※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
※本ニュースレターは、New York Department of Stateが実質的所有者の報告義務に関する特設サイトを公開したことに伴い、2026年1月27日付で内容をアップデートしています。
はじめに
当事務所が2024年3月13日に発行したニュースレター※1(以下、「前回ニュースレター」といいます。)でご紹介したとおり、2023年12月23日、ニューヨーク州において、ニューヨーク州のlimited liability company(以下、「LLC」といいます。)に対して実質的所有者(Beneficial Owner)の報告を義務付けるLLC Transparency Act(以下、「NY LLCTA」といいます。)が成立しました。また、施行日を当初予定されていた2024年12月21日から2026年1月1日へ延期する改正法(S8059)※2(以下、「2024年改正」といいます。)が成立しています。
NY LLCTAはその多くの規制内容や用語の定義を連邦のCorporate Transparency Act(以下、「連邦CTA」といいます。)に依拠する構造を有していますが、2025年3月、米国財務省の金融犯罪捜査網(the Financial Crimes Enforcement Network、以下、「FinCEN」といいます。)が内国会社(米国の法令に基づき設立された事業体をいいます。以下同じです。)を報告義務の対象外とする暫定最終規則(Interim Final Rule)(以下、「本暫定最終規則」といいます。)を公表したことにより※3、これによるNY LLCTAへの影響が論点となっていました。このような状況に対応するため、ニューヨーク州議会では、連邦CTAへの依拠を排除し、州独自の定義規定に切り替えることを目的とした改正法案(S8432)※4(以下、「2025年改正案」といいます。)が提出されましたが、同改正案は、2025年12月19日、ニューヨーク州知事により拒否(veto)され、現時点では成立していません。もっとも、ニューヨーク州議会の各議院において3分の2以上の賛成が得られた場合には、ニューヨーク州知事による拒否が覆され、2025年改正案が成立する可能性も残されています。そのため、NY LLCTAを巡る法制度は、依然として流動的な状況にあります。
本ニュースレターでは、以上の状況を踏まえ、NY LLCTAの現行制度の内容を整理するとともに、連邦CTAとの主な相違点及び日本企業として特に留意すべき実務上のポイントについて解説いたします。
2024年改正及び2025年改正案の概要
1. 2024年改正の概要
2024年改正においては、NY LLCTAの規定内容に多岐にわたる変更が加えられましたが、特に重要な改正点として、以下の4点が挙げられます。
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施行日を、当初予定されていた2024年12月21日から2026年1月1日へと延期したこと
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①に伴い、施行日時点において報告対象となるLLCの初回報告期限が、施行日から1年後(実務上は2026年12月31日)まで延期されたこと
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初回報告の提出後、毎年の年次報告を通じて情報を更新する義務を新たに課したこと
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報告義務違反に対する制裁を大幅に強化し、最終的にはLLCの強制解散又は事業登録の解除が可能となったこと
上記の改正により、NY LLCTAは、単なる期限延長にとどまらず、実務上の運用負担や法的リスクの観点からも、より厳格な制度へと移行することとなりました。
2. 2025年改正案の経緯と現状
2023年12月に成立したNY LLCTA(2024年改正後を含みます。)は、実質的所有者(Beneficial Owner)、報告会社(Reporting Company)及び免除会社(Exempt Company)等の定義において、連邦CTAにおける定義を参照する構造となっています。しかし、2025年3月21日にFinCENが公表した本暫定最終規則により、連邦CTAに基づく実質的所有者の報告義務の対象が、米国外の法律に基づき設立され、米国のいずれかの州において事業登録を行った事業体(以下、「外国会社」といいます。)に限定されることになりました。その結果、NY LLCTAについても、追加の立法措置が講じられない限り、その文言構造上、外国会社であるLLCのみが報告対象となる(すなわち、内国会社であるLLCについてはNY LLCTA上も報告対象外となる)状況になっていました。
上記の状況を受け、ニューヨーク州も連邦の動向に沿って、報告義務の対象を外国会社であるLLCに限定するのか、それとも、追加の改正を行い、内国会社も報告義務の対象とする州独自の制度とするのか、という点が注目されていました。こうした問題意識の下、ニューヨーク州議会は後者の選択肢を志向し、2025年6月、連邦CTAへの定義依拠を見直し、ニューヨーク州独自の定義規定を設けることを目的とする2025年改正案を可決しました。同改正案は、実質的所有者、報告会社及び免除会社について、連邦CTAにおける定義を参考にしつつも、ニューヨーク州独自の定義を明文化する内容となっており、特に、報告会社の定義において、外国会社であるLLCのみならず内国会社であるLLCも含める点において、連邦CTAとは一線を画す内容となっていました。
しかしながら、2025年12月19日、2025年改正案はニューヨーク州知事により拒否され、現時点では成立していません。但し、今後ニューヨーク州議会の各議院において3分の2以上の賛成が得られた場合には、州知事の決定が覆され、2025年改正案が成立する可能性が残されています。そのため、NY LLCTAを巡る動向は依然として流動的な状況にありますが、少なくとも現時点においては、NY LLCTAは引き続き連邦CTAにおける定義を参照する構造を維持しており、その適用範囲や解釈は、連邦法の解釈又は改正の影響を受け得る状態が継続していると整理することができます。すなわち、現状としては、NY LLCTA上も、外国会社であるLLCのみが実質的所有者の報告義務を負うことになり、内国会社であるLLCは実質的所有者を報告する必要はないと考えられます。
その後New York Department of State(以下、「NY DOS」といいます。)は、FAQ※5、実質的所有者の報告フォーム、免除会社の免除の宣誓(attestation of exemption)のフォーム等を含む、NY LLCTAに基づく実質的所有者の報告義務に関して特設サイト※6を公開しました。特にFAQにおいては、これまで論点となっていた事項を含めて現時点におけるNY LLCTAを整理しており、その内容や実務上の提出方法等を理解する上で大変有益です。例えば、前回ニュースレターでご紹介したとおり、NY LLCTAは、免除会社に該当する場合であっても、どの免除要件に該当するかを明示した上で、免除に関する宣誓(attestation of exemption)を行うことを求めています。本最終暫定規則は、報告会社の定義を外国会社に限定すると同時に、免除会社の類型として内国会社を追加したことから、内国会社であってニューヨーク州において設立又は事業登録を行ったLLCは、免除会社としての宣誓を行う必要があるかどうかが論点となっていました。FAQではこの点について、内国会社は免除の宣誓を含むあらゆる報告義務を免除される一方、外国会社であってニューヨーク州において事業登録をしているLLCが免除会社に該当する場合は、免除の宣誓が必要である旨が明確にされました。
なお、本暫定最終規則については、2025年中に最終規則が策定される予定とされていましたが、本ニュースレターの執筆時点において、FinCENから最終規則に関する公表は行われていません。
NY LLCTAの現行規制の整理 ― 連邦CTAとの比較
以上の2024年改正の内容、及び2025年改正案が成立しなかったことを踏まえ、現時点におけるNY LLCTAの内容を改めて整理するとともに、連邦CTAとの相違点を一覧的に理解するため、以下に、両法令の主要項目を比較表の形式でまとめました。なお、連邦CTAとの主な相違点については、下線を付して強調しています。
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項目
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NY LLCTA
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連邦CTA
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施行日
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2026年1月1日
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2024年1月1日(但し、関連訴訟により差し止められた期間あり)
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報告会社
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米国外の法律に基づき設立され、ニューヨーク州において事業登録を行ったLLC
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米国外の法律に基づき設立され、米国のある州において事業登録を行った事業体
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報告内容
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実質的所有者及び申請者(Applicant)の
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正式な氏名
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生年月日
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現在の自宅又はビジネス上の住所
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パスポート、州政府等が発行する身分証明書又はドライバーズライセンス等に記載されている固有の識別番号
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実質的所有者及び会社設立等申請者(Company Applicant)※7の
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正式な氏名
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生年月日
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現在の自宅の住所※8
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パスポート、州政府等が発行する身分証明書又はドライバーズライセンス等に記載されている固有の識別番号
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上記の身分証明書の写し
又は
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FinCENが発行する識別番号(FinCEN Identifier)
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免除会社の対応
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免除会社に該当する場合であっても、どの免除要件に該当するかを明示した上で免除に関する宣誓が必要
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免除会社である旨を報告する義務は課されていない※9
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初回報告期限
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施行日前に設立又は事業登録した報告会社又は免除会社:2026年12月31日
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施行日以後に設立又は事業登録する報告会社又は免除会社:定款(Articles of Organization)の提出又は事業登録の申請(Application for Authority)から30日以内
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本暫定最終規則の連邦官報(Federal Register)掲載日である2025年3月26日より前に米国で事業登録を行った報告会社:2025年4月25日
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本暫定最終規則の連邦官報掲載日である2025年3月26日以後に米国で事業登録を行う報告会社:事業登録の完了通知日又は州務長官又は類似の当局が事業登録を公表した日のいずれか早い方から30日以内
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変更報告/年次報告
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初回報告以降毎年、以下の情報を含む年次報告を提出し、必要があればその中で変更を報告
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実質的所有者の情報
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主たる営業所の住所
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(該当する場合)免除会社のステータス
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州当局が指定する他の情報
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報告済みの情報に変更が生じた場合、当該変更が生じた日から30日以内に変更報告を提出(年次報告制度は採用されていない)
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報告方法
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州当局が指定するフォーム及び方法による電子報告
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FinCENが指定するフォーム及び方法による電子報告
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開示範囲
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以下の場合を除き、原則として機密情報扱い(データベースでは非公開)
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実質的所有者本人の書面による要請又は同意
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裁判所の命令
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他の連邦、州又は地方官庁に対する公務上必要な開示
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正当な法執行目的
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以下の場合を除き、原則として機密情報扱い
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連邦、州又は地方の法執行機関に対する法執行又は国家安全保障等の目的のための開示
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外国当局による捜査・訴追支援のための連邦当局からの要請
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一定の条件を満たす金融機関による顧客確認目的での利用(報告会社の同意が前提)
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規制当局による監督目的の要請
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制裁
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報告期限から30日を超えてNY LLCTAに基づく報告を怠った場合※10、NY DOSの記録上「past due」と表示され、1日につき最大500ドルの民事罰が課される(これを解除するためには、報告と当該民事罰の支払いに加えて250ドルの支払いが必要)
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報告期限から2年を超えてNY LLCTAに基づく報告を怠った場合、NY DOSの記録上「delinquent」と表示され、1日につき最大500ドルの民事罰が課される(これを解除するためには、報告と当該民事罰の支払いに加えて250ドルの支払いが必要)
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ニューヨーク州司法長官(New York State Attorney General)には、調査権限及び「delinquent」となった対象会社の事業登録解除を裁判所に求める権限が与えられている
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NY LLCTAに基づく報告を怠ったLLCは、州当局による30日以上前の通知後、その間ニューヨーク州内において事業を営む権限が停止される(但し、この権限の停止により、契約が無効とされたり、契約上の権利及び義務、訴訟追行能力が否定されたりするわけではない)
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故意に報告義務に違反した場合、民事罰として、1日につき最大500ドルの罰金、及び刑事罰として、10,000ドル以下の罰金又は2年以下の懲役のいずれか又は両方が課される
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知りながら実質的所有者情報を開示又は使用した場合、民事罰として、1日につき最大500ドルの罰金、及び刑事罰として、250,000ドル以下の罰金又は5年以下の懲役(他の連邦法に違反等している場合には、500,000ドル以下の罰金又は10年以下の懲役)のいずれか又は両方が課される
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今後の実務上のポイント
NY LLCTAは、2024年改正により、報告義務違反に対する制裁の厳格化や年次報告義務の導入等を通じて、形式的な情報提出義務にとどまらない、実効性の高い規制となっており、コンプライアンス対応の重要性が一層増しています。
このように、NY LLCTAが適用される場合の規制内容自体は既に確定している一方で、連邦CTAの改正及び2025年10月改正案が成立しなかったことを受けて、NY LLCTAの適用範囲については一定の不確実性が生じている状況にあります。すなわち、現時点では、NY LLCTAが連邦CTAにおける定義を引用する構造を維持していることから、内国会社であるLLCに報告義務はありません。もっとも、今後、ニューヨーク州議会が2025年改正案を再可決し、州知事による拒否が覆された場合には、当該LLCについても報告義務の対象として位置付けられる可能性が残されています。
NY LLCTAの施行日である2026年1月1日より前に設立又は事業登録したLLCについては、初回報告期限が2026年12月31日とされており、一定の猶予期間は設けられていますが、上記の不確実性を踏まえて、日本企業としては、設立国を問わず、ニューヨーク州で設立され、又は事業登録を行っているLLCの洗い出しを早期に行うとともに、州議会の立法動向及び州当局によるガイダンスの公表状況を引き続き注視することが重要と考えられます。
脚注一覧
※7
会社設立等申請者の情報については、連邦CTAの効力発生日以降に設立又は事業登録される事業体のみが報告対象となります。
※8
会社設立等申請者が会社に所属する場合は、ビジネス上の住所の記載が求められます。
※9
なお、連邦CTAに基づき実質的所有者の報告を行った後に免除会社に該当することとなった場合は、変更報告義務の一環として、その旨の報告が必要です。
※10
報告会社又は免除会社による初回報告及び年次報告を含みます。以下同じです。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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