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速報 令和8年個人情報保護法改正法案 第5回 特定生体個人情報(顔特徴データ等)に関する規律の新設

著者等
日置巴美椎名紗彩(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Data Protection Legal Update ~個人情報保護・データプライバシーニュースレター~No.74/NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.79(2026年4月)
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「速報 令和8年個人情報保護法改正法案」につきましては以下もご参照ください。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 令和8年4月7日に閣議決定された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」といいます。なお、改正法案として条番号を記載しているものは、改正後の法律の条番号を指します。)では、「特定生体個人情報」を新たに定義し、その取扱いについて、利用目的等の一定事項をあらかじめ周知することのほか、オプトアウト制度による第三者提供を禁止し、また、本人に他の保有個人データとは異なる条件での利用停止等請求を認めて個人情報取扱事業者に対応を義務づけることが提案されています。この特定生体個人情報は、「顔特徴データ等」の取扱いとして議論・検討されていた内容です。

 本連載第2回及び第3回では、適正なデータ利活用の推進のための改正事項である新たに設けられたAI特例(統計作成等の特例)及び個人情報取扱事業者の義務に関する例外事由の拡大をご紹介しました。これら現行の規制に対する例外的な制度の新設や例外事由の拡大が規制緩和の方向での改正案であるのに対し、本稿でご紹介する特定生体個人情報に係る規律は、「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(令和8年1月9日)において示された4つの柱のうち、第4回の16歳未満の子どもの個人情報等に関する規律の新設とともに、「リスクに適切に対応した規律」として位置づけられており、拡大する個人の権利利益侵害に係るリスクに対応した規制を新設するもので、規制強化の方向での改正案といえます。

 本稿では、特定生体個人情報に関する規律が新設された背景及び当該規律の内容、さらに実務への影響と個人情報取扱事業者に求められる対応についてご紹介します。

現行法上の生体データの取扱い規律と顔特徴データ等に対する問題意識

1. 現行法上の生体データの取扱い規律

 現行の個人情報の保護に関する法律(以下「法」又は「個人情報保護法」といいます。)上、生体データの取扱いには一般的な個人情報と同様の規律が適用されており、顔特徴データ等を含む生体データに関する固有の規定は存在しません。平成27年の個人情報保護法改正において生体データへの対応がなされましたが、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、特定の個人を識別することができるもの」(法2条2項1号、施行令1条1号)を「個人識別符号」とし、その目的は生体データの一部について、その性質上特定の個人を識別することができるものとして個人情報であることを明確化することでした。今回見直しの論点となった「顔特徴データ」は、これに含まれます(施行令1条1号ロ、施行規則2条、ガイドライン(通則編)2-2)※1

 このように、顔特徴データを含む生体データは、現行法上、定義を設けることでその性質から個人情報であると明確化されたものの、取扱い規律については特に加重されていないところ、個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者に対して「顔特徴データ」に関する取扱いについて慎重さを求めてきました。具体的には、次のとおりです。

 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得するにあたっては、利用目的をできる限り特定し(法17条1項)、原則としてあらかじめ個人情報の利用目的を自社のホームページに掲載する等して公表すること、これを実施していない場合は当該利用目的を速やかに本人に通知し、又は公表することが求められています(法21条1項)。顔特徴データに関しては、この義務を基本としつつも、個人情報取扱事業者が、「顔識別機能付きカメラシステム」を設置してカメラの撮影により取得した顔画像、そこから抽出した顔特徴データや照合用データベースに登録された顔特徴データを取り扱う場合は、自社のホームページ等における公表に加え、情報の重要度に応じて施設内での掲示も行うことが望ましいとして、具体的な掲示事項例も示されてきました(「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(令和5年3月)(以下「カメラ利用に関する委員会文書」といいます。))※2

2. 顔特徴データ等に対する問題意識

 個人情報保護委員会は「カメラ利用に関する委員会文書」を策定し、慎重な取扱いを求める理由として、顔識別機能付きカメラシステムが顔特徴データの不変性の高さや一意性による高い精度で検知・追跡を行うことができることから、犯罪予防や安全確保に高い効果を有し得る一方で、(i)不変性と追跡性、(ii)自動的、無差別かつ大量の取得、(iii)利用目的の予測困難性、(iv)差別的効果、(v)行動の萎縮効果といった懸念点を有すると指摘してきました。そして、見直しの議論に際しては、このような顔特徴データ等に対するリスク認識と、実務の運用ベースでの対応を継続してきたところ、「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(令和6年6月)では、「要保護性の高い個人情報の取扱いについて(生体データ)」として、その性質、利活用の拡大、そして諸外国の法制度を挙げつつ、特に要保護性が高いと考えられる生体データについて、実効性のある規律を設けることを検討する必要があるとされました。

 その後のヒアリングや意見提出等を踏まえ、顔識別機能付きカメラシステム等のバイオメトリック技術の利用が拡大する中で、例えばカメラ等の計測機器を複数の地点に設置して顔特徴データ等※3を入手し、これを名寄せに利用することで、本人が関知し得ないまま、半永久的・網羅的に当該本人の行動を追跡することが可能となっている状況を指摘し※4、生体データのうち、本人が関知しないうちに容易に(それゆえに大量に)入手することができ、かつ、一意性及び不変性が高く特定の個人を識別する効果が半永久的に継続するという性質を有する顔特徴データ等は、その他の生体データに比べてその取扱いが本人のプライバシー等の侵害に類型的につながりやすいという特徴があるとして、かかる侵害を防止するとともに、顔特徴データ等の適正な利活用を促すため、顔特徴データ等の取扱いについて、透明性を確保した上で本人の関与を強化する規律の導入が検討されてきました※5

特定生体個人情報に関する規律の内容と事業者に求められる対応

1. 「特定生体個人情報」(定義)の新設

 改正法案では、新たに「特定生体個人情報」という定義が設けられています(改正法案16条5項)。これは「特定生体個人識別符号が含まれる個人情報」をいうものとされ、この「特定生体個人識別符号」とは、生体データとしての個人識別符号(法2条2項1号)のうち、特別の技術又は多額の費用を要しない方法により取得することができる身体の一部の特徴に係る情報であって当該情報が取得されていることを本人が容易に認識することができないものとして政令で定めるものを変換したものとされています。

 これまでの見直しの中で個人情報保護委員会は、顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状から抽出した特徴情報を、本人を識別することを目的とした装置やソフトウェアにより、本人を識別することができるようにしたものを念頭に置いており※6、「特定生体個人情報」とは、顔特徴データに主眼を置いた定義であると考えられます。もっとも、改正法案16条5項の定義自体には、その対象が必ずしも顔特徴データに限られず、他の個人識別符号である生体データも含まれ得るところ、特定生体個人情報の外延は現時点では必ずしも明らかではありません。顔特徴データ以外の具体的な対象は、国会審議での議論や、改正法案の成立後の政令の制定を待つこととなります。

 なお、広く顔情報が規制されるのではないかという見直し過程であった懸念について、「個人情報保護法等の一部を改正する法律案について」(令和8年4月)において「単なる顔写真ではなく、個人識別符号のうち顔特徴データを想定」とされており、また、この定義(特定生体個人識別符号)からも、単なる顔写真や顔が写っている動画等が含まれないことが窺われます。具体的な範囲は政令以下で定めることが想定されており、この懸念に対応したものになると考えられます。

2. 特定生体個人情報の取扱いに関する一定事項の周知の義務化

(1) 改正法案の内容

 個人情報取扱事業者は、特定生体個人情報を取り扱うに当たって、以下の各事項を本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くことが求められます(改正法案21条の2第1項各号)。

  1. 個人情報取扱事業者の氏名又は名称及び住所並びに法人の場合はその代表者※7の氏名(1号)
  2. 特定生体個人情報を取り扱う旨(2号)
  3. 特定生体個人情報の利用目的(3号)
  4. 特定生体個人情報に含まれる特定生体個人識別符号に変換される身体の一部の特徴に関する情報の内容(4号)
  5. 開示等の請求等に応じる手続※8(5号)
  6. その他個人の権利利益を保護するために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める事項(6号)

 上記各号に定める事項は、「本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態」に置くことが求められ、この特定生体個人情報に関する上記各号の事項を周知する具体的な方法については、別途個人情報保護委員会規則で定めることとされています※9。顔識別機能付きカメラシステムを設置する場合に望ましい対応とされていた設置する施設での掲示等まで求められることになるのか等、措置の具体的な方法がどの程度限定的なものとなるかは、国会審議での議論や、今後制定される個人情報保護委員会規則を注視することが求められます。

 ただし、かかる周知義務には例外が定められており、以下のいずれかの事由に該当する場合は、周知義務が適用されないこととなります(改正法案21条の2第2項各号)。

  1. 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合(1号)
  2. 個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合(2号)
  3. 国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、周知することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき(3号)
  4. その他これらの準ずるものとして個人情報保護法施行令で定める場合(4号)

 上記①から③までの事由は、前述「現行法上の生体データの取扱い規律と顔特徴データ等に対する問題意識」1の個人情報全般に係る取得に際しての通知等に係る例外事由に相当するものとなっています(法21条3項1号~3号)。上記④については、特定生体個人情報の特性や取扱い実態に応じたものとなるよう、個人情報保護委員会規則で定められるものと考えられます。

 なお、当該周知義務には経過措置が定められています。具体的には、改正法の施行日前に改正法案21条の2第1項各号に掲げる事項に相当する事項が本人に通知されているときは、当該通知は改正法上の通知とみなされることとなっています(改正法案附則4条1項)。

(2) 実務への影響及び事業者に求められる対応

 現行の個人情報保護法では、上記(1)個人情報全般に係る取得に際しての通知等(法21条)が求められるほか、保有個人データ全般については、その利用目的や、開示等請求等の手続等について本人の知り得る状態(求めに応じた回答を含みます。)に置かなければならないとされています(法32条1項)。改正法案では、特定生体個人情報を取り扱うに当たって規律が加重されており、現行法の規律への対応に追加して措置を講ずる必要があります。

 これら現行法の規律と改正法案の規律は、その文言上、対象となる情報の類型(定義)、対応が必要とされるタイミング・取扱い、そして講ずるべき措置の方法は異なるものの、本人が知るべき事項の一部が共通するところであり、いずれも本人に対する情報提供を定めるものであることから、実務で個人に関する情報を取り扱うに当たっては一つの措置によって規律に対応しようとすることが考えられるところです。上記(1)のとおり、通知又は容易に知り得る状態に置いたと評価される具体的な方法は、今後の国会審議での議論や、個人情報保護委員会規則制定の動向を注視することとなりますが、法令に求められるいずれか重い措置によって対処すること等は許容されるものと考えられます。

〈参考:各規律の要求事項〉

  取得に際しての利用目的の通知等(法21条) 特定生体個人情報の取扱いに際しての利用目的等の通知等(改正法案21条の2) 保有個人データに関する事項の公表等(法32条)
対象類型(定義) 個人情報 特定生体個人情報 保有個人データ
措置を講ずるべきタイミング・取扱い 取得時 取扱いの際 取得した情報を保有個人データとして取り扱う場合
本人が知るべき事項 利用目的
  1. 個人情報取扱事業者の氏名又は名称及び住所並びに法人の場合はその代表者の氏名(1号)
  2. 特定生体個人情報を取り扱う旨(2号)
  3. 特定生体個人情報の利用目的(3号)
  4. 特定生体個人情報に含まれる特定生体個人識別符号に変換される身体の一部の特徴に関する情報の内容(4号)
  5. 開示等の請求等に応じる手続(5号)
  6. その他個人の権利利益を保護するために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める事項(6号)
  1. 個人情報取扱事業者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名(1号)
  2. 全ての保有個人データの利用目的(2号)
  3. 開示等の請求等に応じる手続(3号)
  4. ①~③のほか、保有個人データの適正な取扱いの確保に関し必要な事項として政令で定めるもの(4号)

注:④については次のとおり。

  • 保有個人データの安全管理のために講じた措置
  • 保有個人データの取扱いに関する苦情の申出先
措置の内容 あらかじめ公表すること/(公表されていない場合)速やかに、本人に通知し、又は公表すること
公表方法の例※10

  • 自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所への掲載
  • 自社の店舗や事務所等、顧客が訪れることが想定される場所におけるポスター等の掲示、パンフレット等の備置き・配布

通知方法の例※11

  • ちらし等の文書を直接渡すことにより知らせること。
  • 口頭又は自動応答装置等で知らせること。
  • 電子メール、FAX等により送信し、又は文書を郵便等で送付することにより知らせること。
個人情報保護委員会規則の定めに従って、本人に通知し、又は、本人が容易に知り得る状態に置くこと 本人の知り得る状態に置くこと(ホームページへの掲載、パンフレットの配布、本人の求めに応じて遅滞なく回答を行うこと等、本人が知ろうとすれば、知ることができる状態に置くこと)※12
方法の例※13

  • 問合せ窓口を設け、問合せがあれば、口頭又は文書で回答できるよう体制を構築しておく場合
  • 店舗にパンフレットを備え置く場合
  • 電子商取引において、商品を紹介するホームページに問合せ先のメールアドレスを表示する場合
例外
  1. 利用目的を本人に通知し、又は公表することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合(1号)
  2. 利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合(2号)
  3. 国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき(3号)
  4. 取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合(4号)
  1. 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合(1号)
  2. 個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合(2号)
  3. 国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、周知することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき(3号)
  4. その他これらの準ずるものとして個人情報保護法施行令で定める場合(4号)

注:取得に際しての利用目的の通知等(法21条)の例外①~③に該当する場合、利用目的を本人の知り得る状態に置くべき事項から除外しています。

 改正法施行前に特定生体個人情報を取り扱う個人情報取扱事業者については、上記(1)の経過措置が適用されることとなります。そのため、改正法が施行される以前の説明資料や、掲示の内容、プライバシーポリシー等が改正法案に定める要件を充足しているか確認し、仮に充足していない場合は改正法案の内容に沿った周知を改めて行うことが考えられます。もっとも、特定生体個人情報の利用目的のみならず、その作成の元となる身体的特徴に関する情報の内容についても通知していた事業者はあまりないと思われ、結局改正法案に沿った周知を改めて行うことが求められる事業者が多いように思われます。

 国会審議での議論や、政令及び個人情報保護委員会規則の制定の動向を注視しつつ、現行法の規律とあわせた措置の実施と、運用の確立について検討していくこととなります。

3. 特定生体個人情報のオプトアウト制度に基づく第三者提供の禁止

(1) 改正法案の内容

 現行の個人情報保護法は、オプトアウト制度に基づく第三者提供の対象から、要配慮個人情報、適正取得義務に違反して取得された個人データ及びオプトアウト制度に基づき提供された個人データを除外し、オプトアウト制度による第三者提供を禁止しています(法27条2項)。改正法案では、これら除外対象に特定生体個人情報を追加することでオプトアウト制度に基づく特定生体個人情報の第三者提供を明示的に禁止する案が提示されています。なお、オプトアウト制度に関して、改正法案では、オプトアウト制度に基づく第三者提供を行う場合における当該第三者(提供先)の身元(氏名又は名称、住所、代表者氏名)及び利用目的を確認する義務が追加されています。当該規律の詳細については、今後発行される本連載(第8回(予定))をご確認ください。

(2) 実務への影響及び事業者に求められる対応

 これまで特定生体個人情報に該当し得る個人データについて、オプトアウト制度によって第三者提供することは明示的には禁止されていませんでした。もっとも、あらかじめ本人から同意を取得することに比べて個人データが第三者へ提供されることを知る端緒としては劣後することや、特定生体個人情報の性質等、以前よりそのリスクの大きさは指摘されていたところであり、実務上かかる個人データについてオプトアウト制度による第三者提供を行っている事業者はほとんどないものと思われます※14。もっとも、特定生体個人情報をオプトアウトにより第三者提供することが明示的に禁止されることにより、オプトアウト制度によって個人データを第三者に提供する個人情報取扱事業者のうち、特定生体個人情報を取り扱うものにおいては、特定生体個人情報とそれ以外のオプトアウト制度の対象となる個人データとの分別管理が求められることになるといえます。

4. 特定生体個人情報に関する利用停止等の請求等の拡大

(1) 改正法案の内容

 改正法案では、保有個人データに含まれる特定生体個人情報を個人情報取扱事業者が取り扱っている場合、本人関与を強化すべく、以下の例外事由(①~⑩)に該当する場合を除き、個人情報保護法上の違反行為の有無を問わず、保有個人データである特定生体個人情報の利用停止等又は第三者への提供停止を請求することができることとされています(改正法案35条7項)。当該規定に基づいて利用停止等の請求を受けて、その請求に理由があることが判明した場合、個人情報取扱事業者は、遅滞なく特定生体個人情報の利用停止等の措置を行わなければなりません(改正法案35条8項)。もっとも、当該措置に多額の費用を要することその他の事情により当該措置を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置をとるときはこの限りではないとされています(同項ただし書)。なお、当該要件については、他の利用停止等請求(法35条4項他)と同じ要件(文言)とされており、同様の解釈が妥当するものと考えられます※15

  1. あらかじめ本人の同意を得て特定生体個人情報に含まれる特定生体個人識別符号を作成した場合(1号)
  2. あらかじめ本人の同意を得て特定生体個人情報を取得した場合(2号)
  3. 法令に基づいて特定生体個人情報を取り扱う場合(3号)
  4. 人の生命、身体又は財産の保護のために特定生体個人情報を取り扱う必要がある場合(4号)
  5. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために、特定生体個人情報を取り扱うことが特に必要である場合(5号)
  6. 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者による法令の定める事務の遂行に対して協力するために、特定生体個人情報を取り扱う必要がある場合(6号)
  7. (個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合)特定生体個人情報を学術研究目的で取り扱う必要があるとき※16(7号)
  8. (学術研究機関等と共同して学術研究を行う場合)学術研究機関等から特定生体個人情報を取得した場合、又は学術研究機関等から取得した情報を変換して作成した特定生体個人識別符号が特定生体個人情報に含まれる場合であって、これを学術研究目的で取り扱う必要があるとき※17(8号)
  9. 本人との間の契約の履行のために必要やむを得ないことが明らかである場合、その他特定生体個人情報に含まれる特定生体個人識別符号の作成の状況又は特定生体個人情報の取得の状況からみて、本人の意思に反しないため本人の権利利益を害しないことが明らかである場合として個人情報保護委員会規則で定める場合(9号)
  10. その他これらに掲げる場合に準ずるものとして個人情報保護法施行令で定める場合(10号)

 上記③から⑧については、概ね要配慮個人情報の取得に係る例外事由(法20条2項各号)や第三者提供に係る例外事由(法27条1項各号)に該当する場合と同種の場合が想定されているほか、⑨については本連載第3回で取り上げた例外事由の拡大に対応するものといえます。

 また、上記①及び②は、特定生体個人情報の作成又は取得について本人の同意を取得すれば、利用停止等の措置を行う必要はないことを意味するものです。もっとも、特定生体個人情報を取り扱う一般的な場面としては、主に施設等に設置されたカメラで撮影された映像から顔特徴データを抽出して利用する場面等が想定されるところ、このようなケースにおいて本人の同意を取得することは考えにくく、当該例外事由の対象となるケースは必ずしも多いとはいえないように思われます。なお、①及び②については経過措置が定められており、施行日前になされた特定生体個人識別符号に相当する符号の作成又は特定生体個人情報に相当する情報の取得に関する同意が、改正法案35条7項1号又は2号の同意に相当するものであるときは、改正法上の同意があったものとみなされることとされています(改正法案附則4条2項)。

(2) 実務への影響及び事業者に求められる対応

 上記(1)のとおり、個人情報保護法上の違反行為の有無にかかわらず、基本的には本人が望まない場合に特定生体個人情報の利用停止等が広く認められることとなります。そのため、特定生体個人情報を取り扱う個人情報取扱事業者は、特定生体個人情報の継続的な取扱いが必要な場合に備え、取扱開始時における適法性の検討・対応のみならず、これらの本人からの請求等に対して適切に対応できるような情報管理の体制・ルールを構築しておく等、具体的な運用体制や対応方法についても検討を進めておくことが望ましいところです。

おわりに

 特定生体個人情報の規律に関する改正法案は、生体データの利活用の浸透によって拡大する個人の権利利益侵害に係るリスクに対応した規制を新設するもので、事業者にとっては規制強化の方向での改正案といえます。

 顔特徴データを含む特定生体個人情報を既に取り扱っている個人情報取扱事業者については、経過措置も踏まえて改正法案に沿った対応を行うことの要否を確認し、必要な場合には改正法案に沿った対応を行うことが求められます。国会審議での議論や、個人情報保護委員会規則の制定動向を注視しつつ、施行までの準備を進めることとなります。

 なお、見直しの経緯からは、顔特徴データを取り扱っていない個人情報取扱事業者にとっては具体的な影響がないものと想定されます。しかし、特定生体個人情報の定義上、顔特徴データ以外の生体データを対象とすることは可能であり、その適用の外延は必ずしも明確ではないことから、国会審議での議論や、政令の制定に関する動向について、生体データを取扱い、又は取り扱おうとする個人情報取扱事業者は注視しておくことが望ましいところです。

脚注一覧

※1
本稿においては、「個人情報の保護に関する法律施行令」を「個人情報保護法施行令」、「個人情報の保護に関する法律施行規則」を「個人情報保護委員会規則」といいます。また、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」を「ガイドライン」といいます。

※2
従前、総務省及び経済産業省は、企業、消費者団体、有識者の参加を得たIoT推進コンソーシアムにおいてカメラ画像について検討し、「カメラ画像利活用ガイドブック」(ver1.0(平成29年1月)~ver3.0(令和4年3月))を公表してきました。カメラ画像の利活用によるイノベーション創出への期待と、プライバシーリスクへの増大のバランスを図ろうとするものであったと考えられます。

※3
「顔特徴データ」とは、顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状から抽出した特徴情報を、本人を識別することを目的とした装置やソフトウェアにより、本人を識別することができるようにしたものをいいます(個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」(令和7年3月5日)(以下「制度的課題に対する考え方」といいます。)第2、3参照)。なお、「等」が指す内容については必ずしも明確ではありませんが、顔特徴データ以外のこれに類する生体データを指していると思われます。

※4
制度的課題に対する考え方第2、3参照。

※5
制度的課題に対する考え方第2、3参照。

※6
制度的課題に対する考え方第2、3注21及び個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」(令和8年1月)第2、2*2参照。

※7
法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人をいいます。

※8
手数料を徴収する場合は、その手数料の額を含みます。

※9
この方法に関しては、同様の措置が求められているオプトアウト制度や共同利用に依拠した個人データの第三者提供(法27条2項又は5項3号)において求められています。具体的には、「本人に通知」とは本人に直接知らしめることをいい、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、内容が本人に認識される合理的かつ適切な方法によることとされており(ガイドライン(通則編)2-14参照。)、またオプトアウト制度における「本人が容易に知り得る状態」とは、「事業所の窓口等への書面の掲示・備付けやホームページへの掲載その他の継続的方法により、本人が知ろうとすれば、時間的にも、その手段においても、簡単に知ることができる状態をいい、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、本人が確実に認識できる適切かつ合理的な方法」をいうとされており(施行規則11条1項2号。なお、共同利用には個人情報保護委員会規則による定めはないものの、ガイドライン(通則編)3-6-3(3)においてオプトアウト制度と同様であるとされています。)、共同利用の場合においてもこれと同義の解釈がなされています。このためこれらの場面では、ホームページ上で継続して掲載するプライバシーポリシー等に記載することが認められているところです。
しかし、現段階では、特定生体個人情報の取扱いに関する具体的な周知の方法については、制度が円滑に運用されるよう、改正の趣旨を踏まえつつ、委員会規則等で定めることを想定しているとされるにとどまり(制度的課題に対する考え方第2、3注23及び「個人情報保護法等の一部を改正する法律案について」(令和8年4月)第2、2*5参照。)、第三者提供規制の各要件で求められる措置と異なるものとなる可能性も十分にあります。

※12
「必ずしもホームページへの掲載、又は事務所等の窓口等へ掲示すること等が継続的に行われることまでを必要とするものではないが、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、内容が本人に認識される合理的かつ適切な方法によらなければならない。」とされます(ガイドライン(通則編)3-8-1(1))。

※13
ガイドライン(通則編)3-8-1(1)参照

※14
本人の同意の取得やオプトアウト制度等の第三者提供規律に係る手当が必要となる対象は「個人データ」であるところ、特定の人物を検索できないような画像、動画についてはこれに該当せず、個人情報保護法上は利用目的に関する各規律を遵守すれば足りることとなります。改正法案成立後も変更はないところです。

※15
「困難な場合」については、利用停止等に多額の費用を要する場合のほか、個人情報取扱事業者が正当な事業活動において保有個人データを必要とする場合についても該当し得ると考えられ、代替措置についても、生じている本人の権利利益の侵害のおそれに対応するものであり、本人の権利利益の保護に資するものであることが求められると考えられます(ガイドライン(通則編)3-8-5-3参照。)。

※16
取扱いの目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除きます。

※17
脚注16参照。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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