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令和8年改正個情法から俯瞰するデータ法務 第1回 サイバーセキュリティと契約実務
(2026年9月)
日置巴美、平山貴仁(共著)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2026年4月以降、Anthropic社の「Claude Mythos Preview」をはじめとする、脆弱性(ソフトウェア等におけるサイバーセキュリティ上の弱点)を発見する能力が著しく向上した高性能AIやその取扱いに関する取組が公表され、日本政府も本年5月18日に「Project YATA-Shield」を公表する等、高性能AIの登場を踏まえたサイバーセキュリティリスクへの対応が、政府・産業界の双方で喫緊の課題となっています。
これらに関する日本政府の施策は、直接的には重要インフラ事業者※1、及び、広く産業界で用いられているソフトウェアを開発・提供・運用するソフトウェア・ベンダを対象にすることを念頭に置いたものですが、これらの事業者の背後には、複数のサプライヤーや階層的な下請け・孫請け事業者が存在することから、これらの施策による間接的な影響は相当数の事業者に及ぶものと考えられます。また、サイバー攻撃者がこれらの高性能AIによる脆弱性発見能力を悪用するリスクは、業種・規模を問わず多くの事業者に共通する課題です。本ニュースレターでは、まず、高性能AIを取り巻く最新動向を概観します。
2026年4月7日、Anthropic社は、同社の開発した新たな高性能AIである「Claude Mythos Preview」、及び同モデルを防御目的で使用する企業横断的な枠組みである「Project Glasswing」を公表しました。かかる公表を受けて、AIを利用した攻撃等に起因するサイバーセキュリティリスクに対する国内外の関心が非常に高まっています。
Claude Mythos PreviewはAnthropic社が開発した高性能AIであり、サイバーセキュリティの文脈では、複雑なソフトウェアを深く理解し、その脆弱性を発見し、修正することが可能なモデルであり、同社は、2026年4月7日の公表時点で、多数の重要インフラ事業者において利用されるソフトウェアにおいて数千ものゼロデイ脆弱性(未公表の脆弱性や、修正プログラムがソフトウェア・ベンダから提供される前の脆弱性をいいます。)を特定したとのことです。専門知識を持たないユーザーであっても、Claude Mythos Previewを利用することにより、このようなゼロデイ脆弱性を発見し、その結果をサイバー攻撃等に悪用することができるとされています。
このような事情を背景に、同社はProject Glasswingを立ち上げ、Claude Mythos Previewの一般公開は行わず、12社のローンチパートナー及び約40社の追加組織からなる限られた組織に対し、研究プレビュー版として利用可能にすることにより、防御側がまずシステムのセキュリティ対策を開始できることを目指しています※2。
このClaude Mythos Previewについて英国政府の研究機関であるAI Security Institute(英国AISI)は、同月13日に、Claude Mythos Previewについて、脆弱性のあるネットワークに対し多段階攻撃を実行して脆弱性を自律的に発見・悪用できることが確認された旨を公表しています※3。そして、英国AISIは、今後も同様の能力を備えたモデルの開発が進む可能性が高いとして、防御側が早期にサイバーセキュリティ対策へ投資することの重要性を強調しています※4,5。
こうした状況を踏まえ、高市早苗首相は本年5月12日の閣僚懇談会で、高性能AIモデルの登場を踏まえたサイバーセキュリティ対策の検討を指示しています。また、金融分野において本年4月24日には、「AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」が開催され、本年5月14日付けで、金融業界とIT事業者、政府・日本銀行等がAI技術の進展による脅威について共通の理解を持ち、対応を検討していくため、実務者レベルでの議論を深めることを目的とした「AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」の作業部会が開催されました。
そして、本年5月18日、政府は、AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策に関する関係省庁会議を開催し、「Project YATA-Shield」と題するAI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化についての施策を公表しました。
Project YATA-Shieldでは、上記のClaude Mythos Previewをはじめとする高性能AIのサイバーセキュリティに関する脆弱性の発見・修正等の機能の急速な向上とサイバー攻撃者による悪用に備えて、①重要インフラ事業者等※6においては、高性能AIの悪用リスクに備えたサイバーセキュリティ対策の実施や、より高速かつ大量に脆弱性が発見・修正されることを前提とした対策強化を行うことが求められること、②ソフトウェア・ベンダにおいては、高性能AIの活用を含め、より早期の脆弱性の発見・修正等の実施が求められることといった課題意識を背景として、重要インフラ事業者等やソフトウェア・ベンダへの注意喚起を実施すること等を掲げています。
それぞれの注意喚起のポイントとしては以下のとおりです。
この他にも、Project YATA-Shieldでは、金融分野での民間企業・政府等の官民連携の枠組みの設置、経済産業省の所管分野における官民での認識共有を図るための意見交換が行われていることを踏まえて、各重要インフラ分野において官民連携を推進すること等の各省庁・関係機関における施策が示されています※11,12。
上記のProject YATA-Shieldに示された政府の各施策は、直接的には重要インフラ事業者等及びソフトウェア・ベンダを念頭に置いたものと考えられます。もっとも、重要インフラ事業者等の背後には様々なサプライヤーが多層的に存在し、また、ソフトウェア・ベンダについても階層的な下請け・孫請け等の事業者が連なってサービスを提供していることから、間接的に影響を受ける事業者の数は相当数に及ぶことが想定されます。また、Claude Mythos Previewのような高性能AIがサイバー攻撃者により悪用されることによるサイバーセキュリティリスクの増大は、多くの事業者に共通するリスクであり、重要インフラ事業者等に限らず一般の事業者においても対処すべきリスクとなります。
次回(第2回)では、各事業者において、高性能AIによってサイバーセキュリティリスクが高まり得ることを認識した上で、Project YATA-Shieldにおける注意喚起事項も参考にしつつ、平時のサイバーセキュリティ対応のみならず、有事対応体制の整備や、これらを経営層が主導すべき経営課題として捉える際の留意点を含めて、事業者として検討することが望ましい論点を整理します。
※1
後述のとおり、Project YATA-Shieldでは、「重要インフラ事業者等」の語が使用されており、「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」等の用語に基づくことも示されているところ、同行動計画では、「情報通信」、「金融」、「航空」、「空港」、「鉄道」、「電力」、「ガス」、「政府・行政サービス」、「医療」、「水道」、「物流」、「化学」、「クレジット」、「石油」及び「港湾」の15分野の重要インフラ分野が指定されており、同行動計画別紙1において、対象となる重要インフラ事業者等が示されています。
※2
なお、Anthropic社は、2026年5月22日に公表したProject Glasswingの最初の進捗報告(「Project Glasswing: An initial update」)において、世界的に重要なソフトウェアにおいて1万件を超える重大性の高い脆弱性が発見されたとしています。
※3
英国AISIの実施した評価においては、評価環境にはアクティブな防御ツール等の実運用環境におけるセキュリティ機能が含まれていないため、直ちに十分に防御された実環境に対して同様の攻撃が可能であることを意味するものではないとしています。
※4
英国AISIが2026年5月13日に公表した「How fast is autonomous AI cyber capability advancing?」(「自律型AIのサイバー能力は、どの程度の早さで進歩しているのか?」)と題するブログ記事では、フロンティアAIモデルがサイバー空間において自律的に完了できるタスクの長さは、数か月ごとに倍増しており、この倍増率は時間とともに加速し、最近のモデルはこれまでの傾向を上回っていると指摘されています。
※5
また、OpenAI社も、本年5月11日にサイバーセキュリティに関する取組である「Daybreak」を公表しました。OpenAI社によれば、Daybreakは、同社のAIモデルとコーディングエージェント「Codex」を組み合わせ、セキュリティ分野のパートナーとともに、ソフトウェアの開発プロセスにコードのレビュー、脅威の分析、修正プログラムの検証等のセキュリティ機能を組み込み、ソフトウェアを設計段階からサイバー攻撃に強いものとすることを目指す取組であるとされています。同社は、今後数週間にわたり、業界及び政府のパートナーと連携しつつ、より高いサイバーセキュリティ対応能力を備えたモデルを段階的に展開していくとしています。
※6
ここでいう「重要インフラ事業者等」とは、「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」に基づく重要インフラ事業者等(重要インフラ事業者及びその組織する団体並びに地方公共団体)、経済安全保障推進法50条1項に規定する特定社会基盤事業者及び防衛産業の事業者が念頭に置かれています。
※7
経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)作成の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」(現時点ではVer3.0)を参照すべきこととされています。
※8
これらの実施状況については実効的な対策を継続的に行うべく、今後、関係省庁・関係機関を通じて機動的に確認するとされています。
※9
この他にも、人材育成の観点から国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)による実践的サイバー防御演習「CYDER」や、IPA産業サイバーセキュリティセンターによる「中核人材育成プログラム」等の活用を検討されたい旨も言及されています。
※10
あわせて、迅速に行われるべきリスク評価及びリスクに応じた対応については、あらかじめそのプロセス・体制等を構築し、業界団体や事業所管省庁とも情報交換を図ることが推奨されています。
※11
例えば、医療分野でも、2026年5月22日に、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関する厚生労働省との意見交換が行われたと公表されています。
※12
本文で触れた施策以外にも、例えば、①国家サイバー統括室(NCO)が重要インフラ事業者等からのインシデント報告等のサイバーセキュリティ関連情報を分野横断的に集約・分析し、被害防止に向けて、必要とする主体に適切な形で情報提供すること、及び②AIセーフティ・インスティテュート(AISI)による、フロンティアAIモデルのサイバーセキュリティ性能や悪用等を迅速かつ的確に把握するための情報収集・評価の実施及びこれを踏まえた情報提供、ガイドラインの策定等を行うこと等が挙げられています。なお、重要インフラのサイバーセキュリティ強化に関しては、従来から官民共通の「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」が策定され、サイバーセキュリティ対策への取組が行われてきていたところ、新たに作成することとされた「重要インフラ統一基準(案)」についての意見募集も2026年4月21日から5月17日まで行われていたところであり、こうした動向についても注視する必要があると考えられます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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