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ニュースレター

【From Singapore Office】裁判例紹介:管財人との個別契約に関する法的手続の開始には裁判所の許可が必要であると判断された例

著者等
カラ・クエック室憲之介(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.39(2026年3月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 会社の破産手続が開始されると、会社の正当な債権者のための回収の最大化が最重要の法益となる。

 会社の資産を枯渇させるような追加費用の発生を回避して清算処理を円滑かつ効率的なものにすることにより債権者の利益保護を図る趣旨で、シンガポール法においては、清算処理中の会社を濫用的な訴訟から保護すべきであると長い間認識されてきた。かかる保護は、2つの方法で行われている:

  1. 2018年倒産・再生・清算法(以下「IRDA」という。)の規定に基づき、裁判所の許可がない限り、清算処理中の会社に対して法的手続を開始することはできない。
  2. 裁判所の許可がない限り、会社のliquidator、すなわち当該会社の清算処理を行う管財人や清算人に対して、いかなる法的手続も提起できない。これは判例法に定められたコモンロー上の原則である。

 この点、会社の清算処理を進める過程で、管財人や清算人が第三者と個別契約を締結する必要が生じることがある。その場合、そのような個別契約から生じる訴訟手続も裁判所の保護の対象となるかどうかが問題となる。

 この問題は、シンガポール高等法院が、最近Kardachi, Jason Alexander and another v Deepak Mishra and others [2025] SGHC 218(以下「本判決」という。)という裁判例で正面から取り上げ、肯定的な判断を示している。本判決は、個人の破産手続(「管財人(private trustees)」と呼ばれる人々によって管理される。)に関するものであったが、本件における裁判所の判断は、会社の清算処理局面においても一定の示唆がありうるものである。

本判決の事案

 実業家のRajesh Bothra氏は、2021年2月21日にシンガポールで破産宣告を受けたが、シンガポールでの破産の影響を避けるために国外に逃亡した。破産したBothra氏の財産の管財人は、Bothra氏のかつての仕事仲間であるDeepak Mishra氏に連絡を取り、Bothra氏の破産前の事情や取引について調査に協力するよう求めた。この調査の一環として、管財人とMishra氏は仲裁条項を含む権利放棄合意に署名した。

 その後、管財人は、Bothra氏がMishra氏、その妻、およびその関連会社に対して行った数々の取引を取り消すため、裁判手続を開始した。これらの取引を取り消す理由は、特に、割安であったこと、無許可であったこと、偏頗性が認められるといった事情であった。

 Mishra氏はその後、裁判所の事前の許可は求めなかったものの、権利放棄契約に基づき、管財人に対して仲裁を開始した。Mishra氏は、管財人が裁判手続を開始することにより、権利放棄契約に以下の点で違反したと主張した。(1) Mishra氏が提供した書類を使用して同氏に対する法的手続を開始したことによる、黙示の誠実義務違反、および(2) Mishra氏が提供した書類は、管財人がBothra氏の破産前の事情や取引に関する調査の目的に限って使用できるという黙示の合意違反。

 その後、管財人は裁判所に対し、Mishra氏が仲裁手続を開始するために裁判所の許可を求めていなかったことの確認を求め、Mishra氏が仲裁手続をさらに進めることの差止を申し立てた。

裁判所の許可

 裁判所は、倒産手続における管財人に対して、仲裁手続を含む手続を開始する前には、まず裁判所の許可を求める必要があるとして、管財人の主張を支持した。Mishra氏の請求が、管財人との間で締結された倒産後の個別の契約から生じたという事実は、この原則の例外とはならなかった。

 裁判所は、裁判所の許可を必要とする根拠は、「濫用的な請求から生じる不必要で費用のかかる法的手続を回避し、債権者一般への追加的な出費を避けるため」であると強調した。債務超過当事者の財産を保護するという政策的利益は、管財人が第三者と個別契約を締結した場合にも、同様に妥当すると判示している。

 さらにMishra氏は、仲裁手続は裁判所の許可が必要であるという原則の例外であると主張するために、IRDA第420条2項(倒産当事者が倒産前に締結した仲裁合意で、破産を管理する管財人が援用したものは「執行可能」であるとする規定)に依拠しようとしていた。しかし、裁判所はこの主張も認めなかった。仲裁合意が執行可能かどうかと、裁判所の許可が必要かどうかは別問題であると判示した。

遡及的許可申立

 また、Mishra氏は、本件で仲裁手続を開始するための裁判所の遡及的な許可も申し立てていた。なお、遡及的に裁判所の許可を求めることは、濫用的な請求や清算処理を遅らせる可能性のある請求をふるい落とすという目的に資するため、一般的に認められている。

 しかし、裁判所は、本件では当該請求に「理由があるとみえることについての疎明」という要件が満たされていないとして、Mishra氏がKardachiの管財人に対して仲裁を開始することを遡及的に許可しなかった。というのも、Mishra氏と管財人との間で交わされた権利放棄契約には完全合意条項が含まれており、この条項には、他のいかなる条項も契約に含まれないことが明確に規定されていたからである。そのため、Mishra氏は、契約上の黙示の合意を立証することができなかった。

結論

 ビジネス契約で仲裁合意が浸透していることを考えると、倒産手続が係属している状況においてシンガポールの裁判所が強力に保護する公益に留意し、仲裁を開始する前に関連する前提条件が満たされていることを確認することが重要であろう。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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