• HOME
  • 著書/論文
  • 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案等の公表 ― 着荷主による荷待ち・荷役の要請や、取適法対象外の製造委託等における支払期日も規制へ

Publication

ニュースレター

「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案等の公表 ― 着荷主による荷待ち・荷役の要請や、取適法対象外の製造委託等における支払期日も規制へ

著者等
伊藤伸明芦田晴香(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Competition Law Update ~独占禁止法・競争法ニュースレター~ No.51(2026年6月)
業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 本年3月12日⁠、公正取引委員会(以下「⁠公取委」といいます。⁠⁠)は⁠、「⁠特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法⁠」改正案(以下「物流特殊指定改正案⁠」といいます。)、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案(以下「製造委託等特殊指定案⁠」といいます。)及び「⁠『⁠製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法⁠』の運用基準⁠」案(⁠以下「⁠製造委託等特殊指定運用基準案⁠」といい、物流特殊指定改正案及び物流特殊指定運用基準案と併せて「本改正案等」といいます。⁠)等の公表を行いました※1

 後述するとおり、本改正案等は、サプライチ⁠ェ⁠ーン全体での価格転嫁や取引適正化の推進を目指す観点から、中小受託⁠取引適正化法(以下「取適法」といいます。)の適用対象外の取引についても一定の規制を課すことを意図するものであり、実務への影響が大きいものと考えられます。したがって、本ニュースレターでは、現行法の規制内容を踏まえた各改正案等のポイントについてご紹介いたします。

 なお、本改正案等のパブリ⁠ックコメントの期限は4月13日に終了しており、パブリックコメントの結果を踏まえた成案の公表が控えている状況です。本改正案等の施行予定は2027年4月1日とされています⁠。

物流特殊指定改正案について

1. 現行法の課題

 発荷主(⁠部品メ⁠ーカ⁠ーや卸売業者等⁠)が着荷主(完成品メーカーや小売事業者等)に対して物品を運送するにあたっては、通常、①発荷主から元請運送事業者に対して物品の運送を委託し、②元請運送事業者から下請運送事業者に運送の再委託を行うというように、複数の委託関係が重なり合っています。このうち、②の下請運送事業者への再委託は、「役務提供委託」として取適法の適用対象とされています。また、①の発荷主から元請運送事業者に対する委託は、旧下請法の下では基本的に適用対象外とされ、独占禁止法2条9項6号に基づき指定された「⁠特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法⁠」(⁠以下「⁠物流特殊指定⁠」といいます⁠。⁠)によって規制されてきましたが、取適法への改正に伴い、このような運送委託行為の一部が「特定運送委託」として取適法の適用対象取引に含まれることとなりました。

 このように、発荷主と運送事業者の関係においては、取適法や物流特殊指定によって運送事業者の保護が一定程度図られているものの、実際の物流の現場においては、荷下ろしの場面で、着荷主が運送事業者に対して、発荷主と取り決めた取引条件にない契約外の荷待ち・荷役等を要請する行為が問題視されてきました。しかし、着荷主と運送事業者の間には直接の契約関係がないことから、現行法の下ではこのような着荷主の行為を是正することは容易でない状況にありました。

2. 物流特殊指定改正案の概要

 上記1.の課題を踏まえ、物流特殊指定改正案では、新たに着荷主規制が導入されました(物流特殊指定改正案3項)。着荷主規制の下では、「特定着荷主※2」が物品の引渡しを受ける場合に⁠、以下の行為を行うことにより「特定発荷主※3」の利益を不当に害することは⁠、不公正な取引方法として違法となります(⁠同3項1号及び2号⁠、独占禁止法19条⁠、同法2条9項6号⁠)⁠。上記1⁠.で述べたように⁠、実際に問題とな⁠っているのは、着荷主による運送事業者に対する行為ですが⁠、発荷主は、取適法や物流特殊指定を介して運送事業者の負担を引き受ける立場にあることから⁠、着荷主による発荷主に対する特定の行為(契約外の荷待ち等を運送事業者を通じて行わせることによって、発荷主の利益を不当に害する行為)が規制対象とされています⁠。

  • 不当な運送の役務以外の役務その他の経済上の利益提供要請(附帯業務等)
  • 不当な運送の変更及びやり直し(荷待ち・やり直し等)

(出典:2026年3月10日付 第4回企業取引研究会資料2 14頁)

製造委託等特殊指定案及び同運用基準案について

1. 概要

 支払条件の決定においては、発注者が優位に立つ傾向があり、その場合に支払サイトが長期化する傾向があるとされています。この点、取適法では、取適法の適用対象取引を行う発注者(取適法2条8項の「委託事業者」)に対しては、給付受領日から起算して60日以内の支払期日を定める義務や、60日の期間経過後も代金を支払わない行為(支払遅延)の禁止が定められていますが、規模基準(資本金基準及び従業員基準)を満たさない発注者・受注者間の取引は取適法の適用対象外であることから、複数の取引段階が連なるサプライチェーンを全体としてみると、支払サイトが長期に及ぶケースがみられると指摘されていました※4

 上記の課題を踏まえ、製造委託等特殊指定案では⁠、取適法上の「⁠製造委託等」を行った発注者の行為を適用対象とし、当該発注者(製造委託等特殊指定案における「委託事業者」)が、給付受領日から起算して60日の期間経過後も代金を支払わない行為(支払遅延)を禁止しています⁠。製造委託等特殊指定案は、取適法と異なり、発注者・受注者に関する規模基準(資本金基準及び従業員基準)は設けていないため、規模基準を満たさず取適法の適用対象外となる取引についても規制対象となります。

2. 製造委託等特殊指定案の適用対象

 上記1.のとおり、製造委託等特殊指定案は、発注者が取適法上の「製造委託等」を行った場合に適用されるため、製造委託等を伴わない規格品等の売買であれば、通常は適用されません※5

 また、製造委託等特殊指定案では⁠、発注者・受注者に関して明確な規模基準(資本金基準及び従業員基準)は設けられていないものの、受注者が「取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる」場合は、製造委託等特殊指定の対象となる「受託事業者」に該当せず、規制対象から除外されます。

 製造委託等特殊指定運用基準案第1の2によると、「取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる」かどうかの具体的な判断に当たっては、①受託事業者の当該委託事業者に対する取引依存度、②当該委託事業者の市場における地位、③受託事業者にとっての取引先変更の可能性、④その他当該委託事業者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に勘案するとされています。このような考慮要素は、公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」といいます。)第2の2で示されている、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)における「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」の判断に用いられる考慮要素と基本的に同じ内容となっています。しかし、製造委託等特殊指定運用基準案には、「当該委託事業者に比して事業規模が小さい事業者が、当該委託事業者による告示に規定する行為を受け入れている場合には、その取り扱う商品又は役務が高い希少性を有するなど例外的な場合を除いて、一般に当該事業者は告示の受託事業者に該当する。」との記載があり、受注者の事業規模が発注者に比べて小さい場合には、原則として製造委託等特殊指定の規制対象となるという考え方が示されていることから、その適用範囲は、広範にわたると考えられます。

3. 製造委託等特殊指定案における禁止行為

(1) 禁止行為の内容

 上記1のとおり、製造委託等特殊指定案では、委託事業者が受託事業者に対し、給付を受領した日(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、委託に係る役務の提供を受けた日※6。以下同じ。)から起算して60日の期間経過後も代金を支払わないこと(支払遅延)が禁止されています。取適法では、このような支払遅延行為は受注者の同意の有無等を問わず一律に禁止されているのに対し、下記(2)で述べるとおり、製造委託等特殊指定案では、支払遅延に「正当な理由がある場合」には違反行為に該当しないこととされています。

(2) 「正当な理由がある場合」の考え方

 製造委託等特殊指定運用基準案第2の2では、「正当な理由がある場合」の例として、以下の3つが挙げられています。

  1. 受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合
    具体的には、受託事業者の給付の内容が委託内容と異なることがある等の場合をいうとされています。
  2. 製造委託等をするに当たって受託事業者との合意により支払条件を定め、その条件に従って代金を支払う場合(当該製造委託等の取引における合理的な理由に基づき、支払条件を定める場合に限る。)
    ここでいう「合意」とは、合意という形式的な形さえ整えればよいというものではなく、当事者の実質的な意思が合致していることをいいます。また、受託事業者との「合意」による支払遅延が「正当な理由」に該当するのは、「当該製造委託等の取引における合理的な理由に基づき、支払条件を定める場合」に限定されています。製造委託等特殊指定運用基準案によれば、「当該製造委託等の取引における合理的な理由に基づき、支払条件を定める場合」とは、取引の実態に即した合理的な理由があり、給付を受領した日から起算して60日を経過する日の翌日以降の日を支払期日と定める場合をいうとされており、例として、次のような場合が挙げられています。

    • 給付の完了の確認又は検査に時間を要する場合において、給付の完了の確認又は検査に通常必要とする期間の経過後を支払期日に設定する場合
    • 支払期日が金融機関の休業日に当たる場合において、当該金融機関の翌営業日までの順延に係る期間の経過後を支払期日に設定する場合
    • 給付を受領した日から起算して60日を経過する日の翌日から支払期日までの受託事業者の資金調達コスト等を踏まえて代金の額を定める場合において、代金の額に反映された調達に係る利息等の額の算定の基礎となった期間の経過後を支払期日に設定する場合
  3. あらかじめ受託事業者の同意を得て、かつ、代金の支払の遅延によって当該受託事業者に通常生ずべき損失を委託事業者が負担する場合
    上記②と同様に、「受託事業者の同意」とは、同意という形式的な形さえ整えればよいものではなく、受託事業者が納得して同意していることをいいます。なお、委託事業者が客観的に相当と認められる損失を負担していない場合には、たとえ受託事業者が同意したときであっても、「通常生ずべき損失を委託事業者が負担する場合」とはいえず、「正当な理由がある」とはいえないとされています。

 以上を踏まえると、外見上は受託事業者の同意があるように思われる場合でも、給付を受領した日から起算して60日を経過する日より後に支払期日を設定することに合理的な理由がある場合や、支払遅延によって受託事業者に生じる損失を委託事業者が負担する場合など、受託事業者が支払遅延に納得していることを基礎づける客観的な事実がない限り、上記②又は③には該当せず、「正当な理由がある」とは認められにくいと考えられます。

おわりに

 上述のとおり、本改正案等は、サプライチ⁠ェ⁠ーン全体での価格転嫁や取引適正化の推進を目指す観点から、取適法適用対象外の取引についても一定の規制を課すことを意図するものです。物流特殊指定改正案は、これまで規制が十分に及んでいなかった着荷主の行為を規制するものであり、着荷主においては、物流の現場における対応状況を把握した上で、運送事業者に対する不当な行為が行われることがないよう、必要に応じて業務フローの見直し等を図る必要があると考えられます。また、製造委託等特殊指定案は、取適法適用対象外の事業者についても広く規制対象となると考えられることから、これまで取適法適用対象外の製造委託等を行っていた事業者は、①製造委託等を洗い出した上で、②各製造委託等が製造委託等特殊指定の対象になるか(受託事業者の取引上の地位が「劣っていない」といえるか)、③対象になるとした場合に支払期日を見直す必要があるか(給付受領日から60日以内になっているか。なっていない場合、正当な理由があるといえるか)、④見直す必要がある場合に資金繰りやキャッシュフローにどのような影響があるか等を確認する必要があると考えられます。本改正案の影響を受ける事業者の皆様においては、改正の動向を注視しつつ、2027年4月1日の施行(予定)に向けて、本改正案等の遵守のための業務フローの見直し・体制の整備等を進める必要があると考えられます。

脚注一覧

※2
一定の資本金基準又は従業員数基準を満たし、⁠他の事業者から業として行う販売等における継続的な取引の相手方として物品の引渡しを受けるなどする事業者をいいます(物流特殊指定改正案備考第3項)。

※3
一定の資本金基準又は従業員数基準を満たし、特定着荷主に対し物品を引き渡すために行う運送を他の事業者に委託する事業者をいいます(同備考第4項)。

※5
規格品・標準品を購入することは、原則として取適法上の「製造委託」に該当しないものの、規格品・標準品であっても、その一部でも自社向けの加工等をさせる場合には、「製造委託」に該当する可能性がありますので注意が必要です(公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」6頁。)。

※6
公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」第4の2(4)においては、役務提供委託又は特定運送委託の支払期日の起算日に関し、個々の役務が連続して提供される役務であって一定の要件を満たすものについては、月単位で設定された締切対象期間の末日に当該役務が提供されたものとみなす旨の規定が設けられています。これに対し、製造委託等特殊指定運用基準案では、このような連続提供役務に係る支払期日の起算日の例外は設けられておらず、取適法と同様の取扱いがなされるか否かは明らかでないため、パブリックコメントの結果を注視する必要があると考えられます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

独占禁止法/競争法に関連する著書/論文

取適法に関連する著書/論文

独占禁止法/競争法アドバイスに関連する著書/論文

  • HOME
  • 著書/論文
  • 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案等の公表 ― 着荷主による荷待ち・荷役の要請や、取適法対象外の製造委託等における支払期日も規制へ