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「ビジネスと人権」に関する行動計画改定版の公表

著者等
福原あゆみ辻野真央(角真央)(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.115(2026年1月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

「ビジネスと人権」に関する行動計画改定の経緯

 2025年12月24日、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議(以下「関係府省庁連絡会議」といいます。)において、「ビジネスと人権」に関する行動計画が改定されました(以下、改定後の行動計画を「改定版NAP」といいます。)※1。同年10月1日から30日にかけて実施されていた改定版NAPの原案に対するパブリックコメントを受け※2、内容を修正の上、公表されました。

 改定版NAPは、筆者辻野が起草に携わり、関係府省庁連絡会議において、関連する国際的な動向及び日本企業の取組状況について意見交換が実施され、ステークホルダーが参加するビジネスと人権に関する行動計画推進円卓会議及び同作業部会による議論を踏まえて策定されました。

 本ニュースレターでは、改定版NAPの概要を説明するとともに、日本企業に対する影響についてご紹介します。

改定版NAPの概要

1. 改定版NAPの枠組み

 改定版NAPは4つの章に分かれており、その基本的な枠組みは、2020年10月に策定された改定前のNAPから変更されていません。第1章「行動計画が改定されるまで(背景及び作業プロセス)」において、政府及び企業のこれまでの取組・成果を確認し、改定版NAPのメインである第2章「優先分野」において、「ビジネスと人権」に関する8つの優先分野が明記されています。当該優先分野が日本社会において優先的に解決されるべき課題として取り上げられている理由に加えて、今後の政府による取組の方針や各種施策の例が記載されています。次の第3章「政府から企業への期待表明」において、企業による取組の進展を評価しつつ、具体的なガイダンス等を挙げながら、一層の人権デュー・ディリジェンスの推進に対する期待が表明されています。最後の第4章「今後の行動計画の実施及び見直しに関する枠組み」においては、改定版NAPのモニタリング体制と更なる改定の可能性が示されています。

2. 政府が注力する8つの優先分野

 改定版NAPでは、優先的に対応すべき事項として、以下の8点が示されています。

優先分野 政府による取組の方向性
(1) 人権デュー・ディリジェンス及びサプライチェーン
  • サプライチェーン上における企業の人権尊重の取組を促進する情報提供や支援策に関するマルチステークホルダーとの議論の継続
  • 独立行政法人等が指導原則に沿って人権尊重に取り組むことの確保
  • 諸外国との対話・連携を通じた、指導原則の履行推進に向けた取組
  • 労働者等の幅広い層の人々が恩恵を受ける経済連携協定(EPA/FTA)及び投資協定の締結・履行への継続的な努力
  • ディーセント・ワーク実現のための努力の継続
  • 中小企業等の取引条件・取引慣行の改善
(2) 「誰一人取り残さない」ための施策推進

  1. ジェンダー平等
  2. 外国人労働者
  3. 子ども・若者
  4. 障害者
  5. 高齢者
①~⑤共通

  • ライツホルダーの状況を考慮し、「誰一人取り残さない」ための、人権保護の視点に立った制度設計・運用及び見直しの実施
  • 関連施策で得られた情報や好事例の提供
(3) テーマ別人権課題

  1. AI・テクノロジーと人権
  2. 環境と人権
  1. AI・テクノロジーと人権

    • AIイノベーション促進とリスク対応の両立
    • AI分野の国際的協調の推進
  2. 環境と人権

    • 人権課題と環境課題の双方を視野に入れた環境デュー・ディリジェンスの推進
    • 気候変動への適応と緩和政策における人権への配慮
(4) 指導原則の履行推進に向けた能力構築
  • 中小企業を含む企業に対する情報・助言・支援等の提供
  • 教育・研修の実施による啓発の促進
(5) 企業の情報開示
  • 国際的な基準の動向を踏まえ、企業による人権尊重に関する情報開示について必要に応じた議論の実施
  • 情報開示の好事例集の周知等を通じた企業の情報開示の充実化の促進
(6) 公共調達・補助金事業等を含む公契約
  • 公共調達における企業等による人権尊重の推進
  • 国際約束及び現行法令の範囲内での補助金事業における企業等による人権尊重の取組の審査基準等への組入れの検討
(7) 救済へのアクセス
  • 日本NCP(各国連絡窓口)機能強化に向けたステークホルダーとの対話・エンゲージメントの機会の設定
  • 個別法に基づく人権救済の状況を見定めつつ、人権救済制度の在り方についての検討の継続
  • 指導原則に準拠した企業等の苦情処理メカニズムの構築・運用を含む取組の促進
  • 個別法令に基づく対応の継続・強化
  • 独立行政法人等が運用する苦情処理メカニズムの適正な運用及び必要に応じた見直し
(8) 実施・モニタリング体制の整備
  • 日本の優先課題領域の定期的な特定及び関連施策のアウトプット、アウトカム、インパクト評価等の実施に向けた検討
  • 定期的に評価を行う実効的な体制の構築の検討
  • 施策の進捗状況と目標の達成度について、ステークホルダーに対する分かりやすい開示の実施に向けた検討

【改定版NAP概要図※3を基に筆者作成】

 国連指導原則(UNGPs)※4の3つの柱を前提としつつ、日本が取り組むべき人権課題を明らかにした上で、従来、関係府省庁において政策領域ごとに、「点」ないしは「線」として実施されてきた施策が、「ビジネスと人権」の観点から、横断的に「面」として捉え直され(改定版NAP第1章の5)、今後より一層関係府省庁間で連携した取組を推進することが示唆されています。

日本企業に対する影響及び留意点

 改定版NAPは、その性質上、政府による「ビジネスと人権」に関する政策の方針を示すものであり、企業に対し何ら制約を課したり、遵守事項を要求したりするものではありません。もっとも、国連指導原則上求められ、国内においても政府のガイドライン※5により要請される、企業の人権尊重責任に対し、影響を与える各種施策が提示されており、日本企業において、政府がどのような考えの下で施策を推進しようとしているかについて自覚的になることは、企業としての取組を検討していく上で非常に有益です。例えば、(1) 人権デュー・ディリジェンス及びサプライチェーンについては、中小企業に対する理解促進に課題がある旨の指摘に加え、これら企業との取引条件・取引慣行の改善について明記されている点は大企業においても留意すべき内容と考えられます。また、(5) 企業の情報開示に関して、人権を含むサステナビリティ情報の開示等を通じて説明責任を果たすことの重要性が改めて強調されていることや、(7) 救済へのアクセスに関して、日本企業が利用し得る苦情処理メカニズムの法的枠組みを含め各種制度が示されている点も参考になります。加えて、(6) 公共調達・補助金事業等を含む公契約についても、すでに実施されている公共調達における人権配慮に加えて、補助金事業における審査基準への組入れが言及されていることは、政府による取組の方向性として注目されます。

 さらに、ライツホルダーの属性に着目した (2) 「誰一人取り残さない」ための施策推進が明示されるとともに、テーマの性質に着目した切り口には、(3) テーマ別人権課題として、AI・テクノロジーと人権、環境と人権の2テーマが取り上げられています。AI・テクノロジーと人権については、生成AIの進歩等を踏まえた「現に存する懸念」として、①プライバシーの侵害、犯罪への使用等人権や安心を脅かす行為、②機密情報の流出、サイバー攻撃の巧妙化等セキュリティ上のリスク、③誤情報、虚偽情報、偏向情報等が蔓延する問題、④知的財産権の侵害リスク、⑤透明性の確保、⑥AI 利用者の責任、⑦国際的な規律・標準との調和等が挙げられ、ガバナンスを強化すべきこととされています。また、環境分野については、人権課題と環境課題の交差性等を踏まえた政府の施策について言及されており、企業が人権デュー・ディリジェンス等の取り組みを進めるに当たり、参考になると考えられます。なお、企業に対する支援策として、(4) 指導原則の履行推進に向けた能力構築において記載された各種施策に加え、(別添2) ビジネスと人権に関する基本文書及び関連サイト及び (別添3) 関係府省庁等の相談窓口の一覧には、企業が取組を進める上で参照すべき情報源が集約されており、実務上有用です。

 このように、改定版NAPは、公表時点に基づく政府の方針を明らかにするものであり、今後も、(8) 実施・モニタリング体制の整備を含めて、具体化され、発展が期待されるものであるため、その動向を注視する必要があります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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