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会社登記手続における法務省の実質的審査の導入(インドネシア)

著者等
前川陽一
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.276(2026年4月)
業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 インドネシアにおける株式会社の定款変更、株主の異動、役員構成の変更等に関する登記手続は、公証人を通して、法務省が運営するSABH(Sistem Administrasi Badan Hukum:法人管理システム)と呼ばれるオンラインシステム上で申請から受理及び承認までを一気通貫して行う仕組みになっている。従前、登記申請書類については公証人がその内容を精査していることを建前に、公証人による登記申請後自動的に法務省による受理通知や承認がSABHを通じて発行されていた。しかし、このような運用の下、当事者の関知しないところで株主の異動の登記がなされたり、作成された公正証書の内容と整合しないデータがSABHにアップロードされたりするなど、システムの信頼性に関わる事例が少なからず発生したことから、インドネシア法務省は昨年12月に法務大臣令2025年第49号(以下「本大臣令」という。)を制定し、公証人による登記申請に対して法務省が実質的審査を行うものとすることで管理強化を図るに至った。本稿では、実質的審査の導入による変更点について解説する。

1. 審査期間

 本大臣令は、登記申請書類の実質的審査のため最長14営業日の審査期間を設けた。審査の対象は、申請内容と公正証書、株主総会議事録及び直近の登記情報との整合性である。申請に不備や過誤が発見された場合、申請を行った公証人に対して訂正すべき旨の通知がなされる。公証人は、かかる通知から7暦日以内に訂正の上、再申請しなければならない。

 従前の運用では、公証人の下に登記申請書類が揃ってから一両日で法務省の受理通知又は承認がSABHを通じて発行されていたが、実質的審査の導入により登記完了までの期間が長引いている。

2. 株主による確認プロセス

 本大臣令の制定に先立つ昨年10月、法務省は公証人が行った申請について当該会社の株主に対して確認を求める運用を開始した。具体的には、公証人がSABHを通じて登記申請を行うと、株主の連絡先として登録されたメールアドレスに法務省から確認を求めるメールが配信され、これを受信した株主がメール上に表示された確認リンクをクリックすることで確認作業が完了する仕組みとなっている。メール受信から7暦日以内に確認がなされない場合、当該株主は当該登記申請にかかる変更事項について同意しなかったものとみなされる扱いとなっている。

 この株主による確認プロセスに関して本大臣令上具体的な規定は置かれていないが、本大臣令の施行後もこの運用は継続されている。また、現時点での運用では、法務省からのメールはインドネシア語のみで表示されている。したがって、株主の連絡先メールアドレスとして日本本社のものが登録されている場合には、あらかじめインドネシア法人の担当者と連携した上で円滑な確認作業を進められるようにしておくことが望ましい。

3. 実質的所有者による承諾書

 本大臣令は、登記申請書類の一つとして、新たに法人の実質的所有者による変更事項に関する承諾書の提出を求めている。インドネシアでは、2018年に、大統領令2018年第13号に基づき、資金洗浄及びテロ組織への資金供与防止の観点から、法人の実質的所有者の届出が義務付けられた。株式会社における実質的所有者とは、次のいずれかに該当する自然人である。

  1. 株式会社の発行済み株式総数の25%超を保有する者
  2. 株式会社の総議決権の25%超を保有する者
  3. 株式会社の年間利益の25%超を受領する者
  4. 取締役会及びコミサリス会の構成員を指名又は解任する権限を有する者
  5. 他人の承認を得ることなく株式会社をコントロールする権限を有する者
  6. 株式会社から便益を受ける者
  7. 株式会社の株式を保有するファンドの実際の所有者

 この点、インドネシア法人の支配株主が上場会社であって、当該インドネシア法人に対して実質的な支配権を有する個人を特定することが難しい場合もある。実務では、親会社又はインドネシア法人の代表者を上記d又はeに該当する者と考えて、実質的所有者として届け出ていることが多い。

 親会社である日本本社の代表者をインドネシア子会社の実質的所有者として届け出ている場合には、変更事項に関する承諾書を日本国内で作成することになるため、当該承諾書について日本の公証役場における認証を経てアポスティーユを取得する必要がある。

4. まとめ

 インドネシアにおける登記事務は、公証人の面前での署名手続や多くの添付書類を要求されるなど煩雑である一方で、近年はオンライン化が進み手続の簡素化・迅速化が志向されてきたところである。今回の実質的審査の導入に伴う一連の運用改定の意図は、従前の制度の不備を突いた不正行為を抑止する点にあることは理解できるものの、手続の簡素化・迅速化の流れには水を差す形となっている。制度の利用者である現地法人においては、これまで以上に手間と時間がかかることを認識した上で、登記手続を円滑に進めるため、公証人や株主などの関係者と一層緊密に連携していくことが望まれる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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