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The International Comparative Legal Guide to: Patents 2027 第14章「Japan」
(2026年9月)
東崎賢治
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ニュースレター
本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
効果的な執行は国際仲裁の基盤である。最近、The Yangtze Harmony [2026] SGHC 3(以下「本判決」という。)という裁判例において、シンガポール高等法院は、シンガポールにおける海事紛争の執行体制を支持する重要な判決を下した。具体的には、高等法院は、船舶がシンガポールで保全措置としてin rem(対物)訴訟手続により差し押さえられ、その後司法的に売却された場合、勝訴当事者は、差し押さえられた船舶の売却益に対して、仲裁判断を執行できると判断した。
本判決の事案は、船舶サービスを提供する会社である原告と、Yangtze Harmony号(以下「本船舶」という。)の裸用船の借主である被告との間の曳航契約に関する紛争である。この曳航契約に基づき、被告は、修理のために本船舶をオーストラリアからシンガポールまで曳航する目的で、原告からタグボートを用船した。
2022年10月19日、原告は、曳航契約に基づく報酬及び遅延損害金の支払を求めて、シンガポールの裁判所において本船舶に対する対物訴訟を提起し、その結果、これらの請求の担保としてシンガポールにおいて本船舶が差し押さえられた。しかし、曳航契約には仲裁条項が含まれていたため、国際仲裁法1994年(以下「IAA」という。)に基づき、当該訴訟における以後の裁判手続は、仲裁に委ねられ、対物訴訟は停止された。本船舶は差し押さえられたままで、その後、裁判所による司法売却が行われ、売却代金は仲裁の結果が出るまで裁判所に留保された。
その後、原告は、仲裁手続を開始し、被告に対して2つの仲裁判断(以下合わせて「本仲裁判断」という。)を得た。原告は、さらに、本仲裁判断をシンガポール裁判所で執行するための申立てを行った。執行の申立ては認められ、被告に対して、in personam(対人)判決が言い渡された。被告は、本仲裁判断に従わず、また、当該判決に基づく支払等の履行もしなかった。そのため原告は、とりわけ、(i) 対物訴訟手続に対する停止命令を解除すること、及び (ii) 本船舶の売却代金を本仲裁判断に基づく支払に充当できるよう、仲裁判断の内容どおりに被告に対する対物判決を得ることを申し立てた。
裁判所は申立てを認容し、停止命令を解除する権限を有すると判断するとともに、原告が本船舶の売却代金に対して本仲裁判断を執行することを許可した。
まず、関連するシンガポール法を検討した結果、裁判所は、高等法院(海事管轄)法1961年(High Court (Admiralty Jurisdiction) Act 1961)第3条及び第4条の要件を満たす海事請求権者は、基礎となる請求の担保を得るために対物訴訟手続を開始する権利を有すると判断した。その後、有効な仲裁合意が存在することを前提に、裁判所は、IAA第6条に基づき、仲裁合意のいずれかの当事者から申立てがあれば、これらの対物訴訟手続を仲裁に委ね、訴訟手続を停止しなければならない。さらに、IAA第7条1項及び2項により、裁判所は、(i) 将来の仲裁判断の担保として船舶の差押えを継続するよう命じること、並びに (ii) 必要な限度で対物訴訟手続を継続すること(例えば、司法売却により船舶を換価すること)ができる。
しかし、IAAには、海事請求権者が、差し押さえられた船舶又はその売却代金として留保されている担保に対して、仲裁判断をどのような手続で執行できるのかという仕組みについて明文の規定がない。裁判所は、英国の裁判例であるRena K[1979] QB 377(以下「Rena K判決」という。)で示された原則を検討した。Rena K判決の原則には、次の2つの側面がある。
裁判所は、Rena K判決の原則の第一の側面は、IAA第7条によりすでに一部が法典化されていると指摘し、また第二の側面についてもこれを肯定した。すなわち、海事請求権者が留保された担保に対して仲裁判断を執行できるようにするため、シンガポール裁判所には、対物訴訟手続の停止を解除する残存的なコモン・ロー上の権限があると判示した。裁判所は、IAA及び2021年裁判所規則(Rules of Court 2021)のいずれにも、この残存的権限の存在を排除する規定は存在しないことに加え、船舶売却代金から仲裁判断上の債権者に支払うという措置は、まさにIAA第7条1項(a)が予定している状況である、と論じた。
最後に、裁判所は、基礎となる対人訴訟の請求原因が仲裁により判断された場合に、対物の請求が消滅するのか、という問題についても検討した。裁判所は、英国・豪州・ニュージーランドで発展した判例法を検討した上で、Kuo Fen Ching v Dauphin Offshore Engineering & Trading Pte Ltd [1999] 2 SLR(R) 793(以下「Kuo Fen Ching事件」という。)において示されたシンガポール法上の立場を確認した。同事件では、船舶に対する対物訴訟手続と、船舶所有会社に対する対人訴訟手続とは、別個に並行して存在する手続であり、当該会社が解散したとしても両者が併合されることはない、と判示されていた。本件において裁判所は、Kuo Fen Ching事件の原則は、並行する対物訴訟手続と対人仲裁手続にも同様に適用されると判断した。すなわち、仲裁において原告の請求が判断され、その結果として仲裁判断が下されたとしても、船舶に対する対物訴訟手続が消滅するわけではなく、仲裁判断を執行する目的のために当該対物訴訟手続は引き続き存続するとした。
本判決によって、基礎となる契約に仲裁条項がある場合に、被告の船舶又はその売却代金に対して海事請求権者がシンガポール法上取り得る執行手段が明確になった。被告が所有する船舶がシンガポールの領海内にある、又は今後通過する見込みがある場合、原告は、仲裁を開始する前であっても、シンガポール裁判所で対物訴訟手続を開始して船舶を差し押さえ、担保として確保しておくといった予防的措置を検討し得ることになる。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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