はじめに
令和7年9月24日、知的財産高等裁判所(知財高裁)は、連作小説「木枯し紋次郎」に登場するキャラクターに関する著作権侵害の成否及び不正競争該当性が争われた事件の控訴審判決※1(以下「本判決」といいます。)において、原作者側(原告・控訴人)の請求を棄却した原判決※2を取り消し、被控訴人(被告)による著作権(翻案権及び公衆送信権)侵害を認め、その商品の製造等の差止め及び損害賠償請求を一部(合計で約5600万円)認容しました。
本件は、小説(言語の著作物)の登場人物である「キャラクター」について、当該小説の著作権者から、無断でその図柄を利用したとされる商品の第三者による製造販売行為に対し、著作権法及び不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)に基づき差止等が請求された事案です。
我が国においては、具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念としての「キャラクター」について著作物性を否定した最高裁判例(最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁〔ポパイネクタイ事件〕)が存在するなか、小説等に登場するキャラクターは、抽象的な概念にとどまることが一般的であるため、具体的表現とされている漫画等のキャラクターの図柄等(絵画的表現)と比べると、その保護が容易ではないと考えられてきたところ、本判決は小説に登場するキャラクターの保護について、原判決とは異なり、著作権法28条を介して原著作権者による著作権法に基づく請求を知財高裁が認めたという点において注目されます。
本ニュースレターでは、この「木枯し紋次郎事件」控訴審判決について紹介し、著作権侵害に関する判断手法並びに不競法による保護の成否について、原判決に言及しつつ検討します。
事案の概要
1. 当事者、本件小説及び被控訴人図柄等
控訴人らは、故・笹沢佐保氏(以下「本件原作者」といいます。)が執筆した渡世人を主人公とする小説「木枯し紋次郎」シリーズ(以下「本件小説」といいます。)の著作権を相続により承継した本件原作者の孫ら及び本件小説の著作権の独占的利用許諾を受けた著作権管理会社です。
本件原作者は、昭和46年(1971年)から、雑誌「小説現代」において本件小説の連載を開始しました。本件小説の主人公「紋次郎」は、渡世人である男性であり、竹を削って両端をとがらせた楊枝(長さが約5寸(15センチメートル)以上あるもの)をくわえていて、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、長脇差を携えていて、俗称として「木枯し紋次郎」と呼ばれている者として描写されていました。
本件小説は昭和47年(1972年)にテレビドラマ化され、連続ドラマ「木枯し紋次郎」(以下「本件テレビ作品」といいます。)は高い視聴率を獲得し、続編となるシリーズも放映され、「あっしにはかかわりのないことでござんす」という台詞が流行語になりました。本件テレビ作品に登場する紋次郎も、本件小説と同様に三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に長い楊枝をくわえ、長脇差を携えた者として描かれていました。
本件テレビ作品に登場する紋次郎の容姿(本判決別紙4より引用。判決要旨1.(2)の「本件画像」)
被控訴人は、昭和47年(1972年)6月25日(本件テレビ作品の放映終了直後)より、甘辛く煮たするめいかの足を竹の串に刺した食品を複数本容器に入れた商品である「紋次郎いか」などの珍味に属する菓子類(その後に販売された同様の商品と併せて、以下「被控訴人商品」といいます。)を製造販売している会社です。
被控訴人商品は、そのラベルに、以下のように、三度笠をかぶり、縦縞の道中合羽を身に着け、口に長い棒状のもの(楊枝)をくわえ、長脇差を携えた人物が走っている姿を描いた図柄(以下「被控訴人図柄」といいます。)を付していました。被控訴人は、自社のウェブサイトにも当該商品の画像を掲載していました。なお、被控訴人のウェブサイトには、「紋次郎いかの由来」として、「昭和47年(1972年)6月25日 するめ足に串を刺した醤油味の珍味が誕生しやした。名前の由来は、その頃テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによるようでござんす。」との文章を掲載していたことがありました。
被控訴人商品のうち「紋次郎いか」(本判決別紙1より引用)
被控訴人図柄(本判決別紙2より引用)
2. 原判決
控訴人らは、令和5年3月、被控訴人による被控訴人図柄の使用及び商品画像の掲載行為が、本件小説又は本件テレビ作品等に係る著作権(翻案権、公衆送信権等)を侵害するとともに、不競法2条1項1号又は2号に規定される不正競争(周知商品等表示の混同惹起行為、著名商品等表示の冒用行為)に該当するとして、被控訴人商品の製造販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めて提訴しました。
原判決は、原告らの請求をいずれも棄却しました。
その理由として、原判決は、まず著作権侵害に関し、ポパイネクタイ事件最高裁判決を引用しつつ、連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、侵害された著作物を具体的に特定する必要があるとしました。その上で、原告らは、侵害を主張する著作物として①通常より大きい三度笠、②通常より長い道中合羽、③長い楊枝及び④長脇差、という特徴を備えた人物像(以下「本件渡世人」といいます。)を特定するにとどまり、連載小説中のどの回の文章表現であるかなど、侵害された著作物を具体的に特定していないから主張自体失当であるとしました。
さらに原判決は、念のためとして、上記①ないし④の特徴について、文章表現はもとより、仮に、本件渡世人に対しその後本件テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立っても、「全体として、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると認めることはできない」として、複製権及び翻案権侵害を否定しました。
また、不競法違反についても、控訴人らの主張する上記①ないし④の特徴を備えた表示は「商品等表示」に該当しないなどとして、これを退けました(詳細は後述。)。
控訴人らは、これを不服として控訴しました。
判決要旨
本判決(知財高裁)は、原判決を取り消し、控訴人らの請求を一部認容しました。その主要な判断は以下のとおりです。
1. 著作権侵害について
控訴審においては、本件小説中の文章表現についての著作権侵害の問題とした原判決と異なり、本件小説を原作とする二次的著作物としての本件テレビ作品について、その原著作物の著作者が有する著作権(著作権法28条)の侵害について判断するという手法が採用されています。
(1) 侵害主張の根拠となる著作権について(著作権法28条の適用)
本判決は、まず、本件テレビ作品は本件小説を原作として制作されたものであり、「本件小説を原著作物とする二次的著作物である」と認定しました。その上で、キャンディ・キャンディ事件最判(平成13年10月25日集民203号285頁)を参照し、原著作物の著作者は、「二次的著作物である本件テレビ作品の利用に関し、本件テレビ作品の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有し(著作権法28条)」、本件テレビ作品については原作者の権利と二次的著作物の著作者の権利とが「併存する」としました。これにより、控訴人らは、二次的著作物である本件テレビ作品の原作の著作権者として、本件テレビ作品についての著作権(翻案権、公衆送信権等)を有していると判断しました。そして、当該著作権についての侵害を検討していきます。
(2) 翻案の成否について
本判決は、主人公である紋次郎が登場し、その姿が具体的に示されている、本件テレビ作品の第1話の一場面の画像(上記「事案の概要」1.で引用したもので、以下「本件画像」といいます。)に着目しました。本件テレビ作品の主人公である紋次郎は本件画像に示されたのと同じ装いをして、その特徴をすべて兼ね備えた紋次郎の画像が、すべての本件テレビ作品に表現されていると述べ、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであるとした上で、本件テレビ作品が本件小説の二次的著作物であることから、本件画像も、本件小説の二次的著作物であるとしました。
本件画像に描かれた紋次郎について、本判決は、以下の4つの特徴を全て備えるものとして表現されているとしました。
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通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、
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通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、
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細長い楊枝をくわえ、
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長脇差を携えている
その上で、本件テレビ作品の放映前に「①ないし④の表現上の特徴を全て兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等が存在していたとは認められ」ない(小説についても同様)ことから、「①ないし④の表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点」が、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質的な特徴をなすものとしました。
これを踏まえて、本判決は、江差追分事件最判(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁)が示した基準を引用しつつ、被控訴人図柄について、本件画像の「表現上の本質的な特徴」をなす、上記①ないし④の表現上の特徴をすべて感得することができるとし、結論として、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の本件画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり、被控訴人図柄に接する者が本件テレビ作品の本件画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件画像の翻案であると判断しました。
したがって、本判決は、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造する行為は本件テレビ作品についての翻案権(著作権法27条)を侵害し、かかる被控訴人商品の写真をウェブサイトに掲載する行為は本件テレビ作品についての公衆送信権(同法23条1項)を侵害するものと認定しました。
2. 不正競争防止法違反について(請求棄却)
本判決は、不競法に基づく請求については原判決と同様に棄却しました。
控訴人らは、上記①ないし④の特徴を備えた紋次郎の「図柄又は写真」に「紋次郎」という「語を付した表示」が、控訴人らの著名又は周知な「商品等表示」に当たると主張しました。
しかし、本判決は、本件小説については、その主人公である紋次郎が一定の特徴を有する人物として文字で表現されているとしても、これが紋次郎の図柄であるとはいえないし、本件小説において紋次郎の描写とともに「紋次郎」の文字が一体として表示されているとも認められないとし、漫画、テレビ作品、映画等のいずれにおいても、「木枯し紋次郎」という題号が表示されることはあっても、主人公(紋次郎)が登場する場面で「紋次郎」の文字が図柄と一体として表示されているものではないと指摘しました。その上で、本件小説等において「特定の主体の商品又は営業を表示するものとして」、控訴人らが主張するような「本件紋次郎の図柄又は写真に『紋次郎』という語を付した表示を具体的に特定することはできず、そのようなものが『商品等表示』として存在するとは認められない」として、不競法違反の主張を退けました。
検討
近年、日本政府が、キャラクターが誕生してからの累積収入ランキングにおいて、世界のTOP25の約半分に日本発コンテンツがランクインしているという資料を公表※3するなど、我が国においても、キャラクターの法的保護は極めて重要な問題となっている。
そのような状況下で、本判決は、小説に登場するキャラクターの著作権法に基づく法的保護という実務上重要な論点について、知財高裁が原審と異なる判断手法を採用するなどして、キャラクターを用いた図柄の使用に対して、一定の範囲で著作権侵害を認めた知財高裁の裁判例として重要です。以下、本判決の主要な法的論点と実務上の留意点について検討します。
1. 著作権法28条の解釈とキャラクターの表現物の保護について
本判決の特徴の一つとして、原作小説が映像化されている場合には、著作権法28条を介することにより、小説等に登場するキャラクターの図柄について、原作小説の著作権者が著作権法による保護を求めることができる可能性が示された点が挙げられます。すなわち、本判決は、本件テレビ作品の一場面である本件画像を、本件小説を原作とする二次的著作物と認定し、原著作者が著作権法28条に基づき、その二次的著作物についても権利を有するという構成を採用することで、原著作権者の保有する著作権の侵害を肯定しました。
著作権法28条は、二次的著作物の利用に関し、原著作物の著作者が二次的著作物の著作権者と「同一の種類の権利」を専有すると定めています。同条の保護範囲について判断したキャンディ・キャンディ事件最判は、ストーリーを担当する漫画原作者と絵を担当する漫画家との分業によって制作された漫画作品の特定のコマの絵、表紙絵等を漫画家が漫画原作者に無断で利用したという事案において、侵害が問題となった当該コマ絵等に漫画原作者の創作した部分が表れているか否かを特に問題とすることなく、二次的著作物である当該漫画の利用に関して、漫画家(二次的著作物の著作権者)の権利と漫画原作者(原著作物の著作者)の権利が「併存する」と判示しました。また、関連事件における地裁判決(東京地裁平成12年12⽉26⽇)は、「原著作物の著作者は、⼆次的著作物の⼀部の利⽤に関しても、それが原著作物の内容を覚知できる部分かどうかにかかわらず、⼆次的著作物の著作者と同様の権利を有するものである。」と判示しています。これらの判示内容を踏まえて、同最判は、二次的著作物の著作者によって「新たに付加された創作的部分」についても、無条件で原著作物の著作者の権利が及ぶことを認めたものと解されています※4。
このような解釈に対しては、学説上、「原著作物の創作的表現が現れていない部分にまで原作者の権利が及ぶのは、著作者の権利は自ら創作した部分にのみ及ぶという著作権法の原則に反する」といった強い批判があり※5、また、キャンディ・キャンディ事件最判においては、漫画原作者と漫画家の間で緊密な協力関係があり、共同著作物に近い実態があったという事案の特殊性によるもので、その射程は一般的な小説と映像化のような事案には及ばないのではないかという見解(射程限定説)も存在します※6。
本件は、本判決が表現の本質的特徴の中核とした特徴①「(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも)大きな三度笠」や特徴②「(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも)長く」「縦縞模様の」道中合羽は、原著作物である本件小説の文章表現には見られない部分が含まれるにもかかわらず、本件画像を本件小説の二次的著作物であると認めた上で、キャンディ・キャンディ事件最判を参照し、本件画像全体に原作者の権利が及ぶと認定しました。
本判決の意義の一つとしては、キャンディ・キャンディ事件最判の射程について、漫画原作者と漫画家の間で緊密な協力関係があるなど共同著作物に近い実態のある事案に限定されず、そのような実態がない原作小説のテレビドラマ化や映画化のような一般的な映像化の事案にも及ぶことを示唆している点にあると考えられます。
2. 翻案権侵害の判断手法について
原判決は、仮に本件画像が著作物として特定されているとしても、その特徴である①三度笠、②道中合羽、④長脇差といった要素それぞれを「ありふれた事実」とし、③口に長い竹の楊枝をくわえるという部分もアイデアであるとして創作性を否定しました。表現は、個々の要素を取り出して細かく分析的に見ていくと、どうしてもありふれた表現であるとか、アイデアに過ぎないと判断されやすくなるところ※7、本判決は、各要素を取り出して個別に観察するのではなく、上記①ないし④の4つの特徴的要素を「すべて兼ね備えるという点」、すなわち特徴的要素が複数組み合わせられて具体的な表現といえるものになっているかに着目し、それをキャラクターに関する表現物である本件画像において、創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質的な特徴をなすものであると認定しました。その結果、上記のとおり、同様にこの組み合わせを直接感得させる被控訴人図柄は、本件画像の翻案であると判断しました。
このような判断アプローチが採用される場合、例えば、キャラクターの表現物について、表現形式が変わって第三者に利用されている場合でも、両者が同一キャラクターであると認識できる程度に具体的な表現要素の組み合わせによって表現上の本質的特徴が表現されている場合には、翻案権侵害を問うことができ、キャラクターの表現物について保護を及ぼすことができるように思われます。
3. 不正競争防止法に基づく主張について
本判決は、著作権侵害を認める一方で、不競法上の「商品等表示」としての保護は否定しました。結論は原判決と同一ですが、その理由は「①ないし④の特徴を備えた紋次郎の図柄又は写真に『紋次郎』という語を付した表示(以下「本件表示」といいます。)が使用されていない」というものです。具体的には、(文章表現である)本件小説において紋次郎の描写とともに「紋次郎」の文字が一体として表示されているとは認められず、また、テレビ作品においても、紋次郎が登場する場面において「紋次郎」の文字が表示されているものでもないと指摘し、さらに、「木枯し紋次郎」という文字は、小説やテレビ作品を識別する題号を表示するにとどまるとしています。
また、原判決は、以下のとおり判示して、本件表示は商品等表示には当たらないと判断しています。
一般に『紋次郎』という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクターに関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するものではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠を踏まえても、明らかに認めるに足りない。
キャラクターの法的保護に関しては、一般に、(キャラクターが有している顧客吸引力の保護が求められている場面を念頭に)著作権法よりも「不正競争防止法的」な保護のほうがキャラクターの実態に即した保護を与えることができるという指摘があります※8。さらに、著作権法と不競法に基づく主張がそれぞれなされた際に、不競法に基づく主張についてだけ判断をして(著作権に基づく主張については判断をせずに)キャラクターの利用に関する法的保護を認めた著名な裁判例にはマリカー事件※9があります。
それにもかかわらず、本件では、著作権法に基づく主張を認めた一方で、不競法に基づく主張を退けました。その理由を考えてみると、図柄に加えてキャラクター名称を商品等表示の構成要素として主張したことが影響しているように思われます。
この点について、本件では、被控訴人商品のラベルに、キャラクターの図柄に加えて、商品名「紋次郎いか」の一部として「紋次郎」の文言が含まれていたために、控訴人は、紋次郎の図柄又は写真に『紋次郎』という語を付した表示として商品等表示を主張するほうが周知性・著名性の要件の立証が容易になると考えたのかもしれません。しかし、原判決や本判決を踏まえると、キャラクターの図柄に加えてキャラクター名称を含めたものを商品等表示であると主張することにはリスクがあると考えられます。
4. 本判決を踏まえた実務上の留意点について
キャラクターの利活用を巡る状況は、近年、多様化が進むなど大きく変化しており、たとえ表現手段や著作物の種類が異なって用いられていても同じキャラクターであると人々が認識できる特徴的な要素が重要であり、それらを通じて当該キャラクターに関して形成される共通のイメージの保護が重要になってきています※10。
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映像化の意義:上記1の著作権法28条に関する本判決の判示内容を踏まえると、⼩説等の文芸著作物に登場するキャラクターは、どれほど当該小説が著名になるかということよりも、原作のコミカライズ、アニメ化、実写映画化・テレビドラマ化などによって絵画的な表現を含む⼆次的著作物が創作され、当該キャラクターの画像を特定して主張できるようになると、著作権法28条を介して、原作小説の著作権者が著作権侵害を主張して、その保護を求めることができる範囲が広がり、権利が強化される可能性があると考えられます。したがって、小説等の著作権者にとっては、当該作品のキャラクターに関する権利保護や二次利用を考えていく際には、映像化等の意義をこれまで以上に、積極的かつ戦略的に検討する必要があることになります。
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二次利用に関する契約の重要性:原作小説の映像化等の二次的著作物を創作する際には、二次的著作物を創作する側が多額の投資や手間暇を掛ける場合や国際的なプラクティスとの関係で、二次的著作物の創作者と原作者の間で、権利の帰属・利活用の権限・収益分配、第三者への権利行使等の役割分担について、契約で予め定めておくことが通常です。上記①で指摘した点を踏まえると、我が国の著作権法の下では、著作権法28条がデフォルトで定める二次的著作物の著作権の帰属等について、今後は、本判決を踏まえて、その変更の要否も含めてしっかりと契約交渉を行い、契約を締結することが極めて重要となります。
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本判決を踏まえても、キャラクターの法的保護に際しては、今後も、著作権法に加えて不競法が重要な役割を果たし続けるように思われます。もっとも、本判決及び原判決においては、キャラクターの名称を商品等表示の一部として主張すると不競法上の請求が認められにくくなりうることが示唆されています。したがって、ある作品に登場するキャラクターに関してキャラクタービジネスを展開する場合、その商品等表示としてまず主張すべきは、典型的にはキャラクターの図柄であると考えられますが、当該キャラクターに関するどのような要素を商品等表示と主張するかという点が重要となります。また、不競法上の保護を求める場合、作品の登場人物としての名称(作品の題号(の一部)の場合を含む)としての周知性・著名性ではなく、あくまでも、ある営業主体が展開するキャラクタービジネスについて、戦略的に、顧客吸引力を獲得している商品等表示の周知性・著名性を主張立証する必要があります。したがって、それができるように、ビジネス展開と並行して、キャラクターのどのような要素を商品等表示とするのかを含めて、戦略的に予め備えておくことが大事になると思われます。
脚注一覧
※4
金子敏哉「判批」ジュリスト1243号144頁。
※5
中山信弘『著作権法〔第4版〕』p191-192(有斐閣、2023)等。
※6
愛知靖之「判批」田村善之ら『著作権判例百選〔第7版〕』(有斐閣、2025)。
※7
特徴としての要素のうち、そのサイズに大小や長短のバリエーションがありうる場合において、単に「大きい」や「長い」というだけでは、ありふれているとなりやすいところ、本判決は「通常のテレビドラマや映画等で用いられる」ものと比較した点も「ありふれている」という結論に至らなかった要因として注目すべきように思われます。
※10
松田俊治「新時代におけるキャラクターの法的保護」(コピライト742号)9頁