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Side-by-Sideパッケージ グローバル・ミニマム課税に関する新たなセーフハーバー
(2026年3月)
南繁樹
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Publication
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2026(令和8)年1月5日、OECDと包摂的枠組み(IF: Inclusive Framework)は、“Side-by-Side Package“(以下「SbSパッケージ」といいます。)を公表しました。SbSパッケージの最大の目的は、Pillar 2(以下「第2の柱」といいます。)と米国税制が“Side-by-Side”(共存)することを明確化することですが、この目的自体は2025(令和7)年6月28日に公表された「グローバル・ミニマム課税に関するG7声明」において、第2の柱の実施国が米国親会社グループの現地法人に対して所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)及び軽課税所得ルール(UTPR: Undertaxed Profits Rule)を免除する旨が表明されていたことでおおむね果たされており、SbSパッケージはそれを正当化したにすぎないと評価することが可能かもしれません※1。
日本企業にとって重要なのは、SbSパッケージに含まれている3種類のセーフハーバーです。これらは解散総選挙後の国会で審議・議決される2026(令和8)年度税制改正に含まれる旨が1月23日に閣議決定されています。特に、下記③は2026(令和8)年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される予定であり、3月決算会社の2027(令和9)年3月期、12月決算会社の2026(令和8)年12月期に適用が可能予定ですので、大いに注目に値します※2。
上記①「簡素な実効税率セーフハーバー」は、実効税率の計算において、第2の柱に関するモデル規則(以下「モデル規則」といいます。)に従った複雑な調整計算を不要とするものです。恒久的に適用されます。
上記②「移行期間CbCRセーフハーバー」は、すでに実施されている移行期間CbCRセーフハーバーについて1年間の延長を認めるものです。これにより、移転価格税制のためのCbCR(国別報告事項)に記載された数値に基づく簡素な計算によって、モデル規則に従った複雑な調整計算が不要となります。①と②は選択適用が可能です。
上記③「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」は、これまでのセーフハーバーとは性格が異なる新たなセーフハーバーです。これは各国の租税優遇措置について、給与額若しくは有形資産の減価償却費の5.5%、又は有形資産の帳簿価額の1%を上限として、対象租税額に含めるものです。つまり、租税優遇措置による税額減少をミニマム課税の対象としないというものです。恒久的に適用されます。
グローバル・ミニマム課税の基準税率は15%ですが、この15%は分母を「個別計算所得金額」、分子を「対象租税額」とする「実効税率」によって計測されます。分母の「個別計算所得金額」は、経済的実質を反映し全世界共通の計算とするため、税法上の非課税所得を足し戻したり、ポートフォリオ株式以外の株式の譲渡損益や配当を除外したりするなどの調整を要します。分子の「対象租税額」についても、税効果会計に関する調整、CFC課税額の子会社への配分など、複雑な調整を要します。「簡素な実効税率セーフハーバー」においては、これらの計算が簡素化され、事務負担が軽減されます。
「簡素な実効税率セーフハーバー」においては、連結財務諸表の作成の基礎になるデータを使用することとされており、かつ調整を要する項目が限定されています。このため、連結財務諸表の作成の基礎になるデータを使用しつつも、複雑な調整計算を要する原則的計算(モデル規則に規定される計算)と比較して簡素な計算で済みます。
「簡素な実効税率セーフハーバー」における分母としての「所得金額」は、連結財務諸表の基礎になるデータ上の、国別税引前純損益金額(JPBT: Jurisdictional Profit Before Tax)を出発点として、以下の項目を調整します。
原則的計算では一般的な(業種等によらない)調整項目だけでも24項目ありますが(加算調整額は法人税法施行令155条の18第2項1~13号、減算調整額は同条第3項1~11号)、これが上記項目に限定されますので、大幅な簡素化といえます。
このほか、特定の業種(金融サービス業及び国際海運業)についての調整、資本項目(その他の包括利益等)に関する調整、M&Aに関する簡素化等に関する調整が定められています。
「簡素な実効税率セーフハーバー」における分子としての「対象租税額」は、連結財務諸表における当期税金費用及び繰延税金費用を出発点として、下記のような調整を要します。
対象租税額について、原則的計算においては税効果会計(繰延税金費用)の計算が非常に複雑です。「簡素な実効税率セーフハーバー」においても、繰延税金費用に使用する実効税率を連結財務諸表上の実効税率ではなく15%で再計算することは要求されますが、その他の繰延税金費用に関する計算は簡素化されています。このほか、簡素な計算によって所得金額と租税額のいずれもマイナスになった場合の調整が定められています。原則的計算における損失年度の調整は非常に複雑ですが、それと比較して簡素化されています。
本セーフハーバーは、2026(令和8)年12月31日以後に開始する対象会計年度において適用が可能です。
3月決算会社
2027(令和9)年4月~2028(令和10)年3月会計年度以後の会計年度
12月決算会社
2027(令和9)年1月~2027(令和9)年12月会計年度以後の会計年度
3月決算会社では2025年(令和7)年3月期、2026(令和8)年3月期及び2027(令和9)年3月期、12月決算会社では2025(令和7)年12月期、2026(令和8)年12月期に適用することはできません。
但し、一定の場合には、2025(令和7)年12月31日以後に開始する対象会計年度においても適用することができます。その国においてQDMTTセーフハーバーが適用される場合などであり、検討に値します。
「簡素な実効税率セーフハーバー」を適用するには、対象会計年度の直前2会計年度において上乗せ税額が発生していない国であることが条件とされています。但し、従前のセーフハーバーにおける継続適用、すなわち、一旦適用されない年度があると、それ以降の年度で適用できないルール(Once out, always out)は採用されておりません。このため、一旦上乗せ税額が発生した年度があっても、その次年度と次々年度において上乗せ税額が発生しなければ、その次年度は「簡素な実効税率セーフハーバー」を適用可能です。
移行期間(下記(2))においては、移転価格税制のためにすでに提出されている国別報告事項(CbCR)の情報による簡易な計算によって基準を充足する場合には、ミニマム課税が免除されるというものです。
移行期間CbCRセーフハーバーは、2027(令和9)年12月31日以前に開始し、2029(令和11)年6月30日までに終了する対象会計年度まで延長されました。この期間においては、上記1.の「簡素な実効税率セーフハーバー」と2.の「移行期間CbCRセーフハーバー」のいずれかを選択することができます。
移行期間CbCRセーフハーバーが適用される対象会計年度は、3月決算会社と12月決算会社については、以下のとおりです。
3月決算会社
12月決算会社
移行期間CbCRセーフハーバーは、ある国について以下の3つの基準のいずれかを充足する場合、その国の上乗せ税額をゼロとみなし、ミニマム課税を免除するものです。
第1基準:デミニマス(少額)要件
[収入金額<1,000万ユーロ] かつ [税引前当期純利益<100万ユーロ]
第2基準:簡易な実効税率要件
[簡易計算による実効税率] ≧ 15%(2023/2024年開始年度)~17%(2026/2027年開始年度)
第3基準:通常利益要件(実質ベースの所得除外額)
[給与額×(9.8%(2023/2024年開始年度)~毎年度0.2%減少)+ 有形固定資産額×(7.8%(2023/2024年開始年度)~毎年度0.2%減少)] ≧ 税引前利益
国別報告事項(CbCR)において、移転価格税制上は、①構成会社等の財務諸表、②最終親会社等の連結パッケージ及び③内部管理会計のデータのいずれかを使用することができますが、③は移転価格税制上のCbCRにおいては適格であっても、移行期間CbCRセーフハーバーのためには使用できません。なお、重要性の原則により連結の範囲から除かれる会社等においては、内部管理会計のデータを使用することができます。このほか、未実現の時価評価損失(子会社株式の減損損失等)の足し戻し、不確実な税金費用の足し戻し等の調整が必要であるほか、構成会社等から受領した配当を除外する等の調整が必要です。
「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」は、新たなセーフハーバーであり、かつこれまでのセーフハーバーとはコンセプトが異なっています。というのは、第2の柱は、各国の優遇税制に基づく租税優遇措置も税率を引き下げる「底辺への競争」を招くものとしてミニマム課税のターゲットとしていたにもかかわらず、「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」は租税優遇措置をミニマム課税の対象から除外するからです。その趣旨は、租税優遇措置は、実質のある投資や経済成長を促進するために有用であり、雇用又は有形資産という経済的実体(economic substance)があるゆえに、多国籍企業が租税優遇措置の恩恵を引き続き受けることを認めるとするものです。「実質ベースの所得除外額」は、給与や有形資産の額に基づいて所得ベースからの控除を認め、上乗せ税額を減少させるものでしたが、「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」はより直接的にミニマム課税からの除外を認める点において、ミニマム課税の理想からは後退しているとの見方も可能かもしれません。
「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」の対象となるのは「適格租税優遇措置(QTI: Qualified Tax Incentives)」であり、その租税優遇措置の額(租税の減免を受ける額)を分子の「対象租税額」に加算することができます。SbSパッケージ上の「適格租税優遇措置」は、我が国法人税法上は「税額控除制度等」と表現されるようです。
「適格租税優遇措置」は以下の2つのいずれかとされています。
支出・生産のいずれについても、租税減免の効力発生前に発生した支出・生産に基づく限りにおいて、「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」の対象になるとされています。つまり、現実に雇用や有形資産が現実化している限度においてのみセーフハーバーの対象となります。
実効税率の計算において対象租税額(分子)に加算する「適格租税優遇措置」の額は、以下のいずれか大きい額の5.5%を限度額とします。
上記の額に代えて、当該国に所在する適格有形資産の帳簿価額(Carrying Value)の1%を限度額とすることもできます。
「実質ベースの租税優遇措置に関するセーフハーバー」は2026(令和8)年1月1日以後に開始する対象会計年度において適用することができます。
3月決算会社
2026(令和8)年4月~2027(令和9)年3月会計年度以後の会計年度
12月決算会社
2026(令和8)年1月~2026(令和8)年12月会計年度以後の会計年度
3月決算会社においては2025年(令和7)年3月期及び2026(令和8)年3月期、12月決算会社においては、2025(令和7)年12月期に適用することはできません。
SbSパッケージにおいて、「適格SbS制度(Qualifid Side-by-Side Regime)」を有する国に本店を置く多国籍企業グループは、所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)や軽課税所得ルール(UTPR: Undertaxed Profit Rule)の課税を受けないことを選択することができます。そのような「適格SbS制度」を有する国ではグローバル・ミニマム課税と同等の課税制度を有するといえることが理由とされています。もっとも、実効税率の計算において、米国のミニマム課税(NCTI: Net CFC Tested Income)の採用する全世界単位での合算(global blending)が許容されており、国単位での計算(jurisdictional blending)にこだわったOECDとしては、米国の強硬姿勢に譲歩せざるをえなかったというのが実情と思われます。現時点では、以下のSbSセーフハーバーや最終親会社セーフハーバーの対象は米国に限られています。
なお、SbSセーフハーバーは、適格SbS制度を有しない国に最終親会社を置く多国籍企業グループに対する所得合算ルールと軽課税所得ルールの適用に影響を与えないとされています(パラグラフ8)。日本は適格SbS制度を有しませんので、日本の最終親会社の米国子会社の米国における実効税率が15%未満である場合、日本の最終親会社に対する所得合算ルールの適用は妨げられず、日本の最終親会社が法人税法82条以下によって課税を受けることに変わりはありません。
ある国の課税制度が「適格SbS制度(Qualifid Side-by-Side Regime)」であると認められた場合、その国に本店を置く多国籍企業グループは所得合算ルール(IIR)や軽課税所得ルール(UTPR)の課税を受けません。適格SbS制度の要件としては、「適格国内課税制度(eligible domestic tax system)」と「適格全世界課税制度(elibigle worldwide tax system)」を有することが中心になっています。
「適格国内課税制度」の要件は、法定名目法人税率が20%以上で、QDMTT(適格国内ミニマム税)又は法人代替ミニマム税を有し、実効税率が15%を下回る重要なリスクが存在しないこととされています。要は、国内所得への実効税率が、様々な優遇措置を考慮しても、15%以上であることが期待できる、ということです。
「適格全世界課税制度」とは、外国支店及び外国子会社の積極的所得及び消極的所得を、当該所得が分配されるか否かにかかわらず課税対象とし、特定の所得を除外することなく、BEPSリスクに対処するために自国単独で機能する実質的なメカニズムを組み込んでおり、外国事業全体の利益に対する実効税率が15%を下回る重要な(material)リスクがないこと、とされています。要は、外国所得への実効税率が、様々な優遇措置を考慮しても、すべての外国の合算ベースで15%以上であることが期待できる、ということです。
このほかQDMTT(適格国内ミニマム税)に関する税が外国税額控除の対象となることも要件とされています。現地国法人に対する所在地国のQDMTTによる課税が保護されることを意図していると思われます。
2025(令和7)年末に期限を迎えた移行期間UTPRセーフハーバーに代えて、2026(令和8)年1月1日以後に開始する対象会計年度において最終親会社セーフハーバーが適用可能になります。要件は、最終親会社(UPE: Ultimate Parent Entity)の所在地国が「適格最終親会社税制(Qualified UPE Regime)」を有していることです。この「適格最終親会社税制」の要件は、上記(2)の「適格国内課税制度」の要件を満たすことであるとされています。これも米国親会社グループが軽課税所得ルール(UTPR)の課税を受けないことが主たる目的であると思われます。
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