※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
はじめに
2025年10月7日、米国の連邦通信委員会(Federal Communications Commission、以下「FCC」といいます。)は、「21世紀における宇宙分野の近代化に関する規則案」(Space Modernization for the 21st Century NPRM※1、以下「本規則案」といいます。)を公表しました※2。
本規則案は、FCCに対する許可申請が大幅に増加し申請処理の負担が増加していること※3や、近時の大統領令※4において「新たな宇宙産業、宇宙探査能力、最先端防衛システムが敵対国ではなく米国で先駆的に開発されることを確保する」との表明がなされたこと等を踏まえて作成されたものであり、宇宙局(Space Station)※5及び地球局(Earth Station)※6の許可制度の近代化などが盛り込まれています。本規則案において提案されている近代化案は、現行の規則を廃止して新たな規則に置き換えるなど、制度全体にわたる抜本的かつ大規模な改革を内容とするものであり、今後の米国における宇宙局・地球局の申請や運用に対して極めて大きな影響を及ぼすものと思われます。
本ニュースレターでは、本規則案について、その概要を説明いたします。
本規則案の概要
1. 本規則案の主要目標※7
本規則案では、その主要目標として、①許可申請処理プロセスの迅速化、②許可申請者・許可保有者に対する予測可能性の向上、③イノベーション創出と許可保有者のオペレーション上の便宜のための柔軟性の向上、及び④FCCがその責務を誠実に果たすことが掲げられています。これらの目標は、いずれも修正1934年通信法(the Communications Act of 1934)がFCCに対して課しているマンデートから直接導かれるものであるとしています。
その上で、無線通信の許可は「公共の利便性、利益、または必要性」(public convenience, interest, or necessity)に資する場合に付与される※8ところ、本規則案では上記目標の達成のために、許可審査における「公共の利便性、利益、または必要性」に資するか否かの判断を、明確かつ限定された懸念事項、具体的には①有害な干渉(harmful interference)、②周波数の効率的利用(spectrum efficiency)、③宇宙における安全(space safety)、④外国資本による所有(foreign ownership)に焦点を当てて実施するとの考え方が示されています。
2. 本規則案が提示する三つの転換軸
本規則案では極めて多岐にわたる規制の見直し・変更が提案されていますが、FCCはそれらの提案の中心的コンセプトとして、①許可不要のイノベーション(permissionless innovation)を促進する審査プロセスの導入、②より効率的な処理のための申請書類の抜本的な見直し、③申請者及び許可保有者がシステムを設計・運用する際の自由度の拡大という三つの転換軸を提示しています※9。
その上で、本規則案ではかかる転換軸を具体化する形で、ⓐ推定許容基準(presumed acceptable criteria)の導入、ⓑ強化された申請制度(enhanced application design)の導入、ⓒ申請者及び許可保有者の自由度の向上について説明がなされています。
以下では、上記ⓐ~ⓒについて、その概要を説明いたします。
(1) ⓐ推定許容基準の導入※10
本規則案では、一般的にFCCが許容可能と推定するシステム特性(system features)を定めた基準(推定許容基準)を設定し、当該基準に適合する申請は原則として許可する方向で扱うという枠組みが提案されています。当該許容基準は、設計方法を基準として設定されるものではなく、性能指標・特性を基準として設定されるものであり、基準として定められた性能指標・特性の範囲内にあるシステムについては、原則として申請を許可する方向での取扱いがなされることとなります。FCCはこのアプローチにより、基準を満たす申請の迅速な審査を実現するとともに、基準を満たさない申請についても、基準に適合しない項目に審査の焦点を絞ることで効率的な審査が可能になるとしています。
さらに、上記アプローチに関連し、ファーストパス(expedited processing pathway)を設けることも提案されています。これは、当該申請が、①推定許容基準に適合し、②規制の免除(waiver)を求めておらず、かつ③ファーストパスの適用を除外する限定的な例外事由※11に該当しない場合には、7日間の公告※12後速やかに申請を承認するという仕組みです。FCCは、このファーストパスを活用するために、ファーストパスの対象となる部分と、要件を満たさないと想定される部分を分割して申請することを許容することも想定しているようです。また、仮に上記3要件を満たさない場合であっても、原則として許可の方向で取り扱うという上記基本姿勢は維持されるとされており、また③の例外事由の存在は必ずしも審査の長期化・遅延を意味するものではないとされています。
(2) ⓑ強化された申請制度の導入※13
本規則案では、FCC側の申請処理の枠組を変更するだけでなく、申請書類自体を見直すことで、申請制度を強化することも提案されています。具体的には、申請書類をモジュール化・標準化するとともに、認証を活用することで、申請処理速度の大幅な迅速化と申請者の負担を軽減することが企図されています※14。
この申請制度の下では、許可申請者は、周波数帯域、軌道特性(例えば、GSO、NGSOなど)及びサービス区分(例えば、固定衛星サービス(FSS)、移動衛星サービス(MSS)、テレメトリ・追跡・制御(TT&C)など)に応じて関連する申請モジュールを選択し、当該申請に必要な範囲の標準化された申請書類のみを作成することとなります。あわせて、当該申請書類の中で、許可申請者はFCCが定める明確な基準項目を満たすか否かを認証することとなります。当該認証の対象となる基準項目はシステムの類型に応じて設定され、基準を満たしている項目については定型的なシステム設計の情報を提出すれば足りる一方、基準を満たしていない項目については追加情報の提出が求められます。この「認証」により、FCC側は重点的に審査すべき項目を早い段階で特定でき、申請処理の効率化につながると説明されています。
さらに本規則案では、連絡先や所有・支配関係といった申請者の基本情報をFCC Form 312(Main Form)に集約する案が示されています。各許可申請を、基本情報を記載した当該フォームに紐付ける運用とすることで、申請者は申請の度に基本情報を繰り返し提出しなくてすむようになるとされています。
加えて、FCCが審査を行う際に解釈の手間を生じさせ、また申請者にも負担を生じさせる自由記述部分について、削除することが検討されています。
(3) ⓒ申請者及び許可保有者の自由度の拡大※15
本規則案においてFCCは、無害な活動にまで個別の承認を要求したり、システム設計を過度に詳細に規定したりすることは経済的に非効率であると指摘しています。その上で、事業者が市場で柔軟に運営・競争できるようにするため、差し障りのない活動に関する承認処理の負担を軽減するとともに、システム運用者が許可を取得した後も継続的にシステムを改善できるような柔軟性を確保するという方針を掲げています。
その上で、かかる柔軟性確保のための主要な提案要素として、➀通知(notification)・認証(certification)のみで対応できる許可変更(modification)の範囲を拡大すること、②申請者の計画・設計プロセスに合わせた条件付き認可(conditional grants、例えば打ち上げ前に将来の軌道上デブリに関する予測を提出することを条件とする認可など)制度を導入すること、③モジュール化された申請の分割提出を可能とすること、④通常より短い許可期間を申請者が選択できるようにすることが挙げられています。あわせて、⑤本来は処理ラウンドの対象とならない申請者であっても、一定の周波数帯について、必要に応じて新たな処理ラウンド方式に参加(opt-in)することで優先順位を得られるようにする一方、その対価として保証金(surety bond)を維持することが提案されています。また、⑥保証金が必要となる許可について、段階に応じて保証金が逓減していく方式を導入することが挙げられています。
さらに、柔軟性確保の一環として、従来のGSO(同期軌道)やNGSO(非同期軌道)といった枠組みに収まりにくい新領域の出現を踏まえ、可変軌道宇宙機システム(VTSS:Variable Trajectory Spacecraft System)といった新たなカテゴリーを創出することも提案されています。
3. その他本規則案における主要な提案事項
本規則案では上記の他にも以下のような事項が提案されています。
・規則体系のアップデート・用語の整理
現行の規則であるPart 25を廃止するとともに、新たにPart 100を創設してPart 25に置き換えることが提案されています。これは現行規則を大幅に改正して不要な混乱を招くよりも、いっそ新たな規則を設けた方が体系化・改善された枠組を提案できるためとされています※16。このPart 100は、A.総則、B.申請と許可、C.運用規則、D.コンプライアンスの4つのサブパートから構成することとされています※17。
また、近代化の一環として、用語の定義を明確化し、整理することも提案されています※18。
・地球局の許可方式のアップデート※19
現行制度上サイトごと(site-by-site)の取得が基本となっている地球局の許可について、全国非サイト方式(Nationwide, Non-Site License)の許可制度を導入することが提案されています。かかる方式では、まず許可を取得した上で、サイトを後から登録していくこととされています。
あわせて、固定設置型地球局(immovable earth station)という類型を設けることも提案されています。これは、全国非サイト方式または単一地点についての許可を受けた地上局で、単一の固定場所に設置され、運用前に登録及び調整が必須であるものとされています。
・マイルストーン制度の見直し※20
GSO及びNGSOについて設けられているマイルストーン制度の見直しも提示されています。
具体的には、GSOについて、許可付与後5年以内の打上げ・運用開始というマイルストーン制度を廃止するとともに、NGSOについてはマイルストーン制度を維持しつつITUのBIU(bringing-into-use)期間に合わせて再設計、より具体的には許可付与後7年以内に少なくとも1機を配備・90日連続運用し、付与後9年以内に許可を受けた衛星の10%を、12年以内に50%を、14年以内に残りの衛星を配備するというマイルストーンを設定することが提案されています。
・宇宙局に関する報告義務の見直し※21
FCCは、宇宙局に関する報告義務について、その範囲を効率的・安全・柔軟な運用環境に必要な範囲に絞ることを提案しています。
具体的には、緊急対応等のための連絡先について、これまでは年次の提出としていたものを、変更があった際に届け出る制度へ変更することや、宇宙局の運用者に対し、衛星のエフェメリス(ephemeris)データを宇宙状況把握(Space Situational Awareness)事業者に提出させること、NGSOについて半年単位での定期報告を行わせることなどが提案されています。
おわりに
本規則案は、2025年10月28日にFCCにおいて採択され、2026年1月20日にパブリックコメントの募集が終了し、現在当該コメントに対する返答コメントの受付が2026年2月18日まで行われています。かかるコメント手続等を経て、最終的な規則が策定・公表されることとなります。
上記のとおり、本規則案は現行の規制を大幅かつ抜本的に改革し現代化するものであって、米国における地球局・宇宙局の許可取得実務等に大きな影響をもたらすものであるとともに、日本の無線許可制度の今後の改正の参考になると思われるため、最終的にどのような規制となるのか、今後も注視が必要です。
脚注一覧
※1
Notice of Proposed Rule-Making
※3
本規則案内において、2016年には宇宙局124件・地上局974件であったFCCへの許可申請数が、2024年には宇宙局295件・地上局2684件にまで増加したことが指摘されています(本規則案 Paragraph 5(以下、特に注記の無い限り、Paragraph番号は、本規則案のParagraph番号を指します。))。
※4
Executive Order 14335 of August 13, 2025 “Enabling Competition in the Commercial Space Industry”
※5
ここでいう「局」(Station)とは無線局のことを指します。
※6
47 C.F.R §2.1において、「宇宙局」(Space Station)は”A station located on an object which is beyond, is intended to go beyond, or has been beyond, the major portion of the Earth’s atmosphere.”と、「地球局」(Earth Station)は”A station located either on the earth’s surface or within the major portion of earth’s atmosphere and intended for communication: (1) With one or more space stations; or (2) With one or more stations of the same kind by means of one or more reflecting satellites or other objects in space.”と定義されています。これは、国際電気通信連合(International Telecommunication Union、以下「ITU」)の無線通信規則(ITU Radio Regulations)上の定義と同様です。
※10
本項についてParagraph 14~18
※11
提案されたシステムが、他の事業者の周波数利用に影響するような場合など、FCCが個別に検討を要する場合がこれに該当すると示唆されています。
※12
ただし、一定の場合には、30日間の公告が必要となります(47 U.S.C. § 309(b))。
※13
本項についてParagraph 19~23
※14
本規則案では、標準化・モジュール化された申請書類により効率的に申請を行えるようにした上で、当該申請書類に基づき、申請を迅速処理に付すか、重点審査に付すか、定型的に振り分けて処理する枠組みが構想されており、このような枠組みは“licensing assembly line”と呼ばれています(Paragraph 33~35参照)。
※15
本項についてParagraph 24~26
※18
Paragraph 32 このような近代化を提案する背景として、規則上本来異なる定義がなされているにもかかわらず、同義の用語として交換的に使用されてしまっている用語が存在すること(例えば、「宇宙局(space station)」と「衛星(satellite)」と「宇宙機(space craft)」)が指摘されています(同Paragraph)。
※19
本項についてParagraph 90~97
※20
本項についてParagraph 168~174
※21
本項についてParagraph 214~222
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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