はじめに
2025年6月13日、「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(以下「早期事業再生法」又は「法」といいます。)が公布されました。早期事業再生法は、公正中立な第三者機関と裁判所が関与する形で多数決(議決権の総額の4分の3以上の同意等)による債務整理を新たに認めるものであり、日本の事業再生の実務に重要な影響を与えるものです。
早期事業再生法の公布を受け、2025年9月、産業構造審議会経済産業政策新機軸部会事業再構築小委員会の下に「早期事業再生検討ワーキンググループ」(WG)が設置され、事業再生の専門家を委員※1に加え、制度の詳細や運用について検討が進められています。同WGは2025年10月から12月にかけて3度開催され、同年12月26日、中間整理が公表されました※2。中間整理では経済産業省令で定められる内容やQ&Aで明確にすべき内容について提案されており、制度の内容や運用について理解する上で重要な意義を有します。そこで、本ニュースレターでは、中間整理の主な内容を紹介します。
早期事業再生法の内容については、NO&T Restructuring Legal Update ~事業再生・倒産法ニュースレター~ No.25「早期事業再生法の成立―日本でも私的整理にて多数決原理が導入されるー」(2025年7月)もご参照ください。
早期事業再生手続の全体像
早期事業再生手続の詳細は後述しますが、その手続の流れと関与する主体とを軸に整理して図示すると、その全体像は以下のようになります。
早期事業再生手続に関与する主体
1. 対象となる事業者(確認事業者)
早期事業再生手続は「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」が利用できる手続ですが(法3条)、この「経済的に窮境に陥るおそれ」の該当性についてQ&Aで以下のとおり明確化することが提案されています。
事業者の経理や金融機関のリスク管理等において、事業・財務の状況が下記のいずれかに該当すると判断される場合が挙げられる(あくまで一例)
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2年以内に⽀払不能に陥る可能性が⾼い場合
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低い収益⼜は⾚字の状態が継続しており、将来的に元本償還ができなくなるおそれがある場合(例えば、収益からは⾦利を⽀払うことが難しい⼜は収益からかろうじて⾦利を⽀払える状況が継続している場合や収益のほかに資産を切り崩して⾦利⽀払いや元本償還を実施している場合等)
2. 対象となる債権者
早期事業再生法に基づき権利変更の対象となる「対象債権」は、「金融機関等」が確認事業者に対して有する「貸付債権等」とされています(法2条)。これは、金融機関等はいわゆるプロ債権者であり、商取引債権者とは性質上差異があり、2000年代から金融機関等のみを対象として私的整理を行う事業再生の実務が形成されつつあること等を踏まえたものです。そのような趣旨を踏まえて、経済産業省令(以下「省令」といいます。)に委任された「金融機関等」や「貸付債権等」の定義を検討するとされています。
まず、「対象債権」の範囲に含められるべき債権として以下が提案されています。特にファイナンス・リースに係る債権(⑥)が含まれていることはこれまでの私的整理の実務とは異なりますが、実務上の取扱いに大きな変更が想定されていない点には留意が必要です。
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法において既に規定されているもの
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貸付債権等
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貸付債権等に係る法3条の確認後の利息の請求権
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貸付債権等に係る法3条の確認後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
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省令において規定することが提案されているもの
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私募社債
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店頭デリバティブ取引に係る債権
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ファイナンス・リースに係る債権(契約上中途解約が禁止されており、リース料の総額がリース資産の通常要する取得額のおおむね90%超である場合等)
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求償権
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保証債務履⾏請求権
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⼿形に係る買戻請求権及び遡求権等/電⼦記録債権に係る買戻請求権及び電⼦記録保証債務の履⾏請求権等
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法3条の確認前に⽣じた貸付債権等に係る利息及び貸付債権等に係る⼿数料の請求権
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法3条の確認前に⽣じた不履⾏による損害賠償⼜は違約⾦の請求権
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「貸付債権等」に含まれることをQ&Aにおいて明確化することが提案されているもの
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実質的に貸付債権に該当するもの(ファクタリング契約に基づく債権等)
また、「対象債権者」の範囲について、以下を「金融機関等」に含めることが提案されています。
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貸付⼜は債務保証が根拠法において位置づけられる特殊法⼈等及び「特殊法⼈等」以外の法律の定めによる業務を⾏う法⼈(法2条1項6号関連)
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農協、漁協等、店頭デリバティブ債権/私募社債/ファイナンス・リースを扱う者(法2条1項7号関連)
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業務として「金融機関等」が有していた「貸付債権等」を譲り受けた事業者/代位弁済により取得した事業者(法2条1項9号関連)
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外国の法令において早期事業再生法における「金融機関等」に相当する者(法2条1項7号関連)
3. 第三者機関(指定確認調査機関、確認調査員)
指定確認調査機関について、事業再⽣ADRにおける特定認証紛争解決事業者に求められる⽔準以上の業務が遂⾏されるように指定要件や業務規程の内容、確認調査員の要件を定めることとすることが提案されています。また、確認調査員に求める知識・経験について、早期事業再生法案に対する国会における附帯決議の内容を踏まえて、事業再生ADRにおける手続実施者と比較して、経験案件数を加重することや、労働関係に関する事項を含む研修を受けていることを追加で要求することが提案されています。
早期事業再⽣⼿続の具体的内容
1. 早期事業再生手続の具体的内容
早期事業再生手続の全体像は冒頭の図で示しましたが、具体的な手続を以下の流れとすることが提案されています。
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指定確認調査機関との事前相談
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指定確認調査機関に対する確認申請
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指定確認調査機関による確認
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指定確認調査機関による③の確認をした旨の通知及び対象債権者に対する一時停止要請
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(正当な理由がない限り④から2週間以内に)第1回対象債権者会議の開催
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(⑦の2週間前までに)確認事業者の労働組合等に対する労働関係の変更が見込まれる旨の通知※3
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(やむを得ない事由がない限り③から6か月以内に)確認事業者の指定確認調査機関に対する権利変更議案・早期事業再生計画(資産評定結果を含む)の提出
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指定確認調査機関の確認事業者に対する⑦の調査結果の報告
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第2回対象債権者会議の開催
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対象債権者集会の招集
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対象債権者集会の開催(権利変更議案を決議)
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裁判所に対する認可申立て
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裁判所による認可
2. 手続開始時の確認
(1) 確認の基準
早期事業再生手続を開始するためには、指定確認調査機関の確認が必要です(法3条)。指定確認調査機関の確認の基準のうち「権利変更議案の可決の見込みがないことが明らかでないものとして経済産業省令で定める基準に適合するもの」(法3条1項3号)について、貸付債権等の総額の1/5を有する金融機関等が指定確認調査機関の確認を受けることについての異議を述べていないこととすることが提案されています。なお、この際に基準とする貸付債権等について、担保権で保全された部分(以下、貸付債権等のうち担保権で保全された部分を「保全部分」、担保権で保全されていない部分を「非保全部分」といいます。)も含めた債権の総額として判断することが提案されています。
(2) 確認申請の軽微な変更/特に軽微な変更
指定確認調査機関による確認後に、確認された内容に変更がある場合、原則として、改めて指定確認調査機関の確認を得る必要があります(法4条1項本文)。
もっとも、「その他経済産業省令で定める軽微な変更」(法4条1項但書)については、改めての指定確認調査機関の確認を要せず、指定確認調査機関への届出で足りますが、「その他経済産業省令で定める軽微な変更」について、権利の変更についての内容が法3条の確認の基準(法3条1項1号、3号~5号)に該当しなくなるおそれがあるもの以外と定めることが提案されています。
また、「経済産業省令で定める特に軽微な変更」(法4条2項但書)については指定確認調査機関への届出も不要となりますが、「経済産業省令で定める特に軽微な変更」について、権利変更概要書及び貸付債権等一覧表の誤記(ただし、金融機関等の氏名又は名称、住所及び連絡先は除く。)と定めることが提案されています。
(3) 対象債権者に漏れが判明した場合の対応
法3条の確認後、一部の債権者について、対象債権者として取り扱うべきであるにもかかわらず、貸付債権等一覧表の記載から漏れていたことが判明した場合、確認の内容に変更があったものとして、確認事業者において、変更の申請を行い、指定確認調査機関から再度の確認を受ける必要があります(法4条1項本文)。
この場合の手続の進行について、対象債権者への手続保障に反しない範囲で、早期の事業再生を進めるため、手続上の負担を軽減する手当て等、バランスの取れた対応が可能となるよう、今後適切に検討していくこととされています。
(4) 確認の取消しに係る例外規定
指定確認調査機関による確認後、指定確認調査機関から全ての対象債権者に対し、債権回収等の一時停止の要請がなされ、確認事業者は当該要請から認可決定確定までの間、弁済をすることができず(法6条2項)、これに違反して弁済がされた場合、確認を取り消さなければなりません(法5条1項5号本文)。もっとも、「弁済を行うことについてやむを得ない事由があるものとして経済産業省令で定める場合」は確認の取消しの要件から除外されています(同号但書)。
この要件について、省令で事務上の誤りによる場合と規定した上、具体的な事例は実態に則して臨機応変に対応できるよう、Q&Aで「自動振り込みや引き落としの解除漏れ」「事務スタッフの振り込み誤り」等と明確化することが提案されています。
3. 一時停止要請
(1) 一時停止要請の対象
指定確認調査機関は、確認後、速やかに全ての対象債権者に対し、早期事業再生手続終了までの間「対象債権の回収その他経済産業省令で定める債権者としての権利の行使」をしないことを要請しなければならないとされています(法6条1項前段)。この一時停止要請の対象となる行為の範囲について、事業再生ADRの実務を踏まえ、以下のとおり、省令で規定し、Q&Aで明確化することが提案されています。
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法/提案されている省令の定め
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提案されているQ&Aでの明確化の内容
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対象債権の回収(法)
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一時停止通知到達時における「与信残高」の減額(元本の回収や当座貸越等における与信枠の減額)
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弁済の請求・受領
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相殺権の行使等の債務消滅に関する行為
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担保の実行、強制執行又は仮差押え・仮処分の申立て
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担保の取得・対抗要件の具備(省令)
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担保の提供の要求・受入れ
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対抗要件具備には仮登記から本登記への変更を含む
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担保には人的担保を含む
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破産手続開始・再生手続開始・会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始若しくは特別清算開始の申立て(省令)
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(2) 一時停止要請の「支払の停止」・期限の利益喪失事由の該当性
一時停止要請について、対象債権者全員が同意している場合だけでなく、一部の対象債権者から異議が述べられている場合であっても、原則として「支払の停止」には該当しない旨の考え方をQ&Aに示すことが提案されています。また、一時停止要請は期限の利益喪失事由には当然に該当せず、要請の発出を契機とする期限の利益喪失通知は行わないことが求められるという考え方をQ&Aで示すことが提案されています。
(3) 一時停止要請を理由とする預金拘束
対象債権者へ一時停止要請が行われた場合、確認事業者の預金を有する一部の対象債権者において、相殺に至らずとも、本手続が完了するまでの間、預金の払戻しに応じない(預金を拘束する)ことも想定されます。この点について、対象債権者においては、一時停止要請について同意しているか否かにかかわらず、安易に取引口座等の停止をしないことが求められる旨のQ&Aを示すことが提案されています。
4. 弁済禁止とその例外
確認事業者は、一時停止要請があったときから早期事業再生手続終了までの間、対象債権の弁済はできないこととされていますが、「弁済をすることについて全ての対象債権者の同意を得た対象債権」及び「弁済しても他の対象債権者を害するおそれがない対象債権として経済産業省令で定めるもの」に係る債務については例外的に弁済できるとされています(法6条2項但書)。「経済産業省令で定めるもの」として、①利息(約定利息及び法定利息)、②担保付債権の保全部分(弁済が事業の再生に支障を及ぼさない場合に限る。)、③先行する私的整理におけるプレDIPファイナンスを省令に定めることが提案されており、少額の対象債権を追加すべきかは今後要検討とされています。
5. 対象債権者会議
事業再生ADR実務を踏まえ、確認事業者に、権利変更議案の決議を行う対象債権者集会の前に以下の対象債権者会議を開催するよう求める(ただし、権利変更議案及び早期事業再生計画に相当する内容の協議をしていた場合には対象債権者会議の開催を要しない。)ことが提案されています。
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開催時期
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議題
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第1回対象債権者会議
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一時停止要請後2週間以内の日
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確認事業者からの資産及び負債の状況、権利変更の方針等についての説明、質疑
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第2回対象債権者会議
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指定確認調査機関からの調査結果報告後
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確認事業者からの権利変更議案・早期事業再生計画等についての説明、指定確認調査機関による調査報告、質疑
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6. 従業員から協力を得るための措置
早期事業再生計画には、確認事業者における今後の事業に関する事項を記載する必要がありますが、従業員の当該事業活動への協力の見込みに関する事項として省令で定めるものを含むとされています(法14条3項6号)。また、早期事業再生法案に対する国会における附帯決議において、早期の事業再生の実現のために従業員の理解や協力を得ることの重要性が指摘されています。
これを受けて、早期事業再生計画に、合併、会社分割、事業譲渡、事業縮小、事業所の閉鎖により雇用者数の減少や賃金の減額が生じる見込みがあることを記載する場合、従業員から協力を得るための措置として、労働組合等※4への通知等に関して以下の事項を定めることが提案されています。
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確認事業者は、労働組合等に対し、指定確認調査機関に早期事業再生計画を提出する2週間前までに、その旨※5を通知する(通知が必要な場合に通知をしなかった場合には確認の取消しとなる。)。
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早期事業再生計画に労働組合等との協議の結果又は協議を行う予定の時期(対象債権者集会の決議までの間)を記載する。
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労働組合等との協議等を通じて、労働者の理解と協力を得るよう努める。
早期事業再生計画提出の2週間前の労働組合等に対する通知は、従前の私的整理の実務ではなかった手続であり、実務上注意が必要な点です。特に、スポンサーに対して事業承継する場合には、確認事業者側では承継後の労働条件について分からないこともあり、実際にスポンサー側でもこの時点では労働条件について決定していないことも多いため、「見込み」という要件をどのように解釈するのかが(通知を怠った場合には確認の取消しとなるためより一層)実務上重要になってくると思われます。
また、上場会社の私的整理においては、スポンサーとの契約締結又は一定の合意成立と同日に早期事業再生計画を提出して適時開示をすることがあり、その2週間前には、未だスポンサーと合意に至っていないことがあります。そのため、スポンサー交渉への悪影響のおそれや、インサイダー規制上の問題にも留意しながら、労働組合等への通知の要否及び内容を検討することが重要になると思われます。
7. 資産評定
確認事業者は、早期事業再生計画提出時に、省令に定める基準に従って資産・負債を評定した結果を添付する必要があるところ(法14条4項)、事業再生ADRの実務と比較しつつ、以下の基準が提案されています。
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早期事業再生法
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事業再生ADR
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債務減免を伴う場合
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原則として時価
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原則として時価
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債務減免を伴わない場合(リスケ等)
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一般に公正妥当と認められる企業会計基準に準拠して評定可
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法令上不要
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評価基準日
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法3条の確認の1年前~早期事業再生計画等提出時までの日
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適切な基準日
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このように早期事業再生法では全ての場合において資産評定を求めていますが、債務減免を伴う場合は事業再生ADRと同様の基準としつつ、リスケ等のみの場合には、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して評定することも許容されています※6。また、確認事業者における資産評定の負担を考慮して、直近の決算に基づいて算定することを可能とするため、評価基準日も法3条の確認の1年前から許容されています。
なお、早期事業再生手続上、権利変更の対象は非保全部分に限定されており、対象債権者は非保全部分についてのみ権利変更議案の議決権を有します(法19条3項)。また、保全部分・非保全部分の区分けをして担保権者への弁済額を確定させる必要があります。これらの議決権額の算定及び担保権者への弁済額確定のための担保目的物の評価基準日は、対象債権の範囲が確定する時期に合わせて、法3条の確認時とすることが提案されています。
8. 権利変更議案・早期事業再生計画
(1) 早期事業再生計画等の提出期限
早期事業再生計画等の指定確認調査機関への提出は、法3条の確認後6か月以内と定められていますが、省令で定める「やむを得ない事由」がある場合は6か月以内に限り(すなわち、確認後1年以内まで)延長することができます(法14条1項、2項)。ここでいう「やむを得ない事由」について、以下のとおり提案されています。
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対象債権者が20者以上であるとき
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本店又は主たる営業所若しくは事務所が外国に所在する対象債権者があるとき
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事業の継続に欠くことのできない資産・取引の維持又は資金の調達に係る調整が整わないとき(例えば、スポンサー候補の選定、調整が難航している場合等)
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災害その他特別の事情があるとき
(2) 早期事業再生計画の記載事項
早期事業再生計画には、法14条3項各号に掲げる事項を記載しなければならないと定められているところ、従業員の事業活動への協力、技術と人材の散逸回避の見込みに関する事項を含めて、その一部は省令で定めることが求められています。指定確認調査機関の調査を十分に行う観点から、省令には以下を定めることが提案されています。
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(合併、会社分割、事業譲渡、事業の縮小又は事業所の廃止が見込まれる旨を含む場合)
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労働組合等との協議結果又は協議を行う予定の時期(権利変更議案を決議するための対象債権者集会の日までの間に限る。)
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確認事業者から労働組合等に対する通知の年月日、内容並びに当該通知の対象となる労働組合等の名称又は氏名
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早期での事業再生を図るため実施しようとする今後の事業活動に伴う確認事業者に係る技術及び人材の逸材の回避の見込み
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対象債権者集会における議決権行使の額
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自己資本の充実のための措置
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(資金の調達を行う場合)調達方法及び当該調達方法を選択した理由
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(手続外で、保全部分に関し、リスケ等の権利変更を行う場合)当該権利の変更内容又は見込まれる当該変更の内容、及び担保権を有する債権者との協議状況
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(対象債権以外の社債に係る権利の変更を行う場合)当該権利の変更の内容又は見込まれる当該変更の内容
(3) 指定確認調査機関の調査の内容
指定確認調査機関が早期事業再生計画の内容を調査する際の基準は、省令で定められるところ(法15条1項5号)、事業再生ADRにおける確認事項を踏まえつつ、以下の提案がされています。ただし、事業再生ADRで債務減免を伴う場合に求められていた、債権者全員の同意を得た場合の事業再生計画の公表や、債権者全員の同意を得られなかった場合(又は債権者全員の同意を得た事業再生計画に基づいて債務を弁済できない場合)の特定調停又は法的整理への移行は求められていません。
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早期事業再生計画に記載すべき事項(法14条3項各号)が記載されていること
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早期事業再生計画が遂行される見込みがないことが明らかでないこと(実現可能性)
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法14条3項5号に掲げる事項について、次の各号に掲げる要件を満たしていること(数値要件)
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債務超過の状態にあるときは、権利変更決議の効力が生ずる日後最初に到来する事業年度開始の日から原則として3年以内に債務超過の状態にないこと
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経常損失が生じているときは、権利変更決議の効力が生ずる日後最初に到来する事業年度開始の日から原則として3年以内に黒字になること
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対象債権者の議決権の額が法19条の規定に適合するものであること
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対象債権者及び指定確認調査機関に、少なくとも6か月に1度、早期事業再生計画の進捗状況の報告を行うこととすること(事業再生計画の進捗報告)
(権利変更議案に債務の減免を伴う場合)
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過剰設備又は遊休資産の処分、不採算部門の整理又は撤退等、債務者の自助努力を伴うものであること(自助努力)
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債務減免等の対象となる対象債権者が、二以上の金融機関等又は一以上の政府関係金融機関等であること(債権者数)
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株主の権利の全部又は一部の消滅(事業再生に著しい支障を来すおそれがある場合を除く。)について定められていること(株主責任)
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役員の退任(事業再生に著しい支障を来すおそれがある場合を除く。)について定められていること(経営責任)
(4) グループでの事業再生
同一グループの複数社が早期事業再生手続を利用する場合、債権放棄等の金融支援額の確定、弁済の配分率の確定、弁済原資の割当てについて、単体ベースでの清算価値保障に適合する限り※7、連結・単体いずれを選択することも許容され得ることが示されています。この点は、従来の私的整理の実務を踏襲するものであり、グループでの事業再生を促進する上で、実務上重要な意義を有するものといえます。
9. 対象債権者集会までの手続
確認事業者が対象債権者集会の招集通知を発出する時期を対象債権者集会の2週間前までとすることが提案されています。その他、招集時に定めて通知する事項や、議決権行使書面の記載事項、議決権の不統一行使を行う場合の通知期限についても提案されています。
10. 議決権の額の算定
対象債権者の議決権額の算定は法19条で定められているところ、権利変更の対象となる特定の債権の評価時点(法3条の確認時点。外貨建債権の為替レートも同様)、評価方法(債権発生・条件成就等していない債権は原則として議決権はゼロであることをQ&Aで公表)について提案されています。
早期事業再⽣法における特例
1. プレDIPファイナンス
指定確認調査機関の確認後に行われる資金の借入れ(プレDIPファイナンス)について、確認事業者は、指定確認調査機関に対して、当該借入れが事業者の事業の継続に欠くことができないものとして省令で定める基準に適合するものであることの確認を求めることができます(法69条1項)。そして、同項の省令で定める基準を、資金の借入れが、「事業者の資金繰りのために合理的に必要であると認められるもの」とすることが提案されています。なお、プレDIPファイナンスの実⾏可能性が⾼まり、結果として資⾦繰りに寄与すると考えられるため、弁済時期に係る要件(資⾦の償還期限が、債権者全員の合意の成⽴が⾒込まれる⽇以外に到来すること)は不要とすることが提案されています。
2. 社債の減額
会社法上、社債の全部又は一部の減額を行うための社債権者集会の決議が効力を生じるためには裁判所の認可が必要です(会社法734条1項)。指定確認調査機関により、当該減額が確認事業者の事業再生に欠くことができないものとして省令で定める基準に適合するものであることが確認されている(法67条1項)場合、裁判所は、これを考慮した上で、会社法733条4号の不認可事由(決議が社債権者の一般の利益に反するとき)に該当するか否かを判断することとされているところ(法68条)、省令で定める基準を以下の基準とすることが提案されています。
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当該減額の⽬的が、当該減額に係る確認を求めた確認事業者の事業再⽣のために合理的に必要となる償還すべき社債の⾦額についての減額を⾏うものであること
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当該減額に係る確認を求めた事業者を当該確認時点で清算した場合の当該社債の償還すべき⾦額を、当該減額を⾏った場合の当該社債の償還すべき⾦額が下回らないと⾒込まれること等、当該減額が、当該社債の社債権者にとって経済的合理性を有すると⾒込まれるものであること
最後に
今後、WGの第4回以降において関係団体も参加して中間整理について審議が継続されます。取りまとめられた省令案等は、その後、パブリックコメントに付され、法が施行される2026年12月中旬までに省令及び告示が公布され、併せてQ&Aも公表される予定です。
早期事業再生法の施行まで1年を切りました。制度の詳細や運用が徐々に明らかになるにつれ、事業再生の選択肢の一つとして早期事業再生手続の利用を実際に検討する企業や金融機関が増えてくることが予想されます。今後も、その検討に資する情報提供を続けていきます。
脚注一覧
※1
弊事務所の山本和彦弁護士が座長、鐘ヶ江洋祐弁護士が委員を務めています。
※3
会社分割、事業の縮小等により雇用の減少又は賃金の減額(労働関係の変更)が生じる見込みがある旨を早期事業再生計画に記載する場合
※4
労働組合等とは、確認事業者の使用人の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、確認事業者の使用人の過半数で組織する労働組合がないときは、確認事業者の使用人の過半数を代表する者をいいます。
※5
労働組合等への通知内容は、雇用者数の減少や賃金の減額(労働関係変更)が見込まれている旨、見込まれている労働関係変更の内容、早期事業再生手続のスケジュールの見込みとされています。
※6
準拠とした趣旨として、会計基準に完全に一致する必要があるとすると、厳密には監査が必要となってしまうため、大きく逸脱しない程度と解すべきである旨の意見がなされています。
※7
また、議決権の行使は単体ベースで実施されることが整合的であり、この点を明確にすることが説明されております。加えて、債務免除益の損益算入等(企業再生税制)を適用する場合は、単体ベースでの清算貸借対照表と、これに基づく債権放棄額の算出が必要になると説明がなされています。