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ニュースレター

【2026年3月施行】ベトナム新投資法 ―投資手続の簡素化・迅速化は実現されるか

著者等
井上皓子
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.274(2026年3月)
業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 ベトナムでは、外国投資家によるベトナムへの直接投資について、投資法(Law on Investment)が適用されており、これはベトナムへの進出にあたってまず検討すべき主要な法令である。今般、投資法が5年ぶりに改訂され、新投資法が2026年3月1日に施行された(1に示す条件付き事業分野については7月1日施行予定)。

 これまで、ベトナム政府は、外資誘致に積極的な姿勢を示しつつも、国内産業保護の観点から、一定の事業分野について外資規制を課し、また、国内投資家による投資活動とは異なる手続きや許認可等を要求してきた。2020年の改正でも、外国投資家の出資割合等に一定の制限が課される外資規制分野をポジティブリストからネガティブリストに変更するなど、外資による投資環境改善に向けた動きが見られた。

 新法では、外国投資家の出資比率制限等、外国投資家にのみ適用される外資規制については従来の規制から大きな変更はない。しかし、外資・内資を問わず適用される諸条件については、条件付き事業分野の見直し、一部事業分野についての事後審査制への移行等、投資環境の改善を目的とする多くの改革が盛り込まれ、実務に与える影響は大きいと思われる。本記事では、新法の変更点のうち、特に実務に与える影響が大きく重要と思われる点について概説する。

1. 条件付き事業分野の見直し

 2020年投資法では、234の事業分野(ただし、このうち2事業分野については施行後に廃止されており、改正前の時点では232事業分野)について条件付き事業分野と指定されていた。これらの条件付き投資分野に該当する事業を行おうとする場合、投資家は、外資・内資を問わず、事業分野毎に業法等で指定された追加のライセンスや許認可等(いわゆるサブライセンス)の条件を満たすことが必要となる。

 新法では、この条件付き事業分野を改めて整理し、198の事業分野を列挙している。その結果、これまで条件付き事業分野とされていた、税務手続き代行、税関手続き、中古品の一時輸入・再輸出、職業紹介サービスなどが条件付き事業分野の対象事業リストから削除されることとなった。これらの条件付き事業分野については、事業進出のハードルが大きく下がることになり得る。また、従前は条件付き事業分野とされていた一部の事業分野については、対象業務の範囲を見直すなどの整理が行われた。例えば、決済サービスの事業分野については、従前の決済仲介サービス等に加え、新たにモバイルマネーサービスがその事業範囲に含まれることが明記された。政府報道によれば、この再編の結果として、新法では38事業分野が削減され、20の事業分野について適用範囲の見直しが行われたとされている。

 また、名称の変更や用語の統一等により、従来と表現や項目立てが変わっているものもある。例えば、2020年投資法の「建設投資プロジェクトのためのプロジェクトマネジメントコンサルティングサービス」(旧104号:Kinh doanh dịch vụ tư vấn quản lý dự án đầu tư xây dựng)は「建設投資プロジェクトのためのプロジェクトマネジメント」(88号:Hành nghề quản lý dự án đầu tư xây dựng)と修正されている。基本的には名称のみの変更で実質的な変更を伴うものではないと理解されるものの、詳細については今後の下位政令等に留意が必要である。

 新法下での条件付き事業分野の該当性については、2020年投資法での記載ぶりも踏まえて、丁寧にその範囲や対象を確認する必要がある。また、新法施行に伴って、各事業分野の業法や下位政令の改正によって、新たな許認可にかかる要件等が追加されないかも留意が必要である。

2. 一部条件付き事業分野の事後審査制への移行

 上記のとおり改訂された条件付き事業分野については、新法7条及び別表において、大きく2つのリストに分類されることとされている。別表1は、「事業開始前に許認可の取得が義務付けられる業種」であり、別表2は、「事後審査制に移行する業種」である。別表2に記載された業種は、これまでの事前認可制から事後的な審査のみで足りることとなった。

 従前はサブライセンスの条件を実質的に満たしていたとしても、その認可を得るまでは事業開始を待つ必要があったが、事後審査制に移行する業種については、その時間が省略できることになり、実務上の期待は大きい。

 もっとも、当該リストは現時点では公開されておらず、本条の施行は7月1日に後ろ倒しされているため、具体的な該当分野や、事後審査制に該当する場合の審査のタイミングや申請書類を含む具体的な手続き等については追って公表されるリストや下位政令、その他のガイドライン等を待つ必要がある。

3. IRC取得前のERC申請が可能に

 従前の投資法では長らく、外国投資家は、原則として投資プロジェクトを策定し、投資登録証(Investment Registration Certificate:IRC)の発行または変更手続きを完了した後にのみ、企業登録証(Enterprise Registration Certificate:ERC)を取得して法人を設立することができるとされていた。これについて、2020年投資法の2025年改正で、特例として、革新的なスタートアップ企業やスタートアップ投資ファンドなど限定的な場合にのみ、IRC取得前のERC申請が可能とされていた。

 新法では、特例として導入されたIRC取得前のERC申請を、原則として可能とし、スタートアップ等に限定しないこととした。ただし、法人設立時点で市場参入条件を満たしていることが要件となる(19条2項)。

 これにより、従来、まずIRCを取得し、IRC取得を前提としてIRC記載内容を盛り込んだERC申請を作成するという手順を踏む必要があり、平均して2~3か月程度を要していた法人立ち上げ期間が短縮されることが期待される。もっとも、具体的な申請方法や、ERC申請を先行する場合の記載内容等の詳細についてはまだ明らかでないところも多く、政府による詳細なガイダンスが待たれるところである。

 また、上記のとおり、ERC設立時点で「法人設立時点で市場参入条件を満たしている」ことが要件となるが、これは、具体的には、当該事業分野について外国投資家による参入が認められていること、外資比率上限や投資形態等にかかる条件を満たしていることなどを指すものと考えられ、外資規制そのものを緩和するものではない。そのため、外資規制の対象となる事業分野や条件付指定分野については、結局、ERC設立時点でこれらの要件を充足しなくてはならず、そのための手続きに時間を要することで時間の短縮にはならないことも想定される。特に許認可については別途業法の規定によるところもあり、具体的な取得時期や手続きの順序等について(例えば、従来どおりの事前承認が必要なのか等)はまだ明確でない部分も多い。

4. 投資政策承認(Investment Policy Approval:IPA)の対象の明確化

 2020年投資法では、業種・規模・内容等によっては、IRC取得の前に「投資政策承認」を得る必要があるとされていたものの、その対象となる事業類型は具体的に規定されておらず、国会、首相、または地方人民委員会といった承認権限主体ごとに、その管轄下に置かれるIPAが必要となるプロジェクトの範囲を規定するという構成が採られていた。

 新法では、IPAの対象となるプロジェクトについて、大きく5つに分類される20のプロジェクト(具体的には、大規模な土地利用・海域の開発、原子力発電、石油・ガス、航空、通信インフラ、大規模な住宅開発、工業団地開発等)を明記した(24条)。さらに、新法では承認権限も明確になり、国会の承認は政策上特に重大なプロジェクトに限定され、その他のプロジェクトについては、一部は首相、その他の多くは省人民委員会主席が承認することになった(25条)。また、工業団地等のプロジェクトかつ承認済マスタープランに適合するものについては、その管理委員会がIPAを承認する仕組みも新たに設けられた(同条4項)。また、承認後のIPA修正が必要な場面も限定し、技術変更等は対象外とした。

 これらの改正により、IPAについてはその対象が明確になり、より使い勝手がよくなることが期待される。

5. 特別投資手続の対象拡大

 2020年投資法及びその下位政令において、特別投資手続という手段により、特例的に通常の手続きを大幅に簡素化することが認められていた。新法は、これらの対象範囲を拡大した。

 特別投資手続が適用される場合、IRC取得に至る手続きのうち、投資政策承認、技術審査、環境影響評価、詳細計画、建設許可、防火・防災承認の事前承認が免除され、原則として申請から15日以内にIRCが発行される(ただし、新法下での発行期限については下位政令が未公布のため未定である。)。これらの事前承認の取得に代えて、投資家は、適用される技術基準や規制を遵守する旨の書面による誓約書や、潜在的な環境影響と緩和策を記載した投資提案書を提出することになる。

 2020年投資法では、この特別投資手続の対象となるプロジェクトは、工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済特区内(以下「特定区域」という。)で実施されるプロジェクトのうち、①イノベーションセンターや研究開発センター、半導体産業等、②優先ハイテク分野、③大規模データセンターや5G以上のモバイルネットワーク等のデジタルインフラ整備等のプロジェクト区内の機能区域で実施されるプロジェクトに限定されていた。

 新法では、特定区域で実施されるプロジェクトであれば、原則として、上記のような業種に限定されず、一般に広く特別投資手続の対象とされることになった。

 工業団地等に進出する多くの日本企業にとっては、特別投資手続の活用は大きなメリットとなり得る。

6. 投資プロジェクト期間の短縮・延長

 2020年投資法では、投資プロジェクトの期間は最大50年であり、経済特区内のプロジェクト等について例外的に70年とされていた(44条)。また、期間の延長は、プロジェクト期間の満了間近の場合にのみ許可されることとなっていた(同条4項)。

 2025年投資法では、経済特区外のプロジェクトの最大事業期間は50年(例外として最大70年まで延長可能)、経済区域内のプロジェクトは70年とする点で従前とは変更がない(31条)。ただし、重要と思われる変更点として、プロジェクト期間の満了近くまで待たずとも、実施期間の途中でプロジェクト期間を短縮・延長できる旨の規定が追加された(同条4項)。もっとも、具体的な要件や手続き等は、法令上は明確にされておらず、今後の下位政令やガイドライン等を待つ必要がある。

7. 投資プロジェクトの譲渡

 2020年投資法では、2023年不動産事業法に基づき、投資家の承認を得たプロジェクトまたはIRCが付与されたプロジェクトのみが投資法に基づく譲渡手続きの対象となるものとされていた。

 新法では、譲渡できるプロジェクトの範囲が拡大され、基本的に、すべてのプロジェクトが譲渡の対象となり得ることになった(51条7項)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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