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トピック
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1. 有報の総会前開示
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2. 株式報酬
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3. サステナビリティ開示
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4. 公開買付け・大量保有報告
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5. 公募債の早期償還(社債権者集会対応)
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6. REIT
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7. セキュリティトークンオファリング
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8. IPO・グロース市場の見直し等
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9. スタートアップ
有報の総会前開示
1. 2025年の振り返り
2025年3月28日付で金融担当大臣から発出された「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」において、有価証券報告書の提出は、株主総会の3週間以上前が最も望ましいことが示され、企業の実務負担も考慮し、取組みの第一歩として、2025年から株主総会の前日ないし数日前に提出することの検討が、全上場会社に対して要請されました(以下「大臣要請」)※1。この大臣要請を受け、2025年には、有価証券報告書の定時株主総会前の開示(総会前開示)を行った3月期決算会社は全体の57.7%と著しく増加しました(前期は1.8%)。ただ、その内訳としては、総会前日又は数日前の開示が太宗であり、1週間以上前に開示した会社は44社(前期は11社)にとどまり※2、大臣要請に掲げられた「株主総会の3週間以上前」の開示の定着にはまだ大きな隔たりがあります。そのような中、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議での議論を経て、2025年6月30日に取りまとめられた「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」では、「情報開示の充実・投資家との対話促進」として有価証券報告書の株主総会前の開示に関し、対応状況のフォローアップ・さらなる環境整備等が今後の政府の取組方針に明記されました。さらに、2025年4月に始まった法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会では、会社法改正に向けて、同年8月の第5回会議及び12月の第9回会議で「有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた規律の見直し」の議論が行われました。
このように総会前開示の進展に向けた各種の制度的な手当てに向けた議論が進む中、2025年11月26日には企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正案が公表され、有価証券報告書の開示負担を軽減し、総会前開示を促進する観点からの改正案が提示されました。具体的には、有価証券報告書において、総会前開示を行う場合であって、有価証券報告書の記載事項等が定時株主総会又はその直後に開催される取締役会の決議事項となっているときにおける当該決議事項等の概要(剰余金の配当に関するものを除く。)の記載が原則として不要となります※3。上記改正案の内容については、キャピタルマーケットニュースレター第55号「SSBJサステナビリティ開示基準の金商法開示への取込み・人的資本開示の拡充等の内容が明らかに ~企業開示府令等の改正案の公表~」(水越恭平・宮下優一・高橋優、2025年12月)もご参照ください。
2. 2026年に向けて
制度面の手当てとしては、前述の開示府令改正のほか、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会において、有価証券報告書と事業報告の「一本化」(有価証券報告書の総会前開示をする会社において、事業報告等を作成しなくともよいものとする案(従来の事業報告等と有価証券報告書が1つに統合された「新たな開示書類」についての規律))の実現に向けた方向性が具体化されることが見込まれます。また、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を受けて、コーポレートガバナンス・コードのスリム化/プリンシプル化が検討課題に掲げられる中で、同プログラムを踏まえた総会前開示の促進に向けた施策がどのようなものとなるかに注目する必要があります。
一方で、下記「サステナビリティ開示」のとおり、今後サステナビリティ開示の有価証券報告書への取り込みが予定され、その開示負担が拡大する中で、「株主総会の3週間以上前」の有報開示がどこまで上場会社に定着するかについては今後の動向を見守る必要があると思われます。金融庁は、総会前開示の実現方法として、現行実務を前提として有報の提出タイミングを早める手法のほか、「総会後倒し」(定款変更により基準日を後倒し、株主総会開催日を決算期末後3か月以降として、後倒しされた総会の3週間前に有報を提出するもの)、「決算期前倒し」(定款変更で決算期を前倒し、総会基準日/開催日はそのままとするもの)などを提唱しているところ、若干の上場会社が「総会後倒し」に向けた対応を開始しています※4。こういった取組みが今後どこまで拡大していくか、実務動向に注目したいポイントです。
株式報酬
1. 2025年の振り返り
2025年は、2024年に引き続き、株式報酬の「使い勝手」を良くするために、様々な法令改正・解釈指針等が公表・施行された年でした。例えば、2025年4月1日に、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」の改正が施行され、業務執行決定機関による株式報酬としての株式発行等に係る決定については、(a)希薄化率が1%未満と見込まれるか、又は(b)価額(時価)の総額が1億円未満と見込まれる場合には、軽微基準を充たし、インサイダー取引規制上の「重要事実」から除外されることとなりました。
また、株式報酬に係る金商法上の開示規制についても、2025年2月、金融商品取引法施行令等の改正(以下「2025年2月金商法施行令改正」)が施行され、その結果、1億円以上の有価証券の募集又は売出しであっても有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする、いわゆる特例制度の利用が認められる範囲が、国内上場会社が付与するストックオプション・譲渡制限付株式・RSU/PSUのいずれについても、それぞれ拡充されています。
これらについては、キャピタルマーケットニュースレター第46号「株式報酬の新展開2025(ストックオプション・譲渡制限付株式・RSU/PSU) ~近時の租税特別措置法、産競法、金商法改正を踏まえて~(上)」・第47号「株式報酬の新展開2025(ストックオプション・譲渡制限付株式・RSU/PSU) ~近時の租税特別措置法、産競法、金商法改正を踏まえて~(下)」(斉藤元樹・堀内健司、2025年2月・3月)もご参照ください。
2. 2026年に向けて
2026年も、株式報酬の「使い勝手」を良くするための動きが継続することが予想されます。会社法関係では、法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会において、日本の株式会社による従業員等に対する株式報酬としての株式の無償交付に関する検討が進められており※5、当該改正の議論動向にも注視が必要となります。
また、金商法上の開示規制との関係では、2025年12月26日付の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「DWG報告」)において、上場・非上場を問わず、株券・新株予約権証券の発行会社やその子会社の役員・使用人に対する勧誘行為については、そもそも「募集」に該当しないものとして位置付けを改め、有価証券届出書の提出を不要とすることが提言されています。現時点では具体的な法令改正等が公表されているわけではないため、当該内容の改正が必ずしも実現するわけではありませんが、今後の法令改正等の方向性を示唆するものとして、重要なものであると考えられ、今後のさらなる動向が注目されます。
サステナビリティ開示
1. 2025年の振り返り
2025年は、日本におけるサステナビリティ開示基準の法定開示化が進んだ年でした。2025年3月、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)から、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、同第2号「気候関連開示基準」の3つの開示基準が公表されました。これらの基準を有価証券報告書等の金商法上の開示制度に取り込むことについて、2025年7月には、金融庁の金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」から中間論点整理が公表されました。そして、この中間論点整理に基づいて2025年11月26日に金融庁より企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正案が公表され、一定規模以上のプライム市場上場会社に対する開示義務化の具体的な導入が進められています。この動向については、キャピタルマーケットニュースレター第48号「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によるサステナビリティ開示基準の最終化(速報)」(宮下優一・高橋優、2025年3月)、第52号「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループによる中間論点整理の公表」(宮下優一・薄実穂、2025年7月)、第55号「SSBJサステナビリティ開示基準の金商法開示への取込み・人的資本開示の拡充等の内容が明らかに ~企業開示府令等の改正案の公表~」(水越恭平・宮下優一・高橋優、2025年12月)もご参照ください。
一方、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)について、CSRDは一定のEUの域外企業にも適用されるため、対象となる日本企業にとってもその対応が求められる状況ですが、2025年2月に欧州委員会による法案(オムニバス法案)が提示され、その適用対象企業の縮小を含めルールの簡素化に向けた見直しが進み、2025年12月には欧州議会とEU理事会の暫定合意がなされたところです。
2. 2026年に向けて
現在想定されている有価証券報告書等におけるSSBJのサステナビリティ開示基準の導入スケジュールは以下のとおりです。2026年は任意適用も含め、2027年3月期から基準適用が始まることを見据えた準備が重要と考えられます。加えて、2025年12月26日に公表されたDWG報告では、非財務情報のうち将来情報等について一定の要件を満たせば虚偽記載等の責任を負わないこととするセーフハーバー・ルールの導入も提言されており、今後の改正動向にも注目されます。
出所:金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告(案)の概要(2025年12月22日)をもとに筆者らにて作成
また、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の開示フレームワークをベースとした新たな開示基準の公開草案を2026年10月までに準備することを目標とする旨を公表しています。自然資本に関するISSBの開示基準が将来的に日本のSSBJのサステナビリティ開示基準として追加される可能性を考えると、この動向にも留意が必要です。
公開買付け・大量保有報告
1. 2025年の振り返り
2024年5月に成立した公開買付制度・大量保有報告制度についての金商法の改正法を受け、2025年7月にはこれに関する政府令が公布されました。
公開買付制度については、これまで株券等所有割合が3分の1を超える場合には公開買付けが必要となる規制(いわゆる3分の1ルール)の閾値を30%に引き下げることや、これまで3分の1ルールの規制の対象外であった立会内の市場内取引も対象に含めること、急速な買付けの規制を廃止することなど、大きな見直しが行われました。また、公開買付規制の適用除外となる買付け等の範囲についても見直しが行われており、多数の者(61日間において10名超の者)からの市場外での株式の買付けであり株券等所有割合が5%を超える場合には公開買付けが必要となる規制(いわゆる5%ルール)との関係で、例えばブロックトレードの場合に仲介者となる証券会社による買取りがこれに該当しないようにする必要がこれまでありましたが、今回の見直しにより、第一種金融商品取引業者(同種業務を行う外国業者も含みます。)が市場の売買価格を基礎として取引状況を勘案した適正な価格で顧客から行う買付け等であって、その後直ちに売付け等を行うものについては、5%ルールの適用除外となります。
次に大量保有報告制度については、機関投資家による協働エンゲージメントについて一定の要件を満たす場合には共同保有者概念から除外すること、重要提案行為等の範囲を見直すこと、現金決済型エクイティ・デリバティブ取引について一定の要件を満たす場合には大量保有報告制度の対象とすること、みなし共同保有者の範囲を見直すこと、大量保有報告書の保有目的や担保契約等重要な契約の記載事項を明確化することなどの改正が行われました。
2. 2026年に向けて
上記の公開買付制度・大量保有報告制度の改正は2026年5月1日から施行されますので、各事業活動にどのような影響があり得るのか確認しておくことが有益です。
また、2025年12月に公表された金融審議会市場制度ワーキング・グループ報告書では、違反行為の抑止力を高めることを目的として、公開買付者等関係者によるインサイダー取引や大量保有報告書・変更報告書の不提出・虚偽記載等について課徴金制度の見直しが提言されています。過去の課徴金納付命令事例に関しては、キャピタルマーケットニュースレター第42号「大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載等に係る課徴金納付命令事例の紹介」(糸川貴視・米田崇人・吉野貴之、2024年12月)もご参照ください。
公募債の早期償還(社債権者集会対応)
1. 2025年の振り返り
2025年に東京証券取引所からの上場廃止を選択した企業は過去最多を記録しました。このような企業のうちいわゆる公募債を発行している先において、上場廃止後に公募債の早期償還のための手続を実施した事例が複数現れました。
一般的な国内の公募債では、発行会社の上場廃止やいわゆるチェンジオブコントロールをトリガー事由として、発行会社側の判断で社債の早期償還を認める条項は設けられていないため、上場廃止に伴い当然に公募債を早期償還することはできず、社債権者集会を開催した上で、社債要項の変更(満期償還日の変更等)を実施する必要があります。従来の社債権者集会の実例は、いわゆるデット・リストラクチャリングを必要とする企業によるものが太宗を占めており、上場廃止に伴う社債の早期償還のための社債権者集会に関する「通常の実務」と呼べるようなものは確立されていなかったように思われます。
これに対して、2025年において社債権者集会を利用して公募債の早期償還を実施した事例においては、各事例毎の個別事情・ニーズに応じた検討がなされた結果、対応方針が必ずしも同一ではない部分がありつつ、各事例に共通といえる手続・対応方針を見出すこともできました。多くの社債発行会社にとって社債権者集会は馴染みのない手続であるものの、2025年に登場した事例の多くは、今後、同様の状況に置かれる企業にとって先例としての価値を有するのではないかと思われます。
2. 2026年に向けて
上場廃止を選択する企業は、2026年においても相当数に上る可能性があり、それに伴い、上場廃止後において公募債の早期償還を実施するニーズが生じる企業も多く現れることが予想されます。それらの企業が発行している公募債は、やはり早期償還条項が設けられていないことが想定されますので、従来どおり、社債権者集会の手続を迫られることが想定されます。
もっとも、上記のとおり、2025年に登場した事例においては、各事例共通の手続・対応方針の明確化と各事例毎の個別対応のアイデアが複数提示されているところであり、今後登場する事例においては、これらの先行事例を参照することで、社債権者集会の手続を円滑に実施していくことが期待されます。
REIT
1. 2025年の振り返り
J-REITについては、2021年以来約4年ぶりに新規上場銘柄が登場し、上場銘柄数は昨年より1増加して58銘柄となりました。
2025年に公表された公募増資は6件、総額約740億円とここ数年の中でも低調であったものの、足元では東証REIT指数に改善の傾向が見られ、NAV倍率が1倍を超える銘柄も出てきています。このような市場環境を受けて、2025年11月には3銘柄が公募増資を発表するなど、エクイティ・ファイナンスが正常化に向かう兆しも見え始めています。2025年においては、2024年に引き続いて自己投資口の取得・消却を通じた資本効率の改善の取組みも活発に行われており、また、NISA(少額投資非課税制度)対応を企図し、個人投資家が投資しやすい環境を整備する観点から、投資口分割による投資口の小口化の動きも引き続き多く見られました。
日中関係の悪化に伴う中国人観光客の減少による影響はあるものの、全体としてホスピタリティ業界は引き続き活況であり、ホテルアセットの取得が引き続き活発に行われた一方、公募増資による外部成長が容易ではない環境の中で、資産入替や売却益還元のための物件売却を積極的に行う銘柄が多く見られました。
私募リートについては、2023年は過去最多の10銘柄が新規に運用を開始しましたが、2024年の新規運用開始は4銘柄、2025年の新規運用開始は3銘柄と、新規組成銘柄の増加傾向には一服感が見られます。2025年末時点での私募リートの銘柄数は61となり、引き続き上場リートの銘柄数を超える状況となっています。ARES(一般社団法人 不動産証券化協会)の発表※6によれば、私募リートの運用資産規模は、2025年9月末時点において、2,066物件(前年同時点比237物件増)、約7兆4,506億円(取得価格ベース。前年同時点比約7,698億円増)となっています。
2025年上期においては、同意なき買収者による複数のJ-REITへの公開買付け(TOB)が行われましたが、いずれも応募投資口の総数がTOB成立に必要な買付予定数の下限に満たなかったため、不成立となっています。TOBの対象となったJ-REITはいずれも、賛同はできないものの純投資目的であり積極的に反対する理由もないとして、「中立」の立場をとりました。この動向については、不動産ニュースレター第10号「上場REITに対する同意なき買収」(内海健司・門田正行・山中淳二、2025年5月)もご参照ください。
また、物件取得パイプラインやウェアハウジング機能の強化等を企図した、共同スポンサー化や新スポンサーの参画の動きも複数見られました。
J-REIT同様に投資法人が用いられるインフラファンド市場では、過去に行われたスポンサーによる非公開化の事例とは異なる動きとして、上場維持を前提とし、純投資目的により発行済投資口総数の20%を取得するTOBが行われたところです。また、2025年12月末現在、上記とは別の銘柄で非公開化を目的とするTOBが公表されているところです。
2. 2026年に向けて
J-REITについては、金利政策の動向には引き続き注視が必要であるものの、2026年においても2025年下期と同様の市場環境が継続する場合、公募増資を伴う物件取得を再開する動きがさらに活発化することが期待されます。
私募リートについては、2025年においても私募リート業界への参入計画を打ち出した鉄道会社が複数存在するところであり、2026年も鉄道業界における私募リートの新規組成は活発に行われる可能性があります。他方、全体としてみると新規参入トレンドには一服感があり、今後は合併や資産運用会社の売却等の再編の動きが活発化する可能性があります。私募リートの合併については、キャピタルマーケットニュースレター第51号(不動産ニュースレター第11号)「私募REIT(私募リート)の合併」(糸川貴視・北川貴広、2025年6月)もご参照ください。
なお、投資法人によるデータセンターの組入れを促進する観点から、金融庁は、2025年6月27日に「投資法人に関するQ&A」を改訂し(問2を追加)、一定の設置態様を充足するデータセンター関連設備(昇降機、受変電設備、非常用発電設備等)については、(動産ではなく)不動産に該当する旨を明確化しており、これにより投資信託及び投資法人に関する法律、租税特別措置法や有価証券上場規程における投資制限との関係で一定の整理が図られています。2026年においては、かかるQ&Aの改訂によって投資法人によるデータセンターへの投資が活性化されるか注目されます。
セキュリティトークンオファリング
1. 2025年の振り返り
昨年に引き続きセキュリティトークン(以下「ST」)の中心を占めている不動産STについては、2025年において、新規参入企業も見られ、案件数、発行規模も引き続き堅調に推移しました。加えて、社債ST案件の案件数が例年に比べそれなりに伸びていたと思われます。不動産ST以外としても、VCファンドST私募、PEファンドST公募も出現するなど、各社様々な取組みが進んでいる状況にあります。
これらの動きと関連する動向として、2025年12月には、金融庁・金融研究センターからディスカッションペーパーとしてDP2025-10「デジタル金融資産の私法上の取扱い」が公表されており、マーケットとしてもSTを含むデジタル金融資産の譲渡等における有効要件、対抗要件、排他性などの議論が進んでいるところです。また、STではないものの、2025年12月10日には、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告の公表があり、また、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)では暗号資産・暗号資産ETF対応税制が言及されるなど、関連領域での議論の深化がありました。
2. 2026年に向けて
2025年に引き続き、2026年においても、国内不動産STや社債STといった商品だけでなく、国内不動産や社債以外のアセットを裏付けとしたSTが公表されることが予想されます。また、日本では、オンチェーンでのポートフォリオ管理が普及するにつれて、ステーブルコイン等とSTの連結を狙った商品が重要になる将来はあり得るように思われますので、引き続き動向に注目が必要です。
IPO・グロース市場の見直し等
1. 2025年の振り返り
2025年は、東証の新規上場会社数は合計105社となり、前年比25社減となりました。このうち、グロース市場の新規上場会社数は合計40社(前年比23社減)となった一方、TOKYO PRO Market(TPM)では合計46社(前年比4社減)となり、新規上場会社に占めるTPM上場銘柄の割合が増加したのが特徴的です※7。
このうち、グロース市場の新規上場会社数の減少は、2025年12月8日から施行された上場維持基準の厳格化※8が大きな影響を及ぼしたものと思われます。東証は、同市場を「⾼い成⻑を目指す企業が集う市場」とするための施策の1つとして、2030年3月1日以後に適用される時価総額に関する上場維持基準を「上場から5年経過後、事業年度の末日において100億円以上」に引き上げました。これにあわせて、スタンダード市場への市場区分の変更基準も見直されており、グロース市場上場会社が、スタンダード市場への市場区分の変更を行おうとする場合には、利益の額に関する形式要件(最近1年間における利益の額が1億円以上)を適用しないこととされています。これは市場区分変更を希望する会社が、利益の額を捻出するために成長投資を抑制することがないよう、形式的な要件を満たさなくても変更審査の対象とする趣旨とされています※9。この新規上場会社数の減少と基準見直しの影響もあって、2025年には新規上場企業の時価総額の平均値の増加、時価総額100億円未満の企業の急減がみられました※10。
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項目
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見直し後
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見直し前
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時価総額
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上場から5年経過後
事業年度の末日において100億円以上
(改善期間1年)
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上場から10年経過後
事業年度の末日において40億円以上
(改善期間1年)
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IPOに関するその他の動向として、2023年に導入された上場承認前届出書(S-1方式)を用いたIPOは、テクセンドフォトマスク(2025年9月4日S-1届出、9月22日上場承認、10月16日上場)、ファイントゥデイホールディングス(2025年9月2日S-1届出、10月3日上場承認、10月20日上場申請取下げ)の例が見られるなど、同制度の実務への定着・活用事例が見られるようになりました。
また、2025年の大型上場の1つであるSBI新生銀行のIPOを含め、複数の案件で「Indication of Interest(IoI・関心の表明)」の活用が広がりました。これは、IPOに参加する機関投資家から条件決定より前に取得に関する意向表明を受け、それを目論見書等で開示するもので、取得の意向が表明された株式数や価格帯等が開示されます。IoIについては、引受証券会社が表明された株式数・価格での割当てをする義務を負わないものとされますが※11、価格発見能力の高い優良な機関投資家からの取得意向を事前に開示することで、他の投資家の安心感の醸成、条件良化に繋がる効果が期待されます。一方、日証協規則に基づき、発行会社が指定する販売先への売付けとして行われる「親引け」と異なり、対象投資家からの継続所有の確約は得ないのが一般的である点や、国内募集・売出しとの関係では届出前勧誘規制への考慮が必要となる点に注意を要します。
2. 2026年に向けて
2025年においてはグロース市場の制度見直しも契機となり、新規上場会社数の大幅な減少が見られましたが、この傾向は2026年に継続するものと予想されます。これに加えて、2025年11月13日開催の「市場区分の見直しに関するフォローアップ」第24回会議では、スタンダード市場における今後の対応も議論されており、「株主・投資家目線で企業価値向上に積極的に取り組む企業」と「株主・投資家目線で企業価値向上に取り組む意識があまりない企業・少数株主保護などの観点で懸念がある企業」の二分化が論点となっています。その来歴から、スタンダード市場には多様な上場会社が存在しますが、同市場における企業価値向上への動機付けに向けた制度見直しに関する議論が進むことが予想されます。
さらに、同会議では、近年、上場会社数が顕著に増加しているTPMの今後の方向性についての議論が交わされています※12。近時、まずTPMに上場してから一般市場への上場を目指そうとする会社も増える中で、グロース市場の上場維持基準引上げを受けてこうした動きがより顕著になることが予想されます。現在のTPMでは、株主数が少ない企業が多く、市場における株式売買もほぼ行われていないとされている中で、TPMにおける上場・取引の活発化に向けた議論がどのように進展するかも注目すべきポイントでしょう。
スタートアップ
1. 2025年の振り返り
2025年は、スタートアップ企業によるIPOに影響がある改正等を中心に、様々な施策が公表された年でした。
具体的には、前述のグロース市場の上場維持基準の見直しの公表により、5年以内に時価総額100億円以上となる見込みが立たないスタートアップ企業によるIPO実現に一定の影響が生じることが想定されています。また、日本取引所は、2025年12月、上場後1年足らずで不正会計が発覚した株式会社オルツの問題を受けて、「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」を公表しています。同公表資料では、①不正リスクに応じた上場審査の深掘り、②内部通報体制の確認と不正情報の早期収集、③経営者・役員への「上場の責任」の啓発、④IPO関係者との連携強化と審査能力の向上及び⑤⾃主規制法⼈における不正リスクに関する上場審査能⼒の向上に向けた取組みが提唱されています。同資料上、「スタートアップの育成という観点も踏まえ、上場準備会社に過度な負担を課さないよう留意している」との記載はありますが、スタートアップ企業においては同資料に記載された措置を踏まえた対応が必要となります。
ガバナンス・投資契約関連では、経済産業省が2025年9月、「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(増補版)」を策定・公表し、同ガイドラインでは、成長を目指すスタートアップにおけるガバナンス体制や投資契約の内容について、一定の提言が行われています。これらについては、コーポレートニュースレター第43号「<スタートアップ Update>スタートアップ投資契約ガイドライン「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(増補版)」の公表」(真野光平・大島岳、2025年10月)及びキャピタルマーケットニュースレター第54号「<スタートアップ Update>IPOラチェット条項の可能性を考える」(斉藤元樹・大島岳、2025年10月)もご参照ください。
上記に加えて、資金調達関係では、2025年2月金商法施行令改正において、①インターネットを利用した特定投資家私募における情報提供の範囲の拡大、②少額募集の有価証券届出書における開示内容の簡素化などが施行されています。
2. 2026年に向けて
2026年は、スタートアップ企業等への資金供給の拡大によりその成長を促すための開示規制の見直しが実現することが期待されます。
前述のDWG報告では、①有価証券届出書の提出免除基準を1億円から5億円に引き上げることや、②特定投資家私募の開示制度の見直し(特定投資家要件を満たし、高い情報分析能力を有するものの、特定投資家への移行手続を行っていない者を「特定投資家私募」の相手方の範囲に追加する)などが提言されております。当該提言について、現時点では具体的な法令改正等が公表されているわけではないため、提言どおりの内容の改正が必ずしも実現するわけではありませんが、今後の動向には注視が必要となります。
脚注一覧
※3
企業開示府令第三号様式「記載上の注意(1)一般的事項」等
※4
窪田製薬HD、ジョイフル、ニイタカ、アドバンテスト、ソラコム
※5
現在、上場会社は取締役等に対して、報酬規制の遵守を前提に、職務執行の対価として株式を無償で交付できるところ(会社法202条の2など)、これに加えて、株式会社の従業員及び子会社の役員・従業員にも株式の無償交付を認めることが提案されています。
※9
なお、実質審査における「企業の継続性及び収益性」については、企業の継続性を中心に審査を行うものとされています。
※11
金商法上、有価証券届出書による届出の効力を生じているのでなければ、有価証券を募集又は売出しにより取得させ、又は売り付けてはならないとされています(金商法15条1項)。そのため、国内での募集・売出しに関して行うIoIについては、条件決定(届出の効力発生)前に投資家からの確約を得ることができないと考えられます。一方、海外募集・売出しに関するものについては、一定の確約を投資家から取り付け、開示する例がみられます。