論文/記事
実務での有効活用が期待される信託契約・貸付特約の書式例
(2026年4月)
大野一行(共著)
- ファイナンス
- バンキング
- 事業再生・倒産
Publication
ニュースレター
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
中東情勢の緊迫化に伴う燃料価格の高騰が続いている状況を踏まえて、2026年3月に帝国データバンクが公表した「燃料費の高騰が企業に与える影響度調査」※1によると、運輸業においては、2025年平均の燃料小売価格(レギュラー:177円/L相当)をベースに、燃料費が30%上昇した場合には、営業利益の約8割が消失し、4社に1社が赤字に転落するという衝撃的な試算が示されています。
このような状況を踏まえ、政府・各省庁が各種支援施策を実施・検討しているほか、金融機関や地方自治体の中には既に相談窓口を設置し、融資やリスケジュール(返済期限の猶予)等の資金繰り支援を開始するという動きもあります(下表参照)。また、金融庁による、金融業界に対する中小企業の資金繰り支援の緊急要請に関する報道もなされていますので、引き続き、これらの動向を注視する必要があります。
もっとも、運輸業の事業者としては、中東情勢による影響や、各種支援施策がいつまで継続されるか等を正確に予測することは難しく、「令和のオイルショック」とも呼ばれる現在の状況下で、①燃料費は上がっているのに、顧客からもらう運賃は変えられない、②売上は立っているのに、現金が残らない(減る)といったジレンマに直面する事業者も少なくありません。このような状態は、典型的な「黒字倒産」の入口といえます。
実務上、運輸業の事業者としては、このような局面で資金繰りを維持・改善するためには、金融機関に対して新規融資やリスケジュールを依頼するだけでは足りず、顧客との契約構造の見直しもセットで検討することが重要です。一方で、運輸業の事業者から資金繰りに関する相談を受けることになる金融機関としても、新規融資やリスケジュールの判断に際し、単に事業者の貸借対照表、損益計算書及び資金繰り表等の財務資料を確認するだけではなく、「この会社は契約構造からみて資金繰りを改善できるのか」といった点についても検討し分析する必要性が高まっています。
そこで、本ニュースレターでは、運輸業において、事業者と金融機関の双方にとって見落とされがちな資金繰りに直結する契約リスクを整理し、今すぐ取るべき対応を実務的に解説します。
【支援施策(一部)】
| 経済産業省資源エネルギー庁※2 | 緊急的激変緩和措置として、2026年3月19日出荷分より、ガソリンの全国平均小売価格を170円/L程度に抑える措置(軽油、重油、灯油についてはガソリンの同額の補助)を開始 |
| 中小企業庁※3 |
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| 東京都、神奈川県、埼玉県、静岡県、愛知県、長野県ほか多数 |
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| 東和銀行、トマト銀行、十六銀行、琉球銀行、千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行、京都銀行、滋賀銀行ほか多数 |
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現在の運輸業界を取り巻く状況を整理すると、下表のように、単なるコスト増以上に資金繰りが悪化しやすい構造的な問題が見えてきます。資金繰り悪化の本当の原因は「コスト」ではなく、「契約で固定された条件」にあります。燃料代等のコストが上がっても、契約構造が変わらない限り資金流出は止まりません。運輸業の事業者としては、損益計算書上の利益だけでなく、キャッシュフローの推移を週次や月次といった適時に把握し、顧客との契約における改善すべき運賃等の契約条件の設定について見直しを急ぐフェーズに来ています。
【主な構造的問題】
| 燃料価格の動向 | 燃料価格は日々変動しますが、地政学リスクにより、燃料価格の高止まりが続いており、一般的に利益率の低い運輸業では、わずかな燃料価格の変動が企業の利益に大きな影響を及ぼす可能性があります。 |
| 価格転嫁の限界 | 顧客との契約上、運賃(価格)は据え置き(固定)になっていることが多いです(燃油サーチャージが契約条件として定められていることは多くはありません。)。そのため、燃料価格が急騰した場合には顧客との価格交渉が必要になりますが、価格交渉のハードルは相応に高く、また時間もかかるため、燃料費や人件費等のコスト上昇分を運賃に転嫁できている企業は限定的です。 |
| 人件費の上昇 | いわゆる「物流の2024年問題」以降、運輸業界は全体的に人手不足であるため、人材確保のために、一定の賃上げが必要になることが多く、その場合には、燃料費と人件費がダブルパンチで資金繰りに影響を及ぼすことになります。 |
| 入金と支払のサイトの問題 | 顧客からの運賃の入金よりも先に燃料代や給与の支払いが発生するため、入金と支払の時期(サイト)のずれによっては、利益が出ていても手元資金が枯渇しやすいという構造があります。 |
| 車両の購入(リースを含む。)及び修繕の支出 | 運輸業の事業継続には、車両の購入やリース、修繕等のために、一定規模の支出が必要になるため、特に、顧客との契約上、運賃によってこれらの支出がカバーできるような契約条件になっていない場合には、構造上、支出の度に資金繰りが徐々に悪化することになります。 |
運輸業の経営者として、「仕事はあるから大丈夫」という楽観視は禁物です。現在の倒産動向を見ると、件数はリーマンショック時に迫る勢いで増加しており、特に「人手不足・燃料高」を背景とした息切れ型の「黒字倒産」も目立ちます。上記のような構造的な問題を踏まえると、特に運輸業の事業者が留意しておくべき「黒字倒産」のメカニズムは、以下のとおりに整理できます。
新規融資を受けて一時的に資金を補填したり、リスケジュールによって一時的に資金の支出を少なくしたりしても、契約構造が変わらなければ同じ問題が再発します。つまり、新規融資やリスケジュールは「時間を買う手段」であり、根本解決のための手段とはならないことに留意が必要です。そのため、運輸業の事業者が金融機関に対して新規融資やリスケジュールを依頼する場合であっても、逆に、金融機関として燃料価格高騰に伴う資金繰り支援を検討する場合であっても、単純なコスト増加の現象だけでなく、合わせて契約構造の見直しによる収益改善施策についても検討/確認することが必要となります。
顧客との契約交渉(特に運賃の値上げ交渉)のハードルは相応に高く、時間もかかります。また、資金繰りや与信の状況が悪化すると、運輸業の事業継続に必須な車両の購入が困難になったり、リース契約の条件が悪化(リースが組めない、頭金を多く求められる等)したりする可能性もあります。そのため、契約構造の見直しには、早期に着手することが極めて重要です。
運輸業の事業者が契約構造の見直しに着手し、金融機関がその状況を確認するという場面では、実務的な観点から、主として以下のポイントを検討/確認することが重要です。顧客との契約構造の見直しは、相手のある事項であり、運輸業の事業者における当該顧客への依存度や力関係によってもその難易度は変わりますが、事前に各顧客との契約内容を確認し、戦略を立てた上で、顧客との契約交渉に望む必要があります。
| 契約条件(運賃)が適切か | 顧客との契約上、特に、長期間(例えば1年以上)、同じ固定の単価が続いている場合には、長年のコスト増が適切に運賃に反映されていない可能性が高いと考えられます。改めて、顧客の運賃が適切かどうか(燃料代、自社ドライバーの人件費及び外注費(傭車費)だけでなく、当該顧客の売上げに応じて、倉庫の賃料、間接費、車両の購入・修繕費等もカバーされているか等)を見直し、顧客に対し、契約条件(運賃)の変更の必要性を合理的に説明できるように準備することが重要です。 |
| 契約期間・更新のタイミング | 実務的な観点からは、契約期間中に契約条件(運賃)を変更するよりも、契約更新のタイミングで適切な契約条件(運賃)を求める方がハードルは低いと考えられるため、各契約の契約期間・更新のタイミングをチェックするのも1つの戦略です。また、もし、基本契約等で運賃を設定しておらず、個別契約又は個別の受発注書で都度運賃を決定している顧客がいれば、そのような顧客から運賃改訂を求めることも考えられます。 |
| 価格調整条項の有無 | 燃油サーチャージ等の価格調整条項については、契約条件として定められていることは多くはありませんが、中東問題を契機に、一時的であっても、価格調整条項を入れる余地がないかも検討することが考えられます。 |
運輸業の事業者における資金繰りの悪化は、突然起きるものではなく、顧客との契約の中に既にその兆候が潜んでいます。金融機関による新規融資やリスケジュールだけではこの問題を根本的に解決することはできません。運輸業の事業者としては、中東情勢の緊迫化を契機に、顧客との契約構造の見直しについて、先手を打って、早期に着手するべきタイミングが来ており、金融機関としても、かかる見直しの状況について注視することが求められます。
今後も、弊所は、中東情勢の変動や運輸業の動向を踏まえ、重要な情報提供を続けて参ります。
※1
「燃料費の高騰が企業に与える影響度調査」(帝国データバンク)
※2
「イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置について」(経済産業省資源エネルギー庁)
※3
「中東情勢等を踏まえた中小企業・小規模事業者向け支援について」(中小企業庁)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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