事前届出対象の合理化・見直し
2019年の外為法改正による役員選任議案への同意等に係る行為時事前届出制度の導入、累次行われた事前届出業種の追加等により、事前届出の件数が大幅に増加していることを踏まえ、本答申は、リスクに応じたメリハリのある審査の確保のために事前届出の対象を見直すことを提案しています。本答申において具体的な見直しが提案されている事項は次のとおりです。
1. 役員再任議案への同意に係る事前届出の原則不要化
2024年度の⾏為時事前届出のうち、外国投資家株主の行為に係る事前届出件数は1,058件であり、その大半である1,034件が役員選任議案への同意に係る事前届出であり、更にそのうち6割以上に相当する658件が役員再任議案への同意に係る事前届出でした。本答申においては、かかる状況も背景に、同一の役員の再任に係る役員選任議案への同意については、特段の事情の変更がない場合には事前届出を不要とすることで合理化を図ることが適当と指摘しています。
役員再任議案への同意については、過去の選任時に当局の審査を経ており、国の安全等の観点からの懸念は概して低いと思われるため、当局のリソースをより懸念があり得る新規の対内直接投資案件に集中させることは合理的であり、外国投資家の負担軽減の観点からもかかる見直しの方向性は適切なものと評価できます。もっとも、同一の外国投資家による同一役員の再任議案への同意であっても、外国投資家の属性、対象会社の状況、再任役員の状況等の変化によって安全保障上の評価が変化している可能性があり、本答申においても「特段の事情の変更」がある場合には引き続き事前届出を要するとされる余地が残されているため、かかる「特段の事情の変更」とは具体的にどのような場合に認められるのか、引き続き注視する必要があります。
2. 事前届出業種としての「情報通信技術関連業種」の範囲の見直し
2024年度の事前届出件数(延べ3,706件)のうち、ソフトウェア業、情報処理サービス業といった「情報通信技術関連業種」に係る事前届出件数は2,072件と半数以上を占めており、本答申は、事前届出業種である「情報通信技術関連業種」を「サイバーセキュリティ対策等の観点から真に必要性が認められるもの」に限定することが適当としています。ソフトウェア業について言えば、原則的には一律に事前届出業種と取り扱われていますが、専ら民間での特定用途にのみ使用できるソフトウェアから、防衛や基幹インフラの用途に使用されるソフトウェアの作成まで、安全保障上の重要性は様々ですから、国の安全等の観点からのリスクの高低を踏まえたメリハリのある審査を実現する観点から、事前届出業種としての「情報通信技術関連業種」の範囲を適切に絞り込む方向性は合理的なものと思われます。
本答申が示した「サイバーセキュリティ対策等の観点から真に必要性が認められるもの」という限定は抽象的であり、どのような場合に事前届出審査を不要と整理するのか、画一的に外縁を設定することは必ずしも容易ではないように思われます。もっとも、後記のとおり、非事前届出業種に係る対内直接投資等に係る安全保障上のリスクに対しても事後対応を可能とする新たな枠組みが導入されるのであれば、事前届出業種としての「情報通信技術関連業種」の範囲を大胆に絞り込んだとしても、そのことにより実質的な支障は生じないと整理することも可能であるように思われます。
3. 重要な技術や情報を保有する日本企業への投資
本答申は、前記1.や2.のように事前届出対象の合理化を図る一方で、重要な技術や情報を保有する日本企業への投資が事前届出の対象となっているか検討すべきと指摘しています。現行制度上、保有する技術の観点から指定されている事前届出業種として、安全保障貿易管理におけるリスト規制の対象技術を保有する製造業等があり、その他の事前届出業種についても、実務上は関連する技術や情報の重要性・機微性等を踏まえた事前届出審査が実施されていますが、(リスト規制には該当しないものの)日本が優位性・不可欠性を有する技術や、遺伝子情報や信用情報といった機微な情報を保有している日本企業への投資が事前届出審査の対象とならない場面があることが問題視されていました。このような場面を事前届出審査の対象に含める方向性は、日本の経済安全保障の確保の観点から適切であると思われますが、本答申が正しく指摘するとおり、事前届出要否の判断可能性や経済安全保障関連法令との整合性に配慮した検討が行われることが望まれます。
リスク軽減措置の明確化
現在の事前届出審査では、審査の過程では安全保障上の懸念が残る対内直接投資等であっても、届出書に一定の遵守事項が記載されていることにより懸念が払拭されるとして、変更中止勧告のプロセスに進まず、審査を終了させることがあります※1。かかる運用は、外国投資家が遵守事項に違反した場合、虚偽届出として刑事罰や措置命令(外為法29条)の対象とし得ることに依拠していますが、外国投資家からは、外為法に明文上の根拠がなく、当局から要求される遵守事項の内容や審査期間等の予見可能性が低いといった問題点が指摘されており、当局としても、違反に係る対内直接投資等が「国の安全等に係る対内直接投資等」に該当しなければ措置命令は発動できないなど、遵守事項違反の事実のみでは刑事罰や措置命令を発動することができないという執行力の観点からの懸念がありました。
本答申では、このような問題点・懸念も背景に、①リスク軽減措置(現在の運用における遵守事項)を事前届出における届出事項に追加する、②審査過程において外国投資家によるリスク軽減措置の追加・修正を可能とし、審査期間への予見可能性を担保すべく、投資禁止期間は当初の届出が受理された日から起点とする(但し、投資禁止期間の終了間際に追加・修正があれば14日間程度の延長を行う。)、③当局が、投資内容の変更・中止に加え、特定のリスク軽減措置を講じることについても勧告・命令できることを明確化する、④届け出たリスク軽減措置を投資実行後に変更する場合には事前届出審査の対象とする、⑤届け出たリスク軽減措置を実施していない場合には株式売却命令等の対象とする、⑥予見可能性の観点からリスク管理措置の類型や具体例をガイドライン等で示すべきである、といった指摘が行われています。
間接取得規制の導入
現行制度上、日本企業の株式等を保有する外国法⼈等(直接保有者)を他の外国投資家(間接取得者)が買収すること等を通じて日本企業の株式等を間接的に取得する場合は、原則として事前届出審査の対象とされていません。そのため、例えば、(i)外国投資家(直接保有者)が事前届出審査を経て安全保障上重要な事業を営む日本企業を買収した後に、当該外国投資家(直接保有者)が他の外国投資家(間接取得者)に買収される場合や、(ii)日本企業の株式を保有する複数の外国投資家(直接保有者)をまとめて他の外国投資家(間接取得者)が買収することで、間接取得者グループ全体として相当割合の株式等を取得するに至る場合には、基本的に事前届出審査の対象となりません。
この点、国外を見れば、米国、英国、ドイツ、フランス、カナダといった主要国において、⾃国企業に対する間接的な⽀配権取得に対して対内直接投資審査を行える制度が整備されています。2016年12月、ドイツ半導体企業Aixtron SEに対するドイツ有限責任会社Grand Chip Investment GmbH(同社の最終所有者には中国投資家が含まれていたとされています。)による買収提案について、米国政府がAixtron SEの米国子会社を取引対象から除外しない限りは買収提案を阻止する旨の大統領令を発令するなど、間接取得に対して実際に当局が介入する事例も存在しています。
本答申は、海外法人間の買収等を通じて事前届出審査を経ずに日本企業を間接取得できてしまう現行制度上の問題点を手当するため、一定の間接取得について「最終親会社等の事後的な変更」として事前届出審査の対象とする方向性を示しています。具体的には、以下の改正内容が提示されています。
-
間接取得者による、直接保有者の50%以上の議決権を取得する行為、間接取得者の関係者が直接保有者の役員の過半数を占める行為その他これらに類する行為を対内直接投資等の定義に加えること。
-
現行制度において事前届出義務が生じる日本企業の1%以上の議決権等を直接保有者が保有している場合に、間接取得者に事前届出を義務付けることを原則とすること。但し、類型的に審査の必要性が高い間接取得者(事前届出免除制度を利用できない外国投資家)以外については、直接保有者が保有する日本企業の議決権等が50%未満の場合には手続不要とすること。
ここで注目されるのは、間接取得者の属性に応じてメリハリをつけた規制とするよう努める姿勢が見られる点です。具体的には、事前届出免除制度を利用できない外国投資家が間接取得者となる場合には、直接保有者が日本企業の1%以上の議決権等を保有している場合に広く事前届出を義務付ける一方、それ以外の場合には、直接保有者が保有する日本企業の議決権等が50%未満の場合には事前届出手続を不要とする方向性を示しています。この点、2025年5⽉施⾏の外為法政省令改正により、外国政府等との契約や外国法に基づき外国政府等の情報収集活動に協⼒する義務を負う外国投資家等は「特定外国投資家」として、外国政府や国有企業等と同様、事前届出免除制度を利用できないこととしています。このように類型的に審査の必要性が高い外国投資家に着目し、当該外国投資家による間接取得等に焦点を絞ることによって、健全な投資促進とのバランスに配慮した対内直接投資審査制度を目指しているといえるでしょう。
外国政府等の支配・影響下にある投資活動への対応
現行制度上、日本企業による事前届出業種への投資であっても、非居住者・外国法人等が議決権等の50%以上を保有している日本企業は外国投資家に該当するものとして原則事前届出審査の対象となるほか、外国投資家のために(外国投資家の計算において)行われる投資についても事前届出義務が課されています。しかし、これら以外の投資であっても、「外国投資家に雇⽤されている居住者が、外国投資家の指⽰を受け、事前届出業種を営む日本企業が有している技術を外国投資家に提供することを⽬的として、居住者の名義で当該日本企業の株式を取得する場合」など、類型的に審査の必要性が高い外国投資家の支配・影響下において行われる投資は存在し、これらについても事前届出審査の対象とすべきという問題提起がなされていました。
かかる問題意識を踏まえ、本答申では、①非居住者等との契約等に基づいて、当該非居住者等からの指示により投資を行うとき、②非居住者等と特別の関係※2にある者が、当該非居住者等からの指示により投資を行うとき、③非居住者等と特別の関係にある者が、当該非居住者等に対して、事前届出業種に係る事業の譲渡・技術の提供を目的として投資を行うときのように、外国投資家の支配・影響下において実質的に一体となって投資を行っていると認められる場合には、外国投資家以外の者を外国投資家とみなすことが適当であると指摘しています。本答申は、同時に、規制潜脱防止という目的を踏まえたリスクベースの制度設計という観点から、事前届出免除制度の利用ができない非居住者等という類型的に審査の必要性が高い外国投資家の支配・影響下にあるものに限って事前届出の対象とする方向性が示されています。
このように「外国投資家以外の者であっても、外国投資家との一定の関係性がある場合に外国投資家とみなす」というアプローチは、同じく外為法に基づく安全保障貿易管理における「みなし輸出」と同様のアプローチであるとの評価も可能と思われます。2022年5月施行の「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について(役務通達)」の改正により、原則として安全保障貿易管理の対象とならない居住者への技術提供であっても、当該居住者が雇用契約や経済的利益等に基づき外国政府や外国法人等の強い影響を受けている状態(特定類型※3)にある場合には、非居住者等への技術提供と同様に安全保障貿易管理の対象とすることが明確にされています。
非事前届出業種への投資に対する事後対応
現行制度上、事前届出業種を営まない日本企業への投資については、事前届出審査の対象とされておらず、万一安全保障上のリスクが顕在化したとしても、かかるリスクに対応するための外為法上の方策は存在しません。そこで、本答申は、このような投資についても、投資実行後に国際情勢の変化等により安全保障上のリスクが顕在化した場合の事後対応が必要という考え方の下、類型的に審査の必要性が高い外国投資家(すなわち事前届出免除制度を利用できない外国投資家)による非事前届出業種への株式等の10%以上の取得等に限定した上で、①国際情勢の変化等により国の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい投資に該当するかどうかを確認する必要が生じた場合には報告を求めることができ、②報告に基づき国の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいと認められる場合には、事前届出に係る審査と同様の措置(リスク軽減措置や株式売却等の勧告や命令)を行うことができ、③緊急措置の必要がある場合には、勧告を経ずに当該措置を命令できるという方向が示されています。
脚注一覧
※1
大澤大「経済産業省における外国為替及び外国貿易法に基づく投資管理と実務上の諸論点」旬刊商事法務2294号21頁。
※2
「特別の関係」とは、雇用関係、親族関係及び永続的な経済関係等をいいます。
※3
①雇用契約等の契約に基づき、外国政府等・外国法人等の支配下にある者、②経済的利益に基づき、外国政府等の実質的な支配下にある者及び③国内において外国政府等の指示の下で行動する者に分類されています。