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EU企業持続可能性DD指令(CSDDD)の改正に関するアップデート

著者等
福原あゆみ
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.116(2026年3月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 企業の人権・環境デュー・ディリジェンスを義務づけるEU企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)については、後述するとおり2024年に採択された後も内容の修正に関する交渉が継続していましたが、2026年2月26日に最終化された内容が公表されました。CSDDDは、日本企業に対してもその影響が波及するものとして注目されており、本稿では、改正されたCSDDDの概要についてご説明します。

CSDDDの採択とオムニバス・パッケージ提出の経緯

 CSDDDは、数年にわたる審議の末、2024年7月に一定規模以上のEU企業及び日本企業を含むEU域外企業を対象に、バリューチェーンの人権・環境デュー・ディリジェンスを義務づける指令として採択されました。同指令は、国連のビジネスと人権に関する指導原則をハードロー化し、バリューチェーンのデュー・ディリジェンスを企業に義務づけるEU全域での包括的な法的枠組みとして先駆的な法規制である一方、欧州の競争力低下や中小企業への負担に対する懸念等から、2025年2月にはオムニバス・パッケージにより、その他のサステナビリティ関連規制も含め、「簡素化」が提案されるに至っていました※1。今般、同年12月10日に、オムニバス・パッケージを基にした修正案が欧州議会とEU理事会で暫定的に合意された後、最終的な内容(以下「最終版」といいます)が確定し、2026年2月26日に官報に掲載されました※2。これにより、官報掲載から20日後の2026年3月18日に発効することになります。

最終化したCSDDDの概要

1. 適用開始時期

 CSDDDは、当初2027年7月から段階的に適用開始されることが予定されていましたが、同年4月には、採択当初のスケジュールから1年延期し2028年7月から段階的に適用開始されることが予定されていました。最終版では、適用開始がさらに1年延期され、EU加盟国は2028年7月までにCSDDDを国内法に反映し、2029年7月から適用開始されることが求められます(当初の企業規模に応じた段階的な適用開始ではなくなりました)。

2. 適用対象企業

 CSDDDは、当初平均従業員数1,000名超かつ全世界での年間純売上高4億5,000万ユーロ超のEU企業、及びEU域内での年間純売上高4億5,000万ユーロ超のEU域外企業が適用対象となっていました。最終版では、適用対象企業が大幅に限定され、平均従業員数5,000名超かつ全世界での年間純売上高15億ユーロ超のEU企業、及びEU域内での年間純売上高15億ユーロ超のEU域外企業が適用対象となりました(連結ベースで同基準を満たすグループの最終親会社も対象となります)。

3. CSDDDにより求められるデュー・ディリジェンス義務

(1) デュー・ディリジェンスの範囲

 CSDDDのデュー・ディリジェンス義務は、当初、自社、子会社、並びに「活動の連鎖」における直接・間接の取引先を対象とした人権・環境リスクの評価と特定したリスクの是正・予防、救済等を求めるものです。リスクの特定・評価プロセスは、一次的なリスクマッピングと特定したリスクの深掘りの2段階に分かれるところ、オムニバス・パッケージでは、2段階目のリスクの深掘りについて原則として直接の取引先までを対象とすることが提案されていたものの、この点は最終版では維持されませんでした。その代わりに企業は、一次的なリスクマッピングの段階では、合理的に利用可能な情報に基づいてリスクが高いと考えられる領域の特定が求められる(事業体ごとのリスクの特定までは不要)とともに、リスクの深掘りの段階でも、複数の領域で同等の発生可能性又は同等の深刻度を有する負の影響を特定した場合、企業は直接の取引先に関わる負の影響の評価を優先できる等の限定が付されることになりました。

(2) モニタリングの実施

 CSDDDは、当初デュー・ディリジェンスの実効性に関するモニタリングを原則として1年ごとに求めていましたが、最終版では原則として5年ごとにモニタリングの頻度が延長されました。

(3) ステークホルダーとの対話

 CSDDDでは、デュー・ディリジェンスの個別プロセスにおけるステークホルダーとの対話(エンゲージメント)を求めています。最終版では基本的な枠組みを維持しつつ、企業の負担軽減のため、ステークホルダーの関与は企業の事業活動等により権利・利益が「直接」影響を受ける又は受ける可能性のある個人又はコミュニティとのみ求められることを明示するとともに、一部の段階※3でのステークホルダーとの協議義務を削除しています。

(4) 取引の終了

 CSDDDでは、当初、企業が人権・環境リスクの是正・軽減のための適切な措置をとっても功を奏しない場合に、最終手段として、取引関係を一時停止しつつ行動計画の策定・実施を求め、当該取組が成功することの合理的な見込みがない場合や行動計画の実施によってもリスクを予防・緩和できずリスクが深刻である場合に取引関係を終了することを義務づけていました。一方、最終版では、オムニバス・パッケージにおける修正提案が反映され、企業はリスクを是正するまでの間に取引関係を一時停止する義務を維持しつつ、取引関係を終了させる義務については削除されています。

4. 気候変動緩和の移行計画

 CSDDDは、当初対象企業に対し、気候変動緩和のための移行計画の策定・実施を求めていました。最終版では、企業の負担軽減のため、この点は削除されています。

5. 制裁と民事責任

 CSDDDは、当初CSDDD違反の場合の損害賠償責任等に関する統一的な民事責任制度を定めることを想定していました。一方、オムニバス・パッケージでは、このような民事責任に関する統一的な枠組みを設けず、加盟国の国内法に基づいて判断することを提案していましたが、最終版でもオムニバス・パッケージでの提案に沿って、統一的な枠組みは設けられず国内法に基づいて判断されることになりました。

 制裁金については、全世界の純売上高の5%を上限とするものとされていましたが、全世界の純売上高の3%(親会社の場合には連結ベースの全世界の純売上高の3%)を上限とすることに修正されました。

おわりに

 2025年は米国の反DEI政策に基づく大統領令の公表等※4に始まり、CSDDDのオムニバス・パッケージの公表及びそれに続く交渉と、「ビジネスと人権」やサステナビリティを巡る様々な動きがあった1年になりました。

 CSDDDの適用開始はさらに1年延期になったものの、内容が最終化したことにより今後ガイドラインやモデル契約条項の策定等が進むことが見込まれますし、EUでは別途強制労働禁止規則も2027年12月から適用開始予定となっています(2026年第二四半期にガイドラインの公表が予定されています)。企業としては、これらの動向にも留意しつつ、自社の人権方針を基に、どのようにサプライチェーン上の人権・環境リスクを特定・評価し、対応したのかについてより説明責任が問われることを念頭において取組を進めることが期待されます。

脚注一覧

※1
2025年4月発行「欧州オムニバス法案やトランプ政権の動向が示唆する『ビジネスと人権』の行方」(本ニュースレター第104号)をご参照ください。

※3
当初CSDDDでは、①負の影響に関する情報収集、②負の影響に関する行動計画又は是正計画の策定、③取引終了又は一時停止、④救済手段の策定、⑤モニタリングのための指標策定の段階においてステークホルダーとのエンゲージメントを求めていたところ、最終版では③と⑤でのエンゲージメント義務が削除されています。

※4
2025年3月発行「企業におけるDEI(多様性)施策の転換を迫る米大統領令の発令と仮差止命令」(NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~第140号)、2025年4月発行「職場でのDEI(多様性)関連の差別に関するガイダンスの公表」(NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~第143号)をそれぞれご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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