(1) 発行時の情報公表義務
特定暗号資産の募集・売出しの取扱いを行おうとする暗号資産取引業者は、あらかじめ(特定暗号資産発行者が作成・公表する)特定暗号資産情報を内閣府令に定めるところにより自らも公表しなければ、当該募集・売出しの取扱いを行うことができません(改正金商法案27条の39第4項)。※7
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2026年4月10日に金融庁により提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正法案」といいます。)※1において行われる、暗号資産に係る規制の見直しに関し、前号※2では、暗号資産に係る規制の見直しに係る本改正法案の概要をご紹介するとともに、暗号資産取引に係る規制の資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)への移管、及び無登録業者等への対応の強化の詳細について取り上げました。
本稿では、本改正法案に基づく暗号資産に係る規制の見直しの中でも重要なトピックの一つである、情報公表規制の整備についてご紹介します。なお、次号では、暗号資産交換業者(名称は「暗号資産取引業」者へ変更)への業規制の強化の詳細について取り上げる予定です。
現状、暗号資産の発行時には、暗号資産交換業者に対し、主に自主規制団体が定める規制に基づき、利用者へのホワイトペーパー等の提供が求められていますが、その記載内容が不明確であったり、記載内容と実際のコードに差があることが多いとの指摘があります。また、こうした情報提供は自主規制団体が定める規制の中であくまで暗号資産交換業者に対して求められているものにとどまり、分かりやすく正確な情報提供が確保されておらず、各銘柄間の比較可能性が乏しいとの指摘もなされています。2025年12月10日に公表された「金融審議会『暗号資産制度に関するワーキング・グループ』報告」※3(以下「WG報告」といいます。)では、利用者が暗号資産の機能や価値について正しい情報に基づき合理的に取引判断ができるよう、暗号資産に関する情報提供を強化する方向性が示されました。
改正金商法案においては、上記のようなWG報告の方向性に沿い、暗号資産に関する情報公表に係る規制が整備されています。まず、(i)これまで法定の情報提供規制が課されていなかった暗号資産の発行者に対し、暗号資産の発行時及び発行後における情報公表義務が課されます。また、(ii)暗号資産取引業者に課される取扱暗号資産に関する情報提供義務についても強化されます。さらに、(iii)公表される情報の正確性の確保・投資者保護の観点から、監査法人等の財務監査が行われていない場合における投資者の投資上限額の設定、虚偽記載等についてのエンフォースメントの強化が併せて実施されます。
上記(i)~(iii)の概要は、以下のとおりです。
| 項目 | 概要 | |
|---|---|---|
| (i) | 暗号資産の発行者の情報公表義務の新設 |
|
| (ii) | 暗号資産取引業者の情報提供義務の強化 |
|
| (iii) | 公表される情報の正確性の確保・投資者保護 |
|
改正金商法案では、その発行者等の存在が観念できる暗号資産として、「特定暗号資産」という概念が新たに導入されました。「特定暗号資産」は、「暗号資産であって、特定の者のみが当該暗号資産を発行する権限を有するもの(これに類するものとして内閣府令で定めるものを含む。)」と定義されています(改正金商法案2条50項)。
特定暗号資産の定義のうち、「特定の者のみが当該暗号資産を発行する権限を有する」暗号資産の例としては、暗号資産取引業者が発行者の依頼に基づいてIEO形式で販売する暗号資産が挙げられます。また、特定暗号資産の定義のうち、「これに類するものとして内閣府令で定めるもの」には、パーミッション型ブロックチェーンによる暗号資産や、ERC-20等の基盤となるトークン規格に基づき発行される暗号資産が含まれることが想定されますが※4、詳細については内閣府令を待つ必要があります。
他方、ビットコイン(BTC)等の、上記のいずれにも該当しない暗号資産は、「特定暗号資産」には該当しません(本稿では便宜上、特定暗号資産に該当しない暗号資産を、「非特定暗号資産」といいます。)。
特定暗号資産を発行し、又は発行しようとする者(以下「特定暗号資産発行者」といいます。)は、あらかじめ一定の情報(以下「特定暗号資産情報」といいます。)を内閣府令に定めるところにより公表しなければ、「特定暗号資産の募集・売出し」を行うことができません(改正金商法案27条の39第1項本文)。
「特定暗号資産の募集・売出し」の定義は改正金商法案2条52項に定められています。定義は非常に複雑ですが、基本的には有価証券の募集及び売出しと同様の概念です。誤解を恐れずに単純化した説明を行うのであれば、発行者が、資金調達を行う目的で、多数の投資家に対する勧誘を伴う形で暗号資産の発行を行おうとする場合、その勧誘の多くは、「特定暗号資産の募集・売出し」に該当することとなります。
「特定暗号資産の募集・売出し」に該当しない類型としては、例えば以下が挙げられます。これらが行われる場合には、特定暗号資産発行者に情報公表義務は課されません。
| 「特定暗号資産の募集・売出し」に該当しない類型(例) | |
|---|---|
| ① | 暗号資産の無償付与の勧誘を行う場合 |
| ② | (マイニングやステーキング等の)報酬として行う暗号資産の付与に関し勧誘を行う場合 |
| ③ | 適格機関投資家のみを相手方として一定の勧誘を行う場合(プロ私募) |
| ④ | 少人数※5を相手方として一定の勧誘を行う場合(少人数私募) |
| ⑤ | 暗号資産取引業者が、特定暗号資産発行者の関与無く特定暗号資産の取扱い(以下「勝手上場」といいます。)を行う場合 |
なお、③(プロ私募)・④(少人数私募)については、政令で一括譲渡以外の方法による譲渡禁止や、プロ投資家以外の者に対する譲渡禁止といった転売制限が設けられることが見込まれます※6。また、これらの勧誘を行う者は、その相手方に対して、特定暗号資産情報の公表が行われていないことその他内閣府令で定める事項を告知しなければならず(改正金商法案27条の49第1項及び第3項)、さらに、これらの勧誘により特定暗号資産を取得させ、又は売り付ける場合には、相手方に対し、あらかじめ又は同時に、当該告知すべき事項に係る情報を提供しなければなりません(改正金商法案27条の49第2項及び第4項)。これらの規律は、プロ私募又は少人数私募を経由した一般投資家への転売を通じた情報公表規制の潜脱を防止する趣旨であると考えられます。
公表対象となる「特定暗号資産情報」の内容については、以下のとおり改正金商法案27条の39第1項各号に列挙されています。
特定暗号資産情報の具体的な内容については内閣府令を待つ必要がありますが、WG報告を踏まえると、以下の情報が含まれる可能性があると考えられます。
| リスクの項目 | 具体例 | |
|---|---|---|
| ① | 特定暗号資産の基本的情報 |
|
| ② | 特定暗号資産に内在するリスク |
|
| ③ | 特定暗号資産の商品性 |
|
上記の「特定暗号資産の募集・売出し」を行った特定暗号資産発行者は、特定暗号資産の発行後も、大要以下の継続的な情報公表義務を負います。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 特定暗号資産定期情報の公表 | 年1回、特定暗号資産情報の一部を、原則として事業年度終了後3か月以内に公表しなければならない(改正金商法案27条の50第1項本文)。 |
| 特定暗号資産臨時情報の公表 | 当該特定暗号資産について公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなったときは、遅滞なく、その内容に関する情報を公表しなければならない(改正金商法案27条の51)。 |
但し、暗号資産の分権化等により発行者の活動が利用者の取引判断に重要ではなくなった場合等において、内閣総理大臣の承認を受けたときは、特定暗号資産発行者の継続的な情報公表義務は免除されます(改正金商法案27条の50第1項但書)。
特定暗号資産の募集・売出しの取扱いを行おうとする暗号資産取引業者は、あらかじめ(特定暗号資産発行者が作成・公表する)特定暗号資産情報を内閣府令に定めるところにより自らも公表しなければ、当該募集・売出しの取扱いを行うことができません(改正金商法案27条の39第4項)。※7
暗号資産取引業者は、特定暗号資産情報が既に公表されている特定暗号資産につき勝手上場を新たに行おうとする場合、特定暗号資産発行者が公表した情報をあらかじめ公表しなければなりません(改正金商法案27条の53第1項)。
特定暗号資産情報の公表がされていない暗号資産を新たに取り扱おうとする暗号資産取引業者は、あらかじめ、当該暗号資産に関して投資者に明らかにされるべき基本的な情報として内閣府令で定める情報(以下「暗号資産情報」といいます。)を(自ら作成して)公表しなければなりません(改正金商法案27条の60第1項本文)。暗号資産情報の公表が求められるケースには、暗号資産取引業者が非特定暗号資産の取扱いを開始する場合のほか、日本国外で発行された特定暗号資産を暗号資産取引業者が勝手上場する場合も含まれると考えられます。
暗号資産情報として公表が求められる具体的な情報の内容については内閣府令を待つ必要がありますが、WG報告を踏まえると、特定暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術に関する情報が含まれる可能性があると考えられます。
なお、既存の暗号資産交換業者については、現に取り扱っている暗号資産につき、施行日から新規取扱いを行おうとするものとみなされ、施行日から3か月以内に暗号資産情報を公表する必要があります(附則8条5項、9条4項)。そのため、特に複数の暗号資産の取扱いを現に行っている暗号資産交換業者の皆様におかれては、暗号資産情報の公表対応に関するスケジュールを早期に策定する必要があると考えられます。
暗号資産情報を公表した暗号資産取引業者は、当該暗号資産について公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなったときは、遅滞なく、その内容に関する情報を公表しなければなりません(改正金商法案27条の61本文)。
特定暗号資産発行者は、公表する特定暗号資産情報のうち、財務計算に関する情報で内閣府令で定めるものについて、特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければなりません(改正金商法案27条の59第1項本文)。
但し、当該募集・売出しに当たり投資家が払い込む額が、政令で定める投資上限を超えない場合は、上記の財務監査証明取得義務が免除されます(改正金商法案27条の59第1項但書)。金融庁が公表する説明資料※8によれば、この投資上限として、株式投資型クラウドファンディングと同様の投資上限(一般投資家につき1件当たり原則として上限50万円(50万円を超える場合には収入又は純資産の5%まで)、年間総額の最大上限200万円。特定投資家は制限なし)が設定される予定です。
まず、特定暗号資産発行者により作成される情報の虚偽記載・不提供については、特定暗号資産発行者及びその関係者に対し、一定の民事責任が課されます(改正金商法案27条の41から27条の48)。この規定は、有価証券の開示書類に関する虚偽記載・不提出の民事責任に関する規定(金商法16条から22条)と同様の構造です。例えば、公表された特定暗号資産情報につき重要事項の虚偽記載があった場合には、特定暗号資産発行者は、特定暗号資産の募集・売出しに応じて特定暗号資産を取得した投資家に対して損害賠償責任を負います(改正金商法案27条の42)。発行会社は、自らに過失が無かったことを立証してもこの損害賠償責任を免れることはできないほか(無過失責任)、損害額については推定規定が置かれるなど(改正金商法案27条の43)、虚偽記載を行った特定暗号資産発行者に対しては重い責任が課されます。さらに、このような虚偽記載が行われた場合には、特定暗号資産発行者の役員などの関係者にも、一定の民事責任が課されます(改正金商法案27条の45)。
次に、非特定暗号資産に関して作成される情報の虚偽記載・不提供については、これを取り扱う暗号資産取引業者に対し、一定の民事責任が課されます(改正金商法案27条の66、27条の67)。
特定暗号資産に関する重要な事項に関する虚偽記載につき、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又はこれらの併科が科されるほか(改正金商法案197条1項4号の3)、暗号資産に関する虚偽記載や情報不公表等についても刑事罰が整備されます。
虚偽記載等については、証券取引等監視委員会の犯則調査の対象に追加されるほか(改正金商法案210条1項)、課徴金制度の対象とされます(改正金商法案172条の13から172条の19)。
※2
FinTechニュースレター No.11/テクノロジー法ニュースレター No.78「暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(1) ―金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要―」(2026年4月)
※4
WG報告12頁
※5
WG報告13頁では49名以下とすることが提案されていますが、具体的な閾値については政令を待つ必要があります。
※6
WG報告14頁
※7
なお、「特定暗号資産発行者等」(特定暗号資産発行者や暗号資産取引業者などを含む概念です。)は、特定暗号資産の募集・売出しにより特定暗号資産を取得させ、又は売り付ける場合には、原則として、あらかじめ又は同時にその相手方に対し、(特定暗号資産発行者が作成・公表する)特定暗号資産情報を内閣府令に定めるところにより提供しなければなりません(改正金商法案27条の40第1項本文)。これは、有価証券における目論見書の交付義務(金商法15条2項)に類似した、勧誘の相手方となる個別の顧客に対する情報提供義務です。なお、日本国外で発行された特定暗号資産を暗号資産取引業者が勝手上場する場合には、このような情報提供義務は課されていません。
※8
金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)3頁https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
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