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【From New York Office】米国における自己株式取得課税に関する最終規則の公表
大久保涼、加藤嘉孝(共著)
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「令和8年度税制改正大綱」につきましては以下もご参照ください。
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
現下の状況において、高齢化の進行や医療の高度化に伴う社会保障費の増大、国際関係の不安定化に対応して迫られる防衛費増額などにより、財政支出は増加する一方、税収入の面では課税最低限の引き上げや一定程度の所得層までの所得控除金額の引き上げによる中・低所得者層に対する課税の軽減も迫られており、国としてはそれ以外の者に対する増税による歳入確保の動機が存在することは確かであると考えられる。
他方、累進課税制度の下、所得が高くなるほど税負担率は上昇するはずであるという建前はあるものの、実際には、金融所得や不動産譲渡等による所得に対する一律一定の税率による分離課税の存在により、そのような所得をより多く有する傾向のある超高所得者(年間所得数千万円という単なる高所得者とは異なる、年間所得1億円超の者)の方が、むしろ税負担率は低くなるという現象※1も知られている。一般的に、そのような所得の優遇と位置づけることも可能な制度は縮小し、金融所得等に対する課税を強化すべきではないかという議論も存在するところであるが、株式市場への悪影響の懸念から、金融所得等に対する課税を一般的に強化することは躊躇されるところであり、その代わりに、超高所得者に対象を限定して、分離課税による課税の軽減を打ち消す制度は、合理的と考えられる。
そのような考慮の下、令和5年度税制改正において、個人のミニマム課税※2が導入されていたところであるが、令和8年度税制改正によりその適用範囲が大幅に拡大され、極めて限定された対象者しかいない制度から、少なからざる者にとって対象となる可能性が出てくる制度に変貌することになったので、その内容について解説する。
令和5年度税制改正により導入され、令和7年分所得から適用開始されている個人のミニマム課税は、以下のように算定される金額を新たに所得税として課すものである。
なお、上記③のミニマム課税として追加的に課される所得税の額も、震災復興税の対象となるから、その金額の2.1%の震災復興税が上乗せされることになる。つまり、いったん基準所得金額が個人のミニマム課税として追加的に課される税がかかり始める金額を超えると、その超えた部分については震災復興税の税率が上乗せされ、22.5%を上回る税率が適用されることになる。なお、その超えた部分についてのみ震災復興税の税率が上乗せされ、個人のミニマム課税の税率を上回る税率が適用されることにより生じ得る、不合理な事象については後述する。
個人のミニマム課税による課税金額が生じやすくなる類型としては、所得税15%、住民税5%の税率による分離課税の対象となる所得(かつ、預貯金の利子等の選択によらない源泉分離課税の対象ではない所得)ばかり有している納税者が考えられる。そのような者について、個人のミニマム課税がかかり始める基準所得金額は、次の一次方程式の解を求めることにより得られる。
(x – 330,000,000円) × 22.5% = x × 15% × 1.021
(22.5% – 15% × 1.021) × x = 330,000,000円 × 22.5%
x = 330,000,000円 × 22.5% ÷ (22.5% - 15% × 1.021)
= 1,033,402,923円
よって、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得だけで年間約10億3340万円を超える所得を有する者は、その超えた部分の金額について、個人のミニマム課税の税率22.5%と分離課税の所得税率15%の差7.5%の税率※6で、個人のミニマム課税として追加的に税が課されることになる。なお、ここでの計算には、人的所得控除は勘案していないが、実際には人的所得控除により個人のミニマム課税を適用する前の所得税額は低くなっていることが考えられるから、個人のミニマム課税はもっと低い所得金額からかかり始め、かつ、より大きな金額の追加課税額を生じることが考えられる。
分離課税の対象となる所得ばかりを有するというような極端な例とは別の例を考えるにしても、例えば、総合課税の対象となる所得※7を年間1億円有する者が、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得を追加的に得る場合は、総合課税の対象となる所得1億円で所得税額は4020万4千円となっているから、追加的に得る分離課税の対象所得の金額について個人のミニマム課税がかかり始める水準は、次の一次方程式の解を求めることにより得られる。
(x + 100,000,000 – 330,000,000円) × 22.5% = (40,204,000円 + x × 15%) × 1.021
(22.5% – 15% × 1.021) × x = 230,000,000円 × 22.5% + 40,204,000円× 1.021
x = (230,000,000円 × 22.5% + 40,204,000円× 1.021) ÷ (22.5% - 15% × 1.021)
= 1,291,555,797円
よって、総合課税の対象となる所得を年間1億円有する者で、それについて累進税率による課税を受けていても、それ以外に、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得を年間約12億9150万円を超えて有していれば、その超えた部分の金額(分離課税の対象となっている金額)について、個人のミニマム課税の税率22.5%と分離課税の所得税率15%の差7.5%の税率※8で、個人のミニマム課税として追加的に税が課されることになる。なお、この計算に人的所得控除を勘案していないことは、分離課税の対象となる所得ばかりを有する者についての上記例と同様であり、実際における個人のミニマム課税を適用する前の所得税額については、人的所得控除によって低くなっていることが考えられるから、個人のミニマム課税はもっと低い所得金額からかかり始め、かつ、より大きな金額の追加課税額を生じることが考えられる。
なお、個人のミニマム課税について約30億円が同課税による追加負担が生ずる平均的な所得水準として説明されることがあるが※9、約30億円の所得がある者の中でも、主に事業や給与による総合課税の対象所得でその所得水準に達している者もいれば、ほとんど不動産又は株式等の譲渡による所得でそれだけの所得水準に達している者もいる。前者はいずれにせよ個人のミニマム課税の対象とならないのに対し、後者は、もっと低い所得水準から個人のミニマム課税がかかり始めるのであって、それらを一緒にした集団の中での平均的な租税負担率※10を基に、個人のミニマム課税がかかり始める所得水準を議論しても、実際の個々人に対する適用状況とは異なることが考えられるのであって、そのような議論に意義は見出しがたいと考えられる。
令和8年度税制改正では、特別控除額を3億3千万円から半減して1億6500万円とするとともに、税率を22.5%から30%に引き上げることとされた。表面上の税率は22.5%から30%へと4/3倍になっただけであるが、分離課税の所得税率15%との差という意味では、22.5%と15%の差7.5%から、30%と15%の差15%へと2倍となっており、特別控除額の半減とあわせて、大幅な課税強化と言えよう。このような改正は、令和9年分の所得税から適用開始されることとされている。
この改正の適用開始後は、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得ばかりを有している納税者については、個人のミニマム課税がかかり始める基準所得金額は、以下に示すように、現在の約10億3340万から、その3分の1未満の約3億3700万円となる。
(x – 165,000,000円) × 30% = x × 15% × 1.021
(30% – 15% × 1.021) × x = 165,000,000円 × 30%
x = 165,000,000円 × 30% ÷ (30% - 15% × 1.021)
= 337,078,652円
しかも、基準所得金額がいったんその水準を超えると、個人のミニマム課税の税率30%と分離課税の所得税率15%との差が15%となり、平成8年度税制改正による改正前の7.5%から2倍となっているから、その水準を超えた部分の基準所得金額について、同改正前の2倍の税率たる15%※11で、個人のミニマム課税として追加的に税が課されることになる。なお、人的所得控除を勘案していないことは、前述の導入時の個人のミニマム課税に関する検討と同様であり、実際には個人のミニマム課税はもっと低い所得金額からかかり始め、かつ、より大きな金額の追加課税額を生じることが考えられる。
前述の導入時の個人のミニマム課税に関する検討と同様に、総合課税の対象となる所得を1億円有する者が、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得を追加的に得る場合を検討すると、追加的に得る分離課税の対象所得の金額について個人のミニマム課税がかかり始める水準は、以下に示すように、現在の約12億9150万円から、その3分の1未満の約4億1200万円となる。
(x + 100,000,000 – 165,000,000円) × 30% = (40,204,000円 + x × 15%) × 1.021
(30% – 15% × 1.021) × x = 65,000,000円 × 30% + 40,204,000円× 1.021
x = (65,000,000円 × 30% + 40,204,000円× 1.021) ÷ (30% - 15% × 1.021)
= 412,313,817円
しかも、基準所得金額がいったんその水準を超えると、個人のミニマム課税の税率と分離課税の所得税率との差が、平成8年度税制改正による改正前から2倍の15%となっているから、その水準を超えた部分の基準所得金額について、同改正前の2倍の税率たる15%※12で、個人のミニマム課税として追加的に税が課されることは、前述の分離課税の対象となる所得ばかりを有している納税者と同様である。
以上のように、平成8年度税制改正による改正後は、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得が年間約4億円、場合によっては年間3億円台前半あたりの水準から個人のミニマム課税がかかり始め、しかも、その税率は、その水準を超えた部分の金額に対し15%と、分離課税における所得税率と同じ水準である(つまり、その部分については実質的に所得税が2倍になるのと同じ)。毎年そのような水準の分離課税の対象所得を得る者は、多くは存在しないかもしれないが、大きく値上がりした不動産を譲渡したり、値上がりした株式をまとめて譲渡したりした者などが、その年だけそのような水準の分離課税の対象所得を得ることは、稀なことではないと考えられる。そのような者にとっては、同じ譲渡所得を実現するにしても、それを単年ではなく複数年に分けて行えれば、単年における個人のミニマム課税がかかり始める基準所得金額の水準に到達しないようにできるかもしれず、それにより個人のミニマム課税を回避したいとのインセンティブは働くであろう。不動産や株式の譲渡所得に係る分離課税は、これまで一律の税率での課税であることにより、いつの時点でそのような譲渡所得を実現するかが課税にあまり影響を与えず、中立性(課税が経済行動に影響を与えないこと)の見地からは好ましかったが、今後は、個人のミニマム課税の存在によって、譲渡所得を複数年にわたり平準化し、個人のミニマム課税による追加的課税を免れたいとのインセンティブが働き、事情が許すならば、分割して不動産や株式を譲渡した方が課税上好ましい結果を得られるようになることが考えられる。
個人のミニマム課税による課税金額を試算してみた結果、基準所得金額が個人のミニマム課税として追加的に課される税がかかり始める金額を超えた部分についてのみ震災復興税の税率が上乗せされ、個人のミニマム課税の税率を上回る税率が適用される関係で、不合理な事象が生じ得ると考えられるので紹介する。
令和8年度税制改正による改正後において、例えば、基準所得金額が同じ6億円であるが、それが株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得のみである納税者Aと、総合課税の対象となる所得1億円及び株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得5億円を有する納税者Bとを考える。
その場合、納税者A及び納税者Bに対する所得税及び震災復興税の課税額は、それぞれの納税者につき次のようになる。なお、ここでの計算には、人的所得控除は勘案しない。
つまり、納税者A及び納税者Bとも、同じ基準所得金額を有しているにもかかわらず、納税者Aの方が、結果として税額は54万円あまり大きくなっている。しかも、納税者Bの方が、総合課税の対象となる所得を有しており、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得は比較的少ないため、個人のミニマム課税がなければ課税額は納税者Aよりも大きかったにもかかわらずである。つまり、個人のミニマム課税がなければ低い課税額ですんでいた者に対し、個人のミニマム課税によって、同じ所得金額の者と同じ税額まで負担するように求めることを超えて、より重い税負担をかける結果となると考えられる。これは、合理的とはとても言えないのではないだろうか。
上記のように、令和8年度税制改正により、個人のミニマム課税は、株式等の譲渡による所得などの所得税率15%の分離課税の対象となる所得が年間約4億円、場合によっては年間3億円台前半あたりの水準からかかり始めるので、大きく値上がりした不動産を譲渡したり、値上がりした株式をまとめて譲渡したりすることにより、その対象となり得る者は、少なからず出現してくるであろうと考えられる。そのような者にとっては、単年でそのような水準の分離課税の対象所得を得れば個人のミニマム課税により重い税負担を課されてしまうことになるところ、複数年にわたり平準化して分離課税の対象所得を得れば個人のミニマム課税を免れられる可能性があるので、分割して譲渡することなどができないか、検討する必要性が生じてくるのではないかと考えられる。
また、改正後の個人のミニマム課税が適用されると見込まれる者としては、改正後のミニマム課税が適用され始める前(すなわち今年の間)に、株式等について含み益を実現させ、その実現させた利益については、個人のミニマム課税の適用がないようにして、所得税率15%(地方税及び震災復興税をあわせても20.315%)の分離課税のみで課税は終わるようにしておくことが考えられる。ただ、もちろん、現在でも改正前の個人のミニマム課税は存在するので、その適用がある水準まで利益を実現させないよう注意する必要はあろう※13。
※1
そのような現象について、「1億円の壁」という言い方がなされることがあるが、「壁」というときには、比喩的にせよ、それを乗り越えることに対する障害ともいうべき存在があることを示しているはずであるところ、この現象は、一定の所得を超えるとむしろ税負担率が低くなっていくという、障害の存在とはかけ離れた(むしろ、反対にそこを超えていくことについての誘因が存在するとも言える)現象であり、本稿ではそのような言い方は用いない。
※2
この制度について、公式には、そのような呼称は存在せず、当該制度を定める法令条文の見出しは「特定の基準所得金額の課税の特例」というものであり、また、立案担当者の解説においては「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」という呼び方も用いられているが、限定された高収入・高所得者について、租税上の特別措置により原則的な税率よりも低い税負担率となっている場合に、最低限の一定の税負担率を確保しようという制度内容は、OECDを中心とした国際的な合意に基づき法人に対する課税制度として設けられたグローバル・ミニマム課税の内容に類似する面があるということができ、本稿では「個人のミニマム課税」と呼ぶこととする。
※3
一般的には、上場株式等に係る配当等や、源泉徴収を選択した特定口座における上場株式等の譲渡による所得なども、選択により源泉分離課税の対象となるが、それは選択の結果であって、預貯金の利子等とは異なり申告のための資料収集は容易と考えられ、基準所得金額からは除外されていない。上場株式等について得られる配当等やその譲渡による所得は、まさにそれに対する分離課税の適用により超高所得者の税負担率を下げている主な原因と考えられ、基準所得金額から除外していないことは当然と言えよう。
※4
実際には、下記脚注5のとおり、震災復興税も個人のミニマム課税により追加で課税される金額から控除される税額(ミニマム課税がなくても課されている税額)に含められているようであり、22.5%の税率を適用して算定される金額は、ミニマム課税がなくても課されている所得税と震災復興税の合計額を超えない限り、震災復興税の額も含めた課税額の最低限を画することになると考えられる。ただし、後述のとおり、いったんミニマム課税がなくても課されている所得税と震災復興税の合計額を超えて追加的な課税額が生じ始めると、その追加的な課税額については震災復興税の税率を上乗せされ、22.5%を上回る税率が適用されることには留意する必要がある。なお、令和8年度税制改正により、震災復興税の一部は防衛特別所得税に置き換えられることになったが、合計の税率は変わらないので、以下では防衛特別所得税に置き換わることとなった部分も含め、震災復興税として説明する。
※5
震災復興税に関する法律における読み替えにより、個人のミニマム課税がない場合に算定される所得税の額については、それに係る震災復興税の額も含められるようである(東日本大震災の復興財源の確保に関する特別措置法33条)。
※6
震災復興税も勘案すると、個人のミニマム課税の税率22.5%と分離課税の所得税及び震災復興税の合計税率15.315%の差7.185%に1.021を乗じた約7.336%の税率。
※7
5分5乗課税の対象となる山林所得ではなく、かつ、総合所得又は退職所得のどちらか一方のみであることを前提とする。
※8
震災復興税も勘案すると、上記注6のとおり約7.336%の税率。
※9
例えば、財務省(2023)「令和5年度税制改正の解説(ファイナンス別冊)」大蔵財務協会、236頁。
※10
その集団の中における典型的な人の租税負担率というよりは、異なる租税負担率を有する者の間における単なる数値的な平均であることが考えられる。
※11
震災復興税も勘案すると、個人のミニマム課税の税率30%と分離課税の所得税及び震災復興税の合計税率15.315%の差14.685%に1.021を乗じて得られる約14.993%。
※12
震災復興税も勘案すると、上記注11のとおり約14.993%。
※13
ただし、改正前のミニマム課税の適用があっても、それによる追加的な課税の税率は実質的に改正後の半分なので、予想される改正後の所得水準によっては、改正前のミニマム課税の適用があっても改正前に含み益を実現させた方がよい可能性もあることは否定できない。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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