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排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第3回・完)

著者等
渡邉啓久倉知紗也菜(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update ~インフラ・エネルギー・環境ニュースレター~ No.59(2026年2月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 今年4月1日、昨年の通常国会で成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下「GX推進法」といいます。)の改正法に基づき、排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働します。

 本ニュースレターでは、3回に分け、間もなく本格稼働する排出量取引制度のキーポイントを解説してきました※1。最終回となる本号では、「6. 排出枠の割当てについて」と「7. 移行計画について」を取り上げます。

 前回までのニュースレターにつきましては、No.57「排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第1回)」とNo.58「排出量取引制度(GX-ETS)のキーポイント解説(第2回)」をご覧ください。なお、昨年のGX推進法の改正経緯などについては、No.45「排出量取引制度の法定化を含むGX推進法改正案の概要」で紹介していますので、そちらもご参照ください。

6. 排出枠の割当てについて

Question 6-1:排出枠の割当ては誰がどのようにして決定するのか?

 各制度対象者に対して排出枠を割り当てるのは経済産業大臣ですが※2、その割当量は、制度対象者が登録確認機関による確認を受けて届け出た排出目標量を基礎として算定されることが想定されていますので、以下の図に示されるようなプロセスを辿ることになります。

 経済産業大臣は、割当てに際し、制度対象者から届出を受けた内容が実施指針に照らして適切であるかどうかを判断することになりますが、GX推進法は、制度対象者に対し、自らが届出を行うCO2の排出目標量がGX推進法施行令で定める方法により適切に設定されていることについて、届出に先立ち、登録確認機関の確認を受け、同機関の確認結果報告書を添付することを求めています(GX推進法33条2項)。

 また、実際の割当てに際して、経済産業大臣は、登録確認機関の確認を経た排出目標量を基礎としつつも、事業分野ごとの国際競争力の維持又は向上に関する事項及び脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に資する研究及び技術開発に関する事項を勘案するものとされています(同法34条1項、32条2項5号)。さらに、各割当年度よりも前の年度において制度対象者が行った届出について、その基礎となる事実に変更があったと認められる場合、経済産業大臣は、当該割当年度における排出枠の割当量を調整する権限を有します(同法34条2項)。

Question 6-2:具体的な割当量の算定方法はどのようなものか?

 各制度対象者に対する割当量の算定方法は非常に複雑であり、実施方針案、GX推進法施行令及びGX推進法施行規則案※3などに詳細な規律が設けられていますが、大まかなコンセプトは以下の通りです。

① エネルギー多消費分野等については、業種別ベンチマークを定め、これに基づいて企業ごとの割当量を算定する方式(ベンチマーク方式)を採用し、ベンチマークの設定が困難な業種については、基準となる年度の排出量に一定の削減率を乗じるグランドファザリング方式が採用されます。

  • ベンチマーク方式:同業種内のX%水準の排出原単位をベンチマークとして設定し、基準活動量にベンチマークを乗じて割当量を算定(割当量=基準活動量×各年度の目指すべき排出原単位)
  • グランドファザリング方式:基準排出量に一定の削減率を乗じて割当量を算定(基準排出量×(1―目指すべき削減率×基準からの経過年数))
  • 基準活動量や基準排出量は、制度対象となる直前3年度(基準期間)の平均を基準とするものの、基準期間に事業所が新設・廃止等が生じると割当量が過少・過大となり不公平が生じることから、基準期間における事業所の新設・廃止や災害・定期修理等の法令対応等による稼働低下がある場合には一定の調整を行う(実施指針案5条2号以下参照)

(出典:内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」28頁)

② 但し、上述したベンチマーク方式やグランドファザリング方式を基礎としつつも、過去の削減努力や、リーケージリスク、足下で削減効果が発現しない研究開発のための投資額に応じて割当量を調整することが想定されています。

(出典:内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」27頁をもとに筆者作成)

Question 6-3:ベンチマーク方式を採用する業種は?

 下記表に掲げる業種における一定の事業活動について、ベンチマーク方式が採用されます※4

1. 製造業
洋紙製造業 板紙製造業 ソーダ工業 カーボンブラック製造業
有機化学工業製品製造業 石油精製業 ゴム製品製造業 板ガラス製造業
ガラス瓶製造業 セメント製造業 石灰製造業 高炉製鉄業
電炉普通鋼製造業 電炉特殊鋼製造業 アルミニウム製造業 自動車製造業
2. 発電事業
3. 運送業
貨物自動車運送業 内航海運業 航空輸送事業

Question 6-4:上記②のカーボンリスク緩和措置に関する調整の概要は?

 主たる事業がカーボンリーケージ業種に該当する制度対象者について、収益に対する排出枠調達コスト(排出枠不足分×平均市場価格)の比率が一定水準を超える場合、不足分のうち一定割合については、翌年度の割当量に追加するよう求めることができる制度が予定されています(実施方針案6条)。

 排出量取引制度の制度設計において、カーボンリーケージリスク(制度対象国の内外を比較して、国内の生産コストが高まった結果、国内事業者が競争上不利な立場に置かれ、場合によっては、国外に事業拠点を移転したり、CO2の排出規制が不十分な国外産品への代替が発生することで地球全体でのCO2排出量が増加する懸念)をどう手当てするかは重要な考慮要素です。

 実施指針案では、カーボンリーケージ業種として①食料品製造業、②飲料・たばこ・飼料製造業、③繊維工業、④木材・木製品製造業(家具・装備品製造業を除く。)、⑤家具・装備品製造業、⑥パルプ・紙・紙加工品製造業、⑦化学工業、⑧石油製品・石炭製品製造業、⑨プラスチック製品製造業、⑩ゴム製品製造業、⑪なめし革・同製品・毛皮製造業、⑫窯業・土石製品製造業、⑬鉄鋼業、⑭非鉄金属製造業、⑮はん用機械器具製造業、⑯生産用機械器具製造業、⑰業務用機械器具製造業、⑱電子部品・デバイス・電子回路製造業、⑲電気機械器具製造業、⑳情報通信機械器具製造業、㉑輸送用機械器具製造業を挙げ、これらを主たる事業とする制度対象者については、排出枠の不足量が生じる限り、以下の追加割当てを受けることができるものとされています(同条)。

追加割当量
1 割当年度の前年度の排出枠の調達コスト※5÷当該前年度の当該事業者の営業利益>4%の場合 (当該前年度の排出枠の不足量×0.5)―(当該前年度の当該事業者の営業利益×0.02÷当該前年度の年間平均取引価格)
2 割当年度の前年度の当該事業者の営業利益<0の場合 当該前年度の排出枠の不足量×0.5

Question 6-5:上記③の研究開発投資の状況に応じた調整の概要は?

 イノベーションのための技術開発が阻害される事態を防ぐため、一定以上の研究開発投資を行う事業者に対しては、事業者からの申請に基づいて排出枠の不足の範囲で追加割当てを行うことが想定されています。

 実施指針案では、①特許庁が公表するグリーン・トランスフォーメーション技術区分表に該当する技術の研究開発又は②グリーンイノベーション基金補助金による研究開発を行う制度対象者について、排出枠の不足量が生じる限り、当該制度対象者の研究開発費と業種毎の平均的な研究開発費の差分を排出枠の前年度の年間平均取引価格※6で除した量(但し、不足する排出枠の量の0.1倍が割当量を上限)の追加割当てを許容することとしています(7条)。

7. 移行計画について

Question 7-1:移行計画とは何か?

 制度対象者は、毎年度、事業分野等命令で定める様式による移行計画(その事業活動に伴う二酸化炭素の排出量の削減に関する目標その他脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資その他の事業活動に関する計画)を作成し、9月末日までに、経済産業大臣及び当該制度対象者の事業活動に係る事業所管大臣に提出することが求められます(GX推進法73条1項、事業分野等命令3条)。また、移行計画書はインターネット上での公表が予定されています(同条2項、事業分野等命令4条)。

Question 7-2:移行計画書に記載すべき事項とは?

 移行計画書は、排出量取引制度の導入による投資効果を高める観点から、制度対象者に対し、具体的な投資計画等についての提出を求め、これを公表するものです。排出量取引制度小委員会の中間整理※7(以下「中間整理」といいます。)では、2026年~2030年の排出量の見込み、排出量の実績、設備投資計画・実績、研究開発投資の状況(但し、追加割当てを受ける場合のみ記載)、その他取組(カーボンニュートラル実現に向けた戦略等が記載された各社の公表文書(中期経営計画等))を盛り込むことが想定されていましたが※8、事業分野等命令案の別記様式はこれをより具体化し、以下の事項を記載することを求めています。

移行計画書の様式
大項目 中項目 小項目
1.CO2排出量に関する事項 (1) 前年度のCO2排出量
  • 直接排出量(t-CO2)
  • 間接排出量(t-CO2)
  • 合計量(t-CO2)
(2) CO2排出量の目標
  • 5年度分の直接排出量(t-CO2)
  • 5年度分の間接排出量(t-CO2)
  • 5年度分の合計量(t-CO2)
  • 5年度先の削減率(%)
2. 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資その他の事業活動に関する計画 (1) 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資その他の事業活動に関する計画の内容及び期待効果
  • 内容
  • 該当する工場等
  • 着手時期・完了時期
  • 排出削減効果(t-CO2/年)
  • 新規追加か否か
(2) 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する研究開発の内容
  • 出願番号・GX 技術区分又はGI 基金のプロジェクト名
  • 内容
  • 研究開発費用(円)
(3) その他脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する取組に関する事項
(4) 前年度の計画との比較
  • 変更又は削除した計画の内容
  • 該当する工場等
  • 変更又は削除
  • 変更又は削除した理由等

 移行計画は提出後にインターネットで公表されるため※9、制度対象者としては、既存の対外開示(GXリーグ等で示している組織境界・排出実績・2030年目標等)との間における、算定境界(対象範囲)や指標(t-CO₂/t-CO₂e等)の差異を早期に棚卸しし、説明の一貫性が保てる形で移行計画上の目標設定・記載方針を整理しておくことが望ましいといえます。

脚注一覧

※1
なお、本稿において摘示するGX推進法及びGX推進法施行令の条文は、それぞれ令和7年6月4日号外法律第52号及び令和7年12月12日号外政令第412号による改正後の2026年4月1日施行のものを示すものとします。

※2
具体的な手続としては、各制度対象者の法人等保有口座に増加記録をすることになります(GX推進法34条3項)。

※3
「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資を行おうとする事業者に対する脱炭素成長型投資事業者排出枠の割当ての実施に関する指針」の案(以下「実施方針案」といいます。)、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律第三十二条第二項第四号イの主務省令で定める事業分野等に関する命令」の案(以下「事業分野等命令案」といいます。)やGX推進法施行規則案については、E-GOVのWebsiteを参照。

※4
詳細については、GX推進法施行令1条1号、GX推進法施行規則案5条、実施指針案5条・別表1参照

※5
前年度の排出枠の不足量(前年度の保有義務量から前年度の排出目標量を減じた量)に前年度の年間平均取引価格(前年度における排出枠取引市場における排出枠の取引価格の平均額。但し、前年度において一度も排出枠取引市場において取引がされなかった場合には、前年度の参考上限取引価格の額)を乗じた額

※6
注5参照

※8
中間整理108頁

※9
なお、移行計画書に記載の事項には、企業の投資戦略など事業遂行上機微な情報も含まれ得るため、情報開示への配慮が要請されるところですが、中間整理に従えば、上記表2.(1)の設備投資計画・実績に関しては、公表対象から除外することが予定されています(中間整理108頁)。また、上記表中の1.(2)のCO2の排出量の目標値についても、2030年度の値のみを公表することが想定されています(同頁)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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