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EU企業持続可能性DD指令(CSDDD)の改正に関するアップデート
福原あゆみ
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2026年1月2日、インドネシアにおいて長年議論されてきた新刑法(2023年法律第1号)及び新刑事訴訟法(2025年法律第20号)が施行された。今回の刑法改正はオランダ植民地時代から続く旧刑法の枠組みを刷新するものであり、特に大統領や国家機関への侮辱罪や婚前・婚外交渉の禁止などが導入されたことに対しては過剰に人権を制限するものであるとして物議を醸しており、憲法裁判所への違憲審査の申立ても複数なされている。企業法務の観点からは、法人の刑事責任が一般法として導入された点が特に重要な改正点と言える。新刑事訴訟法の改正によって法人が訴追された場合の手続規定も整備されたことで、今後法人が刑事責任を問われる事例が増えてくることも予想される。本稿では、今回の刑事法改正に伴う法人の刑事責任に関して留意すべき実務上のポイントを解説する。
インドネシアの旧刑法下においては、犯罪行為の主体は自然人のみが想定されており、汚職防止法や環境保護管理法といった特別法において個別に両罰規定が定められている限度で法人の刑事責任が問われる可能性があった。ただ、実務上は実際に犯罪行為を行った自然人に対して刑事責任を問うのが通常で法人が処罰される事例は稀であった。
新刑法下では、「人」の定義に法人も含まれることが明記され、犯罪類型を問わず法人が犯罪の主体となり得ることが新たに制度化された。その上で、法人の刑事責任は以下のいずれかの行為による場合に認められるとして、一定の制限を設けている。
したがって、原則として法人としての事業や業務との関連性が認められる場合に限って当該法人の刑事責任が問われ得ることになり、役職員による完全に私的な犯罪行為に関して法人自体が刑事責任を問われることはないと解される。ただ、当該法人に所属する自然人の行為だけでなく当該法人には直接所属していない支配株主が行った行為について、当該法人が刑事責任を問われる可能性があるという制度設計は、「所有と経営の分離」を越えて実質的な支配力を重視するという点において比較法的にも珍しく、インドネシアに子会社を有する外国企業にとっては特に留意が必要である。近年、マネーロンダリング防止の観点から法人の実質的所有者(Beneficial Owner)を捕捉する取り組みが各国で導入されており、法人の背後で実権を握る人物を特定し責任を負わせる仕組みを強化する各国の潮流に沿った先進的な制度設計と評価できよう。
実体法である刑法の改正に合わせ、新刑事訴訟法では法人を被告人として訴追するための具体的な手続きが整備された。具体的には、以下の2点が挙げられる。
加えて、法人に関しては、一定の条件を履行することを条件に検察官が刑事訴追を猶予する司法取引の制度が導入された。具体的な条件としては、①被害回復・賠償の支払い、②コンプライアンス・プログラムの導入、③捜査への協力、④ガバナンス改革などが定められており、条件が完遂されれば最終的に起訴が取り下げられるが、条件が守られない場合には起訴猶予は取り消され、通常の刑事手続きによって起訴が再開されることになる。
法人に対する刑罰として主に想定されているのは罰金刑で、犯罪の重大性に応じて上限500億ルピア(約5億円)の罰金が科される。加えて、法人特有の刑事罰として、特定の事業活動の停止、事業許可の取消し、さらには法人の解散命令といった法人の存続に関わる刑事罰も新設された。
日本の刑法には法人の刑事責任を包括的に定めた規定はなく、法人が罰せられるのは、組織犯罪処罰法や独占禁止法など個別の法律に両罰規定が置かれている場合に限定される。これに対して、インドネシアの新刑法では包括的な法人の刑事責任が導入されたことで法人が刑事罰を科される範囲が格段に拡がったと言え、加えて今後の実務の運用が見えない現段階においては、実際に法人が刑事責任を問われる境界線が必ずしも明確には見えていない。今回の新刑事法の施行を受けて、法人が刑事罰を科される現実的な可能性が高まったことを踏まえ、企業グループとしてより一層の法令遵守に留意する必要がある。新刑法第48条では、法人内に「犯罪を防止するための適切な措置」が存在しなかったことが、法人処罰の判断基準の一つとされている。実効性のある内部統制システムを構築し、文書化しておくことも法人の免責や減刑を勝ち取るための防御策となり得ると考えられる。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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