために、会社単位の合算課税を受けず、受動的所得の範囲内でのみ部分合算課税を受ける会社を意味します※4。
今回の改正は、部分対象外国関係会社につき、解散後の「特例清算事業年度」において、部分合算課税の対象所得である「異常所得の金額」の計算について、従前の総資産の額、人件費の額及び減価償却費累計額に基づいて計算することとしました。「異常所得の金額」は、資産規模や人員等の経済実態に照らして過大な所得であって、無形資産などによる利益であると考えられることから合算課税の対象とされているところ、特例清算事業年度においては資産処分や人員整理が行われて合算課税の範囲が不合理に拡大するおそれがあるため、それを防止しようとしたものと推察されます。
このほか、「外国金融子会社等」(部分対象外国関係会社のうち、銀行業を営む会社)について※5、同様の趣旨の改正がなされます。銀行は利子等の金融所得を事業として得ているので、それらの金融所得が(受動的所得の)合算課税の対象から除外されるとともに※6、外国金融子会社等が解散により外国金融子会社等に該当しなくなった場合、部分対象外国関係会社になるとしても、一定期間、一定の金融所得を解散前と同様に合算税制の対象から除外していました(租税特別措置法66条の6第6項)。
今回の改正は、「外国金融子会社等」について、解散後の一定期間は原則として従前どおりの部分合算課税の対象としつつ、他方で、解散後の「特例清算事業年度」において、部分対象外国関係会社と同様に、部分合算課税の対象所得である「異常所得の金額」の計算について、従前の総資産の額、人件費の額及び減価償却費累計額に基づいて計算することとしました。さらに、外国金融子会社等に特有の所得として、部分合算課税の対象となる「異常な水準にある資本に係る所得の金額」(事業を行うために本来必要とされる水準を超える過大な資本)は、特例清算事業年度においてはないものとされ、合算課税から外されます。
(2) ペーパー・カンパニー特例に係る資産割合要件
「特定外国子会社等」とは、外国関係会社のうち、ペーパー・カンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト国所在会社をいい、厳しい要件で合算課税の対象となります(これらのいずれかに該当する場合は租税負担割合が27%以上でなければ会社単位の合算課税を受けます。)※7。このうち、特に、日本企業が外国に投資する際に設立するペーパー・カンパニーについて、一定の合理的な機能・役割(持株会社、不動産保有又は資源開発等プロジェクト)がある場合には特定外国子会社等から除外されています。これをペーパー・カンパニー特例といいます※8。
このペーパー・カンパニー特例の要件として、総収入金額のうち95%超が「特定子会社※9」からの配当や利子などで構成されているという要件(収入割合要件)や、総資産の帳簿価額のうち95%超が「特定子会社」の株式等、配当・利子の未収金、現預金などで構成されているという要件(資産割合要件)があります※10。このうち、前者の「収入割合要件」について、2025(令和7)年度改正において収入が全くない事業年度については収入割合要件の判定は不要とする改正がなされました。今年度の改正は、後者の「資産割合要件」についても、総資産の額が零である場合には、資産割合要件の判定を不要とするものです。
(3) 外国関係会社の外国法人税の税率が所得の額に応じて高くなる場合の特例についての見直し
外国子会社合算税制においては、外国関係会社の「租税負担割合」が問題となります(特定外国関係会社であれば27%以上の租税負担割合、対象外国関係会社であれば20%以上の租税負担割合があれば、会社単位の合算課税が免除されます。)。この「租税負担割合」の計算に関し、外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の額に応じて高くなる場合に最高税率を用いて租税負担割合を計算することができる特例※11があります。これは所得額に応じた具体的な計算を必要とせず、単純に最高税率を用いることを認めた簡便法です。
今回の改正では、本特例を適用することが「著しく不適当であると認められる場合」には、本特例を適用できないこととするとされています。「著しく不適当であると認められる場合」としては、その最高税率が適用されることが通常見込まれないことや、その最高税率の所得区分の適用金額が極めて限定されていること(つまり、最高税率が適用されるとしても絶対額が小さいこと)が挙げられています。
(4) 適用時期
以上の外国子会社合算税制の改正は、外国関係会社の2026(令和8)年4月1日以後に開始する事業年度について適用されます。
3. 移転価格税制
(1) 簡素化・合理化アプローチの不実施
移転価格税制について、「移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化については、今後、国際的な議論及び各国の動向を踏まえて対応を検討することとし、当面は実施しない。」と記載されています(大綱「第一、4、(6)」25頁)。
(2) 簡素化・合理化アプローチについて
移転価格税制については、OECD及び包摂的枠組み(IF: Inclusive Framework)において、利益B(Amount B)として、基礎的マーケティング及び販売活動に対する独立企業間価格について、簡易な方法で利益率を算定する方法(簡素化・合理化アプローチ)が提案されておりました。その利益Bについて、2025(令和7)年度税制改正大綱は、すでに「移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化については、今後、国際的な議論及び各国の動向を踏まえて対応を検討することとし、当面は実施しない。」(同大綱15頁)と述べており、我が国当局としては、当面は、移転価格税制の執行に関して従前からの変更はなく、原則として、機能・リスクの類似する比較対象法人を選定して独立企業間価格を算定することが必要であるとの立場を表明していました。他方で、大綱は、「他国が本簡素化・合理化を実施する場合については、現行法令及び租税条約の下、国際合意に沿って対応する。」(同大綱15頁)とも記載していました。
この点については、国税庁が2025(令和7)年6月に、「移転価格税制の適用に係る簡素化・合理化アプローチに関するFAQ」を公表しています※12。同FAQにおいて、「我が国においては、簡素化・合理化アプローチを実施していないことから、国外関連者が所在する進出先国・地域における簡素化・合理化アプローチの適用状況にかかわらず、従来の独立企業間価格の算定方法を用いて独立企業間価格を算定する必要があります。このことは、国外関連者の所在する進出先国・地域が covered jurisdiction※13に該当するか否かによって影響を受けません。」(問2)と述べており、我が国当局においては従来の実務から変更はない旨を明らかにしています。もっとも、二国間相互協議で相手国がcovered jurisdictionに該当し、かつ、租税条約が締結されている場合で、相手国において簡素化・合理化アプローチを適用した場合、「[当該]法人の所在地国・地域内の法令や執行上の慣行の範囲内において、当該進出先国・地域の簡素化・合理化アプローチの適用結果を尊重(respect)する旨」がOECD/IFの利益Bガイダンスに記載されているところ、「相互協議でもこれを踏まえ、我が国の法令や執行上の慣行の範囲内において、対応することになります。」(同FAQ問4)とされており、相互協議において相手国の主張する簡素化・合理化アプローチを全く無視するということでもなさそうです。
(3) 企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設
内国法人と関連者との間の特定取引(無形資産に関する取引や、研究開発・広告宣伝等の事業活動に関する取引)について、取引内容の明細と対価の明細に関する記録の保存義務が新設されます(大綱「第二、三、4、(1)」100頁)。各国の関連会社間のシェアードコスト契約における経費の配賦など、独立企業間価格であるか否か以前の事実関係の把握のためのものであると思われます。移転価格の文書化に加えて文書の作成・保存義務が追加されることになります。違反は青色申告の承認の取消事由になるとされており、どのような文書が要求されることになるのか、注意が必要です。
4. 国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し
(1) 通信販売による少額(対価の額が10,000円以下)貨物の輸入に関する課税
消費税法上、輸入については輸入消費税が課されるのが原則ですが※14、従来、少額輸入免税制度として、課税価格の合計額が10,000円以下(個人的使用の場合は海外小売価格16,666円以下)の物品の輸入については、消費税及び関税が免除されていました※15。これを利用して、中国系の電子商取引サイトが消費税や関税の負担なく、あるいは個人的使用の特例に基づき課税価格を引き下げる(0.6掛け)ことによって消費税や関税の少ない負担で、日本の消費者向けに少額貨物を大量に販売しているとの指摘があり、海外の電子商取引サイトと国内事業者との間に競争上の不均衡が生じているとの指摘がありました。
今回の改正において、通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産の譲渡について、一の資産の対価の額が10,000円(税抜き)以下である限り、「特定少額資産の譲渡」として新たに資産の譲渡等に係る消費税の課税対象とするものとされ、10,000円以下の少額貨物の越境販売について消費税が課されることになりました(大綱「第二、四、1」119頁)。これにより少額貨物についての国外事業者と国内事業者との間のイコールフッティングが図られます。
また、「特定少額販売事業者登録制度」を創設し、その登録事業者については保税地域からの引取りについて輸入消費税が課税されないものとして、特定少額資産の譲渡に関する消費税と輸入消費税の整理がなされています。
関税については、個人使用貨物に限り課税価格を海外小売価格の6割にする特例を廃止するものとされています※16(大綱「第二、八、2、(2)」149頁)。つまり、個人的使用の場合において、従来免税とされていた海外小売価格10,000円超16,666円以下の物品が新たに関税の対象となるということです。但し、10,000円以下の物品の免税は維持されています。
(2) 物品販売に係るプラットフォーム課税の導入
プラットフォーム事業者のその課税期間において、(イ)国外事業者が国内において行う資産の譲渡(特定少額資産の譲渡に該当するものを除く)と、(ロ)事業者が行う特定少額資産の譲渡に係る対価の額の合計額が50億円(税込み)を超える場合には、そのプラットフォーム事業者に国税庁長官への届出義務を課すとともに、国税庁長官はそのプラットフォーム事業者を第2種プラットフォーム事業者として指定するものとされます。
デジタルプラットフォームを介して行う上記(イ)及び(ロ)の資産の譲渡について、第2種プラットフォーム事業者を介してその対価を収受するものについては、第2種プラットフォーム事業者が行ったものとみなされます。すなわち、物品販売についてのデジタルプラットフォームについて、一定規模のプラットフォーム事業者は登録義務が課され、そのプラットフォームを介して行われた取引についてプラットフォームの利用者、すなわち、マーケットプレイスを利用した販売者に代替して消費税の納付義務を負うことになります。
すでに、消費者向け電気通信利用役務、すなわちデジタルサービス(アプリ、電子書籍、動画配信等)に関しては、2024(令和6)年度税制改正においてプラットフォーム課税が導入され、2025(令和7)年4月1日以後の取引に適用されていました※17。今回の改正は、デジタルサービス(コンテンツサービス)のみならず物品販売に関するプラットフォームに関しても、プラットフォーム課税を及ぼすものであると考えられます。
この改正は、2028(令和10)年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用するものとされており、2年間の猶予期間が設けられる予定です。
脚注一覧
※1
居住者及び内国法人が発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有している外国法人をいい、実質支配関係がある場合も含みます(租税特別措置法66条の6第1項)。
※2
その解散により最初に「部分対象外国関係会社」に該当しないこととなった事業年度終了の日から原則として同日以後3年を経過した日までの期間内の日を含む事業年度とされています。
※3
経済活動基準は、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準又は所在地国基準について、①から④の全てを満たしてはじめて「部分対象外国関係会社」に該当します(その場合、会社単位の合算課税の対象となりません。)。
※4
「部分対象外国関係会社」の定義につき、租税特別措置法66条の6第2項6号参照。
※5
「外国金融子会社等」の定義につき、租税特別措置法66条の6第2項7号参照。
※6
租税特別措置法66条の6第6項参照。一般の部分対象外国関係会社は「特定所得の金額」が合算課税対象となりますが(租税特別措置法66条の6第6項・7項)、「外国金融子会社等」については、「金融子会社等部分適用対象金額」のみが合算課税の対象となります(同条第8項・9項)。
※8
租税特別措置法66条の6第2項1号イ(1)(2)(3)、同法施行令39条の14第1項。
※9
その持株会社(ペーパー・カンパニー特例の該当性が問題となる会社)が発行済株式の25%以上を直接保有し、かつ6ヶ月以上継続して保有している外国関係会社等を意味します(租税特別措置法施行令39条の14第1項)。
※10
このほか、「事業要件」や「統括・管理要件」があります(租税特別措置法施行令39条の14第1項)。
※11
租税特別措置法施行令39条の17の2第2項4号。
※15
関税定率法14条18号、4条の6第2項、輸入品徴収法13条1項1号、関税定率法基本通達4の6-2(3)。