はじめに
新しいテクノロジーの活用により、自動運転、空飛ぶクルマやドローンなど、モビリティ業界には様々な変革が生じています。中でも、空飛ぶクルマは新たな移動手段として世界中で注目されており、日本においても、2025年に開催された大阪万博にて空飛ぶクルマに関する展示施設が設置されるなど、社会的な認知度も向上しています※1。スマートシティの取り組みにおいても空飛ぶクルマの活用の検討が見られ、近い将来に社会実装されることが期待されています※2。
空飛ぶクルマの社会実装のためには、空飛ぶクルマ自体の開発及び法制度の整備に加え、その離着陸場であるバーティポート※3の整備が不可欠です。空飛ぶクルマの導入初期の段階では、バーティポートとして既存の空港やヘリポートを活用することが考えられますが、既存の空港は、航空機騒音の発生や広大な用地等の確保を必要とすることから、市街地から離れて立地してきた傾向にあります。空飛ぶクルマを社会におけるより身近なモビリティとして活用させるためには、空飛ぶクルマの利便性を高めるべく市街地にて新たにバーティポートが整備されていくことが予想されます。
本ニュースレターでは、日本における空飛ぶクルマの制度の整備に関する概要を紹介した上で、バーティポートに関する制度の検討状況及び今後の見通しについて、2025年1月に設置されたバーティポート施設のあり方検討委員会における議論の状況及び2023年12月に公表されたバーティポート整備指針の概要を中心に紹介いたします。
空飛ぶクルマの制度整備の概要
1. 空飛ぶクルマの概要
「空飛ぶクルマ」の定義は確立してはいませんが、国土交通省の資料のおいては、電気をエネルギー源とする垂直離着陸飛行機(eVTOL:electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)を指し、既存の航空機との比較では、垂直離着陸、電動化や操縦者が搭乗しないといった特徴※4が想定されています。エネルギー源が電気である点から、従来のモビリティと比較して、排出ガスや騒音等の環境負荷の低減が期待されるほか、部品数の減少等により、機体の製造コストや運用コストの低減も期待されています。ユースケースとしては、空港等から都市部・地方都市への二次交通や、遊覧飛行等のエンターテインメント、緊急医療用輸送、災害時の人員輸送など、様々なユースケースが考えられ、従来の航空モビリティとは異なる、次世代の航空モビリティとして社会に実装されていくことが期待されています。
2. 空飛ぶクルマの制度に関する検討状況
日本では、空飛ぶクルマの社会実装に向けて、2018年8月に国土交通省航空局及び経済産業省製造産業局を管轄とする「空の移動革命に向けた官民協議会」(以下「官民協議会」といいます。)が設置され、以降、日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備等について協議が進められています。2020年8月には、官民での議論の活発化のため、関係省庁、有識者、機体メーカー、サービスサプライヤーなどの事業者を構成員とする実務者会合が設置され、その下に、検討事項に分かれてワーキンググループが設置され、事業者からの情報提供や実務者会合への報告等が行われるという体制となっています。
官民協議会では、空飛ぶクルマの制度整備に関する検討項目として、機体、離着陸場、技能証明、運航、及び事業制度の5つを挙げており、当該検討項目ごとに基準の方向性を議論しています※5。バーティポートについては、当該検討項目のうち、離着陸場の項目として検討が進められています。
バーティポートに関する制度の検討状況
1. バーティポートの施設そのもののあり方に関する検討状況
国土交通省航空局は、バーティポートの施設そのものについてのあり方を検討するため、2025年1月、学識経験者等から構成される「バーティポート施設のあり方検討委員会」を立ち上げました。そして2025年7月、同検討委員会における整理・とりまとめとして、「空飛ぶクルマの離着陸場(バーティポート)のあり方-機能と分類-中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」といいます。)が公表されました。中間とりまとめでは、現状に対する基本認識、空飛ぶクルマの社会的役割、及びバーティポート施設のあり方の3つの観点でまとめられています。バーティポート施設のあり方については、バーティポートを、運航上の役割、設置場所、及び利用用途ごとに分類した上で、当該分類ごとの配置の考え方や課題について述べられています。
中間とりまとめにおいて、バーティポートの整備・促進における課題が運行上の役割に応じた分類に沿って指摘されているため、以下では、運航上の役割に応じた分類に基づき配置のあり方の考え方や指摘されている課題について紹介します※6。
空飛ぶクルマの運航のためにバーティポートが担う役割は、機体の一時駐機、充電、夜間駐機・格納、整備など様々ですが、これらの役割に応じて当該バーティポートが持つべき施設・機能も異なります。中間とりまとめでは、主な4つの機能(一時駐機、充電、夜間駐機・格納、整備)を踏まえ、バーティポートを運航上の役割に応じて2区分(拠点型、スポット型)・4分類(整備・駐機基地型、運航拠点型、充電スポット型、発着専用型)に整理し、当該分類ごとに、配置の特徴及び考え方を、大都市と地方部のそれぞれにつきまとめています※7。以下の表において、それぞれの分類ごとの配置の特徴及び考え方、並びにそれぞれの分類に対し中間とりまとめにおいて指摘されている課題の概要を紹介します。
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機能分類・定義
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分類別の配置の特徴・考え方
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【拠点型】
①整備・駐機基地型
機体の修理やオーバーホールなど、大規模な機体の整備や多数の夜間駐機にも対応可能な施設を有するポート
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大都市
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運航機数が増えていくことで、機体の整備・格納等で大規模なバーティポート(本表において、以下「VP」といいます。)が将来的に必要になる可能性があり、必要な用地の確保や周辺環境への配慮など、適地の確保が課題と考えられる。
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産業転換で生じる空地の活用や、用地制約の厳しい都市中心部を避けた、郊外での配置などが考えられるほか、空港・ヘリポートの格納庫等の既存施設や未利用地の活用も考えられる。
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地方部
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地域で運航する機体の整備・運航等に対応する、大規模なVPが将来的に必要になる可能性がある。都市部と同様に、市街地を避けた空地での設置や、空港・ヘリポートの活用などが考えられる。
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【拠点型】
②運航拠点型
発着・駐機・充電の基本的機能を有する。機体の格納や必要に応じて軽度の機体整備作業(日常の部品交換等)が可能な機能を有し、運航の拠点となるポート
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大都市
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機体の格納場所(格納庫)が必要であるため、都市中心部を避けた配置が主になると考えられる。
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施設面では格納庫機能と充電機能の確保が課題となる(地方部にも共通する。)。
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地方部
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運航機数が少ない地方部では、運航拠点である「ハブ」の数も少なく、また規模も小さいものが主になると想定される。このため、既存の小規模空港やヘリポートの活用のほか、中心都市周辺部での設置や、医療目的での拠点病院への設置など、ニーズに応じた配置場所が考えられる。
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【スポット型】
③充電スポット型
格納庫や整備機能は持たないが、充電機能を持つポート。夜間駐機に対応し、運航拠点に準じた運用が可能。
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大都市
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駅、集客施設、オフィス街など、都市内には人の集まる地点が多数あり、離着陸場も複数の場所に配置される可能性がある。都市中心部など用地制約の厳しい場合では、小規模VPの配置が考えられる。
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用地の確保ができる場所では、運航機数が増えるに連れ、中規模などより大きなVPへの拡張が考えられる。
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充電施設の設置費用の拡大を防ぐことや機種によって必要な充電施設が異なる場合の対応などが課題となる(地方部にも共通する。)。
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地方部
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地域内の主要都市間や、離島・山間部などのネットワーク化のため、駅などの交通結節点を中心に配置されることが考えられる。
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特に、地域の主要ターミナル駅などでは、人の集まる立地特性により地域内・外との移動ニーズが集中すると考えられ、用地が確保できる場合には、運航ニーズに対応するため、中規模などより大きなVPの配置が考えられる。
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【スポット型】
④発着専用型
短時間の運航利用を想定した、最小限の発着機能で構成されるポート。夜間駐機や充電作業を行わない、単純な発着場所
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大都市
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バッテリー残量に余裕のある場合、充電機能が不要な場合などに利用されることが想定される。もっとも、運航できる機体や状況が限られることになり、普及に当たって汎用性に課題がある(地方部にも共通する。)。
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他の分類のVPと連携し、都市内の要所に配置することで、より低コストでネットワークを構成することが考えられる。
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地方部
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都市部と同様に、バッテリー残量に余裕のある運航が想定されるため、充電機能が不要な場合や、充電設備を設けることができない場合には、充電機能を持たない「ストップ」の配置が考えられる。
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特に、防災・医療などの利用頻度は少ないが社会的に必要とされるユースケースなどにおいて配置が進み、より低コストで地域のVPネットワークを構成することが考えられる。
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2. バーティポートの設計要件及び許認可
(1) 法令上の設計要件・許認可
バーティポートは航空法上の「空港等」に該当するため、バーティポートを設置するためには、国土交通大臣の許可を受ける必要があります(航空法38条1項)。
空港等の設置許可を申請する者は、設置の目的(同条1項1号)、空港等の名称・位置(3号)、空港等の利用を予定する航空機の種類及び型式等(7号)などを記載した空港等設置許可申請書3通を、関連する図面とともに国土交通大臣に提出しなければなりません(航空法施行規則76条)。そして、空港等の設置許可の申請があった場合には、国土交通大臣が審査を行うこととなる(航空法 39条1項)ところ、当該審査の基準については、航空法施行規則79条の他、「陸上空港の基準対象施設の性能の照査に必要な事項等を定める告示」、及び、「陸上空港の施設の設置基準と解説」などに定められています。
もっとも、バーティポートに関する許可の基準(以下「バーティポート整備基準」といいます。)となるものは現在策定されていません。これは、バーティポートの整備基準は国際標準と整合させていく必要があるところ、準拠すべきバーティポートに関する国際基準がまだ確定していないことから、バーティポート整備基準を策定することができないのが現状となっています。バーティポート整備基準が策定されるまでは、空飛ぶクルマの離着陸は、航空法79条ただし書に基づく場外離着陸の許可及び既存のヘリポートの活用により対応することとされています。
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航空法79条ただし書に基づく場外離着陸の許可
航空法上、航空機は空港等以外の場所において離着陸してはならないとされています(79条本文)。他方で、国土交通大臣の許可を受けた場合は、例外的に空港等以外の場所でも離着陸が可能となります(同条ただし書)。当該許可の申請を行う場合は、国土交通省が公表している許可基準※8に準拠することが必要となります。
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既存ヘリポートの活用
空飛ぶクルマのバーティポートに既存のヘリポートを活用する場合には、運航者及びヘリポート管理者が、後記の「バーティポート整備指針」を参考に、空飛ぶクルマの離着陸が可能と確認できた場合に、空飛ぶクルマが既存ヘリポートを利用することが可能とされています。既存ヘリポートでのVTOL機の運航に関しては、「既存ヘリポートでのVTOL機の運航について」において項目ごとに整理されているため、オフィスビルの屋上などの既存ヘリポートの利用に際しては参照する必要があります。
(2) バーティポート整備指針
バーティポートを整備するにあたっては国内基準を整備する必要がありますが、2026年1月現在、上記のとおり国内基準が準拠すべき国際基準が確定しておらず、2028年に国際民間航空機関(ICAO)により規格化が見込まれているとされています。そこで、2023年12月、国土交通省航空局は、陸上バーティポート施設の整備を検討するための暫定的なガイダンスとして、「バーティポート整備指針」(以下「整備指針」といいます。)を策定しました。
整備指針においては、陸上バーティポートとして陸上ヘリポートを想定し、その施設の整備において、各施設が具備すべき形状及び強度等、並びに、これらの決定のための考え方及び留意事項などの基本方針が示されています。
整備指針は主に施設整備に関する技術的な留意事項を示すものですが、法的な観点での留意事項も幾つか言及されています。まず、バーティポートを設置する際には、当該バーティポートを構成する施設によって、適用される法律も異なりうるため、具体的な構成に応じ、適用される法令を確認し、当該法令を遵守することが必要になります。例えば、高架バーティポート(建物の屋上や、その他の地表面を基礎とした立体構築物上にある陸上バーティポートをいいます。)のFATO※9、SA※10やスタンド保護エリア※11を構築物とする場合や高架バーティポートのTLOF※12については、建築条件等を十分に考慮し、建築基準法、消防法等に適合する安全な構造とするよう言及されています※13。また、給油を行うスタンドの表面は消防法に規定する給油取扱所の基準に準拠する必要があることや、誘導路灯の設置に関し航空法施行規則に規定される飛行場灯火の設置基準を参照し設置する必要があることも述べられています。
バーティポートは、事業主体が所有する施設の他に、賃貸借等の利用権に基づき運営する施設もあり得るところ、利用権の設定契約においては上記のような留意事項を満たすことができるよう条項を工夫する必要があるといえます。
3. バーティポートの整備・促進における課題
中間とりまとめにおいては、上記1.に記載した分類に応じた課題に加え、バーティポートの整備・促進に関する総論的な課題も挙げています。具体的には、二次交通の確保の重要性、社会受容性の向上、飛行ルール等の制度整備、平時・緊急時ともに有効活用できる設置のあり方、社会的効果と公共性の更なる検討、整備主体ごとの課題が挙げられています。
このうち、整備主体ごとの課題においては、民間主体の場合には事業採算性が極めて重要であり、バーティポート単体で収益を上げる必要があるのか、施設利用者の利便性・体験価値向上のためにバーティポートを整備する場合など、バーティポートを用いたビジネスプランによって課題点が異なることが指摘されています。例えば、施設利用型では、バーティポートの存在を前提にした施設運営を検討する必要があり、施設運営の法的なリスク分析や関連契約においてバーティポートによる影響を考慮していくことが、今後必要になると考えられます。
おわりに
以上のように、日本では、官民協議会を中心として空飛ぶクルマの社会実装に向けた項目ごとの検討が進められており、バーティポートについては、バーティポート施設のあり方検討委員会における議論や整備指針の策定が行われ、バーティポート整備基準の策定が予定されています。これらの制度整備が進められることにより、空飛ぶクルマの社会実装が進められていくことが期待されます。空飛ぶクルマの社会実装にはバーティポートの整備が不可欠であり、関連する事業者はその議論の動向を引き続き注視する必要があります。
脚注一覧
※3
「バーティポート (Vertiport)」とは、垂直を意味する「Vertical」と空港を意味する「airport」を組み合わせた単語で、空の移動革命に向けた官民協議会によれば、「ヘリポートのうち空飛ぶクルマ専用のもの」と定義されています。
※4
飛行機やヘリコプターも航空法上の航空機に該当しますが、空飛ぶクルマは、垂直離着陸機能を有する点で従前の飛行機とは異なり、また、マルチローター(ローターが3つ以上)が想定されている点で、ローターが2つ以下のヘリコプターとは区別されます(国土交通省「空飛ぶクルマに関する制度整備の概要(2024年4月23日)」p.1参照)。なお、空飛ぶクルマに無人航空機であるドローンは含まないとされています。
※6
なお、設置場所による分類は、①周辺一体型(空港型、交通結節型、施設利用者型、周辺利用型)と②単体型に区分し、想定される利用範囲や利用者層、それぞれに設置が想定される機能が整理されています。また、利用用途での分類は、①人員輸送・遊覧向けのポート、②物資輸送向けのポート、③公共サービス向けのポート、④使用事業・自家用向けのポートの4つに分類し、これらの用途に対応した機能の確保が必要である旨が指摘されています。
※7
また、運行上の役割のほか、取り扱う機体数に応じて施設規模も変化するため、駐機スポット数を基に大・中・小の3区分として整理し、運行上の役割で整理された分類との関係性が検討されています(中間とりまとめp.17)。
※9
VTOL機の着陸のための最終進入から接地又はホバリングへの移行と、接地又はホバリング状態から離陸への移行のために設けられる区域(Final Approach and Take-Off area)をいいます。
※10
FATOからの逸脱によるVTOL機の損傷を軽減するために設けられる区域(Safety Area)をいいます。
※11
スタンド(VTOL機の駐機に使用するための区域)からの逸脱による VTOL 機の損傷を軽減するために設けられる区域をいいます。
※12
VTOL機の降着装置の接地又は浮上(接地状態からホバリングへの移行)のためにFATO又はスタンド内に設けられる区域(Touchdown and Lift-Off area)をいいます。
※13
例えば、FATOについて整備指針2.1.7を参照。