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ニュースレター

公益通報者保護法に基づく「法定指針」及び「指針の解説」の改正について~令和7年改正法の施行を見据えた実務指針のアップデートと事業者のとるべき措置~

著者等
渡辺翼末吉航(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.118(2026年4月)
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ニュースレター

業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2025年12月10日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が公布され、同年6月4日に成立した同法が2026年12月1日から施行されることとなりました(以下、改正後の公益通報者保護法を単に「改正法」といいます。)。

 公益通報者保護法に基づいて事業者がとるべき措置に関しては、従前より「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」(以下「法定指針」といいます。)及び「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針の解説」といいます。)によって、実務上重要となる具体的な解釈基準等が示されてきたところですが、公益通報者保護法の改正を受けてこれらについてもアップデートされることとなり、法定指針の改正案についてのパブリック・コメント手続を経て※1、2026年3月31日、正式に改正後の法定指針※2及び指針の解説※3が公表されました※4。当職らも、当該パブリック・コメント手続において、内部通報事案対応に関わる法曹実務家としての視点から意見を提出し、その一部について法定指針の解釈を明確化する観点で有意義と考えられる回答を得ました。

 本ニュースレターでは、改正法の概要を振り返るとともに、今般行われた法定指針及び指針の解説の主な改正内容並びに改正法の下で事業者がとるべき措置について、法定指針の改正案についてのパブリック・コメント手続における消費者庁の回答(以下「パブコメ回答」といいます。)を踏まえ概説します。

改正法及び法定指針の改正内容の概要

 2026年12月1日から施行される改正法では、現行の公益通報者保護法と比較して、公益通報者として保護される者の範囲が拡大されるとともに公益通報者の保護が拡充され、それに対応して事業者に対する体制整備義務やその履行確保のための行政権限、公益通報を理由とした不利益取扱い抑止のための罰則等の強化が図られています※5。そして、今般行われた法定指針の改正では、改正法において新たに追加・変更された概念等についての用語の説明が追加され、その解釈の明確化が図られるとともに、事業者がとるべき措置の具体的内容が追記されています※6

 改正法及びこれを受けた法定指針の改正内容の概要については、表1のとおりです。

表1 改正法※7及び法定指針の改正内容の概要

項目 改正法の規定 法定指針の主な改正内容
① 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
体制整備義務
  • 体制整備義務の例示として、整備した公益通報対応体制についての労働者等に対する周知を明示(改正法第11条第2項)
  • 公益通報対応業務従事者指定時には、これに伴い「法第12条に定める守秘義務が課されること及び法第22条に定める罰則の適用対象となり得ること」を含め「従事者の地位に就くこと」が、従事者となる者自身に明らかとなる方法を用いる必要があることを明示(第3の2)
  • 「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」、「公益通報対応業務の実施に関する措置」、「公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置」について、内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合においても、これらの措置が必要になることを明示(第4の1(2)~(4))
  • 事業者がとるべき措置として「労働者等に対する周知に関する措置等」の内容を詳細に規定(第4の3(3)~)
実効性向上のための行政措置

  • 刑事罰
  • 公益通報対応業務従事者の指定義務に違反する事業者に対し、勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を追加(改正法第15条の2第2項、同第21条第2項第1号、同第23条第1項第2号)
  • 事業者による公益通報対応業務従事者の指定義務の履行を確保するため、行政機関による立入検査権限を追加(同第16条第1項)
  • 事業者による公益通報対応業務従事者の指定義務の履行を確保するための報告徴求に対する報告懈怠・虚偽報告、立入検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を追加(同第16条第1項、同第21条第2項第2号、同第23条第1項第2号)
② 公益通報者の範囲拡大
公益通報者の範囲
  • 事業者と業務委託関係にある特定受託業務従事者(フリーランス)及び業務委託関係が終了して1年以内の特定受託業務従事者を追加(改正法第2条第1項第3号)
  • 上記特定受託業務従事者に対し、公益通報をしたことを理由として、業務委託に係る契約の解除、取引の数量の排除、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いをすることを禁止(同第5条)
  • 「特定受託業務従事者」及び「特定受託業務従事者であった者」についての用語の説明を追加し(第2)、公益通報者の対象者に関連する各種の規定においてこれらの者を追加
③ 公益通報を阻害する要因への対処
公益通報の阻害・妨害
  • 事業者が、労働者等に対し、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意等を無効とする(改正法第11条の2各項)
  • 事業者が、正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止(同第11条の3)
  • 「通報妨害」及び「通報者探索」についての用語の説明を追加(第2)
  • 事業者の体制整備義務として、正当な理由のない「通報妨害」及び「通報者探索」が行われることを防ぐための措置をとる必要がある旨及びこれらが行われた場合に懲戒処分その他適切な措置をとる必要がある旨を明示(第4の2(2))
④ 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
公益通報を理由とした不利益な取扱いの禁止
  • 公益通報をしたことを理由として、公益通報者である労働者に対し事業者が行った解雇等特定不利益取扱い・労働者派遣契約の解除は無効とする(改正法第3条第2項、同第4条第2項)
  • 同第3条第2項の適用については、公益通報をした日(行政機関又は報道機関等への公益通報であって、事業者が当該公益通報を知って解雇等特定不利益取扱いをした場合は、当該事業者が当該公益通報を知った日)から1年以内の解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報を理由としてされたものと推定する(同第3条第3項)
  • 「不利益な取扱い」についての用語の説明を追加し、「地位の得喪に関すること」、「人事上の取扱いに関すること」、「経済待遇上の取扱いに関すること」、「精神上・生活上の取扱いに関すること」のそれぞれのカテゴリーについて具体例を例示(第2)
違反時の刑事罰
  • 公益通報を理由として解雇等特定不利益取扱いをした者に対する刑事罰(個人に対する法定刑は6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人に対する法定刑は3,000万円以下の罰金、両罰規程)を追加(改正法第21条第1項、同第23条第1項第1号)
  • 公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する分限免職又は懲戒処分をした者に対する刑事罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を追加(同第9条、同第21条第1項)

法定指針の改正内容と事業者のとるべき措置

 以下では、表1で記した法定指針の主たる改正内容について詳述するとともに、これを受けて事業者のとるべき措置について概説します。

1. 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上

(1) 公益通報対応業務従事者を指定する方法について

 法定指針の改正により、事業者が「公益通報対応業務従事者」(改正法第11条第1項。以下、単に「従事者」といいます。)※8を定める際は、書面による指定をすること等を通じて、①従事者の地位に就くことにより改正法第12条に定める守秘義務が課されること、②及び当該守秘義務に違反した場合には改正法第22条に定める罰則の適用対象となり得ることが、従事者となる者にとって明らかとなるような方法で行う必要があることが明示されました※9

 現在でも、社内規程で法務部やコンプライアンス部の通報業務担当者をあらかじめ従事者として指定したり、通報を端緒とする社内調査を行う都度、調査担当者を従事者として指定し、その旨を記載した書面を交付したりする実務が一般的になっていると考えられますが、今後そのような対応を行うに当たっては、社内規程や指定書面等に、上記事項を明確に記載しておくことが望ましいといえます。また、従事者指定の事実を記録するため、従事者の氏名・所属部署・従事者に指定した日等を記載した書面を作成・管理しておくことも推奨されています※10

(2) 内部公益通報以外の公益通報に係る調査等を行う場合の措置について

 法定指針の改正により、事業者が、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報以外の公益通報(処分等の権限を有する行政機関等やその他の外部組織への通報※11に加え、内部公益通報受付窓口を経由しない内部公益通報を含みます※12。)に係る通報対象事実についての「調査及び是正等の対応が必要な場合」においても、以下の対応が求められることが明示されました※13

  • 独立性の確保
    組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとること
  • 調査実施及び是正措置
    必要な調査を実施し、その結果、法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとること、及び通報対象事実の是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとること
  • 利益相反の排除
    事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとること

 もっとも、実際には、行政機関や報道機関等、事業者外部への公益通報があった場合において、当該事業者が、当該公益通報がなされたこと(又はその可能性があること)を認識することは事実上困難である場合も多いと考えられます。この点については、パブリック・コメント手続において当職らが提出した意見に対し、消費者庁から「事業者が当該通報を認知する手段等も含め対応は各事業者によって異なると考えられることから、内部公益通報以外の公益通報に関する独立性確保の措置等について、『調査及び是正等の対応が必要な場合』として規定しているものです。このため、内部公益通報以外の公益通報の存在又は内部公益通報以外の公益通報であることの可能性を認識した場合には、その時点で『通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合』に該当するかどうかを判断の上、独立性確保等の措置を講ずることが求められます。」との回答がなされています※14。当該回答を踏まえれば、外部組織等への公益通報がなされた可能性を認識する以前において上記措置を実施できていなかったことをもって、事業者が法定指針違反であるとの指摘を受ける可能性は低いと考えられる一方で、事業者がこれを認識した時点においては、独立性確保・利益相反の排除等の措置の必要性を判断すること、及び必要に応じて当該措置をとることが求められることになると考えられます。

(3) 労働者等に対する周知に関する措置について

 法定指針の改正により、事業者は、労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者(以下「フリーランス」といいます。)及び特定受託業務従事者であった者(以下「元フリーランス」といいます。)※15に対し、公益通報者保護法及び以下の事項について周知・啓発を行う義務があることが明示されました(法定指針第4の3(3)。なお、改正法第11条第2項で明示されている周知義務は、「労働者等」に対するものですが、改正後の法定指針では、「労働者等」に加え、役員や退職者、フリーランス及び元フリーランスも周知の対象とされていることに注意が必要です。)。

  • 内部公益通報窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法
  • 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置の内容
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容
  • 不利益な取扱いの防止に関する措置の内容
  • 範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容
  • 是正措置等の通知に関する措置の内容
  • 記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置の内容※16
  • 公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項

 かかる周知義務について事業者のとるべき措置としては、事業者の役職員が制限なく閲覧可能なポータルサイト(社内イントラサイト等)においてこれらの事項を確認可能な状態にしておくこと等が考えられますが、通常、社内イントラサイト等へのアクセス権限を持たないフリーランスに対しては追加的な対応が必要になる可能性があります。事業者がフリーランスに対し業務委託を行う際には、取引条件を書面や電磁的方法で明示すると同時に、上記事項に関する概要を記載した書面を交付すること等も検討に値します※17

2. 公益通報者の範囲拡大

 改正法の下では、現在事業者と業務委託関係にあるフリーランス※18及び業務委託関係が終了して1年以内の元フリーランスも、役務提供先に関する通報対象事実について「公益通報」を行えるようになり(改正法第2条第1項第3号)、役務提供先等に対して行う公益通報は「内部公益通報」として扱われます※19。これに伴い、事業者は、これらのフリーランス及び元フリーランスを法定指針が定める各種の措置の対象とする必要があることになります。

 具体的には、常時使用する労働者が300人を超える事業者は、少なくとも、現在業務委託関係にあるフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内の元フリーランスが利用できる公益通報窓口を設置することが必要になります(改正法第11条第2項)。さらに、コンプライアンス経営を推進し、経営上のリスクに係る情報の早期把握の機会を拡充するという観点から、内部公益通報窓口の利用者には、通報の日から1年よりも前に業務委託関係が終了した元フリーランスも含めることが推奨されています※20

 また、上記1.のとおり、現在業務委託関係にあるフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内の元フリーランスに対しても内部公益通報体制等に関する周知・啓発が求められるようになったほか、「内部公益通報窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要」の開示を行うことも求められています(法定指針第4の3(2)ハ)。加えて、公益通報をしたことを理由とした、これらのフリーランス及び元フリーランスに対する「不利益な取扱い」も禁止されることになり、下記4.のとおり法定指針が例示する「不利益な取扱い」のうち、特に「業務委託に係る契約の解除」、「業務委託に係る取引の数量の削減、業務委託に係る取引の停止、業務委託に係る報酬の減額」等はこれらのフリーランス及び元フリーランスにも該当し得る「不利益な取扱い」であると考えられます※21

3. 公益通報を阻害する要因への対処

 改正法第11条の2及び同第11条の3は、事業者は「正当な理由」なく公益通報の妨害や公益通報を行った者の特定をしてはならない旨(通報妨害・通報者探索の禁止)を定めており、これに対応する形で、改正後の法定指針も、公益通報者を保護する体制の整備として、事業者が次の措置をとることを求めています。

  • 法第11条の2第1項の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が、通報妨害行為を行うことを防ぐための措置
  • 法第11条の3の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が、通報者探索を行うことを防ぐための措置

 改正後の指針の解説においては、内部公益通報の場合のみならず、「法第2条第1項に定める『行政機関等』や『その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者』に対する公益通報について」も、これらの「通報妨害行為及び通報者探索が防止される必要があり、同様の措置がとられる必要がある」とされています※22

 通報妨害に該当し得るような通報の制限等を行う「正当な理由」の一例として、改正後の指針の解説においては、「労働者に対して、特段の根拠もないのに単なる思い込みで報道機関や取引先等に通報行為をしないよう文書又は口頭で求めることは該当し得る」とされているものの、通報妨害は公益通報を萎縮させる危険が類型的に大きく、原則的には許容されないとの考え方が示されています※23

 また通報者探索を行う「正当な理由」の一例として、改正後の指針の解説においては、「匿名の通報について、通報者が具体的にどのような局面で不正を認識したのか等を特定した上でなければ、必要な調査や是正ができない場合」において、守秘義務を負う従事者が、調査の中で通報者の特定につながり得る質問を行うことが該当し得るとされているものの、こちらも通報妨害同様に原則的には許容されないとの考え方が示されており※24、実務上も、原則的に通報者の特定につながり得る質問を避けて通報対応を行うことができないかを検討すべきと考えられます。

4. 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

(1) 「不利益な取扱い」に該当する取扱いの例示

 改正後の法定指針では、公益通報をしたことを理由として行うことが禁止されている「不利益な取扱い」の内容が、以下のとおり新たに例示されました※25

  • 地位の得喪に関すること(解雇、退職の強要、正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと、あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に当該回数を引き下げること、本採用・再採用の拒否、懲戒解雇、休職、労働者派遣契約の解除、業務委託に係る契約の解除等)
  • 人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配置の変更・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと、不利益な自宅待機を命ずること、けん責等の懲戒処分、派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと、公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めること等)
  • 経済待遇上の取扱いに関すること(減給、賞与・一時金・退職金等において不利益な算定を行うこと、業務委託に係る取引の数量の削減、業務委託に係る取引の停止、業務委託に係る報酬の減額、役員報酬の減額等)
  • 精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)

 このうち、「精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)」は他の項目に比して例示が抽象的ですが、改正後の指針の解説においては、例として、「公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、もっぱら雑務に従事させること等の行為」がこれに該当する可能性があるとされています※26

(2) 濫用的通報について

 改正法では、公益通報をした日(行政機関又は報道機関等への公益通報であって、事業者が当該公益通報を知って解雇等特定不利益取扱いをした場合は、当該事業者が当該公益通報を知った日)から1年以内の解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報を理由としてされたものと推定する旨の、実務上非常に大きな影響を有する規定(改正法第3条第3項)が新設されましたが、今般改正された法定指針や指針の解説では、この点について特段の定めは設けられませんでした。

 法定指針の改正に当たってのパブリック・コメント手続においては、改正法における上記推定規定に関連して、濫用的な公益通報が行われるおそれについて多数の意見が寄せられましたが、これについて消費者庁は「事業者の適切な内部通報対応を阻害したり、風評被害などの損害を生じさせるおそれがある濫用的通報については、令和6年12月27日に取りまとめられた『公益通報者保護制度検討会』の報告書の内容も踏まえ、まずは実態調査の実施を検討してまいります。」との回答を行うにとどめています※27

 上記パブコメ回答の内容及びこれが引用する公益通報者保護制度検討会報告書※28では、「公益通報者保護制度の健全な運営を確保する観点から、事業者の適切な内部通報対応を阻害したり、風評被害などの損害を生じさせるおそれがある濫用的通報の抑止が必要であり、消費者庁は、濫用的通報の実態を調査し、その結果を踏まえて、対応を検討すべきである。」との指摘がなされていることを踏まえると、この点については、今後、消費者庁により実態調査が行われ、その結果を踏まえた解釈指針の明確化等が図られることが想定されることから、事業者としては、引き続き実務の動向を注視する必要があると考えられます。

おわりに

 法定指針は、公益通報者保護法において定められる事業者がとるべき措置を具体化するものであり、また、事業者は、法定指針において求められる事項について「内部規程において定め、また当該規定の定めに従って運用する」ことが明示的に求められています(法定指針第4の3(6))。そして、今般の改正によって法定指針に規定された各種事項の中には、既に存在する実務上の運用を変更するにとどまらず、内部通報規程等の内部規程の変更まで必要になると考えられる事項も多数存在します。

 事業者においては、この機会に、自社の公益通報対応体制が十分なものなのかを確認した上で通報対応体制について一般的な見直しを行うことも含め、2026年12月1日の改正法及び改正後の法定指針の施行までの間に、弁護士等の専門家の意見も取り入れながら必要な対応を進めることが望ましいといえます。

脚注一覧

※1
2025年11月10日、改正法に対応した法定指針の改正を行うため、消費者庁から「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針の一部を改正する告示(案)」が発表されると同時に、当該改正案はパブリック・コメント手続に付されました。その後、2026年3月31日、改正後の法定指針及び指針の解説の公表とともに、消費者庁は、上記改正案に寄せられたパブリック・コメントに対する回答として「『公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針の一部を改正する告示(案)』に関する御意見募集の結果について」を公表しました。

※4
なお、改正された法定指針及び指針の解説のいずれも、改正法と同様に2026年12月1日から施行されるものとされています。

※5
改正法の概要については、2025年8月発行の「公益通報者保護法改正を見据えた『公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱い』の認定について」(危機管理・コンプライアンスニュースレターNo.111)をご参照ください。

※6
このほか、法定指針には、改正法によって現行法から変更されていない内容についても、一部確認的に規定を追加している旨のパブコメ回答がされている改正内容があります。

※7
表1における①~④の分類は、消費者庁Webサイトにおいて公表されている資料(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(概要)」)における分類に従ったものです。

※8
事業者は、内部公益通報窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行い、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めておく必要があります。

※9
法定指針第3の2。これは、改正法における改正内容とは直接関連しない点ですが、この機会に法定指針においてこのような改正を行う趣旨について、当職らがパブリック・コメント手続において質問したところ、消費者庁は「法において、従事者指定義務に反する事業者に対する命令権・罰則が導入されることも踏まえ、従事者となる者が従事者業務に係る義務の内容等を明確に認識した上で当該業務に就くことは公益通報対応体制を適切に整備するという観点からも重要な点と考えられることから、従事者の指定方法について、改めて確認的に規定したもの」と回答しています(パブコメ回答23頁)。

※10
指針の解説6頁

※11
例えば、事業者内の不正等について、内部公益通報以外の公益通報がなされたこと(その可能性がある場合を含みます。)を行政機関による調査の実施や報道機関による報道等で認知する場合等がこれに該当します(パブコメ回答29頁)。他方で、内部公益通報以外の公益通報がなされた場合でも、事業者に責がなく当該通報対象事実を認識できない場合は、これに該当しないとされています(パブコメ回答26頁)。

※12
指針の解説9頁

※13
法定指針第4の1(2)~(4)。この点について、消費者庁は「第11条第2項の「公益通報者」には、内部公益通報を行った者のみならず、処分等の権限を有する行政機関(2号通報先)やその他外部(3号通報先)への公益通報を行った者も含みますところ、それらを確認的に規定したもの」と回答しています(パブコメ回答25頁)。

※14
パブコメ回答29頁。なお、下線・太字は当職らによるものです。

※15
ただし、改正法において役務提供先への通報が内部公益通報となり得るフリーランス及び元フリーランス(すなわち、事業者との業務委託関係が終了して1年以内の元フリーランス)に限られます。

※16
本事項についてのみ、退職者及び元フリーランスに対する周知・啓発は不要とされています(法定指針第4の3(3)柱書)。

※17
この点について、消費者庁は「退職者や特定受託業務従事者であった者を含め、周知・啓発の方法は事業者ごとに様々であると考えられ」ると回答しており(パブコメ回答54頁)、合理的な範囲において、事業者ごとに適切と考えられる周知・啓発方法をとることが許容されていると考えられます。

※18
フリーランスは、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第2条第2項を引用する方法で定義されており(改正法第2条第1項第3号)、①業務委託の相手方であって個人かつ従業員を使用しないもの、及び②業務委託の相手方であって一人の代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人の代表者が該当します。

※19
法定指針第2

※20
指針の解説12頁

※21
本文中の記載はあくまで例示であり、これら以外にも、事業者は、現在業務委託関係にあるフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内の元フリーランス並びにこれらの者が行った公益通報を、原則として法定指針に基づく措置の対象に含める必要があります。

※22
指針の解説16頁

※23
指針の解説17頁

※24
指針の解説17頁

※25
法定指針第2。「不利益な取扱い」が「公益通報をしたことを理由とする」行為か否かの判断・認定については、前掲注5のニュースレターも併せてご参照ください。

※26
指針の解説14頁

※27
パブコメ回答67頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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