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知的財産紛争実務の課題と展望(21) 医薬品・医療機器の形態の不正競争防止法2条1項1号による保護の可否
(2026年6月)
粂内将人、建部壮一郎(共著)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
健康保険法(大正11年法律第70号。その後の改正を含み、以下「健康保険法」といいます。)等の医療保険各法※1に基づく指定訪問看護※2に関して、2026年6月1日に実施された診療報酬改定※3に伴い、「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年3月31日号外厚生省令第80号。その後の改正を含み、以下「基準省令」といいます。)が2026年3月5日付で改正され、同年6月1日に施行されました(以下「本改正」といいます。)。
本改正は、保険医療機関との関係で「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号。その後の改正を含み、以下「療担規則」といいます。)において明示的に規定されていた健康保険事業に関する経済上の利益の提供による誘引の禁止等の定めについて、指定訪問看護事業者にも同様の規定を設けることを内容とするほか、特定の主治医及び事業者等への誘導の対償としての財産上の利益の収受の禁止を規定するものであり、指定訪問看護事業者に対する実務上の影響が少なくないことから、その概要と実務上の影響をお伝えします※4。
本改正では、以下の条項が追加されました。
①適正な手続の確保(基準省令5条の2)
指定訪問看護事業者は、その担当する指定訪問看護の提供に関し、厚生労働大臣又は地方厚生局長若しくは地方厚生支局長に対する申請、届出等に係る手続及び訪問看護療養費に関する費用の請求に係る手続を適正に行わなければならない。
②健全な運営の確保(基準省令5条の3)
指定訪問看護事業者は、その担当する指定訪問看護の提供に関し、健康保険事業及び後期高齢者医療制度の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならない。
③経済上の利益の提供による誘引の禁止(基準省令5条の4)
④特定の主治医及び事業者等への誘導の禁止(基準省令5条の5)
指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供に関し、利用者に対して特定の医師を指定訪問看護の指示を行う主治の医師とするべき旨、又は次に掲げるサービスを提供する事業者及び施設(以下この条において「事業者等」という。)を利用するべき旨の指示等を行うことの対償として、主治の医師又は当該事業者等から金品その他の財産上の利益を収受してはならない。
本改正による実務上の影響として、以下のものが考えられます。
本改正により、指定訪問看護事業者と医師及び他事業者との間における経済上・財産上の利益の授受に関して、詳細な規制が明示的に設けられるに至りました。本改正に関する厚生労働省の解釈通知(「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」(令和8年3月5日保発0305第20号。以下「基準省令通知」といいます。))によりますと、これらの規制の要件該当性については、契約書における文言等の形式的な要素にとどまらず、関係者との間の取引の実態に則したきめ細やかな分析を行うことが求められています※8※9。従前より、ホスピス業界を中心とした指定訪問看護事業者においては、提携する医療機関や他の事業者との間で、形式的には業務委託契約等と銘打ちつつも、取引の実態としては利用者の紹介に応じた成果報酬が設定される利用者紹介契約の性質を有する取引がなされる事例も見受けられ、その妥当性が危ぶまれてきたところですが、今後はこのような取引自体が基準省令への違反と判断される危険性が高まります。
基準省令への違反は健康保険法等において指定訪問看護事業者の指定取消事由のひとつとされています(健康保険法95条2号)※10。基準省令5条の2及び5条の3(上記改正①及び②)はいずれも訓示的な定めのようにも見受けられますが、これらの規定は、当局によるより広範な監督権限の裏付けとされる可能性がある点にも留意が必要となります。
特に、基準省令通知は、基準省令5条の3(上記改正②)との関係で「厳に慎むべき」事項の例として、「特定の指定訪問看護ステーションと保険医療機関等が不正な金品の授受を行い経済的に結びつくこと」のほか、「指定訪問看護に付随して指定訪問看護ステーションがリベート、バックマージン等を受け取る等の行為」を明示的に掲げています。当該記載は、その文言上、適用の対象となる財産上の利益の収受の性質について、基準省令5条の5(上記改正④)のように特定の主治医や事業者等への利用者の誘導に限定していないようにも読めることから、具体的にどのような場面が想定されているかについて今後の当局の動向も注視する必要があります。
本改正により、指定訪問看護事業者は、関係者との間の経済上・財産上の利益の授受に関してより慎重な対応が求められます。また、指定訪問看護事業者を対象とするM&A取引におけるデュー・ディリジェンス等の場面においても、これらの基準省令の遵守についてはより慎重な検討を要するものと考えられます。
※1
高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)、その他の医療保険各法としての船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)、地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)及び私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号)。これらの医療保険各法においても健康保険法88条を参照する等の建付にて同様の定めがありますが、詳細については紙面の制限上割愛します。
※2
健康保険法88条第1項は、「訪問看護」を、「疾病又は負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある者・・・に対し、その者の居宅において看護師その他厚生労働省令で定める者が行う療養上の世話又は必要な診療の補助」と定義し、訪問看護を行う事業を「訪問看護事業」と定義した上で、厚生労働大臣が指定する者が訪問看護事業を行う事業所により行われる訪問看護を「指定訪問看護」と定義しています。指定訪問看護事業者は、指定訪問看護を実施した場合には、指定訪問看護に要した費用について、指定訪問看護を受けた者(利用者)等の被保険者に対して「訪問看護療養費」として保険者等から支給されるべき額の限度において、被保険者に代わり直接保険者等から受給することができることとされており、医療保険各法に基づき保険給付を受給することとされています。
※3
指定訪問看護事業者との関係においては、厚生労働省の公表する「令和8年度診療報酬改定について 【訪問看護ステーション向け】」が網羅的な解説として参考になります。なお、今般の診療報酬改定においては、指定訪問看護事業者による同一建物(単一建物)に居住する利用者への漫然かつ画一的な頻回訪問等を通じた不適切な訪問看護療養費の請求を防止する等の観点から、①訪問看護管理療養費の見直し(月の初日の評価を充実するとともに、月の2日目以降については、訪問看護管理療養費1と2を統合し、施設基準の届出を不要とするとともに、1月当たりの訪問日数及び単一建物に居住する利用者数に応じて評価を細分化する。)、②同一建物に居住する利用者への訪問看護の評価の見直し(訪問看護基本療養費(II)等を算定する場合の訪問看護の時間は30分以上を標準とし、20分を下回るものは算定できないこと、同一敷地内の建物も同一建物とすること等の規定の新設のほか、訪問看護基本療養費(II)等やその加算について、1月当たりの訪問日数や建物内の訪問看護実施人数等に応じたきめ細かな評価への見直し。)、③包括型訪問看護療養費の新設(高齢者向け住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションが、当該住まいに居住する利用者に対して、24時間体制で計画的又は随時の対応による頻回の訪問看護を行った場合に1日当たりで算定する包括型訪問看護療養費の新設。)がなされました。また、これに伴い、「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日保発0305第19号)においても、「訪問時の利用者側のやむを得ない事情により標準の実施時間を下回る指定訪問看護の実施となった場合等を除き、標準の実施時間を下回る指定訪問看護の実施が、同一日に、同一の利用者に複数回又は複数の利用者に行われるなど、頻繁に行われている場合には、指定訪問看護を実施したとは認められない」、「指定訪問看護の実施に当たっては、…利用者の心身の状況等に応じて妥当適切に行い、漫然かつ画一的なものとならないよう、看護目標及び訪問看護計画に沿って行うこと」、「利用者の心身の状況等を踏まえずに一律に指定訪問看護の日数、回数、実施時間及び人数…を定めることや、定期的な指定訪問看護を実施していない者が指定訪問看護の日数等を定めることは認められない」、「指定訪問看護の提供に当たっては、目標達成の程度及びその効果等について評価を行い、その内容を訪問看護記録書に記録すること。また、必要に応じて訪問看護計画書の見直しを行い、指定訪問看護の改善を図る等に努めなければならない」等の定めが設けられることとなりましたが、詳細については紙面の都合上割愛します。
※4
これまで、保険医療機関については、公的な保険財源に係る請求の適正性等を確保する観点から、療担規則において①適正な手続の確保(療担規則2条の3)、②健全な運営の確保(療担規則2条の4)及び③経済上の利益の提供による誘引の禁止(療担規則2条の4の2)が明示的に定められていました。しかし、同じく医療保険各法に基づき保険給付を受ける指定訪問看護事業者については、基準省令上これらに対応する定めが存在せず、療担規則に定める上述の規制は明示的には及んでいませんでした。昨今、指定訪問看護事業者において、同一建物(単一建物)に居住する利用者への漫然かつ画一的な頻回訪問等を通じた不適切な訪問看護療養費の請求が疑われる事案が相次いでいたこと、また、従前より、高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅等)における入居者の医療・介護サービスの利用に当たって、特定の医療機関や介護サービス事業所によるサービス提供に限定され、又はこれに誘導されていることが問題視されていたことも相まって、今般の診療報酬改定に伴い、基準省令が改正されるに至りました。
※5
健康保険法等に基づき算定される基本利用料から所定の訪問看護療養費等を控除した額等の、基準省令13条に基づき利用者に対して直接請求することが可能とされる利用料を想定したものとなります。
※6
基準省令通知は、「併せて利用する事業者」に該当する場合の具体例として、以下の者がこれに該当するとしています。
※7
基準省令通知は、基準省令5条の5第1号から第7号までに掲げる事業者と他の事業者の関係が以下のいずれかに該当する場合に、当該事業者と当該他の事業者は「特別の関係にある」と認められるものであるとしています。
ここで、「親族等」とは、親族関係を有する者のほか、事実上婚姻関係と同様の事情にある者、使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者、これらの者の親族でこれらの者と生計を一にしている者とされています。
※8
基準省令通知は、基準省令5条の4(上記改正③)の解釈として、以下の指針を示しています。
※9
基準省令通知は、基準省令5条の5(上記改正④)の解釈として、「金品その他の財産上の利益」とは、「金銭、物品、便益、労務、饗応等を指すものである」としています。
※10
基準省令通知においても、基準省令に定める基準を下回るに至った場合、「地方厚生(支)局の指導等の対象となり、この指導等に従わない場合には、当該指定を取り消すことができるものである」ことが明示されています。
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