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排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第1回)

著者等
渡邉啓久倉知紗也菜(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update ~インフラ・エネルギー・環境ニュースレター~ No.57(2026年2月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 今年4月1日、昨年の通常国会で成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下「GX推進法」といいます。)の改正法に基づき、排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働します。

 昨年末の12月19日、排出量取引制度の詳細な制度設計を検討してきた産業構造委員会 イノベーション・環境分科会 排出量取引制度小委員会(以下「排出量取引制度小委員会」といいます。)が中間整理※1(以下「中間整理」といいます。)を公表し、同日、内閣官房GX実行推進室が論点整理案※2(以下「論点整理案」といいます。)を公表しましたが、その内容も踏まえて、現在、排出量取引制度の具体的な内容を盛り込んだGX推進法施行規則の改正案(以下「GX推進法施行規則案」といいます。)や実施指針案などについてのパブリックコメントが実施されており(今月14日受付締切)、制度実施に向けたルール整備の最終局面を迎えています。

 本ニュースレターでは、3回に分けて、間もなく本格稼働する排出量取引制度のキーポイントを解説していきます※3。なお、昨年のGX推進法の改正経緯などについては、本ニュースレターNo.45「排出量取引制度の法定化を含むGX推進法改正案の概要」で紹介していますので、そちらもご参照ください。

2. 制度概要について

Question 2-1:GX-ETSの対象となる事業者とは?

 GX-ETSの適用対象となる制度対象者※4(以下「制度対象者」といいます。)は、直近3年度平均のCO2の直接排出量(年度平均排出量)が10万トン以上の事業者とされています※5。この閾値は、EU・英国(直接排出量2.5万トン以上の設備・施設が対象)や韓国(原則として直接・間接排出量合計で12.5万トン以上の企業が対象)といった諸外国制度と同程度の規模の排出源を捕捉する観点で設定されたものと説明されています※6

 年度平均排出量は、エネルギー起源のCO2(エネルギーの使用に伴って発生するCO2排出)と非エネルギー起源(工業プロセスにおける化学反応等に由来するCO2排出)を合算した直接排出量を基準に算定され、事業分野毎に詳細が定められています(GX推進法施行令1条参照)。

 直近3年度の平均値で判断されることになりますので、当初は制度対象者に該当しない事業者であっても、活動量の増加等に伴ってCO2の排出量が増加し、ある年度において直近3年度平均の直接排出量が10万トン以上となった場合は、当該事業年度から制度対象者に該当することになります。なお、「年度」とは、毎年4月1日から翌年3月31日までの期間を指します(同法33条1項)。

 なお、事業活動を最近開始したために直近3年度の平均をとることができない事業者の場合、届出年度の前々年度中に事業活動を開始した場合は前2年度のCO2の直接排出量の平均値を、届出年度の前年度中に事業活動を開始した場合は前年度のCO2の直接排出量の値を基準として、10万トン以上か否かを判断することになります(GX推進法施行規則案4条)。

Question 2-2:企業グループについて、10万トンの算定は連結ベースか単体ベースか?

 制度対象者に該当するか否か(=年度平均排出量が10万トン以上か否か)は法人単体で判断され、企業グループ単位(ある企業グループに属する企業の排出量の合計)で判断されるのではありません。そのため、例えば、親会社(例:持株会社)は制度対象者には該当しない一方で、子会社(例:中核事業会社)は制度対象者に該当する、という事態も生じます。

 なお、これまでのGXリーグにおいて、参画企業の約4割は、子会社等を含めた企業グループ単位で削減目標の設定や排出量の算定を実施してきたという経緯があります※7。そのため、ある制度対象者について、同じく制度対象者となる密接関係者(GX推進法施行規則案14条に定める子会社、関連会社及び同一の親会社をもつ子会社(兄弟会社))が存在する場合、GX推進法上必要となる①排出枠の割当てを受けるための届出※8、②排出実績量の報告、③排出枠の保有義務の履行及び④移行計画の策定等の義務に関しては、共同で履行することが許容されます(同法33条4項)。

Question 2-3:GX-ETSのプロセスの概要は?

 GX-ETSにおける手順を制度対象者側の行為と政府側の行為に分類した場合、大まかな流れは以下のとおりです※9

Question 2-4:排出枠の割当ては有償か無償か?

 制度対象者に対しては、経済産業大臣が定める実施指針(GX推進法32条1項。なお、現在、実施指針案についても、パブリックコメントが実施されています。)に従い、脱炭素成長型投資事業者排出枠(以下「排出枠」といいます。)が無償で割り当てられます(同法34条1項)。GX推進法は、これを「脱炭素成長型投資事業者排出枠」と定義しています(同法32条1項)。

 個々の制度対象者に対する排出枠の割当てに際して、経済産業大臣は、当該対象事業者の届出に係る排出目標量を基礎として、①事業分野ごとの国際競争力の維持又は向上に関する事項並びに②脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に資する研究及び技術開発に関する事項を勘案することが求められます(同法34条1項、32条2項5号)。排出枠の割当ては、年度毎に、法人等保有口座※10に排出枠の増加の記録をすることにより行われます(同法34条3項)。

 なお、一定の発電事業者(特定事業者※11)については、GX推進法の制定当初から、2033年度以降有償オークションによって排出枠の割当てと単価決定を行う仕組みが想定されていました(改正前GX推進法15条)。今年4月1日から開始する排出量取引制度は、排出枠の無償割当を前提とする制度ですが、特定事業者も制度対象者となることに注意が必要です。特定事業者に関しては、2026年度から無償割当型の排出量取引として制度適用を開始しつつ、2033年度以降は、排出枠の一部(なお、GX推進法上、無償割当される「脱炭素成長型投資事業者排出枠」とは別の「特定事業者排出枠」という概念が設けられています。)を有償オークションで割り当てることが想定されています※12

Question 2-5:適切に償却を行わなかった場合はどうなるのか?

 制度対象者は、毎年度、自らの排出実績量を算定し、これと等量の排出枠を保有した上で償却することが求められます(GX推進法36条・37条)。国から無償で割り当てられた排出枠では不足する場合、償却実施のタイミングである割当年度の翌年度の1月31日までに、排出枠を外部から購入する必要が生じます。仮に、償却できない排出枠が残ってしまった場合、「未償却量×参考上限取引価格※13×1.1」で算出される未償却相当負担金の納付義務が発生します(同法41条)。

3. 適用開始時期や取引所開設時期について

Question 3-1:適用開始にあたってのスケジュールは?

 排出量取引制度(GX-ETS)自体は2026年4月1日から適用されることになりますが、2026年度は、割当申請の基礎となる自社の排出量等を算定する期間とし、2027年度に2026年度及び2027年度分の排出枠の割当てを申請した上で、2027年度に2年分の割当てが行われ、最初の償却(2026年度分の償却)は、取引市場が開設された後の2027年度中※14の実施となる予定です※15

(出典:内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」39頁)

Question 3-2:排出枠は取引することが可能なの?

 排出枠はその保有者間で取引の対象とすることができます(GX推進法38条1項)。また、GX推進法は、脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)を運営主体とする取引市場の整備を予定しています(同法111条1項6号イ)※16。2026年度に排出枠取引市場の設計が検討され、2027年度秋ごろに市場開設されることが見込まれています※17

 排出枠の取引価格は、制度対象者が脱炭素投資を行うか否かを判断するに際しての重要な情報ですし、制度上もリバースオークション等のトリガーとなりますので、市場における公正な価格公示機能を担保することが非常に重要です。2026年度は、市場参加者の要件、取引手続の詳細、公正な取引を確保するための措置、その他取引の流動性の確保のための必要な措置等についての検討が実施される予定です。

Question 3-3:市場設計に伴う法的課題の整理は?

 市場設計に伴う法的課題については、経済産業省及び環境省の下に設置された「GX実現に向けた排出量取引制度の検討に資する法的課題研究会」が「GX実現に資する排出量取引制度の法的課題とその考え方についての報告書」(2024年12月18日)を公表しています。ここでは、制度対象者以外に参加が認められる市場参加者(取引業者・媒介業者、マーケットメーカー等※18)に対する業規制のあり方※19や、相場操縦等の禁止やインサイダー取引規制の導入の要否に関して議論されておりますので、こうした法的諸論点が今後さらに議論されることが予想されます。

 また、市場設計とあわせて、市場活性化策についての検討も、2026年度に具体的に進められる予定です。先行するK-ETS(韓国)やEU-ETS(欧州)などでは、排出量取引制度の開始当初の取引の流動性や量が限定的となったことや、排出量取引制度小委員会においても制度開始当初に排出枠が上限まで高騰するリスクが指摘されたことを踏まえ、流動性の低迷による価格高騰を抑制するための方策について、過度なバンキングを抑制するための方策を含めた検討が予定されています※20

次回に続く)

脚注一覧

※2
内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」(GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ第5回(2025年12月19日開催)資料2)

※3
なお、本稿において適示するGX推進法及びGX推進法施行令の条文は、それぞれ令和7年6月4日号外法律第52号及び令和7年12月12日号外政令第412号による改正後の2026年4月1日施行のものを示すものとします。

※4
GX推進法において「脱炭素成長型投資事業者」と定義されます(34条1項)。

※5
GX推進法33条1項、同施行令2条。なお、中間整理11頁も参照。

※6
第1回排出量取引制度小委員会 資料3「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」(2025年7月2日)13頁

※7
第1回排出量取引制度小委員会 資料3「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」(2025年7月2日)14頁

※8
GX推進法33条1項、35条1項、36条3項及び73条1項を参照

※9
GX推進法33条乃至37条、41条及び42条

※10
経済産業大臣は、排出枠口座簿を作成し、排出枠の取得、保有及び移転のため、内国法人等(国内に本店等を有する法人及び脱炭素成長型投資事業者である個人)ごとの排出枠の管理口座(法人等保有口座)と機構取引口座を開設します(GX推進法45条1項)。

※11
電気事業法上の発電事業者のうち、その発電事業に係るCO2の排出量が多い者として政令で定める者をいいます(GX推進法2条5項)。

※12
論点整理案62頁

※13
参考上限取引価格については次回解説しますが、現在パブリックコメントに付されている「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の規定に基づき参考上限取引価格及び調整基準価格を定める告示」では、CO2 1トンに相当する排出枠あたりの参考上限取引価格(2026年度)は、4,300円と定められています。

※14
GX推進法上、償却時期は割当年度の1月31日とされていますので(GX推進法37条、36条3項)、初回は2028年1月31日となることが想定されます。

※15
論点整理案39頁

※16
GX推進機構に市場の運営を委ねたのは、特に取引量が低迷する可能性のある制度開始当初において、取引を集中させ、適正な価格形成を促すためとされますが、将来的に、排出枠の取引量が増加することで自律的な市場運営が可能となった場合、取引所運営を民間事業者の許認可制へ移行することなど、段階的に取引制度を発展させていく方策についても検討していくものとされています(「GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂~」(2025年2月)44頁)。

※17
中間整理110頁

※18
詳細については、今後GX推進機構の業務方法書において定めることが想定されています(中間整理110頁)。

※19
同報告書は、現物取引を行う市場を想定すると、市場参加者は対象事業者が中心となり、個人の一般投資家の参加は考えにくくプロ向けの市場となるものと考えられることから、取引業者や仲介業者に対する業規制(参入規制、行為規制)までは必要ないと考えることも可能であり、市場参加資格については取引所規程等において規定すれば足りるとしています(同36頁)。他方、デリバティブ取引を行う市場に一般投資家の参加も認める場合には、仲介業者に対する委託が必要となることからすれば、特に委託者である一般投資家の保護のために、取引業者や仲介業者に関する業規制を行う必要があると言及しています(同37頁)。

※20
中間整理113頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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