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ニュースレター

AIハブを目指すシンガポール:エージェントAIモデルガバナンス枠組の公表

著者等
長谷川良和
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.273(2026年3月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1.エージェントAIモデルガバナンス枠組の公表

  • 2026年1月22日、シンガポール情報メディア開発庁は、エージェントAIのためのモデルAIガバナンス枠組(「本枠組」)を公表した。本枠組は事業者による責任あるエージェントAIの配置に係る世界初の包括ガイドと謳われている※1
  • エージェントAIは、生成AIと比べ、自律的に行動し、新たな情報に適応し、他のエージェントやシステムと相互作用しながら、人間に代わってタスクを実行する点に特徴がある。エージェントAIの使用事例は急速に拡大しており、コーディングアシスタント、カスタマーサービスエージェント及び企業の生産性に係る作業手順の自動化を通じて業務プロセスを変革しつつある。他方、エージェントAIの高度な自律能力は新たなリスクも生じさせることから、人間による有意な制御と監視を通じた適切なリスク管理が重要となる。
  • 本枠組は、事業者に対し、エージェントAIに係るリスクの概要とリスク管理における実務指針を提供するものである。そこで、以下では、本枠組の概要について簡潔に紹介する。

2.エージェントAIの中核要素とリスクとは?

(1) エージェントAIの中核要素

 エージェントAIは言語モデル上で構築されるものであり、簡易なエージェントAIの構成要素は以下のとおりである※2

簡易エージェントAIの中核コンポーネント

(2) エージェントAIのリスク

 エージェントAIは、本質的に言語モデルを基礎とするソフトウェアシステムであることから、大規模言語モデル(LLM)を基礎とするソフトウェアシステムの場合、従来のソフトウェアの脆弱性とLLM固有のリスク(例えば、幻覚、バイアス、データ漏洩、敵対的プロンプト入力)を併有することになる。エージェントAIは現実世界で稼働することから、誤作動が発生すると現実世界で以下のようなリスクを生じさせる可能性がある。

リスク類型 リスクの内容や例
誤った行動
  • エージェントが誤った日付で予約を確定し又は欠陥あるコードを生成する等の誤った行動。悪影響の度合いは、対象となる行動によって異なる。
  • 例えば、欠陥コードは開発セキュリティの脆弱性を帰結する可能性があり、また誤った医療予約は患者の健康状態に悪影響を及ぼす可能性がある。
権限外の行動
  • エージェントが許可又は権限の範囲を超えて行う行動。
  • 例えば、社内規程や標準業務手順に基づく人間の承認を得ない行動等。
偏った又は不公平な行動
  • 異なる特性を有する対象者と取引する場合において不公平な結果を帰結する行動。
  • 例えば、調達における業者選定、助成金支給又は採用決定における偏向等。
データ侵害
  • 機微情報の漏洩や改ざんを帰結する行動。当該情報には個人情報や機密情報(例えば、顧客情報、営業秘密、社内コミュニケーション)が含まれる。
  • 例えば、攻撃者が個人情報を漏洩させるためにエージェントを悪用し、又はエージェントが機密性の認識がない状況で機微情報を開示してしまう例等が挙げられる。
接続システムへの障害
  • エージェントが他のシステムと相互作用する過程で機能障害又は誤作動により接続システムに障害を引き起こす可能性がある。
  • 例えば、製造コードベースの削除や外部システムへの過剰なリクエスト送信等が挙げられる。

3.エージェントAIモデルガバナンス枠組における4領域の概説

 以下では、本枠組が定めるエージェントAIに係る事業者の主要な検討事項の4領域について概説する。なお、本枠組は、自社内でAIエージェントを配置する場合か、第三者のエージェントソリューションを利用する場合かを問わず、エージェントAIの配置を検討する事業者を対象としている。

(1) リスクの事前評価と管理

 事業者は、エージェントから生じる新たなリスクを勘案してその内部組織と手続を適切に構築する必要がある。第一にエージェントの行動がもたらすリスクを理解することが重要であり、かかるリスクは、エージェントが実行可能な行動の範囲、当該行動の可逆性、及びエージェントの自律性レベル等の要因に左右される。かかるリスクの早期管理という観点からは、事業者は計画段階で適切な境界を設計することによりエージェントの影響範囲を限定することが考えられる。例えば、エージェントのツールや外部システムへのアクセスを制限する方法、またエージェント向けの厳格なID管理とアクセス制御を確立することによりエージェントの行動を追跡可能かつ制御可能にする方法等が考えられる。

(2) 事業者による実質的な説明責任

 エージェントAIの配置方針を決定する段階で、事業者は人間による説明責任を確保するための措置を講じる必要がある。エージェントAIの特徴として、その自律的性格が静的な作業手順に紐づく従前の責任分担を複雑化させるリスクがあり、またエージェントの稼働過程の異なる段階で複数の関係者が関与することにより説明責任の所在が拡散するおそれもある。そこで、事業者としては、技術進歩に伴って刻々と変化する状況に順応可能な柔軟なガバナンスを重視し、他方で、事業者内部及び外部業者との関係において各々の利害関係者の責任範囲を明確化することが重要である。

 特に、エージェントの能力向上により懸念が拡大している自動化バイアスに対処するため、リスクの高い分野や不可逆的な行動等に関し、人間による承認を必要とする重要な確認項目をエージェント作業手順に組み込み、また人間による監視が持続的に有効か確認するため定期的な監査を実施することが重要となる。

(3) 技術制御と手続の実践

 事業者は、エージェントの稼働過程全体にわたり技術的措置を講じることにより、エージェントの安全かつ信頼性の高い運用を確保すべきである。開発段階では、新たな攻撃対象領域から生じるリスクの増大に対処するため、計画、ツール、プロトコルといった新たなエージェント構成要素に対して技術的制御を組み込む必要がある。

 また、配置前には、全体的な実行精度、規程順守及びツール使用等の新たな側面を含め、エージェントの基本的安全性と信頼性を精査すべきである。エージェントを評価するための新たな精査手法も必要となる。

 配置中及び配置後は、エージェントが動作環境と動的に相互作用することになり、すべてのリスクを事前予測できる訳ではないため、配置後の継続的監視をしながらエージェントを段階的に展開することが推奨される。

(4) エンドユーザーの責任

 エージェントの信頼のおける配置は、開発者のみならず、責任ある使用を行うエンドユーザーにも依拠している。責任ある使用を可能とするため、ユーザーは、エージェントの動作範囲、データへのアクセス及び自身の責任範囲について基礎的理解を図る必要がある。事業者は、専門技術や基礎能力を維持する一方で、従業員が人間とエージェント間の相互作用を管理し効果的な監督を行うために必要な知識を習得するための研鑽に努めるべきである。

4.今後の対応

 本枠組は、エージェントAIに係るリスクの概要とリスク管理について、政府機関や主要企業とも連携し、現時点における最良の実務を取り纏めたものである。エージェントAIの分野は日進月歩で急速に発展しており、技術や実務の進展に伴って最良の実務も進化することが見込まれる。そこで、本枠組を現時点の指標としつつ、今後の展開や実務動向についても継続的に注視していくことが重要である。

脚注一覧

※2
以下では本枠組から図を抜粋して若干の補足説明を付している。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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