※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
1. はじめに
タイの不動産セクター(コンドミニアム、戸建て、ホテル、商業施設、物流施設及びデータセンター等)は、引き続き外国人投資家から高い関心を集めており、タイ向けのインバウンド投資の拡大傾向が継続している。他方で、外国人投資家にとっては、市場環境の的確な把握及び関連法規の遵守が重要な課題となる。特に、外国人による土地所有に関する規制は厳格に運用されており、タイ人と比較して法的制約が大きい点に留意する必要がある。本稿では、タイにおける外国人による不動産投資における、特に土地所有規制及びその代替的手段として用いられる長期賃借権の適法性に焦点を当て、近時の実務動向及び判例の動向を踏まえつつ概説する※1。
2. 外国人による土地所有の原則制限
タイの土地法(Land Code B.E. 2497(1954))は、「外国人」がタイの土地を所有することを原則として禁止している。土地法上の「外国人」の定義は登録資本の49%超の保有者又は株主の過半数(頭数ベース)が外国人である場合とされる※2。他方で、建物の所有自体は土地法の規制の対象外であるため、第三者が所有する土地の上に、建物を建築すれば土地法上の規制は回避することが可能であるが、その場合には土地の利用権をどのように確保するかが問題になり、その点について後記において検討する※3。
なお、コンドミニアム法(Condominium Act B.E. 2522(1979))上、土地と建物の所有者が同じ場合、各ユニットに対する区分所有権を発生させる区分所有化が認められている。同法上、コンドミニアムのユニットを購入した者は、当該ユニットに対する所有権と共用部分(コンドミニアムの敷地、ユニット以外の共用の建物・設備等)に関する共有持分を取得することとされている。コンドミニアムについては、全ユニットの総面積の49%を超えない範囲に限り、外国人による所有が認められている。
3. 外国人による土地所有以外の土地の利用権の概要
既述のとおり、外国人は原則として土地の所有権を保有できないため、不動産プロジェクトにおいては、外国人事業法や土地法による外資規制の適用を受けない法人を利用しない場合には、外国人がどのように、またどのような土地の利用権を確保するのかが問題となる。当該土地の利用権の種類としては、賃借権、商工業用不動産賃貸借法に基づく商工業用賃借権、地上権、用益権等が主として挙げられる。以下、各権利の概要をまとめたものだが、後記においてそれぞれ各利用権について簡潔に説明する※4。
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権利の種類
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権利の性質
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実務上の特徴・制約
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賃借権
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債権
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3年超は土地局での登記が効力要件(民商法第538条)
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最大30年(民商法540条)
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更新スキーム(30年+30年スキーム等)は利用されるが、近時の最高裁判例を踏まえて慎重な契約設計が必要
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商工業用賃借権
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債権
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最大50年の長期
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用途制限・投資要件が極めて厳格
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要件が細かく承認に至るまでの手続が煩雑等の事情から、実務上の利用は限定的
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地上権/用益権
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物権
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土地局での登記により効力発生
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期間は、最大30年
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実務上は物権という性質上、土地の所有者への負担が強いため利用は限定的
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4. 賃借権
1. 総論(長期賃借権の位置付け)
(1) タイの賃貸借
外国人による土地の利用権の確保の際に最も一般的な手法の一つは、長期の不動産賃借権である。タイの賃貸借については、日本法における賃借権と概念としては基本的には同様のものと言えるが、以下の相違点については留意が必要である。
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登記要件(民商法第538条)
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すなわち、タイの賃貸借については、タイ民商法第538条に基づき、3年を超える賃貸借契約は土地局に登記しなければならず、登記を欠く場合には3年間に限り有効になるものとされる。
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期間制限(民商法第540条)
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さらに同法第540条に基づき、賃貸借期間は30年を超えることができず、この制限を超える合意は無効とされ、30年に短縮される。
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特に大規模不動産プロジェクトにおいては、30年の期間制限を超えて長期的な利用権を確保する必要が生じることがある。
(2) 30年+30年リース
これに対処する最も一般的な方法は、賃貸借契約に「更新の予約(Promise of Lease)」条項を含め、連続する30年間の更新を可能とする構成である(実務上、「30年+30年リース」と呼ばれるスキーム)。このスキームでは、賃借人は最初の賃貸借契約期間中に更新権を行使することにより、新たな賃貸借契約が締結され、結果としてさらに30年間の利用が確保される。
しかしながら、かかる更新予約条項を利用した長期賃貸借スキームについては、実質的に30年を超える利用を予定する契約構造として、民商法の期間制限規定に違反し、2023年の最高裁判決においてその法的有効性に疑義が示されており、従来のスキームには法的リスクが存在することが明らかとなっている。
2. 近時の最高裁判例(2023年の最高裁判所判決第4655/2566号)
(1) 事案の概要
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原告(タイ・プーケット県の土地・住宅所有者である個人の賃貸人)は、1990年5月10日に被告(借主)との間で賃貸借契約を締結した。
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当該賃貸借契約では、土地及びその土地上の住宅を賃貸対象とし、30年間の賃貸借期間(1990年〜2020年)、総額150万バーツの賃料を定めるとともに、期間満了時に借主がリースを更新できる更新の予約(Promise of Lease)の条項が規定されていた。
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原契約の締結日と同日に、両当事者は別の合意書を締結。当該合意書に基づき、被告は将来の2期分(2020年〜2050年、2050年〜2080年)の更新を確実にするため、各期60万バーツ、計120万バーツの賃料を1990年中に前払いし、最終的に賃貸借期間を実質90年に延長した。
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2020年、原告は、被告に対して、最初の30年間の賃貸借期間が満了したことを理由に当該土地の返還、建物収去を要求した。しかしながら、被告がこれを拒否したため、原告は、建物収去土地明け渡しを求めて提訴した。これに対して、被告は、新たな30年間の賃借権に係る登記を履行するよう求めて反訴した。
(2) 判決
最高裁判所はまず、30年を超える賃貸借契約を制限する民商法第540条の趣旨について言及し、その趣旨及び目的を「長期リースに伴う不動産価格や経済状況の変動により、当事者間に予期せぬ不均衡が生じることを防止し、不動産の経済的価値の予測可能性を確保する点にある」と解釈した。その上で、かかる趣旨及び目的に照らし、本件における初回30年の賃貸借契約に含まれる「同一条件でさらに2回の30年更新を行う旨の貸主の約束」及び「将来期間に係る賃料の前払い(これにより貸主の更新承諾が実質的に担保されているもの)」は、いずれも30年制限を潜脱する意図を有するものと評価された。その結果、連続する2回目以降の各30年更新部分については、いずれも無効であると判断された。
(3) 実務上の検討
判決のポイント
本判決は、契約自由の原則を前提としながらも、民商法第540条による期間制限を厳格に適用し、脱法的に30年を超える長期賃貸借の構造を形成する合意については無効となり得ることを明確にした点に特徴がある。特に最高裁は、更新後の60年分の賃料が当初契約の開始時から固定されており、初回契約の締結時点で更新後の60年分の固定された賃料が支払われていることにより、当初から長期利用が確定しているに等しい構造に対して強い懸念を示したものと評価できる。これは、プーケットにおける不動産価格及び賃料水準の上昇といった市場環境の変化にもかかわらず、賃料が長期間にわたり固定されていた場合、賃貸人が将来享受すべき経済的利益を奪い、当事者間に著しい不均衡や不公平を生じさせると判断したものと推察される。
実務への示唆
以上を踏まえると、判例の射程は明確ではないものの、今後の実務においては更新条項についても、その実質的な内容を慎重に検討するべきと考えられる。既述のとおり判例の射程は明確ではないものの、少なくとも、更新時に賃料その他の主要条件が、その時点の市場環境や経済状況を反映して適正に見直される仕組みであれば、民商法第540条の趣旨(長期賃貸借に伴う不均衡を防止し、不動産の経済的価値を保護する点)を損なうものではなく、そのような場合も更新条項を否定する趣旨の裁判例ではないため、このような構成にすれば更新条項の有効性が認められる可能性はあるように考えられる。
従って、長期賃借権の有効性及び強制執行力を確保するためには、単に更新を約束するだけでなく、更新時の賃料設定に市場価格を反映させる調整条項を組み込むなど、更新の内容にも配慮した契約設計が不可欠となる。
加えて、土地当局においても長期賃貸借や更新条項の登記・受理に関する審査は厳格になりつつあるため、実質的に期間制限を潜脱する構造を有する契約については登記実務上も制約を受け得る点に留意する必要がある。そのため、各管轄土地局との事前協議・確認も実務上重要となる。実際に、土地局は2026年4月に公式通達(No. MorTor 0515.1/Wor.8867)を発出し、本件の判断をなぞるように30年超を潜脱する事前予約や賃料前払いのある案件を一律で登記拒否する指針を明確にしている。そのため今後の実務では、最初の登記から数年のインターバルを置いて後続の契約を再登記する、あるいは更新に関する契約上の文言を更新権という記載の仕方ではなく、他の第三者に先んじて貸主と更新について交渉ができる権限(借主が希望すれば更新できるという更新権ではない)である優先交渉権(ROFR:Right of First Refusal)に留めるなど、登記実務の厳格化を見据えた慎重なストラクチャリングが不可欠となる。
5. 商業・工業用不動産賃貸借法に基づくリース
同法に基づくリース(通称「50年リース」)は、民商法典上の一般的賃貸借と基本的性質は同様であるが、最長50年の期間設定及び一定条件下での50年更新が認められる制度である。もっとも、利用のためには、厳格な要件(①用途:商業又は工業目的に限定、②手続:投資計画書や当局のゾーニング承認など追加書類が必要、③資本要件:商業目的で最低2,000万バーツ、一定規模超では最大1億バーツの投資要件が課される)を充たす必要があり、実務上これまで利用されたケースは非常に限定的であり、当局の中での実務運用も固まっていない。そのため、新規の案件で利用することは容易ではないものと考えられる。
6. 地上権及び用益権
地上権及び用益権も、建物の所有を目的とする土地利用権として設定することは理論上可能である。これらは土地に対する直接的な支配権である物権であり、当事者間の契約関係にとどまる債権である賃借権とは異なり、期間を問わずに登記によって第三者に対する対抗力を取得する点に特徴がある。
もっとも、民商法上、地上権及び用益権はいずれも賃借権と同様に原則として30年の存続期間制限が及ぶと解される。また、土地所有者の使用・収益権を強く制約する性質を有することから、実務上は賃貸人及び賃借人いずれにとっても賃借権に比して特段の優位な点はなく、その利用は限定的である。
7. まとめ
タイの不動産市場は今後も有望な投資先であり続けると見込まれ、土地所有規制が維持される中、代替スキーム(30年+30年リース等)への依存は継続すると考えられる。もっとも、当該ストラクチャーは上記判例を踏まえて慎重に設計する必要がある。将来的には、市場環境の変化を適切に反映できる柔軟な契約設計や、最新の判例動向を踏まえたストラクチャリングの重要性が一層高まるものと考えられる。
脚注一覧
※1
なお、タイにおける事業活動全般を規制する外国人事業法(Foreign Business Act)についても、不動産の所有・管理・開発形態に応じて規制が課されている。そのため、不動産の開発事業に従事するにあたっては、外国人事業法上の規制についても検討が必要になるが、本稿では不動産の権利確保(土地利用権)のスキームに焦点を当てるため、同法に基づく事業ライセンス等の詳細については本稿での検討の対象外としている。
※2
当該土地の所有制限を回避するための手法としては、ローカルパートナーとの合弁形態が用いられることが多い。例えば、日系企業がタイの不動産に投資する典型的な方法として、タイ国内企業と合弁会社を設立し、外国人事業法及び土地法上の「外国人」に該当しない出資比率となるような資本構成に調整し、この合弁会社を通じて事業投資を行うスキームが挙げられる。本件ではそのようなスキームを利用しない場合の外国人による利用権の確保の手法について検討している。
※3
日本法において、土地及び建物はそれぞれ独立した不動産として扱われ、両者は付合しない。他方、タイ民商法上の「不動産」は、土地及び土地に定着した物、または土地と一体を成す物を含む概念と定義されている(民商法典第100条)。この定義に照らせば、建物は原則として土地に従属する性質を有する。もっとも、土地の賃借権や地上権を設定し、土地所有者とは異なる第三者が当該土地上に建物を所有することは法的に認められている。この場合、建物は土地から分離された独立の財産(不動産)として扱われ、土地とは別個に売買や抵当権設定等の取引対象となり得る。したがって、実務上の結論としては、日本法と同様に「土地と建物を切り離した権利処理」が可能である。
※4
Eastern Economic Corridor Act B.E. 2561(2018)では、チャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーンの3県を含む地域がEECと指定され、同法に基づき、EEC委員会が適切であると判断する範囲内で、同地域内における、EECが指定した対象産業を行っている者は、恩典の付与を申請することができ、かかる申請が認められれば当該事業者は、事業を営むための土地又はコンドミニアムの所有、最長50年の賃貸借(最長49年の更新オプションあり)及び免税措置等の恩典が付与される。
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