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Debt Capital Markets: Overview (Japan)
(2026年5月)
糸川貴視
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2026年4月10日に金融庁により提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正法案」といいます。)※1において行われる、暗号資産に係る規制の見直しに関し、本ニュースレターではこれまで、暗号資産取引に係る規制の資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)への移管、無登録業者等への対応の強化の詳細、情報公表規制の整備の詳細、暗号資産交換業者(名称は「暗号資産取引業」者へ変更)への業規制の強化について取り上げてきました※2。
本稿では、インサイダー取引規制の整備を含む、暗号資産の不公正取引規制の強化についてご紹介します。インサイダー取引規制違反に関しては刑事罰が定められているほか、各事業者において未公表の重要事実の管理体制や内部規程の整備等の対応が必要になるという意味でも実務に重大な影響がある内容です。なお、次号では、暗号資産に関する税制改正の概要を、2026年3月31日に成立し、同日に公布された改正法令に基づき解説する予定です。
現行の金商法においては、暗号資産の不公正取引規制として、不正行為の禁止に関する一般規制、風説の流布や偽計、相場操縦行為等の禁止規制が整備されています。他方で、暗号資産のインサイダー取引を直接規制する規定は設けられていないほか、課徴金制度や証券取引等監視委員会の犯則調査権限等も整備されておらず、違反行為への抑止力が不十分との指摘があります。2025年12月10日に公表された「金融審議会『暗号資産制度に関するワーキング・グループ』報告」※3(以下「WG報告」といいます。)では、暗号資産の投資対象化が進展する中で、暗号資産取引の公正を害するような不公正取引への抑止力を確保するために、インサイダー取引規制の整備を含めた不公正取引規制の強化を行う方向性が示されました。
本改正法案においては、上記のようなWG報告の方向性に沿い、暗号資産の不公正取引規制の強化が行われています。より具体的には、(i)暗号資産のインサイダー取引規制を新設するほか、(ii)そのほか暗号資産にも妥当すると考えられる不公正取引規制についても併せて整備するとともに、(iii)暗号資産に係る不公正取引を証券取引等監視委員会の犯則調査や課徴金制度の対象へ追加すること等によるエンフォースメントの強化が行われています。
以下では、上記(i)~(iii)のそれぞれの詳細をご紹介します。
本改正法案で新設される暗号資産のインサイダー取引規制においては、現行の上場有価証券等のインサイダー取引規制の枠組みをベースに、一定の暗号資産について、一定の関係者が、「重要事実」の公表前に売買等を行うことが禁止されます(改正金商法案171条の7から171条の9)。これにより、暗号資産の発行者や暗号資産取引業者等は、(1)未公表の重要事実の管理体制の整備、(2)役職員に対する取引制限や内部規程の整備、(3)情報の公表のタイミングや範囲に関するガバナンスの強化等といった対応が必要になると考えられます。
インサイダー取引規制の規制対象となる暗号資産は、基本的に、暗号資産取引業者で既に取扱いが行われている暗号資産と、かかる取扱いの開始が暗号資産取引業者の業務執行決定機関において決定された暗号資産に限定されます(改正金商法案171条の7第1項、171条の8第1項、171条の9第1項)。したがって、国内又は国外の無登録業者やDEX(分散型取引所)等のみで取り扱われている暗号資産は、暗号資産取引業者における取扱いの開始が決定されていない限り、基本的にはインサイダー取引規制の対象外となります。
暗号資産のインサイダー取引規制の規制対象とされる「重要事実」の内容は、大要以下のとおりです。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 暗号資産の発行者に関する重要事実(改正金商法案171条の7第2項) |
|
| 暗号資産取引業者に関する重要事実(改正金商法案171条の8第2項) |
|
| 大量売買者に関する重要事実(改正金商法案171条の9第2項) |
|
なお、上記の表に列挙する事実からは、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものが除かれています(いわゆる軽微基準)。実務上は、個別に列挙されている各重要事実の該当性や、さらにはバスケット条項の該当性を判断する上でも、軽微基準の具体的な内容が重要になると考えられますので、今後策定される内閣府令の内容を注視する必要があります。
上記2.の重要事実の類型に応じて、それぞれ以下の関係者が所定の経緯により重要事実を知った場合に、インサイダー取引規制の対象者とされます。
| 項目 | 規制対象となり得る関係者 |
|---|---|
| 暗号資産の発行者に関する重要事実 |
「特定暗号資産発行者関係者」(改正金商法案171条の7第1項) (例)
|
| 暗号資産取引業者に関する重要事実 |
「暗号資産取引業者関係者」(改正金商法案171条の8第1項) (例)
|
| 大量売買者に関する重要事実 |
「大量売買者関係者」(改正金商法案171条の9第1項) (例)
|
また、上記の関係者から重要事実の伝達を受けた者などの一定の者(いわゆる第一次情報受領者)もインサイダー取引規制の対象者とされます(改正金商法案171条の7第3項、171条の8第3項、171条の9第3項)。
以下のとおり、暗号資産のインサイダー取引規制についても、(⑧の類型を除き)上場有価証券等のインサイダー取引規制と類似した適用除外類型が定められています(改正金商法案171条の7第6項、171条の8第5項、171条の9第5項)。
| インサイダー取引規制の適用除外(例) | |
|---|---|
| ① | 既に有する権利の行使 |
| ② | 法令による取引 |
| ③ | 知っている者の間の市場外取引 |
| ④ | 組織再編 |
| ⑤ | いわゆる「知る前契約」の履行 |
| ⑥ | いわゆる「知る前計画」の実行 |
| ⑦ | (大量売買者の関係者による取引のみ)一定の情報受領者による取引 |
| ⑧ | 技術的仕様に基づいて一定の役務を提供することにより暗号資産の提供又は取得をする場合※6その他これに準ずる特別の事情に基づく暗号資産に係る売買等であることが明らかな売買等をする場合(内閣府令で定める場合に限る。) |
本改正法案では、暗号資産のインサイダー取引規制についても、上場有価証券等のインサイダー取引規制(金商法167条の2)と同様、関係者による情報伝達・取引推奨行為が禁止されます(改正金商法案171条の10)。
暗号資産のインサイダー取引規制についても、上場有価証券等のインサイダー取引規制と同様、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科とする刑事罰が定められています(改正金商法案197条の2第1項16号から19号)。
本改正法案では、上記のインサイダー取引規制のほか、以下のとおり、暗号資産に係る不公正取引規制が併せて整備されます。
暗号資産についても安定操作取引の禁止規制が定められます。具体的には、政令で定めるところに違反して、暗号資産等の相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって一定の取引を行うことが禁止されます(改正金商法案171条の5第3項)。
これは、上場金融商品等や店頭売買有価証券の相場に関する現行の金商法159条3項と同様の規定です。
暗号資産の発行者や金融商品取引業者等から対価を受けて暗号資産の取引判断に関する意見をインターネット等で表示する場合には、対価を受ける旨の表示が義務付けられます(改正金商法案171条の12)。
これは、有価証券取引に関する現行の金商法169条と同様の規定です。
本改正法案においては、以下のとおり、暗号資産に係る不公正取引につきエンフォースメントの強化が行われています。
上場有価証券等の不公正取引に係るエンフォースメントと同様に、暗号資産に係る不公正取引についても、証券取引等監視委員会の犯則調査の対象とされることとなります(改正金商法案210条1項)。
上場有価証券等の不公正取引規制と同様に、暗号資産に係る不公正取引についても、課徴金制度が新設されます(改正金商法案173条から174条の3、175条の3から175条の5)。これに伴い、暗号資産に係る不公正取引についても、証券取引等監視委員会の課徴金調査の対象とされることとなります(改正金商法案177条1項)。
暗号資産取引についても、有価証券の取引等と同様、外国金融商品取引規制当局に対する調査協力の対象となります(改正金商法案189条1項)。これにより、暗号資産取引の関係者等に対する出頭命令や報告・資料提出の命令等の実施が可能となります。
※2
FinTechニュースレター「暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(1) ―金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案の概要―」(2026年4月)
FinTechニュースレター「暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(2) ―情報公表規制の整備―」(2026年5月)
FinTechニュースレター「暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(3)―業規制の強化―」(2026年5月)
※4
「特定暗号資産」の定義については、FinTechニュースレター「暗号資産に係る規制・税制の改正の内容(2) ―情報公表規制の整備―」(2026年5月)をご参照ください。
※5
金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)5頁によれば、大量売付け・大量買付けに該当するものとして、発行済暗号資産の20%以上の売買等が政令で定められる予定です。
https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf
※6
マイニングやステーキングによる暗号資産の取得等が想定されていると考えられます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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