※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
1. はじめに
米国通商代表部(「USTR」)は、2026年3月11日、製造業部門における構造的な過剰生産能力および生産に関連する、16の経済圏の行為、政策、慣行について、1974年通商法301条(「301条」)に基づく調査を開始しました※1。
さらに翌12日、USTRは、強制労働によって生産された産品の輸入禁止措置を課し、かつ効果的に執行していないとされる60の経済圏の行為、政策、慣行について、別途301条調査を開始しました※2。301条調査と措置は国単位で実施されますが、いずれの調査においても、日本が調査対象国に挙げられています。
第1次トランプ政権は2018年から2019年にかけて301条関税を中国に対して課し、続くバイデン政権はその措置を維持・強化しました※3。その後、対中301条措置は、4年後の法定レビューを経て、現在も維持されています※4。今回開始された調査は、事実上、国際緊急経済権限法(「IEEPA」)関税とそれに続く1974年通商法122条(「122条」)関税に代替する措置として想定されているものの、IEEPA関税や122条関税とは関税を課す枠組みが全く異なるうえ、日本を調査対象国(つまり、措置対象国)としている点で、これまでの対中を含む他の301条調査・措置とも異なるものです。301条の場合、事前調査のプロセスが必須である、関係企業も意見提出の機会がある、また、IEEPAや122条と比較して、より国別・品目別の関税の有無や関税率の違いが出やすい、講じられる措置も追加関税に限られない、調査対象国政府との事前協議実施が義務的である、といった違いがあります。
本ニュースレターでは、301条調査自体の特徴やこれまでの301条調査のプラクティスも踏まえて、調査の概要のみならず、日本も対象の一つとされている今回の301条調査にプロアクティブに対応していく上で理解しておくべきポイントや留意点について、ご紹介します。
2. 301条調査・措置の特徴
(1) 301条措置の発動要件
1974年通商法301条は、一定の場合にUSTRに対して追加関税賦課等の権限(詳しくは、下記(2)を参照。)を与えています。301条は、USTRが措置を行う場合について、①義務的場合(mandatory action。他国の行為、政策、慣行が貿易協定違反である場合、又は、それが正当化できないものであり、米国の通商に負荷又は制限を課している場合。)と、②裁量的場合(discretionary action。他国の行為、政策、慣行が不合理又は差別的であり、かつ、米国の通商に負荷又は制限を課している場合。)の2つに分けて規定しています。
今回の過剰生産と強制労働に関する2件の調査は、いずれも②の裁量的場合として開始されています。
(2) 301条に基づいて実行できる措置の種類とスコープ等
ア 措置の種類
301条に基づいてUSTRが実行できる措置は、調査対象国の一定の産品に対する追加関税の賦課が典型的ですが、それだけに限定されていません。法定されている措置オプションとして、例えば下記が挙げられます。調査対象国のサービス部門の米国市場へのアクセスに制限を課すことも含まれていることに注意が必要です。
-
USTRが適切と認める期間、当該外国の産品に対して関税その他の輸入制限を課すこと(なお、輸入制限としては、関税の形が優先されるべきとされています。)。
-
USTRが適切と認める期間、当該外国のサービスに対して、手数料または制限を課すこと。
-
USTRが適切と認める方法および範囲において、(外国のサプライヤが米国市場内で展開しようとする)サービス部門について、(連邦法に基づく)市場アクセス認可※5の条件を、制限すること。
-
上記サービス部門の市場アクセス認可の発行を、拒否すること。
イ 措置のスコープ等
301条措置の価額レベル、対象、期間は、概要、以下のように定められています。
-
措置は、調査対象国が米国の通商に課している負担・制限と同等の価額レベルでなければならない。
-
調査対象である政策または慣行に当該産品や当該経済部門が関与していたかどうかにかかわらず、調査対象国のいかなる産品や経済部門に対しても、措置を課すことができる。
-
措置は、USTRによる4年ごとのレビューや措置の必要に応じた修正などの一定の条件を満たすことにより、延長することができる。
つまり、301条措置は、少なくとも米国の法制上は※6、調査対象国(例えば、日本)の政策または慣行に問題があると認定された場合、当該調査対象国の多くの品目の産品に広範に関税を課す(または、任意の何らかのサービス部門にアクセス制限を課す)ことが可能となっています。実際、第1次トランプ政権は、対中301条関税において、中国産の計10,640品目に、7.5~25%の追加関税を課しました。
3. 301条調査①(製造業の過剰生産能力)
USTRが3月11日に開始した製造業の過剰生産能力を問題にする調査では、日本を含む16の国と地域(経済圏)が対象にされました。USTRは、例えば以下のような理由を挙げ、対象経済圏における製造業部門の構造的な過剰生産能力および生産に関連する行為、政策、慣行が不当または差別的であるとしています。
-
主要な貿易相手国が国内および世界の需要に見合わない生産能力を拡大させた結果、過剰生産や大規模かつ持続的な米国の貿易赤字、さらには産業の過剰生産能力を引き起こしている。
-
過剰生産能力は、サプライチェーンの米国内への回帰や米国労働者への高賃金雇用の創出に向けた米国の取り組みを損なう。USTRによると、世界の製造業の設備稼働率は75%から75.9%の間にとどまり、健全な稼働率とされる約80%を下回っている。それにもかかわらず、世界の生産が拡大し続けている。
-
製造業部門における構造的な過剰生産能力は、特定の部門における大規模かつ持続的な貿易黒字の存在(米国との貿易収支の構造や性質を含む。)や、特定の経済圏や部門における生産能力の未活用・未使用、あるいは不採算企業の存在によって裏付けられる。
USTRは、米国の生産能力を失わせている過剰生産能力問題が特に深刻な製造業部門として、特に鉄鋼や自動車・自動車部品部門を挙げた上で、以下を問題視する部門として例示しています。
-
アルミニウム、自動車、電池、セメント、化学製品、電子機器、エネルギー関連製品、ガラス、工作機械、機械、非鉄金属、紙、プラスチック、加工食品・飲料、ロボット、衛星、半導体、船舶、太陽電池モジュール、鉄鋼、輸送機器など
日本については、特に以下の問題点が指摘されています。
-
2024年、日本の対米貿易黒字は570億ドルであり、日本は自動車・自動車部品、および、光学・写真・技術・医療機器などの分野で、世界全体に対する財貿易黒字を維持している。対米貿易黒字は自動車部門に大きく偏っており、対米輸出の3分の1以上を占める。
-
利益が出ないまま事業を継続している日本企業の割合の高さは、日本経済における過剰生産能力の表れ。
当面の調査タイムライン
|
2026年3月11日
|
調査開始
|
|
2026年3月17日
|
パブリックコメント提出と公聴会出席申請の受付開始
|
|
2026年4月15日
|
パブリックコメント提出と公聴会出席申請の期限
|
|
2026年5月5日
|
公聴会開始
|
4. 301条調査②(強制労働産品の輸入禁止措置の不実施)
USTRが3月12日に開始した強制労働産品の輸入禁止措置の不実施を問題にする調査では、日本を含む60の国と地域(経済圏)※7が対象にされました。
USTRは、強制労働とは、「もし行わなければ何らかの不利益を被るという恐れのもとで人から強要される労働またはサービスであり、労働者が自発的に申し出たものではないもの」とした上で、次のような問題点を指摘しています。
-
大多数の国では、自国において法律上、強制労働を禁止しているものの、それだけでは、企業が強制労働から利益を得ることを防ぐには不十分である。効果的に施行される強制労働による製品の輸入禁止措置がない限り、たとえ国内で強制労働の使用が禁止されていたとしても、企業は強制労働によって生産された輸入製品を引き続き調達し、使用し、そこから利益を得続けることが可能である。
-
強制労働による製品の輸入が禁止されていない市場では、米国の輸出品は、強制労働によって全部または一部が生産された製品と競争せざるを得ない。そうした市場では、強制労働産品を組み込んだ人為的に低コストに抑えられた輸入品が競争上有利であり、強制労働によって生産された輸入品に依存していない米国企業は、売上や収益を失うだけでなく、市場から締め出される懸念がある。
なお、301条は、不合理な外国の行為・政策・慣行の一つとして、「何らかの形態の強制労働を容認する持続的な行動パターン」を明示的に規定しています。
当面の調査タイムライン
|
2026年3月12日
|
調査開始
|
|
2026年3月12日
|
パブリックコメント提出と公聴会出席申請の受付開始
|
|
2026年4月15日
|
パブリックコメント提出と公聴会出席申請の期限
|
|
2026年4月28日
|
公聴会開始
|
5. パブリックコメントの募集
(1) 第一段階の意見募集が進行中
通常の301条調査においては、まずUSTRによる措置の違法認定の決定がなされ、その後、特定の関税分類コードごとの追加関税率を列挙したリストなどの具体的な措置に関する決定が行われることになります。パブリックコメントについても、これまでの過去の301条調査と同様、迅速性の要請がある場合を除き、原則として、それぞれの決定の前に、二段階に分けて、関係企業等からの意見が募集されることになります。
現在、今回の2つの調査のそれぞれについて、違法認定に関する第一段階目のパブリックコメントの募集が実施されています(提出期限:2026年4月15日)。
現在進行中の第一段階のパブコメ項目の概要(日本に関する項目。強調は筆者による。)
301条調査①
製造業の過剰生産能力
|
301条調査②
強制労働産品の輸入禁止措置
|
-
特定の製造業分野において、構造的な過剰生産能力または生産を創出または維持している日本の行為、政策、慣行があるか
-
当該日本の行為、政策、慣行は、不合理または差別的か
-
当該日本の行為、政策、慣行は、米国の通商に負担をかけているか、もしそうであればその性質と程度
-
当該日本の行為、政策、慣行を301条措置の対象とすべき場合、関税措置および非関税措置を含め、どのような措置を講じるべきか
-
その他考慮すべき事項
|
-
強制労働による産品の輸入禁止措置を日本は有しているか、また当該輸入禁止措置を有効に実施しているか
-
当該輸入禁止措置の不実施は、それはどの程度不合理か、または、米国製品に対する差別にあたるか等
-
当該輸入禁止措置の不実施が、米国の輸出や経済生産の損失、米国製品の価格低下、米国労働者の賃金低下等を通して米国の通商に不利益を与えているか
-
当該問題に対処するためにどのような措置を講じるべきか(関税または輸入制限の水準とスコープ)
-
日本の産品に対する追加関税の対象とされるべき適切な貿易総額
-
その他
|
この第一段階のパブリックコメントとの関係では、措置の大枠との関係でのコメントが焦点となります。したがって、例えば、以下のようなポイントは、関連性が高い問題だと言えるでしょう。
-
そもそも他国での過剰生産問題を米国や欧州等とともに対処してきた日本において、ある特定の製造業セクターに、米国が指摘しているような構造的かつ不合理・差別的な過剰生産能力の問題が存在するのかという点
また、第二段階の決定において、具体的な措置案(追加関税の対象品目と税率等)が決められることになりますので、具体的措置を決定する前段階の大枠の問題として、例えば、以下のようなポイントも、比較的関連性が高い問題だと見られます。
-
少なくとも「過剰生産能力問題」とは無関係なある特定の日本の製品群について追加関税を課す必要があるのかという点
(2) 第二段階の意見募集と対応
第一段階のパブリックコメントや公聴会の結果も踏まえて外国の行為等の違法性が認定されると、次は、具体的な措置案(追加関税の場合には、具体的な関税分類コードごとの追加関税率)が公表され、同時に、それに対して、第二段階のパブリックコメントが募集されることになります※8。
この第二段階のパブリックコメントは、過去の例では具体的な関税対象品目のスコープを大幅に狭めた例もあることから、企業実務的にも重要な修正プロセスです。対中301条関税におけるList 1では、約1300品目であったList案からパブリックコメントのプロセスを経て515品目が除外されました。
対象品目の修正方法には、関税分類コード(HTSUSコード)の削除、コードは残したまま特定の用途への限定、技術的な定義を加え対象を絞るなどの方法があり得るため、修正を求めたい品目に即した緻密なコメントを出すことがポイントです。除外を求める理由付けとしては、一般論としては、そもそも問題行為と無関係であることのほか、米国での製造工程への代替不可能性、米国産業への悪影響、公益や安全への観点などが考えられますが、今回の強制労働産品に関する調査との関係では、トレーサビリティやクリーンサプライチェーンが確保できていることも、提出に値するコメントとなる可能性もあり、各企業が課税除外を求めたい個別の品目と状況を踏まえた個別の検討がポイントとなります。
6. まとめ
301条関税は、第2次トランプ政権が関税政策の第一の選択肢として採用しなかったオプションであり、上記のような調査プロセスの複雑性がその一因であったと言えるでしょう。IEEPA関税が結局違法・無効とされた現在、今後の代替関税措置についても米国国内訴訟で争われるリスクは高まっており、米国政府としても調査と措置の実行は政権初期に比べて慎重に行わなければならない状況になっていると考えられます。
今回の301条調査では、パブリックコメント等を通じた品目の除外が一つの重要なプロセスとなりますので、関係する日本企業におかれては、現時点から関連情報を整理し、特に第一段階および第二段階のパブリックコメントへの対応など、自社の関係する品目への課税が最小限になるよう最善の手段を検討し実行していくことが求められます。
脚注一覧
※4
詳しくは、近藤亮作「WTOアンチダンピング等最新判例解説115 〔米国〕1974年通商法301条に基づく対中追加関税措置の4年後法定レビュー」(国際商事法務 2025年1月号(Vol.53 No.1))もご参照下さい。
※5
市場アクセスに必要な認可がどういった業種のサービス部門に関するものを指しているのかについて301条は明示していません。しかし、以下のような業種に関係するサービスの提供に関連する連邦法上の許認可が広く含まれる可能性があります。農業、アルコール飲料、動物用飼料・医薬品、航空、バイオ製品、通関ブローカー、債権回収、輸出入業、銃器、弾薬・爆発物、魚類・野生生物、食品、投資ブローカー等、医療機器製造、原子力エネルギー・放射線放出製品、医薬品、電気通信・ラジオ・テレビ放送、タバコ、輸送・物流。Congressional Research Service, “Section 301 of the Trade Act of 1974: Origin, Evolution, and Use,” updated December 14, 2020, footnote 65参照。
※6
米国が問題視する政策や慣行と全く無関係な産品に対して関税を実際に課すとすれば、措置の目的と手段が乖離するため、国際通商ルール上での301条措置の正当化はより難しくなります(なお、第1次トランプ政権が発動した対中301条関税は、WTOパネルにおいてGATT違反と判断されました。)。仮にそうした点が多少なりとも考慮されるのであれば、米国が各調査において特に問題視している産業分野に関連する産品について重点的に301条関税が課される可能性もあります。
※7
アルジェリア、アンゴラ、アルゼンチン、オーストラリア、バハマ、バーレーン、バングラデシュ、ブラジル、カンボジア、カナダ、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、エルサルバドル、EU、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、香港、インド、インドネシア、イラク、イスラエル、日本、ヨルダン、カザフスタン、クウェート、リビア、マレーシア、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、ニカラグア、ナイジェリア、ノルウェー、オマーン、パキスタン、ペルー、フィリピン、カタール、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ共和国、韓国、スリランカ、スイス、台湾、タイ、トリニダード・トバゴ、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、イギリス、ウルグアイ、ベネズエラ、ベトナムの60カ国・地域。
※8
ただし、迅速に措置を実施する必要がある場合は、具体的措置の決定がパブリックコメントに先行する場合もあります。その場合は、措置実施後にパブリックコメントが実施されることがあります。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
全文ダウンロード(PDF)
Legal Lounge
会員登録のご案内
ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。
会員登録はこちら