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2017年改正外為法施行後初の日本政府による投資中止勧告

著者等
大澤大
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Corporate Legal Update ~コーポレートニュースレター~ No.46/NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター No.42(2026年4月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2026年4月22日、財務大臣及び経済産業大臣は、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」といいます。)に基づき、MBKパートナーズ傘下のMMホールディングス株式会社(以下「本買付者」といいます。)が開始を予告していた公開買付け及びその後の一連の手続による株式会社牧野フライス製作所(以下「牧野フライス」といいます。)の株式の取得(以下「本株式取得」といいます。)の中止を勧告しました(以下「本中止勧告」といいます。)。本買付者は、同月23日時点において、本中止勧告を応諾するか否かを含めた本公開買付けに関する今後の対応を検討している状況にあり、本買付者が本中止勧告を応諾しない場合、本株式取得に対する中止命令の発出に進むことになると思われます。

 本中止勧告は、英国系投資ファンドであるザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドによる電源開発株式会社株式の追加取得(保有比率を9.9%から20%まで引き上げる株式取得)に対して財務大臣及び経済産業大臣が発出した2008年の中止勧告以降18年ぶり、2017年の外為法改正後では初めての中止勧告であり、実務的に非常に影響の大きい事例になると考えられます。

 経済産業省において外為法に係る政策立案、投資審査、規制執行、外国当局との連携強化等を担当し、日本及び諸外国の外資規制に関するサポートを提供している執筆者が本中止勧告について速報するとともに、公表情報の範囲で言及できる当局の判断理由や本中止勧告を踏まえた今後の実務上の留意点を解説します。

2. 投資審査の実務運用

 外為法は、外国投資家による事前届出業種※1に係る対内直接投資等について、原則として事前届出を義務付けた上で、届出後一定期間※2その実行を禁止し、その間に財務大臣及び事業所管大臣が国の安全等の観点から審査を実施しています。審査の結果、懸念があると判断された場合、財務大臣及び事業所管大臣は、外国投資家に対し、対内直接投資等の中止又は内容の変更を勧告し(外為法27条5項本文)、勧告が応諾されないときには、更に中止又は内容の変更を命令することができます(同条10項本文)。

 もっとも、審査の過程で懸念が残る場合でも、外国投資家が届出書において一定の事項の遵守を誓約することで懸念が払拭されるときには、中止の勧告に進まず、審査を終了する実務運用とされています※3。仮に誓約事項に違反した場合、虚偽届出による刑事責任(外為法70条1項22号)を問われ得るほか、2017年の外為法改正により導入された事後的な措置命令(外為法29条2項)の対象となる可能性もあります。そのため、外為法に基づき中止の勧告が行われる場面は、基本的に、懸念を払拭できる実効性のある誓約事項が存在しない場合に限られると考えられます。

3. 本中止勧告の判断の理由

 本買付者による2026年4月23日付「株式会社牧野フライス製作所株式(証券コード:6135)に対する公開買付けの実施に向けた進捗状況等のお知らせ」によれば、本中止勧告に係る判断の理由は以下のとおりであったとのことです。同日の片山さつき財務大臣の発言においても基本的に同趣旨の説明が行われていますが、本買付者が牧野フライスの完全子会社化を企図している点に対する明示的な言及がありました。

 本件勧告[執筆者注:本中止勧告]によれば、対象者[執筆者注:牧野フライス]は、軍事転用の可能性が特に高い機微な貨物として輸出に際して経済産業大臣の許可が必要となる高性能な工作機械を製造しているほか、これに関する技術及び情報を保有しており、これらは日本国の防衛装備品の製造事業者においても広く利用されていること、対象者が保有する情報には、単一の情報では必ずしも機微性が認められないとしても他の情報と組み合わせることで国の安全の確保に係る機微情報となるおそれがある情報が存在し、企業価値向上施策の立案及び実行に必要な調達情報や営業情報といった情報もこれに含まれるところ、公開買付者[執筆者注:本買付者]による機微情報へのアクセスに係る懸念に対応するためには、企業価値を向上させるために必要となる情報にアクセスすることも困難となり、これは、公開買付者の投資目的と両立しないこと等から、本株式取得は外為法第27条第3項に規定する「国の安全等に係る対内直接投資等」に該当すると判断したとのことです。なお、本件勧告においては、当該判断の理由として、MBKパートナーズ株式会社及びそのグループ企業(以下「MBKPグループ」といいます。)がサービスを提供するケイマン諸島籍のファンドが、公開買付者の全ての株式を所有する点を除き、公開買付者を含むMBKPグループの属性及び資本構成に関する言及は一切ありません。

 かかる判断の理由を読み解くと、当局は、まず、牧野フライスについて、高性能な工作機械に関する技術や情報を保有しており、少なくとも他の情報と組み合わせることで国の安全の確保に係る機微情報となるおそれがある情報を保有していると評価した上で、外為法上の技術提供取引規制(外為法25条)の存在等も考慮しつつ、その流出可能性及び誓約事項による払拭可能性を審査したものと思われます。このような場合、一般論としては、外国投資家による機微情報へのアクセスやそのようなアクセスが可能な役職への就任等を制限する趣旨の誓約事項が検討されることがありますが、牧野フライスの機微情報には、企業価値向上施策の立案・実行に必要な調達情報・営業情報等が含まれているため、そのような機微情報へのアクセス等を制限する誓約事項は、本買付者の投資目的と両立せず、実効性がないと判断されたと考えられます。

 この判断では、本株式取得が本買付者単独での牧野フライスの完全子会社化であることが強く意識されているように思われます。ビジネス上の現実的可能性をさて置けば、仮に本買付者が一定の日本国内のパートナーとともに牧野フライスを非公開化し、機微情報へのアクセスを要する経営・事業運営はパートナーが担うといった建付が可能であれば、上記の誓約事項の実効性が認められた可能性もあったように思われます。

 また、防衛装備品のサプライチェーンに関わる対内直接投資等については、防衛装備品の安定供給の観点や軍事転用可能性の観点が慎重に審査される傾向にあります。本株式取得についても、本中止勧告の判断の理由において、「軍事転用の可能性が特に高い機微な貨物として輸出に際して経済産業大臣の許可が必要となる高性能な工作機械」(すなわち、外為法に基づく安全保障貿易管理におけるリスト規制の対象となる工作機械)を製造している旨、及び日本国の防衛装備品の製造事業者においても広く利用されている旨に言及されており、当局はこれらの観点についても考慮に入れたものと思われます。もっとも、これらの観点に係る懸念については、上述した機微情報の流出可能性と異なり、それらへの対応の実効性に関する言及が見られません。このことから、防衛装備品の安定供給の観点や軍事転用可能性の観点からの懸念については、後者に関しては安全保障貿易管理による対処が可能な側面もあること等も考慮された上で、誓約事項(例えば、防衛装備品のサプライチェーンにおける重要な事業の譲渡・廃止・縮小の提案等を制限する趣旨の誓約事項)により払拭することが可能と判断された可能性があります。

 以上のように、少なくとも本買付者に提示された本中止勧告の判断の理由は、上記2.の投資審査の実務運用に沿って整理することが可能であり、当局が従前の実務運用を変更したわけではないと思われます。

4. 今後の実務上の留意点※4

 本中止勧告が発出された事実は、外為法に基づく投資審査が単なる届出手続ではなく、投資や買収の成否を左右する戦略的要衝になっている現状を明らかにしています。当局は、従前の投資審査における実務運用を踏襲しつつも、審査に臨む姿勢は年々厳しくなっており、投資・買収を行う外国投資家はもちろん、投資・買収を受け入れる対象会社、取引相手方となる売主等においても、外為法への法的理解、安全保障・経済安全保障の知見の双方を活用しながら、対象会社の機微性やそれを踏まえて当局が持つ可能性のある懸念を具体的に特定・評価した上で、それぞれの懸念に対する対処の必要性や合理的に可能なリスク軽減措置を解像度高く事前に検討しておく必要があります※5。本中止勧告が行われた本株式取得と、審査に長期間を要しつつ中止勧告に至らなかった事例(YAGEO Electronics Japan合同会社による公開買付け及びその後の一連の手続による株式会社芝浦電子の株式の取得等)との差異を意識しながら検討することも重要でしょう。

 また、外国投資家が対象会社の機微性を評価する際、自らやアドバイザーが持つ安全保障・経済安全保障の知見に依拠するほか、デュー・ディリジェンスを通じて対象会社の自己認識を確認することが行われています。もっとも、防衛装備品のサプライチェーンにおける重要性については、対象会社自身が自社の重要性を認識していない場合があり、デュー・ディリジェンスでは対象会社の機微性が検出されない可能性があります。この点が重大な問題になり得る場合には、案件の保秘性等に留意しつつも早めに当局への事前相談を実施することが考えられるほか、審査の過程において、事前に把握していなかった懸念が当局から示された場合には、速やかに、建設的かつ柔軟な対処方法を模索して当局に提示することも肝要といえます。

脚注一覧

※1
「対内直接投資等に関する命令第3条第3項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」別表第1及び第2に該当する業種並びに別表第1乃至第3のいずれにも該当しない業種をいいます。

※2
原則的には30日間ですが、最大5か月まで延長される可能性があります。

※3
大澤大「経済産業省における外国為替及び外国貿易法に基づく投資管理と実務上の諸論点」旬刊商事法務2294号21頁(2022)

※4
なお、外為法については、現在国会において改正法案の審議中です。改正法案の方向性については、コーポレートニュースレターNo.44「『対内直接投資審査制度等のあり方についての答申』の公表 ― 外為法(対内直接投資審査制度)改正の方向性 ―」(2026年2月)をご参照ください。

※5
外国資本を受け入れる日本企業が経済安全保障の観点から検討すべき事項やアプローチについて整理した論考として、大澤大「外国資本の受入れと経済安全保障〔上〕〔下〕-日本企業に求められる検討-」旬刊商事法務2313号17頁・2314号39頁(2022)もご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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