論文/記事
企業不祥事の公表に関する実務上の諸問題〔下〕
(2026年6月)
眞武慶彦
- 危機管理/リスクマネジメント/コンプライアンス
- 紛争解決
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
一定規模以上の企業※1において内部通報窓口を有することは公益通報者保護法上義務づけられているが、近時、ハラスメントに特化した窓口、サプライヤー・取引先向けの窓口、後述する人権侵害等の懸念を申告する窓口など、複数の申告窓口を有する企業が増えている。改正公益通報者保護法が2026年12月から施行されることを踏まえて※2内部通報窓口の設計・運用の見直しを行う企業も増えているが、本稿では、特に、公益通報者の範囲の拡大(すなわち、公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが追加されたこと)や公益通報者の探索行為の禁止等、実効性確保のための措置の状況を踏まえ、企業における内部通報窓口やその他の申告窓口のあり方を考察する。
上述したとおり、近時、通報内容の多様化・専門化や、通報者にとっての利用しやすさの向上、サプライチェーン規制への対応等様々な理由により、複数の申告窓口を有する企業が増えている※3。このうち、ハラスメント窓口との関係に関しては、消費者庁が公表する「令和5年度民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」において、内部通報窓口とハラスメント窓口の双方を備えている企業が、窓口を分けている理由としては以下のような例が挙げられている※4。
申告者の視点から見れば複数の窓口があった方が各申告者の使いやすい制度を選択できる点で、複数の申告窓口を設けるメリットもあるが、申告窓口の実効性の確保の観点のほか、対応可能言語、窓口担当者のリソースや専門性を踏まえて各窓口の機能や対象範囲を検討することが望ましいと考える。
一方、内部通報制度と似て非なる制度として、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業において、人権侵害又はその懸念に関するステークホルダーからの申告を受け付け、早期の救済を可能とするグリーバンス・メカニズム(苦情処理メカニズム)の確立を求めている(指導原則29項、31項参照)※5。そして、このような考え方を受けて、人権デュー・ディリジェンスを義務化する指令であるEU企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)等、各国法においてもグリーバンス・メカニズムの設置が求められている場合がある。グリーバンス・メカニズムは、企業の従業員だけではなく外部のステークホルダーにも利用可能である必要があること、当事者の懸念や求める救済の内容等について対話を持つことが求められる(指導原則31項)などの点で内部通報との違いが存在する。
利用対象者の範囲との関係では、企業が内部通報窓口を有するだけではグリーバンス・メカニズムを利用可能とすべきステークホルダー(直接・間接の取引先、地域住民、消費者、投資家等)を網羅できないと思われることから、内部通報窓口の範囲を拡充する、又は別の窓口を設けること等により対応することが望ましい。一方、上述のとおり、改正公益通報者保護法では通報者の範囲が拡大することにより、内部通報窓口とグリーバンス・メカニズムの対象範囲は更に重なり合いが増えると思われる。これによりグリーバンス・メカニズムとして設置した窓口以外においても人権に関する懸念等の申告を受け付ける場面が増加しうるが、人権リスクに関する申告については、人権に関する固有の考え方が存在する(対応の優先順位について企業の経営リスクの大きさではなく被害者にとっての深刻度に基づいて検討すべきことや、取引先において人権リスクが発現した場合には原則として対話により是正を検討すべきであり、取引中止が最後の手段となること等)ことにも注意する必要がある※6。
改正公益通報者保護法では、上述のとおり公益通報者の範囲が拡大するため、拡大後の対象者を含め内部通報を受け付けて周知することが求められる。上述した申告者にとっての利用しやすさの観点から複数の窓口の対象範囲に重なり合いがあること自体は問題ないと考えられるが、企業内で複数の窓口を有する場合には、どの窓口がどの範囲の利用対象者からの申告を可能にしているかを洗い出してみることも有用と思われる。
また、企業が複数の申告窓口を有する場合、内部通報窓口以外でも公益通報者保護法上の「公益通報」に該当する通報を受領し得ることから、その場合のレポーティングラインや、従事者指定及び後述する秘密保持に関する対応が厳格になされているかを改めて確認することが望ましい。
公益通報か否かに限らず、個人情報を含む通報に係る秘密保持の徹底は、通報窓口に対する信頼性を確保するために必要不可欠である。この点に関連して、サプライヤー・取引先向けの窓口やグリーバンス・メカニズム等では、直接・間接の取引先に関する申告を受ける場合も多い。このような自社以外での事象に関する申告に関しては、自社だけでは情報の取得や調査が困難な場合も多く、当該取引先に対して情報提供を求めたり、一次的な調査の実施を依頼したりする必要があることも想定されるが、その際にも通報に係る秘密保持に留意し、必要な範囲で通報者から情報共有についても同意を得た上で進める必要があると考えられる。この点は、自社と取引先の窓口の双方に申告がなされるなど、申告者が複数社の窓口に対して同時に申告を行っており、連携して対応が必要となる場合でも同様である。
なお、改正公益通報者保護法の解説では、関係会社・取引先からの通報を受け付けている場合において、公益通報者が当該関係会社・取引先の労働者等である場合には、通報に係る秘密保持に十分配慮しつつ、可能な範囲で、当該関係会社・取引先に対して、(i)公益通報者へのフォローアップや保護を要請する等、当該関係会社・取引先において公益通報者が不利益な取扱いを受けないよう必要な措置を講ずること、(ii)当該関係会社・取引先において、是正措置等が十分に機能しているかを確認すること等の措置を講じることが望ましいとされている。
個別事案の申告であっても、潜在的には同種の事案が多数見られたり、より組織的な不正を示唆している場合がある。もっとも、複数の申告を別々の窓口で受領したような場合、これらがそれぞれ単独の事案として対応されてしまうと、組織的又はより広範な事案であることがわかりづらくなることも懸念される。個別事案の対応において、類似事案が確認されていないか、申告されている事案はより大きな問題の一部ではないかという観点に留意しつつ調査・検討を行うことが求められるほか、申告者を特定する情報の匿名化等に留意しつつ、各窓口が受領している通報内容について連携することも有用と考えられる。
※1
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者を有する企業。
※2
改正の概要については、2026年4月発行「公益通報者保護法に基づく『法定指針』及び『指針の解説』の改正について~令和7年改正法の施行を見据えた実務指針のアップデートと事業者のとるべき措置~」(本ニュースレター No.118)、2025年8月発行「公益通報者保護法改正を見据えた『公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱い』の認定について」(本ニュースレター No.111)を参照されたい。
※3
改正公益通報者保護法の指針(公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説~指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方や具体例~)(「改正公益通報者保護法の解説」)においても、経営上のリスクに係る情報を把握する機会の拡充に努めるものとして、望ましい措置の例示として「サプライチェーン等におけるコンプライアンス経営を推進するため、関係会社・取引先を含めた内部公益通報対応体制を整備すること」が挙げられている。
※4
引用例を適宜抜粋、抽象化している。
※5
責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(「人権DDガイドライン」)5.1を参照。
※6
人権DDガイドライン4.1.3.1、4.2.1.3を参照。
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