はじめに
現在、個人の暗号資産取引に係る所得は雑所得に区分されており、最大55%の税率で所得税が課されることとされている。このような課税は諸外国に比べても税負担が重く、日本で暗号資産が普及するにあたっての障害の一つとされていた※1。しかしながら、2025年12月19日に公表された自由民主党及び日本維新の会の令和8年度税制改正大綱※2(以下「大綱」という。)において、一定の暗号資産取引に係る所得は20%の分離課税の対象とする旨の方針が示された。これは、暗号資産取引を行う全ての者にとって重大な税制改正であるため、本ニュースレターでは、大綱の内容、具体的には分離課税の対象となる暗号資産や取引、その周辺問題などについて速報する。
改正までの経緯
2024年12月20日に公表された自由民主党及び公明党の令和7年度税制改正大綱※3の「検討事項」として、以下のとおり、暗号資産の法的位置づけを見直した上で、課税上の取扱いについても見直す旨の方針が示された。
暗号資産取引に係る課税については、一定の暗号資産を広く国民の資産形成に資する金融商品として業法の中で位置づけ、上場株式等をはじめとした課税の特例が設けられている他の金融商品と同等の投資家保護のための説明義務や適合性等の規制などの必要な法整備をするとともに、取引業者等による取引内容の税務当局への報告義務の整備等をすることを前提に、その見直しを検討する。
その後、金融庁は暗号資産取引に係る課税の見直しの前提となる、業法上の位置づけに関する再検討を行っている。具体的には、令和6年秋から、暗号資産の法制度上の位置づけに関する勉強会を開催し、令和7年4月10日に「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」と題するディスカッション・ペーパー※4を公表した。その上で、同年7月31日から11月26日まで6回にわたり、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」を開催し、12月10日に「暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告」※5を公表している。
大綱の内容
このように、暗号資産の業法上の位置づけの見直しに関する議論が進展したことを受けて、大綱において、以下のとおり、金融商品取引法等の改正を前提として、暗号資産取引に係る所得を分離課税の対象とすることとする方針が示された。大綱の具体的な内容は以下のとおりである。
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暗号資産取引業を行う者に対する特定暗号資産の譲渡等は分離課税の対象となる。
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特定暗号資産の譲渡等については、暗号資産取引業を行う者に報告書の提出義務が課される。
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分離課税の対象となる特定暗号資産の譲渡等に係る損失については、3年間の繰越控除が認められる。
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特定暗号資産を対象とする暗号資産デリバティブ取引についても分離課税の対象となる。
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投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提に、暗号資産ETFも分離課税の対象となる。
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総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産(分離課税の対象にならない暗号資産)については、一般の譲渡所得に認められる50万円の特別控除、長期譲渡所得の2分の1課税及び他の所得との損益通算は認められない。
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その他所要の措置を講ずる。
また、大綱では、上記の分離課税のほか、消費税法上の取扱いの見直しについても方針が示されており、その大要は以下のとおりである。
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暗号資産の譲渡は、有価証券に類するものとして(現在は支払手段に類するものとされている)、引き続き消費税の非課税取引に該当する。
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消費税の課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡については、譲渡に係る対価の5%相当額を資産の譲渡等の対価に算入する。
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暗号資産の貸付けについて消費税を非課税とするほか、所要の措置を講ずる。
大綱の解説
以下では、税制改正の具体的な内容について、大綱の文言から読み取れる限度で解説する。なお、大綱の記述はあくまで概括的なものであり、制度の詳細は、来年の早い段階で公表されるであろう法令案を確認する必要がある点には留意が必要である。
① 分離課税の対象となる暗号資産の範囲
分離課税の対象となる暗号資産は「特定暗号資産」とされている。その具体的な範囲は「金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等」とされているため、暗号資産取引業を行う者が取り扱う暗号資産、すなわちIEO銘柄を対象としているものと考えられる。大綱においてはそれ以上に分離課税の対象となる暗号資産を限定する旨の文言は見られない。ただし、暗号資産取引業や金融商品取引業者登録簿に登録される暗号資産等の具体的な内容は、金融商品取引法の改正内容が明らかになっていない現時点では必ずしも明確ではないため、詳細は金融商品取引法の改正内容も確認する必要がある。
② 分離課税の対象となる取引の範囲
分離課税の対象となる暗号資産取引は、暗号資産取引業を行う者に対する特定暗号資産の譲渡等とされている。「譲渡等」の具体的な範囲は記載されていないため、その外延は必ずしも明確ではない。暗号資産取引業者を相手方とする譲渡(現在の販売所での取引)が対象になることに疑義はないが、取引所での取引(いわゆる板取引)は、厳密には暗号資産取引業者を相手方とする譲渡ではないため、大綱の文言だけからは対象に含まれるのかが必ずしも明確ではない。「第一 令和8年度税制改正の基本的考え方」において、「国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引……から生ずる所得を分離課税の対象とする。」(大綱13頁)とされており、当該記載で単に「現物取引」とされていることからすれば分離課税の対象を販売所での取引に限定する理由はないように思われるが、「譲渡等」の定義次第であり、詳細は法令案を確認する必要がある。一方で、マイニング、ステーキング、レンディング等による暗号資産の取得については「譲渡等」という文言からはかなり離れるため、これらに係る所得は分離課税の対象に含まれないのではないかと思われる。
また、暗号資産取引所以外での暗号資産取引や、海外の暗号資産取引所での暗号資産取引、DEXでの暗号資産取引などは対象に含まれない。一方で、譲渡する暗号資産の取得の態様について特段の規定はないため、暗号資産取引所以外で取得した暗号資産を暗号資産取引所に移して譲渡した場合であっても、分離課税の対象に含まれるように思われる。
③ 分離課税の対象とならない暗号資産の譲渡に関する課税
特定暗号資産以外の暗号資産を譲渡した場合や、特定暗号資産であっても暗号資産取引業を行う者以外に譲渡等を行う場合には、分離課税の対象にはならず、総合課税の対象になると考えられる(ただし、反復継続して取引を行うなど、取引の態様が譲渡所得や雑所得に該当するような場合も考えられるところではある。)。暗号資産の譲渡については、現在の税務当局の取扱いとしては、原則として事業所得又は雑所得に該当するものとされている※6。今般、暗号資産が金融商品取引法の規制対象になる金融商品として位置づけられたことを受けて、所得区分についても、譲渡所得と整理されたものと解される。通常、譲渡所得であれば、50万円の特別控除や長期譲渡所得に該当する場合の2分の1課税が認められ、また、他の所得との損益通算も認められることになるが、暗号資産取引については、これらの規定の適用はないものとされている。
④ 暗号資産の譲渡の消費税法上の取扱い
現在は、消費税法上、暗号資産は支払手段に類するものとされており、消費税は非課税とされるとともに、仕入税額控除の適用に関しても、課税売上割合の計算において、暗号資産の譲渡に関する売上高を含めて計算する必要がないものとされている。しかしながら、暗号資産が金融商品取引法の規制対象となる金融商品と位置づけられることになることを受けて、消費税法上、有価証券に類するものと取り扱われることになる。この場合も、消費税法上の非課税取引に該当することには変わりがないが、仕入税額控除の計算において、売上高の5%を課税売上割合の計算上、非課税売上高に含める必要があることになる。その結果、課税売上割合が小さくなるため、消費税の課税事業者は注意する必要がある。
⑤ その他の措置
暗号資産が金融商品取引法の規制対象である金融商品と位置づけられることを受けて、その他どのような改正が行われるかは現時点では明確ではない。論点としては、国外転出時課税制度(いわゆる出国税)の対象になるのか、暗号資産を公益法人等に寄附した場合に譲渡所得等の非課税の特例の規定の適用があるのかなどが論点になろう。具体的には、法令案が公表された時点でそれらの規定の有無について確認する必要がある。
⑥ 適用時期
今回の暗号資産に関する改正は、基本的に、金融商品取引法の改正法の施行日の翌年1月1日から適用されることが原則である。金融商品取引法の改正法の施行日は現時点では明らかではないが、仮に、来年の通常国会で法案が成立し、その1年後に施行されるとすると、2027年中に施行されることになるため、税制改正が適用されるのは2028年1月1日からとなる。上記のとおり、分離課税の適用対象になる暗号資産について取得の態様は限定されておらず、かつ、経過措置等の記載もないため、適用開始以前に取得した暗号資産であっても、適用時期より後に暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等する場合には、分離課税の対象になるように思われる。なお、暗号資産ETFの分離課税については、大綱において適用時期が記載されていないため、現時点では明確にされておらず、今後の議論を注視する必要がある。
最後に
以上のとおり、令和8年度税制改正において、個人の所得税に関して分離課税の対象とされることとなった。今後は、大綱に記載された改正内容がどのように具体化されるかについて、翌年に公表されるであろう法令案を確認する必要がある。また、今回の税制改正の前提となる金融商品取引法の改正についても、今後の議論については引き続き注視していく必要がある。
最後に、暗号資産に関する課税については、令和5年度税制改正及び令和6年度税制改正で法人税の期末時価評価課税の改正が行われたところであるが、ついに令和8年度税制改正で個人の所得税に関する改正も実現することとなった。自由民主党デジタル社会推進本部のweb3ワーキンググループメンバーとして、2022年に公表されたNFTホワイトペーパー※7の作成から税制部分を担当してきた筆者としては、これらの重大な税制改正が実現したことは望外の喜びである。