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相談室Q&A 自らの人事異動の内示情報を同僚に漏洩した社員に、懲戒処分を科すことは可能か
(2026年1月)
清水美彩惠
- 労働法
- 労働法アドバイス
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ニュースレター
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
我が国の非正規雇用労働者数の増加を受け、2018年7月に、いわゆる働き方改革関連法により、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム・有期雇用労働者法」といいます。)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます。)に、①通常の労働者(いわゆる正社員を指します。以下では、「正規雇用労働者」といいます。)と非正規雇用労働者(パートタイム・有期雇用労働者及び派遣労働者)との間の不合理な待遇差の禁止、②非正規雇用労働者に対する待遇に関する説明義務の強化、③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定が整備されました。また、「同一労働同一賃金」に係る規定について、同年12月に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下「同一労働同一賃金ガイドライン」といいます。)が策定され、待遇の相違が不合理と認められるか否かの原則となる考え方及び具体例が示されました。
これらの施行から5年が経過したことを受け、働き方改革関連法における施行後5年を目途とする見直し規定等に従い、厚生労働省において見直し検討が行われ、同省の労働政策審議会は、2025年12月25日に、同一労働同一賃金の取り組みについての報告書案(「雇用形態又は就業形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けた取組の強化について(報告)(案)」)(以下「本報告書」といいます。)及び「同一労働同一賃金ガイドラインの見直し(案)」)(以下「改正同一労働同一賃金ガイドライン案」といいます。)を纏めました。
本報告書では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差に関する説明義務の強化(具体的には、非正規雇用労働者の雇入れ時の労働条件明示事項として、パートタイム・有期雇用労働者法14条第2項及び労働者派遣法31条の2第4項に基づいて事業主及び派遣元事業主に待遇差に係る説明を求めることができる旨を追加することや当該説明の方法としては、資料を活用し口頭で説明する方法、又は説明事項を全て記載した資料を交付する等のいずれかとすること等)により労使のコミュニケーションを促すことや、同一労働同一賃金ガイドラインの更なる明確化などにより、待遇差の是正を図ることが適当であるとされました。不合理な待遇差であるか否かの「立証責任」を企業(使用者)側に課すか否かも焦点となりましたが、労使間で意見が一致せず、法改正は見送られることとなりました。
本ニュースレターでは、改正同一労働同一賃金ガイドライン案の主な内容についてご説明します。
改正同一労働同一賃金ガイドライン案では、ガイドラインの目的に関連して、パートタイム・有期雇用労働者法及び労働者派遣法に規定された均衡・均等待遇は、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適当と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化した規定であるとする記載が追加されました(第1・2~3頁)。
また、ガイドラインの基本的な考え方として、①同一労働同一賃金ガイドラインに原則となる考え方や具体例が示されていない待遇であっても、不合理と認められ、均衡・均等待遇違反と認められる可能性があること、②不合理な待遇差の解消等に当たっては労使によるコミュニケーションが重要であり、議論に当たっては、非正規雇用労働者の意向を十分に考慮した上で取り組みを進めることが望ましいことが明確化されました(第2・4~5頁)。
また、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消に当たっては、非正規雇用労働者の待遇の改善という法の目的に鑑みて、正規雇用労働者の労働条件を不利益に変更することなく、非正規雇用労働者の待遇の改善を図ることが求められる旨が明確化されました(第2・6~7頁)。
改正同一労働同一賃金ガイドライン案では、同一労働同一賃金ガイドラインの策定から5年の間に重要な最高裁判例等が積み重ねられたことを踏まえて、非正規雇用労働者の各待遇に関する原則となる考え方及び具体例について、以下の記載の補充・追加がなされました(第3~第5)。
長澤運輸事件最高裁判決(最二小判平成30年6月1日 民集72巻2号202頁)を踏まえ、賞与の性質及び支給目的には、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上等の様々な性質及び目的が含まれうるものであることを指摘しつつ、正規雇用労働者と同様に非正規雇用労働者にも賞与の性質・目的が妥当するにもかかわらず、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、賞与の性質・目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の賞与を支給せず、かつ、その見合いとして非正規雇用労働者の基本給を高く支給している等の事情もない場合には、当該賞与の相違は、不合理な待遇差となりうることが示されました(第3、2・16~17頁、第4、2・38頁)。
メトロコマース事件最高裁判決(最三小判令和2年10月13日 民集74巻7号1901頁)を踏まえ、退職手当の性質及び支給目的には、労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるものであることを指摘しつつ、正規雇用労働者と同様に非正規雇用労働者にも退職手当の性質・目的が妥当するにもかかわらず、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、退職手当の性質・目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給せず、かつ、その見合いとして非正規雇用労働者の基本給を高く支給している等の事情もない場合には、当該退職手当の相違は、不合理な待遇差となりうることが示されました(第3、3・17頁、第4、3・38~39頁)。
ハマキョウレックス事件最高裁判決(最二小判平成30年6月1日 民集72巻2号88頁)を踏まえ、正規雇用労働者と業務の内容が同一の非正規雇用労働者には、正規雇用労働者と同一の無事故手当を支給しなければならない※1ことが示されました(第3、4(7)・21頁、第4、4(7)・43頁)。
日本郵便(大阪)事件最高裁判決(最一小判令和2年10月15日 労判1229号67頁)を踏まえ、労働契約の更新を繰り返している等、相当に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者には、正規雇用労働者と同一の家族手当を支給しなければならないことが示されました(第3、4(9)・21~22頁、第4、4(9)・44~45頁)。
前掲ハマキョウレックス事件最高裁判決を踏まえ、転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給される住宅手当について正規雇用労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある非正規雇用労働者には、正規雇用労働者と同一の住宅手当を支給しなければならないことが示されました(第3、4(10)・22~23頁、第4、4(10)・45~46頁)。
正社員と同一の事業所で勤務する非正規雇用労働者にも正規雇用労働者と同一の福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室)の利用を認めなければならないという従前の記載に加えて、福利厚生施設の利用料金・割引率等の利用条件についても、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、福利厚生施設の提供の性質及び提供目的に照らして適切と認められるものを考慮して不合理と認められる相違を設けてはならないことが示されました(第3、5(1)・24~25頁、第4、5(1)・47~48頁、第5、2(1)・53~54頁)。
日本郵便(東京)事件最高裁判決(最一小判令和2年10月15日 労判1229号58頁)※2を踏まえ、正規雇用労働者に病気休職(病気休暇)期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返している等、相当に継続的な勤務が見込まれる非正規雇用労働者にも、正規雇用労働者と同一の給与の保障を行わなければならないことが示されました(第3、5(4)・26頁、第4、5(4)・49~50頁、第5、2(4)・55~56頁)。
日本郵便(佐賀)事件最高裁判決(最一小判令和2年10月15日 労判1229号5頁)を踏まえ、非正規雇用労働者にも正規雇用労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならないことが示されました(第3、5(5)・26~27頁、第4、5(5)・50頁、第5、2(5)・56頁)。
メトロコマース事件高裁判決(東京高裁平成31年2月20日 労判1198号5頁)※3を踏まえ、一定の期間勤続した労働者に付与する褒賞については、正規雇用労働者と同一の期間勤続した非正規雇用労働者にも、正規雇用労働者と同一の褒賞を付与しなければならないことが示されました(第3、5(7)・27~28頁、第4、5(7)・51~52頁、第5、2(7)・57頁)。
| 改正同一労働同一賃金ガイドライン案で参考とされた最高裁判決等を踏まえた判断ポイント | |
|---|---|
| 待遇項目 | 判断ポイント |
| 賞与 |
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| 退職手当 |
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| 無事故手当 |
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| 家族手当・扶養手当 |
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| 住宅手当 |
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| 病気休職・病気休暇 |
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| 夏季冬季休暇 |
|
| 褒賞 |
|
改正同一労働同一賃金ガイドライン案では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の待遇の相違の要因として、「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及び定着を図る」等の目的があったとしても、当該待遇の相違が不合理と認められるか否かは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の他の性質及び目的にも照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして判断されるものであり、正社員人材の確保・定着を図る目的があることのみをもって直ちに待遇差が不合理ではないと認められるものではない旨が示されました(第3、(注)3・9~10頁)。
パートタイム・有期雇用労働者法8条においては、正規雇用労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇の相違の不合理性の判断に際しての考慮要素として「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」といいます。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」が挙げられています。
改正同一労働同一賃金ガイドライン案においては、同条の「その他の事情」については、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではなく、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合や過半数代表者等との間の交渉といった労使交渉の経緯や結果等の諸事情も「その他の事情」として想定されるものであることが明確化されました。
また、パートタイム・有期雇用労働者法14条第2項に基づく正規雇用労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇の相違の内容及び理由に関する説明が十分に行われなかったと認められる場合や、事業主が短時間・有期雇用労働者の意向を十分考慮することなく一方的に短時間・有期雇用労働者の待遇を決定した場合には、そのような事情も同法8条における「その他の事情」として考慮されうることが示されました。
定年に達した後に再雇用された有期雇用労働者であることは、パートタイム・有期雇用労働者法8条における「その他の事情」として考慮される事情に当たりうるが、定年後に再雇用された有期雇用労働者であるというだけで、直ちに待遇差の不合理性が否定されるわけではなく、正規雇用労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かは、個々の待遇ごとに当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべきことが示されました。
同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が通算5年を超える場合には、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換することができるとされていますが(労働契約法18条第1項前段)、無期転換後の労働者は、所定労働時間が正規雇用労働者と同一であれば、「同一労働同一賃金」の規制の枠組みの対象外となることから、無期転換後の処遇の改善が図られない懸念が指摘されていました。
そこで、改正同一労働同一賃金ガイドライン案においては、所定労働時間が正規雇用労働者と同一であり、かつ、期間の定めのない労働契約を締結している労働者は、パートタイム・有期雇用労働者法2条第3項に規定する短時間・有期雇用労働者に該当しないとしつつも、就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ労働契約を締結し変更すべきであること(労働契約法3条第2項)や、無期転換の対象となる非正規雇用労働者の無期転換後の労働条件の決定に際して、あらかじめ不合理な待遇差の有無を点検の上で、そのような待遇差がある場合には確実に解消すべきであることが示されました。
また、勤務地限定正社員、職務限定正社員、及び、短時間正社員についても、同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨を考慮しつつ、就業の実態に応じて均衡を考慮して労働契約を締結し変更すべきことが示されました(以上について、第6・58~60頁)。
以上のように、改正同一労働同一賃金ガイドライン案では、最高裁判例等の蓄積を踏まえ、賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、病気休職、夏季冬季休暇等、多くの企業で採用されている待遇について原則となる考え方及び具体例の記載の補充・追加がなされました。改正同一労働同一賃金ガイドライン案は、2026年度中の施行を目指して、今後パブリックコメントに付される予定であり、今後の動向にも注意が必要です。
各企業においては、改正同一労働同一賃金ガイドライン案の内容を踏まえ、各企業における待遇について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に不合理であると疑われる待遇差がないか、点検・是正することが求められます。各企業における検討・点検に際して、本ニュースレターをお役立ていただければ幸いです。
※1
同一労働同一賃金ガイドラインの第3から第5においては、「……通常の労働者と同一の……を支給しなければならない」「相違に応じた……を支給しなければならない」といった表現が用いられていますが、企業(使用者)がそれらの規定に反した場合には「当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある」(第2・5頁)ものの、直ちに当該待遇の相違が不合理と判断されるというわけではないと解されます。
※2
日本郵便(東京)事件最高裁判決は、正社員と時給制契約社員との間の病気休暇中の給与の保障に関する待遇差が問題となった事案です。
※3
メトロコマース事件高裁判決では、「業務上特に顕著な功績があった社員に対して褒賞を行う」との規定があったが、実際には勤続10年に達した正社員に対して一律に褒賞が贈られていたという実態を考慮して、正社員と有期雇用労働者との間の褒賞の支給の有無に係る待遇差は不合理であると判断されました。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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