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ニュースレター

商標の不使用取消審判における「登録商標の使用」(商標法50条1項)について判断した知財高裁令和7年10月20日判決〔池麺事件〕の概要

著者等
粂内将人栗原杏珠城野祐希(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T IP Law Update ~知的財産法ニュースレター~ No.36(2026年1月)
業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 令和7年10月20日、知的財産高等裁判所(知財高裁)第1部(本多知成裁判長)は、登録商標「池麺」等の不使用取消審判の審決取消訴訟において、店舗内に積まれた麺箱への標章の表示を理由に登録商標の「使用」を認めた特許庁の審決を取り消し、当該商標登録を取り消すべきとする判決(知財高判令和7年10月20日・令和7年(行ケ)第10032号等。以下「本判決」といいます。)を言い渡しました。

 本件は、商標法50条に基づく不使用取消審判において、商標権者が主張する使用行為(「池麺」の標章が表示された麺箱の積み上げ行為や、過去に販売された商品に関する「池麺」の標章を含むウェブ上の情報の残存)が、同法上の「登録商標の使用」といえるかが争われた事案です。

 商標法50条の不使用取消審判における「使用」の意義については、従前、学説、裁判例ともに見解が分かれており、商標的使用(出所表示機能、自他識別機能を果たす形態での使用)までは不要(不要説)とする裁判例(東京高判平成3年2月28日〔POLA事件〕、知財高判平成27年11月26日〔アイライトI事件※1〕等)がある一方で、商標的使用が必要(必要説)とする裁判例(東京高判平成13年2月28日〔DALE CARNEGIE事件〕、知財高判令和4年2月9日〔知本主義事件※2〕等)もありました。

 本判決は、商標法上、商標の本質的機能は、自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから、商標法50条1項にいう「登録商標の使用」というためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当であると判断し、知財高裁が、近時の知財高判令和4年2月9日〔知本主義事件〕に続いて必要説の立場を示した点において、実務上重要な意義を有します。

 本ニュースレターでは、この「池麺事件」控訴審判決について、事案の概要と原審(特許庁)及び知財高裁の判断を紹介するとともに、予防法務の観点からの実務対応について検討します。

事案の概要

1. 当事者及び対象商標等

 原告(審判請求人)は、浜松市内でラーメン店を営業する株式会社アイスタイルであり、被告(商標権者)は、ラーメン店等を運営する株式会社大勝軒です。対象となった商標は、被告が保有する以下の各商標(以下、これらを総称して「本件各商標」といいます。)であり、知財高裁は判決においてそれぞれをA事件・B事件・C事件としています。

事件 商標 区分 指定商品・指定役務
A事件 池麺(標準文字)(登録第5716665号) 第43類 宿泊施設の提供、飲食物の提供
B事件 いけめん(標準文字)(登録第4741943号) 第43類 うどんその他の飲食物の提供、うどんを含む飲食物のケータリング、うどん屋その他の飲食店・料理内容・その他の飲食物の提供に関する情報の提供等
C事件 池麺(標準文字)(登録第5710894号) 第30類等 ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、べんとう、ラビオリ等

2. 原判決

 原告は、本件各商標が3年以上使用されていないとして、その指定役務・商品の一部について商標登録の取消しを求めて特許庁に審判請求を行いました。特許庁は審決において以下のように判断しました。

事件 商標 審決 理由
A事件 池麺(第43類) 請求不成立(登録維持) 被告店舗内に「池麺」の文字が表示された麺箱(以下、「本件麺箱」といいます。)が積まれていたことをもって、「役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務を提供するために展示する行為」(商標法2条3項5号)に該当するとして「使用」を認定。
B事件 いけめん(第43類) 請求成立(取消) 使用されている「池麺」という標章は、登録商標「いけめん」と観念が異なる(「池麺」は造語、「いけめん」は「イケメン(好男子)」)ため、社会通念上同一の商標の使用とは認められない。
C事件 池麺(第30類等) 請求成立(取消) 麺箱はつけ麺等の「飲食物の提供(役務)」を行う店舗で使用されるものであり、請求に係る商品である「ぎょうざ」等に使用されているとは認められない。

 原告はA事件の審決を不服として、被告はB・C事件の審決を不服として、それぞれ知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。 

判決要旨

 本判決(知財高裁判決)は、A事件の審決を覆し、A事件・B事件・C事件全ての事件について、登録商標の「使用」を否定し、商標登録を取り消すべきとする判断をしました。その主要な判断は以下のとおりです。

1. 「登録商標の使用」の意義(商標的使用の要否)について

 本判決は、商標法50条1項にいう「登録商標の使用」といえるためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当であるとの解釈(必要説)を示しました。

2. 被告が主張した具体的な「登録商標の使用」行為に対する評価について

(1) 本件麺箱の店舗内での積み上げ行為

 本判決は、本件麺箱の積み上げ行為について原審よりも詳細に認定しました。

  1. 本件麺箱に記載された「池麺 KINGKONG」は、既に閉店した旧店舗の名称であり、本件麺箱は旧店舗が営業していた際に同店舗内において積み上げられていたことがあるのであるから、「滝野川大勝軒」という名称の被告の現在の店舗(以下、「本件店舗」といいます。)内において積み上げられていた本件麺箱は、旧店舗において麺箱として使用されていたものが、本件店舗でも引き続いて使用され、それが、本件店舗内において積み上げられていたものであること。
  2. 本件麺箱が積み上げられていた場所は、本件店舗の隅である上、常に積み上げられていたわけではなく、同じ場所にビール箱等が積み上げられていたこともあったことからすると、本件麺箱が積み上げられていたのは一時的なものであったと認められること。
  3. 本件店舗の店舗表示、店頭看板、のれん、メニュー、飲食物を盛る丼等の器、箸袋、コップ等には「滝野川大勝軒」等の別の標章が付されており、「池麺」の商標が付されていたのは本件麺箱のみであったこと。

 以上を踏まえ、裁判所は、被告が主張する本件店舗内における本件麺箱の積み上げ行為は、旧店舗名が記載された麺箱が一時的に店舗の隅に置かれていたにすぎず、また、要証期間内において、旧店舗名である「池麺 KINGKONG」が被告の新ブランド又はセカンドブランドであることが取引者又は需要者において相当程度知られていたと認めるに足りる証拠はないことから、本件麺箱の積み上げ行為は、その態様等に照らし、商標法2条3項5号にいう「役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為」に該当するとは認められないと判断しました。 

(2) ウェブ上の掲載行為

 過去に販売されたカップ麺(その包装に「池麺 KINGKONG」との標章が表示されていた。)に関する当時のニュースリリースや、「池麺」の標章を表示して当該カップ麺の広告を行うフェイスブック投稿等のウェブ上の残存についても、該当するカップ麺が要証期間内に実際に販売されていた証拠がない以上、商標法2条3項8号にいう「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」と認められず、「使用」には該当しないと判断しました。

検討

 本判決は、不使用取消審判における「使用」の認定に関し、形式的な表示の有無だけでなく、実質的な出所表示機能や自他識別機能の発揮を求めた点、及び、ウェブ上の掲載行為について、対応する販売や役務提供が要証期間内に実際に行われたことを要求している点に特徴があります。以下、理論的な背景と実務上の留意点について検討します。

1. 不使用取消審判における使用の意義

 不使用取消審判における「使用」が商標的使用であることを要するかについては、従来から学説として不要説及び必要説が存在し、裁判例の判断も割れていたところ、平成27年以降、知財高裁がアイライトI事件(知財高判平成27年11月26日)、LE MANS事件(知財高判平成28年9月14日)、アイライトⅡ事件(知財高判平成28年11月2日)において立て続けに不要説を明示したことで不要説の潮流が強くなっていました。

 そのような流れに対し、本判決は、知本主義事件(知財高判令和4年2月9日)に続いて、知財高裁が、「商標法50条所定の『使用』は、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要する」と明確に必要説の立場を採用したものといえます。特許庁(原審)が、本件店舗内における本件麺箱の展示という形式的な事実をもって商標法50条1項の登録商標の「使用」を認めたのに対し、知財高裁は、本件麺箱は旧店舗で使用されていたものの流用にすぎないことや、本件店舗内の隅に一時的に積み上げられていたにすぎないことなどを踏まえて、その態様等に照らし、商標法2条3項5号の「使用」に当たらず、また、需要者に、出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものとして認識されないとして商標法50条1項にいう登録商標の「使用」に該当しないと判断しました。

 本判決により、近時、知財高裁で必要説を採用する判決が2件出されたこととなり、今後の不使用取消審判における「使用」の判断においても、商標的使用といえるような、出所表示機能、自他識別機能を果たす形態での使用実態が求められる可能性があります。

2. 予防法務の観点からの実務対応

 本判決は、企業の商標管理・予防法務の観点から、重要な示唆を含んでいます。

 まず、本判決の事案と類似の事例として、ブランドのリニューアルや店舗名の変更後に、旧ブランドや旧店舗名に関する商標登録を維持したいのであれば、旧ブランドや旧店舗で使用していた物品等を新店舗で継続して使用したり、過去のプレスリリース記事やウェブ記事を残存させたりするだけでは不十分であり、新ブランドや新店舗名だけでなく、旧ブランドや旧店舗名自体も出所表示機能や自他識別機能を発揮する態様で使用し続けなければ、当該商標の「使用」として認められず、不使用取消審判によって登録商標が取り消されるリスクがあるということになります。

 また、指定商品や指定役務の一部について、出所表示機能や自他識別機能を果たす形態での商標の使用を行っていても、それ以外の指定商品や指定役務について出所表示機能や自他識別機能を果たす形態での商標の使用を行っていない場合には、商標法50条1項所定の「使用」を行っていないとして不使用取消審判によって登録商標が取り消されるリスクがあります。

 本判決は、上記のとおり、不使用取消審判における「使用」の認定に関し、形式的な表示の有無だけでなく、実質的な出所表示機能や自他識別機能の発揮を求め、また、ウェブ上の掲載行為について、対応する販売や役務提供が要証期間内に実際に行われたことを要求していますので、全ての指定商品や指定役務について、現在営んでいる事業において、実質的に出所表示機能や自他識別機能を発揮するような態様で積極的な使用を継続しているか、また、ウェブ上の掲載行為をもって商標の「使用」を継続していると主張するのであれば、対応する販売や役務提供も継続して行っているか、についても定期的に慎重に検証しながら商標の管理を継続的に行っていく必要があるといえます。

脚注一覧

※1
アイライトI事件では、「商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。」との見解が示されました。

※2
知本主義事件では、「商標法上、商標の本質的機能は、自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから(同法3条参照)、同法50条にいう『登録商標の使用』というためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当である。」との見解が示されました。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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