• HOME
  • 著書/論文
  • 排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第2回)

Publication

ニュースレター

排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第2回)

著者等
渡邉啓久倉知紗也菜(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update ~インフラ・エネルギー・環境ニュースレター~ No.58(2026年2月)
関連情報

ニュースレター

セミナー

特集

業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 今年4月1日、昨年の通常国会で成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下「GX推進法」といいます。)の改正法に基づき、排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働します。

 本ニュースレターでは、3回に分けて、間もなく本格稼働する排出量取引制度のキーポイントを解説します※1。「2. 制度概要について」及び「3. 適用開始時期や取引所開設時期について」は、2026年2月No.57「排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第1回)」をご覧ください。最終回となる次号では、「6. 排出枠の割当てについて」と「7. 移行計画について」を解説する予定です。

 なお、昨年のGX推進法の改正経緯などについては、本ニュースレターNo.45「排出量取引制度の法定化を含むGX推進法改正案の概要」で紹介していますので、そちらもご参照ください。

4. 制度概要について

Question 4-1:排出枠価格はどのように定まるの?

 排出枠価格は、取引市場を通じた市場原理に基づいて決定されるのが原則です。

 但し、GX推進法は、価格安定化措置として、経済産業大臣に対し、各年度の開始前に、産業構造審議会の意見聴取をした上で、排出枠の上下限価格として機能する「参考上限取引価格」と「調整基準取引価格」を定めることを求めています※2。価格高騰時には、制度対象者が一定価格(不足する排出枠の量に参考上限取引価格を乗じた金額)の負担金を納付することで、不足する排出枠を市場調達せずとも排出枠を償却したものとみなすことを可能にする制度が予定されています(GX推進法40条)。他方、取引市場における価格低迷時(平均売買取引価格が調整基準取引価格を下回る場合)には、GX推進機構がリバースオークションを実施して排出枠を買い取ることで需給調整を実施する方法(同111条1項7号・117条参照)や、将来の割当基準を強化する方法※3によって価格を維持することが想定されています。

Question 4-2:2026年度の参考上限取引価格と調整基準取引価格は?

 産業構造審議会イノベーション・環境分科会排出量取引制度小委員会(以下「排出量取引制度小委員会」といいます。)は、昨年12月19日、CO2 1トンに相当する排出枠あたりの価格として、2026年度の参考上限取引価格を4,300円、調整基準取引価格を1,700円とする意見を取りまとめました※4。これは、制度開始当初における排出枠価格が、省エネコストから燃料転換コストの間の水準で推移するであろうことを想定して、参考上限取引価格については燃料転換コストの直近10年間の値を参考に、調整基準取引価格については省エネJ-クレジットの取引価格(2023年10月から2024年9月までの市場価格の加重平均値)を参考に、それぞれ設定されたものです※5

 産業構造審議会の上記意見に基づいて、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の規定に基づき参考上限取引価格及び調整基準価格を定める告示」の案(以下「告示案」といいます。)もパブリックコメントに付され、今月14日に意見募集期間が終了しました※6

Question 4-3:今後の参考上限取引価格と調整基準取引価格の推移は?

 2027年度以降の参考上限取引価格及び調整基準取引価格は、段階的に引き上げられます。昨年12月19日の排出量取引制度小委員会の意見には、2027年度から2030年度までの参考上限取引価格及び調整基準取引価格については、前年度の価格に、当該年度の物価の変動指数の見通しの数値に1.03を加えたものを乗じた価格を基礎として毎年度定めていく旨が盛り込まれました※7。脱炭素技術への先行投資インセンティブを高める水準として機能するには、企業の設備投資における割引率や物価上昇率の見通しを超える水準とする必要があるとの考えの下、実質価格上昇率を3%とした上で毎年度の物価上昇率の見通しを加算した値が、価格上昇率として設定されたものです※8

 排出量取引制度小委員会が示した2026年度から2030年度の上下限価格(物価上昇率の勘案前)の見通しは以下のとおりです。下記表内の価格に、前年度時点の物価上昇率の見通しを勘案した名目価格をもって、毎年度の参考上限取引価格及び調整基準取引価格として定めることが想定されています※9

(出典:第7回排出量取引制度小委員会(2025年12月19日)資料3「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」13頁)

5. 排出実績量の算定とクレジット無効化量について

Question 5-1:排出実績量はどのように算定するの?

 GX推進法は、制度対象者に対し、割当年度の翌年度において、割当年度における排出実績量を国に報告することを求めています(GX推進法35条1項)。その際、排出実績量がGX推進法施行令で定める方法により適切に算定されていることについて、予め登録確認機関の確認を得る必要があります(同条2項)。

 排出実績量の算定方法については、実施指針※10にて具体的に定められることになりますが※11、大要、省エネ法や温対法等の関連制度における算出方法に準じる形で、「①エネルギー起源のCO2(エネルギーの使用に伴って発生するCO2排出)+②非エネルギー起源のCO2(工業プロセスにおける化学反応等に由来するCO2排出)-③クレジット無効化量により得られる数値」により算出されることになります。

Question 5-2:活用できるカーボンクレジットや無効化量に制限はあるの?

 排出量の算定に際して活用することが認められるカーボンクレジットは、J-クレジット※12とJCMクレジット※13の2種類に限られます(実施指針案12条参照)※14。また、各年度の実排出量(クレジット無効化量を控除する前の排出量)の10%が上限とされます(実施指針案12条3号参照)。カーボンクレジットによる無効化を無制限に許容する場合、排出枠の価格形成が阻害されたり、制度対象者の削減インセンティブが損なわれるおそれがあることから、諸外国の例を参考に、上限が設定されたものです。

 ただ、無効化量の上限については、排出枠の余剰・不足の状況やカーボンクレジットの創出量の動向など、需給に及ぼす影響等について継続的に点検し、必要な場合には上限の見直しを検討していくものとされています※15。諸外国では制度の進展とともに無効化量が制限・廃止されていることも勘案し、将来的にGX-ETSにおけるカーボンクレジットによる無効化許容量が縮小される可能性が留保されています。

 このように、カーボンクレジットの使用には制限がありますが、制度対象者からすれば、不足する排出枠を市場調達するよりも、カーボンクレジットの認証対象プロジェクトに投資することで新規事業の開拓や雇用創出に繋がる期待もありますし、プロジェクトからの事業収益を見込めるケースもありますので、こうした副次的な効果を期待し、認証対象プロジェクトへ積極投資することが望まれます。また、制度対象者が無効化に使用できるJ-クレジットやJCMクレジットには、他社から購入したものなど、他の者が自らの代わりに無効化をしたことに同意している場合も含まれます(実施指針案12条3号ハ)。制度対象者以外も、将来的に制度対象者に販売することを見据えて、対象プロジェクトに投資していくことが考えられるでしょう。

次回に続く)

脚注一覧

※1
なお、本稿において摘示するGX推進法及びGX推進法施行令の条文は、それぞれ令和7年6月4日号外法律第52号及び令和7年12月12日号外政令第412号による改正後の2026年4月1日施行のものを示すものとします。

※2
GX推進法39条及び116条参照。

※3
内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」(GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ第5回(2025年12月19日開催)資料2)41頁。なお、排出枠の政府オークションを導入する2033年以降は、リバースオークションは行わず、オークションにおける入札価格に下限を設けることによって価格を維持するとされています(同頁)。

※4
排出量取引制度小委員会「令和8年度の参考上限取引価格及び調整基準取引価格に関する意見」

※5
第7回排出量取引制度小委員会(2025年12月19日)資料3「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」9頁

※6
E-GOVのWebsite参照。

※7
告示案にも、附則2条としてこの点が反映されています。なお、告示案では、物価の変動指数としては、「国内企業物価指数の見通しの値(当該各年度の前年度において閣議の決定を経て定める経済見通しと経済財政運営の基本的態度について別添に掲げる当該各年度の国内企業物価指数の見通しの値)」を用いることが想定されています。

※8
前掲注5の資料11頁

※9
但し、制度対象者の削減費用が排出枠価格に適切に反映されずに上限価格に張り付くリスクを回避するための対策として、バンキングの抑制等の措置を別途検討するものとされているほか、併せて、短期間での取引価格の過度な変動を回避するため、市場取引における制限値幅の水準等について2026年度に検討していくこととされています(前掲注5の資料13頁)。

※10
正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資を行おうとする事業者に対する脱炭素成長型投資事業者排出枠の割当ての実施に関する指針」。実施指針案についてもパブリックコメントの意見募集期間が今月14日に終了しました。

※11
GX推進法施行令5条、実施指針案12条参照。

※12
経済産業省・環境省・農林水産省が制度管理者となり、2013年より運営されているカーボンクレジット制度です。

※13
パリ協定6条2項に基づく任意の協力的アプローチ(cooperative approaches)に基づく「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)」により発行されるクレジットです。JCMは、JCMに関する二国間文書に署名したパートナー国(途上国等)への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・炭素吸収・炭素除去への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、パリ協定に従った日本の「国が決定する貢献(Nationally Determined Contributions)」の達成に活用する制度です。

※14
排出量取引制度小委員会「脱炭素成長型投資事業者排出枠の割当ての実施に関する指針に関する意見」別添「産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理 ~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~」18頁。なお、JCMクレジットについては、温対法の算定・報告・公表制度に準じ、2020年以前の取組に由来するクレジットについては発行日等の要件を満たさない限り使用不可とされています。

※15
前掲注5の資料115頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

インフラ/エネルギー/環境に関連する著書/論文

石油・天然ガス・その他資源に関連する著書/論文

環境法に関連する著書/論文

  • HOME
  • 著書/論文
  • 排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第2回)