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ニュースレター

令和8年度税制改正大綱④:ファンドに関するPE(恒久的施設)課税の特例の改正

著者等
吉村浩一郎
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Tax Law Update ~税務ニュースレター~ No.50(2026年1月)
関連情報

「令和8年度税制改正大綱」につきましては以下もご参照ください。

業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2025(令和7)年12月26日、政府は令和8年度税制改正大綱(以下「大綱」という。)を閣議決定した。本ニュースレターでは、令和8年度税制改正大綱特集の第4弾として、ファンドに関するPE(Permanent Establishment;恒久的施設)課税の特例(以下「PE課税特例」という。)の改正について取り上げる。他の重要な改正については、「令和8年度税制改正大綱①:国際課税(グローバル・ミニマム課税、CFC税制、移転価格税制、物品に関するプラットフォーム課税)」、「同②:暗号資産取引の分離課税」及び「同③:パーシャルスピンオフ税制の改正」並びに後続のニュースレターを参照されたい。

 なお、本ニュースレターは大綱に基づき記述したものであり、執筆時点の情報に基づく推測も含まれているため、詳細については最終的に成立した法令の内容を確認する必要があることにご留意いただきたい。

現行のPE課税特例の概要とその課題

1. PE課税特例の制度趣旨

 ファンドが、わが国の投資事業有限責任組合として組成されている場合、所得税法及び法人税法上、ファンド自体は納税義務者とはならず、ファンドの事業から生じる所得は、ファンドの組合員である投資家が直接取得するものとして取り扱われる。

 ファンドの投資家に非居住者又は外国法人である者(以下「外国投資家」という。)が含まれている場合、ファンドの他の組合員の中に国内に恒久的施設(以下「PE」という。)を有する者が一人でもいると、組合の行う事業が組合員の共同事業であることを理由として、当該外国投資家も国内にPEを有するものとして取り扱うというのが課税実務の原則的立場である※1。わが国で投資事業有限責任組合が組成される場合、その運営を担うGP(General Partner;無限責任組合員)は居住者又は内国法人であるのが通常であるから、かかる課税実務の原則的立場の下では、ファンドにLP(Limited Partner;有限責任組合員)の立場で投資した外国投資家は国内にPEを有するものとして取り扱われ、その結果、当該外国投資家は、ファンドから支払いを受ける投資利益の分配金について20.42%の税率で源泉徴収を受けるとともに※2、ファンドによる投資を通じて得た所得について申告納税の義務を負うことになる※3

 このような取扱いは、外国投資家による国内で組成されたファンドに対する投資を阻害すると考えられたため、平成21年度税制改正により、組合としての共同事業性が希薄であると考えることのできる一定の要件を満たした場合において、外国投資家はPEを有しないものとみなすこととされた※4。これが本ニュースレターで取り上げるPE課税特例であり、その正式名称は「外国組合員に対する課税の特例」という。PE課税特例は、その後の平成30年度税制改正により、PEを有しないものとみなすことに代えて、当該PEに帰属する国内源泉所得について、所得税及び法人税を非課税とする内容に改正されている。

2. 現行のPE課税特例の下で外国投資家が充足すべき要件とその課題

 現行のPE課税特例の下で外国投資家が充足すべき実体要件は以下のとおりであり、この他に手続要件として、外国投資家による特例適用申告書の提出が必要とされている※5

  1. 有限責任組合員であること
  2. 組合事業に係る業務執行又はその決定についての承認、同意その他の行為を行わないこと
  3. 組合財産に対する持分割合が25%未満であること
  4. 無限責任組合員と特殊の関係にある者でないこと
  5. 他にPEに帰属する国内源泉所得を有していないこと

 しかしながら、これらの要件を課している現行のPE課税特例については、実務上、以下のような点において外国投資家にとっての使い勝手が悪く、外国投資家による国内で組成されたファンドに対する投資の障壁となっていることが指摘されていた※6

  1. 25%未満という持分割合要件があるため、海外LP投資家から大きな額を受け取れず、結果的にファンドサイズが大きくならない
  2. LPで構成されているアドバイザリーボードについて、海外ファンドで認められているよりも承認権限を制限しなければならない
  3. 他にPEに帰属する国内源泉所得を有していないことが要件とされているため、国内ファンドへの投資につき1件でもPE課税特例の要件を満たさない場合、他の国内ファンドへの投資についてもすべてPE課税特例を適用できないことになってしまう
  4. LPがファンド・オブ・ファンズである場合、最終LPの情報まで出す必要があり、すべてのLPから承諾をもらうハードルやコストが高い

令和8年度税制改正の内容

1. 大綱の内容

 大綱は、PE課税特例の適用要件について、以下の見直しを行うことを明らかにしている※7

  1. 有限責任組合員等から構成される一定の委員会を設置する投資組合の有限責任組合員の持分割合を、現行法上の25%未満から50%未満に引き上げる
  2. 組合事業に係る業務執行の承認等の範囲から、利益相反取引の承認等を除外する※8
  3. 他にPEに帰属する国内源泉所得を有していないこととの要件を廃止する
  4. 特例適用申告書等の記載事項の見直しを行うほか、所要の措置を講じる

 これらのうち特例適用申告書等の記載事項がどのように見直され、また、所要の措置としてどのような内容が想定されているのかは大綱から読み取れないものの、いずれの改正内容についても、基本的には現行のPE課税特例の使い勝手の悪さとして指摘されていた前述の点にそれぞれ対処することを意図するものと理解される。

2. 他のファンド税制の関係

 ファンドについて適用される税制上の特例措置としては、PE課税特例のほかに、「外国組合員の課税所得の特例」がある。所得税法及び法人税法上、外国投資家による内国法人株式の譲渡については、大要、外国投資家が内国法人の発行済株式の25%以上を所有しており、かつ、その発行済株式の5%以上を譲渡する場合は、当該外国投資家が譲渡益について納税義務を負うものとされている(いわゆる事業譲渡類似株式の譲渡益課税)※9。かかる25%及び5%の判定に際しては、当該外国投資家の特殊関係株主等の所有する株式数を合算するものとされており、そこには当該外国投資家が投資しているファンドの他の組合員の所有する株式数も含まれる。そのため、外国投資家が、内国法人の発行済株式の25%以上を所有するファンドに対して投資する場合、当該外国投資家は、ファンドによる内国法人株式の処分により得られた譲渡益について納税義務を負う可能性が高い。

 「外国組合員の課税所得の特例」は、かかる取り扱いに対する例外として、PE課税特例と同じく平成21年度税制改正により導入されたものである。具体的には、PE課税特例と同様の考慮に基づき※10、譲渡事業年度以前の3年間において、大要、以下の要件を充足した上で特例適用届出書の提出がある場合に、上述の25%及び5%の判定に際して、ファンドの他の組合員が所有する株式数の合算を不要とする※11。その結果、当該特例の適用を受ける外国投資家は、仮にファンドが内国法人の発行済株式の25%以上を所有していたとしても、自らの所有する株式数が25%未満であれば※12、ファンドによる当該内国法人株式の処分により得られた譲渡益について納税義務を負わないことになる。

  1. 有限責任組合員であること
  2. 組合事業に係る業務執行又はその決定についての承認、同意その他の行為を行わないこと
  3. 自ら及びその特殊関係株主等(ただし、ファンドの他の組合員は除く。)が当該内国法人の発行済株式総数の25%以上を所有していなかったこと

 上記③の要件は、一見するとPE課税特例の要件と同様に25%という割合を問題としているため、PE課税特例と同様にその割合を50%まで引き上げる改正が必要と思われるかもしれない。しかしながら、PE課税特例の要件が、外国投資家の組合財産に対する持分割合を問題としているのに対して、「外国組合員の課税所得の特例」は、外国投資家の内国法人に対する株式保有割合を問題としており、そもそも判定対象が異なる。「外国組合員の課税所得の特例」における25%という株式保有割合は、前述の事業譲渡類似株式の譲渡に係る要件※13を基礎とするものであるから、その改正のためには所得税法及び法人税法の施行令の改正も必要になるが、大綱においてそのような改正は示唆されていない。内国法人の発行済株式の25%以上の取得は、スタートアップ等へのマイノリティー出資を主として行うベンチャー・キャピタル・ファンドにおいては問題となりにくいところ、PE課税特例の改正が、スタートアップへの成長資金供給を加速させるために、国内ベンチャー・キャピタル・ファンドへの投資の障壁を取り除くことを政策目的とすることに照らしても※14、令和8年度税制改正において、事業譲渡類似株式の譲渡及びその特例としての「外国組合員の課税所得の特例」について実質的な改正が行われる可能性は低いと思われる。

脚注一覧

※1
所得税基本通達164-4

※2
所得税法164条1項4号、212条、213条

※3
所得税法161条1項1号、164条1項1号イ、法人税法138条1項1号、141条1項1号イ

※4
泉恒有ほか「平成21年版 改正税法のすべて」452頁

※5
租税特別措置法41条の21、67条の16

※6
経済産業省「スタートアップへの成長資金供給等に係る税制の論点について」(令和7年7月9日)・36頁

※7
大綱・104頁

※8
現行のPE課税特例について、経済産業省が国税庁の確認を得たうえで公表した「外国組合員に対する課税の特例、恒久的施設を有しない外国組合員の課税所得の特例における『業務執行として政令で定める行為』について」と題する文書においては、GPが組合の事業目的の達成のために利益相反取引を行う場合、それは組合の業務執行に該当し、よって、LPによる利益相反取引の承認も「業務執行等についての承認等」に該当する旨が記載されている。同文書・3頁

※9
所得税法施行令281条1項4号ロ、4項乃至7項、法人税法施行令178条1項4号ロ、4項乃至7項。なお、内国法人がいわゆる不動産関連法人(所得税法施行令281条1項5号、8項乃至10項、法人税法施行令178条1項5号、8項乃至10項)に該当する場合は異なる割合に基づき納税義務の有無が判断される。

※10
泉恒有ほか・前掲脚注4・468頁

※11
租税特別措置法施行令26条の31、39条の33の2

※12
厳密には、自ら及びその特殊関係株主等の保有する株式数が25%以上であるか否かで判定されるところ、本文記載の特例に係る要件を充足する場合には、特殊関係株主等の範囲から、ファンドの他の組合員が除外されることになる。

※13
所得税法施行令281条6項、法人税法施行令178条6項

※14
経済産業省「令和8年度税制改正要望書」及び経済産業省・前掲脚注6・28乃至36頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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