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サプライチェーン安全規定とブロッキングルールの制定と執行―中国の経済安全保障最新動向

著者等
若江悠
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.280/NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター No.43(2026年5月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 直近の中国の経済安全保障に関する動向としては、特に2025年4月以降、米国による相互関税への強力な対抗策として中重レアアースの輸出管理が開始され、日本企業にとっても大きな影響があり、その後、域外適用も含めた包括的なレアアース規制(商務部2025年55号、56号、57号、58号、61号、62号各公告)が2025年10月に公表されるも、同月末の米中間合意により1年間施行が延期されるに至っている。他方、米中関係が基本的に一時休戦となっている中、2025年11月のいわゆる台湾有事に関する高市総理による答弁に端を発して日中関係は悪化の一路をたどり、中国による対抗策の一環として、中国商務部が2026年1月、2月と相次いで、日本を標的とした輸出管理措置(商務部2026年1号、11号、12号各公告)を発表し、日本企業には衝撃をもって受け止められた(当事務所ニュースレター「[速報]中国による日本向け両用品目の輸出管理強化措置-日本企業に対する影響と留意点-」(2026年1月)、「中国商務部による対日輸出規制のさらなる強化(2026年11号、12号公告)」(2026年2月)をそれぞれ参照。)。今回は、本年4月、国務院レベル(日本でいう内閣に相当する。)で制定された2つの新たな経済安全保障関連規定と、関連して5月に中国商務部により公表されたブロッキングルールの執行例をとりあげたい。これらは日本のみを対象とするものではないが、日本企業として、日本、米国、EU等の法令遵守のため、あるいは、ESGの観点、取引先等のステークホルダーからの要請又はその他の理由で行う行為が、中国法に違反するかもしれないという、いわゆる板挟みリスクを生じさせる可能性が高まるものであり、中国に何らかの関わりのある会社であれば関係しうるものといえる。

 5月13日から15日にかけてトランプ大統領が北京を訪問し開かれた米中首脳会談では、米中間の協力や取引(中国側が「建設的戦略安定関係」を提案し、米国側も「公正性と相互性を基礎に(on the basis of fairness and reciprocity)」これに合意した旨が公表された。)が大きく打ち出されたが、友好的な動きと並行して、米国も中国も、その経済安全保障の確保のため引き続き様々な措置をとっていくことが予想される。日本は、その一方で、いわゆる安保三文書改定の議論からも明らかなように、中国対抗の目的で各種経済安全保障の政策を強化しているといえる。グローバルに展開する日本企業は、いかにして複数の法域の要求を認識、調整のうえ、法的リスクを最小化しながら事業を継続、発展させるかを検討していく必要がある。

2. サプライチェーン安全規定

(1) 概要

 国務院は2026年4月7日、「産業チェーン・サプライチェーン安全に関する規定」(国務院令834号、以下「サプライチェーン安全規定」という。)を公布し、即日施行した。本規定は、中国における原材料、技術、設備、製品の安定的な生産と流通をいわば国家安全の問題として明確に位置づけ、既存の対外貿易法や輸出管理法等の貿易関連法令や、反外国制裁法をはじめとする反制裁の枠組みにとどまらず、サプライチェーン安全保障に関連するルールを統合的に定め、複数の部門が共同して対応するものとした。他方で、その規定にはあいまいな部分も多く、解釈によっては、外国企業による事業展開上必要な情報収集や取引終了・撤退の決定も制限されかねないとの懸念も表明されている。

 主な内容として、まず、国務院関連部門が経済・国家安全に関わる「重要領域」をリストアップする(7条。随時調整されうるものとされる。)としたうえで、当該重要領域について、産業チェーン・サプライチェーンの情報共有の推進(8条。これについては独禁法上の懸念も指摘されている。)、リスク監視・早期警告制度確立(9条)、リスク予防制度確立・備蓄の実施(10条)、応急管理制度確立(11条。産業チェーン・サプライチェーンの安全に影響する事態が発生し、経済社会の安全及び国家安全を脅かすときは、緊急徴用、備蓄使用、生産・運輸・供給の組織化等の緊急措置をとる。)といった措置をとるものとされる。

(2) 情報収集活動についての規定(13条)

 そのうえで、特に実務的に影響が懸念されているのが、中国国内で行われる産業チェーン・サプライチェーンに関する調査等の情報収集活動について定める13条である。同条の文言上は、中国の法令等に違反する情報収集活動を中国国内で行えば相応の処理・措置の対象となるという、いわば当たり前のことを規定したに過ぎず、独自の新しいルールを設けたものとはいえないものの、中国当局がこの手の情報収集活動について厳しく監視し、取り締まっていく方向性が示されたものとはいえるであろう。

 日本企業も、米国のウイグル強制労働防止法やEUの企業持続可能性デューデリジェンス指令等に基づいて、又はESGの観点、取引先や株主等のステークホルダーからの要請に基づいて、いわゆる人権DDの観点でのサプライチェーン調査や各種調査を行うことがある。もとより、中国のサプライヤー等に対して行われるそのような調査活動に関しては、センシティブな分野や内容であるときは中国法への抵触について注意を要するものであった。2023年には、国家安全法及び反スパイ法への違反を根拠として中国国内で調査を行っていたCapvision社に対して処分が行われた。同年には、同じく調査会社のミンツグループの北京事務所に立ち入り調査が入り、中国人スタッフが拘束された後、涉外調査管理弁法違反を理由に処分が行われた。また、新疆ウイグルにおける情報収集を行い、米国による制裁措置の「根拠」を提供したことを理由として米国企業や個人が「反外国制裁法」に基づく制裁の対象とされたこともある。サプライチェーン調査は、グループ内のガバナンスの目的で、あるいは海外における訴訟や仲裁における証拠収集のために行われることもあるところ、それら調査結果の越境移転については、データ安全法などの規制にも注意する必要がある。

 今回の新規定を受け、これら法令に違反することがないようさらに慎重な対応が必要となったといえよう。できるだけ中国において非公開の情報を収集しないようにし、収集する場合も国家安全・国家秘密に関わりうるセンシティブな領域については特に注意を払い、また調査の範囲は取引の目的に照らして必要最小限にとどめる、といった対応が考えられる。

 なお、(1)で記載したとおり本規定に基づき産業チェーン・サプライチェーンの重要領域がリストアップされるが、13条以下の規定の対象は中国の産業チェーン・サプライチェーン全般であり、重要領域に関わるものには限られないことには注意が必要である。

(3) その他の規定

 このほか、14条では、外国が中国に対し産業チェーン・サプライチェーンに関して差別的禁止・制限又はその他類似の措置を講じて、中国の産業チェーン・サプライチェーンの安全を害する行為を実施し又はこれに協力したときは、当該措置や行為について安全調査を行い、輸出入禁止等の相応の措置をとるほか、反外国制裁法に基づき、当該措置や行為の制定に関与し、決定し、実施した組織・個人を反制裁リストに掲載することなどが規定されている。

 15条では、外国の組織・個人が正常な市場取引原則に違反し、中国の国民・組織との正常な取引を中断し、中国の国民・組織に対して差別的な措置を講じ又はその他の行為を行い、中国の産業チェーン・サプライチェーンの安全に実質的な損害を与え、又は実質的な損害の脅威をもたらした場合には、当局は安全調査を実施し、その結果に基づいて、中国に関連する輸出入活動・中国への投資の禁止・制限、中国国内の組織・個人との取引・合作等の活動の禁止・制限、関連する人員・交通運輸手段等の入国禁止・制限、関連人員の中国国内における就労・滞在・居留資格の取消し・制限等の対抗措置を取りうる旨が規定されている。これらの措置は、外国組織・個人が実質的に支配し、又は設立・運営に関与している組織にも適用されうるとなっているので、中国子会社を含むグループ全体に影響が及ぶことに注意が必要である。

 この点に関連して、2025年2月にPVH及びイルミナの2社が中国の信頼できないエンティティリストに掲載された理由として、(背景としては米国によるフェンタニル関税への対抗措置という一面もあったが)「正常な市場取引原則に違反し、中国企業との正常な取引を中断し、中国企業に対して差別的な措置を講じ、中国企業の合法な権益を著しく害した」ことがあげられていた。今後、このような行為は、本規定に基づいて調査、対抗措置の対象とされうると思われる。すなわち、(少なくとも中国にとって)合理的といえない理由(例えば新疆ウイグルにおける「人権侵害」やそのおそれ等)により日本企業が中国企業の取引を打ち切り、これが中国のサプライチェーンの安全に影響を与えた場合には、本規定に基づいて当局は調査のうえ、本社のみならず、その中国子会社やその従業員にも対抗措置をとりうる、ということになる。

 もちろん、外国企業が商業的に合理的な理由で、現地で中国企業に原材料・部材等を供給する現地法人を撤退させ、又は外国法人から中国企業へのそれら供給に係る取引を終了させることなどが、この規定により制限されるものではないとは思われるが、本規定違反の疑いをもたれないようにするため、中国企業に関わる取引停止等を行う際には、中国法の観点でのレビューを経ること、社内検討や外部専門家等への助言を得たプロセスの保存、対外的発信の統一等を心がけるべきであろう。

3. 新たなブロッキングルールと初めての執行例

(1) 反外国不当域外管轄条例

① 2021年遮断弁法との関係と適用範囲

 上記2.に続いて、中国国務院は、2026年4月13日、「反外国不当域外管轄条例」(国務院令835号、以下「本条例」という。)を公布し、即日施行した。

 外国法令の不当な域外適用を阻止することを内容とするいわゆるブロッキングルールとしては、2021年に商務部が「外国の法律及び措置の不当な域外適用を遮断することに関する弁法」(商務部令2021年1号、以下「遮断弁法」という。)を公布、施行していた。同弁法は、いわゆる域外適用の場面のうち、ある国の法令や措置が第三国の法人等にも域外適用され、これを第三国の法人等が遵守することによって、中国法人等との間の正常な経済貿易及び関連活動が不当に禁止又は制限される場面のみをカバーし、また、そのような場合において当局が当該法令や措置についてこれを遵守することを禁止する「禁令」を出すことが前提となっている規定であったが、今月までそのような「禁令」が出されたことはなかった。しかし、米国議会で今年審議されているMATCH法、STRIDE法などのように域外適用を前提とした規制が新たに導入され、また既存の法令を含めて今後も活用されていくことが見込まれるなか、より広く不当な外国法令の域外適用全般をカバーできる条例を、より上位の法形式で定めることにしたものと思われる。同条例19条2項では、中国国民・組織と第三国及びその国民・組織との間で正常な経済貿易及び関連する活動を外国が不当に禁止・制限する場合については遮断弁法を適用するとしているので、本条例の制定後も、遮断弁法を適用しうる場合は遮断弁法が使われることになると思われる(下記(2)で紹介する執行例も、本条例施行後に出されたものであるが、遮断弁法を根拠として商務部が出している。)。

 遮断弁法ではなく本条例が適用される場面としては、例えば、米国法に基づいて日本企業が中国におけるサプライチェーン監査を行い、米国当局に関連する情報を開示することは、もし中国当局の同意なく行えばデータ安全法36条に違反することになりうるが、これに加えて、これが不当な域外管轄にあたるとされれば、(遮断弁法ではなく)本条例の適用を受けることになりうるし、日本企業の中国子会社が米国の規制に従って中国企業との取引を停止する場合も(第三国の法人との取引ではないので、遮断弁法は適用されないが、本条例では)カバーされうると思われる(これらの行為は、同時に上記2.で議論したサプライチェーン安全規定にも抵触する可能性がある。)。さらに進んで、MATCH法に基づき日本が米国法にあわせた同様の輸出規制等を導入(alignment)し、これを日本企業が遵守した場合も、本条例の適用範囲となりうるとの議論もあるが、適用範囲の外延は必ずしも明らかではない。

 遮断弁法は商務部が管轄していたが、本規定は司法部が管轄する点も重要な違いである。

② 本条例の概要・悪意あるエンティティリストの創設

 本条例では、外国による不当な域外管轄措置について当局が識別(各種要素を踏まえた総合的判断により決定)のうえ、公告を行うものとされ、いかなる組織・個人も不当な域外管轄措置を執行し、又は執行に協力してはならない(6条)とされる。遮断弁法にはなかった新たな制度として、当局は、不当な域外管轄措置の実施を推進又はこれに関与する外国組織・個人を、悪意あるエンティティリストに掲載することができるとされ、当該組織・個人が実質的に支配する組織等は、反外国制裁法に基づき、各種対抗・制限措置(ビザ発給拒否・入国禁止、在留資格の制限・取消し、中国国内の財産の差押え・凍結、中国の組織・個人によるデータ提供・取引・合作等の活動の禁止・制限、中国に関連する輸出入や中国への投資の禁止・制限、その製品や交通運輸手段の入国禁止・制限、罰金等)の対象とされうる(8条)。上記2.の本規定と同じく、これらの措置は、リストに掲載された組織・個人が実質的に支配し、又は設立・運営に関与している組織(すなわち中国子会社を含むグループ全体)にも適用されうる。

③ 法的責任

 また、不当な域外管轄措置を執行し又は執行に協力する組織・個人に対しては「禁執令」が出されることがあり(13条)、「禁執令」や上記対抗・制限措置に違反した者は、さらに各種制裁措置の対象となる(17条)。

 注目すべきは、中国の国民・組織の合法的な権益を侵害した場合には、中国の人民法院において、差止め及び損害賠償を請求される可能性があるとされる(14条)。この点、遮断弁法9条や反外国制裁法12条においても同様の規定があり、2025年3月に公表された「最高人民法院工作報告(2025)」記載の事例では、反外国制裁法に関して、外国の経済制裁を遵守して中国企業との契約義務の履行を拒否した場合には同法の適用を受けると認められうること、契約における仲裁条項等にもかかわらず、中国の裁判所にいわば特別な管轄が認められうることが示された。

(2) 遮断弁法に基づく初めての執行例

 最後に、5月2日(中国では労働節の5連休中)、中国商務部は2026年21号公告を発表し、米国OFACが恒力石化(大連)煉化有限公司等中国企業5社に対してイラン石油取引への関与を理由に行ったSDNリスト指定、資産凍結、取引禁止等の制裁措置について、上記遮断弁法に基づく禁令を出した。遮断弁法の初めての適用例である。

 経緯としては、恒力以外の比較的小規模な民間製油企業(ティーポット)4社はすでにSDNリストに掲載されていたが、2026年4月24日、中国有数の民間石油化学企業である恒力に対して新たに制裁が加えられたことを受けて、その対抗策として行われたといわれている。上記米中首脳会談を前にしてのcurtain raiser(ジャブの打ち合い)とも評される。

 この禁令により、中国法の下では米国の上記制裁措置を承認、執行、遵守してはならないものとされるほか、上記のとおり、遮断弁法9条などに基づいて、米国の上記制裁措置を遵守することにより権益の侵害を受けた中国の国民・組織は中国の裁判所において損害賠償請求を提起できることとなる。

 日本企業が仮に上記5社から製品(化学工業製品等)を購入したり、又はこれらの会社に銀行決済を含むサービスを提供したりすることは、米国の制裁に違反し、二次制裁の対象となるおそれがあると考えられる。一方で、例えば、米国制裁を理由にこれまでの取引関係にかかわらず一方的な契約の解除や履行拒絶を行った場合には、上記中国法上のリスクが発生することになる、まさに板挟みの事態(double-bind)が生じうることになる。

 このような事態を防止するため、契約条項についてはこれまで以上の工夫が必要となる(単に不可抗力や終了事由に米国制裁等を規定する標準的ひな形に従うだけでは、リスクは残るといわざるを得ない。)が、実際の板挟み状態になった場合には、他の合理的な事由をもって履行停止や解除を行いうるかも検討すべきであるし、さらに、実際のリスク軽減のため、各国関連当局とのコミュニケーション・交渉も必要となってくるであろう。長期的には、サプライチェーン、決済通貨、ひいては企業グループ構造の分離なども検討しなければならない状況もありうるように思われる。

追記:

本稿の編集過程において以下の追加の事実関係に接したので、取り急ぎご紹介する:

  1. 米中首脳会談後、トランプ大統領は、米国による上記中国企業のSDN指定等の制裁措置を取り下げることを検討すると発言したと報じられた(ただし、現時点では正式に取下げはされていない。)。イラン情勢との関係で米中間でどのようなディールがなされたことによるものかは不明である。
  2. 5月15日、今度は本規定に基づく初めての執行例として、中国司法部はEUによる外国補助金規則(FSR)に基づく同方威視(Nuctech、清華同方の子会社)への調査における、中国エンティティへの越境調査は、不当な域外管轄措置に該当する旨を公告した(司法部2026年5号公告)。同社に対するFSR調査については、当事務所ニュースレター「EUの外国補助金調査の近況と中国の関税法改正」(2024年5月)を参照。EUも米国とはまた異なったアプローチで中国や中国企業に対する各種措置を講じており、中国はEUに対してもその法的ツールを活用して対抗していくことが表明されたものといえる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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