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ニュースレター

【From New York Office】米国における株主提案実務の最新動向―株主提案規則に関する米国証券取引委員会の解釈変更―

著者等
伊佐次亮介内海裕也(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.166(2026年6月)
業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2025年2月12日、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、以下「SEC」といいます。)のDivision of Corporation FinanceはStaff Legal Bulletin No. 14M※1(以下「SLB 14M」といいます。)を公表し、株主提案規則(Rule 14a-8)のスタッフ解釈を変更しました。近年の米国における株主総会では、株主提案の総数が減少傾向にある一方で、提案の除外の可否を巡って企業と株主の間で訴訟に発展するケースもみられるなど、実務は複雑化の様相を呈しています。本ニュースレターでは、SLB 14Mによる解釈変更の概要と、この解釈変更に伴う株主提案に関する実務の状況を解説します。

株主提案規則のスタッフ解釈の変更内容

1. SLB 14Mによる解釈変更以前の状況

(1) 米国における株主提案の仕組み

 株主提案規則(Rule 14a-8)は、1934年証券取引法に基づき、米国の上場会社における株主提案の要件や手続きを定めています。当該規則に基づき、保有株式数及び株式保有期間等の一定の要件を満たす株主は、株主総会の際に会社が株主に対して送付する委任状資料(proxy statement)に、自らの株主提案の掲載を求めることができますが、会社は一定の除外事由を満たす場合には委任状資料への掲載を拒否し、株主総会における投票の対象から除外することが認められています。主な除外事由としては、法律違反(Rule 14a-8(i)(2))や会社が実質的に実行済みの事項(同(10))などに加え、会社の総資産・売上高・純利益の5%未満であり、かつ、会社の事業に重大な関連性を有しない事項(以下「経済的関連性に基づく除外」といいます。)(同(5))や、会社の日常的な運営に関する事項(以下「通常業務に基づく除外」といいます。)(同(7))が挙げられます。

 会社がこれらの除外事由に該当すると判断した場合、通常はSECに対してNo Action Requestを提出して、当該提案を委任状資料に掲載しなかったとしてもSECが執行措置をとらないことの確認を求めます。SECがこれを認めると、No Action Letterが発出され、会社はSECの確約を得た上で委任状資料への掲載を拒否することができます。理論上、会社はNo Action Letterを取得せずとも委任状資料への掲載を拒否することができますが、その場合会社は株主から委任状資料への掲載を求める訴訟を提起されるリスクがあり、実務上はこのNo Action Letterを取得することが一般的な対応となっていました。

(2) SLB 14L(2021年公表)下の運用

 民主党政権下で公表されたSLB 14Mの前のスタッフ解釈であるStaff Legal Bulletin No. 14L※2(2021年11月3日公表。以下「SLB 14L」といいます。)の下では、株主提案除外のハードルが大幅に引き下げられていました。

 まず「経済的関連性に基づく除外」に関して、会社の事業に関連する広範な社会的・倫理的問題を提起する提案については、会社の総資産、売上高又は純利益の5%未満の事項に関するものであっても、除外の対象にはならない可能性があるとしていました。

 また、「通常業務に基づく除外」に関しても、提案された課題が、提案を受けた企業にとって重要であるかどうかに焦点を当てるのではなく、当該提案が広範な社会的影響(broad social impact)を有する重要な社会政策課題を提起しているかどうかを重視することとしていました※3。これにより、提案株主は当該課題が提案を受けた会社にとって重要であることを証明する必要がなくなりました。また、「会社の日常的な事業運営」(micromanagement)に該当するか否かの判断においては、当該提案の粒度と、当該提案がどの程度取締役会又は経営陣の裁量を不当に制限するかを重視するとしていました※4

 このSLB 14Lの導入を機に米国における株主提案の件数は増加し※5、特に気候変動、人権、DEI、人的資本管理等のESG関連の提案、及びこれに対抗する反ESG関連の提案が増加しました。会社側のNo Action Requestの成功率(SECに除外を認められた割合)は2022年には一時38%程度まで急落しましたが、その後会社側の主張が手続違反や州法違反等、客観的に主張が認められやすい除外事由の類型に集中するようになった結果、2024年頃には68%程度まで回復しました。他方、環境関連の株主提案に対する賛成率は2023年に20%台まで落ち込むなど、株主総会における実際の支持(賛成率)は低い水準で推移していました※6

2. SLB 14Mによる解釈変更とSECの関与縮小

(1) SLB 14Mによる解釈変更の概要

 2025年2月12日にSECのDivision of Corporation Financeが公表したSLB 14Mにおける、株主提案規則に関するスタッフ解釈変更のポイントは以下のとおりです。

  • 「経済的関連性に基づく除外」について、社会的・倫理的に重要な問題を提起する提案であっても、一律に除外を拒否するのではなく、個別の会社毎に事業との関連性を検証して除外の可否を判断する方針へと変更されました。そして、提案の重要性が文言上明らかでない場合には、提案の重要性を証明する責任(立証責任)は提案株主側が負うこととされました。
  • 「通常業務に基づく除外」に関しても、個別の会社毎に除外を認めるか検討することとし、単に広範な社会的影響のある政策課題を提起しているかどうかのみならず、当該会社にとって重要か否かを評価することになりました。また、提案自体が、複雑な方針の実施に特定のタイムフレーム(期限)を設定したり、具体的な方法を指定したりしている場合には、「日常的な事業運営」に関わるものであるとして、除外の対象になりやすくなりました。
  • 一方で、会社側がNo Action Requestを行う際、当該提案が会社の日常的な事業運営に関するものであるかについての詳細な分析を提出する義務はなくなりました(会社は任意に提出できるものの、提出義務まではない)。

(2) 2025年11月声明に基づくSECの関与縮小

 上記の解釈変更に加えて、2025年11月17日、SECのDivision of Corporation Financeは、連邦政府の閉鎖及び登録届出書等の処理に注力する必要があることを理由に、一部の例外を除き、2025年から2026年の株主総会シーズン(2025年10月1日~2026年9月30日)には、No Action Requestに対する実質的な回答を行わない方針を発表しました※7。これにより会社側は、対象となる除外事由に関して、会社がSECに対して「合理的な除外根拠を有するとの無条件の表明(unqualified representation)」を提出すれば、SEC側はその内容を評価することなく異議がない旨のレター(No Objection Letter)の発行を受けることとなりました。結果として、株主提案を除外するかどうかの実質的な判断とそれに伴う法的リスクは、SECから会社側へと完全に委ねられる事態となりました。

3. 解釈変更後の株主提案の動向と今後の展望

(1) 株主提案の動向

 SLB 14Mの公表及びSECによるNo Action Letterの事実上の停止措置以降、米国の株主提案実務は大きな変動を迎えており、以下のような傾向がみられます。

  • 2025年には、S&P1500の企業における株主提案の数が前年比36%減少の295件まで落ち込みました※8 。この傾向は直近も続いており、2026年1月から2月に開催された株主総会でも、前年同時期には28件の株主提案がありましたが、16件まで減少しました※9
  • 他方で、2026年1月から2月の間に会社が提出した除外通知(exclusion notice)の件数は前年同時期とほぼ同水準を維持しています※10。もっとも、上記SECの運用変更前にNo Action Requestを提出したものの、SECからの回答を受け取れず、最終的に株主総会で採決を行うことを認めているケースも散見されます※11

 これらの動向がすべてSLB 14Mの解釈変更等に起因するものかは現時点で断定できませんが、SECからの「お墨付き」を失ったことで、実務の現場に一定の緊張感と見極めの動きが生じていることは確かです。

(2) 関連訴訟の提起

 従来、SECがNo Action Letterを発出していた時代には、株主提案が除外された後に株主側でこれを訴訟で争うことは稀でした。しかし、上記のとおりSECが実質的な事前審査から手を引いた結果、除外の正当性を巡る争いは裁判所へと舞台を移し、訴訟リスクが急上昇しています。直近では、株主総会での掲載を求める暫定的な差し止め命令(仮処分)を巡り、以下のとおり裁判所による判断が相次いでいます※12

  • UnitedHealthの事例(コロンビア特別区連邦地裁、2026年4月)
    株主(Fonds Des Missions)が「過去10年間の買収が医療に与えた影響に関する報告書」を作成するよう求めた提案に対し、裁判所は、提案の範囲が広範すぎて日常的な取引まで過度に網羅してしまう懸念があり、重要な社会政策に十分にフォーカスしていないと指摘。日常業務に不当に踏み込むものであるとして、株主側の掲載強制の申し立てを却下(会社側の「通常業務に基づく除外」を容認)※13
  • Chubbの事例(コロンビア特別区連邦地裁、2026年3月)
    株主(As You Sow)が「気候変動リスクのある企業に対する損害賠償の求償(代位求償)が株主価値等に資するかを検討する報告書」の作成を求めた提案に対し、裁判所は、代位求償の判断は保険会社の日常的な事業意思決定の核心そのものであると判断。気候変動という社会課題を孕んでいても、提案の核心が日常業務の域を脱していないとして、株主側の申し立てを却下※14
  • BJ’s Wholesale Clubの事例(マサチューセッツ州連邦地裁、2026年4月)
    株主(ニューヨーク州共通退職基金)が「自社ブランドに関連する森林破壊のリスク評価報告書」を提出するよう求めた提案に対し、会社側はサプライチェーン管理という通常の日常業務に属すると主張。裁判所は、当該提案が森林伐採という重要な社会政策課題に明確に焦点を当てており、具体的な手法を強制するようなマイクロマネジメントにも当たらないと判断。株主側の申し立てを認め、会社側に提案の掲載を命じる仮処分を下した※15

(3) 今後の展望

 SLB 14Mは、リベラルな運用がなされていた従前のSLB 14Lに比べ、会社側にとって株主提案の除外が認められる範囲を拡大するものといえます。しかしその一方で、SECがNo Action Requestの審査を事実上停止したことにより、株主提案の除外に伴う法的リスクを会社側が直接負うこととなったため、会社側としては、株主提案の除外に関して慎重な対応が求められています。会社側としては、まずは株主提案者と交渉の上で提案の撤回を求めるか、提案を認めた上で提案の否決に向けて他の株主とのエンゲージメントを強化する方向に向かうと考えられます。また、株主提案の除外を検討する際には、株主側から争われる可能性が高い「経済的関連性に基づく除外」又は「通常業務に基づく除外」ではなく、客観的な立証が可能な手続不備等の他の除外事由の主張を試みる可能性が高いと考えられます。

 また、上記(2)の各事例のように、訴訟において株主提案の除外の妥当性を争う事例が今後さらに増加するものと思われます。上記(2)の各事例はいずれも提案の内容と株主提案を受けた会社の事業内容に基づいた事例判断であるため、株主提案の除外が認められるかについては、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があります。

おわりに~日本における株主提案権の議論への示唆

 上記のとおり、SLB 14Mによる解釈変更及びSECによる事前審査の事実上の停止措置は、米国における株主提案実務を急速に変貌させており、今後その動向について注視する必要があります。

 日本においては、会社法上、株主提案の内容は会社法に定める株主総会決議事項である必要がありますが実質的には業務執行(日常業務)に対する勧告・要望にすぎない内容であっても、定款変更等の形がとられていれば株主総会の決議事項として取り扱わざるを得ないのが現状です。現在法務省において検討が進んでいる会社法改正の議論においても、業務執行事項を株主提案権の対象から除外するかについて議論がなされていましたが、中間試案※16においては、株主提案の内容自体を一律に制限する規定の導入は見送られた経緯があります。

 会社の日常業務や経営判断に過度な制約を課すような株主提案が提起・可決されるリスクを想定し、日本においても米国のような「通常業務」や「経済的関連性」に基づく除外ルールの導入を望む声は存在します。しかし、本ニュースレターで見てきた米国の最新動向が示すとおり、「何が通常業務か」「どこまでが重要な社会政策か」の境界線を見極めることは極めて困難であり、裁判所の判断も個別の事実関係によって激しく揺れ動いています。将来的に日本において同様の除外事由の導入を検討する場合には、単に実体法上の除外基準を設けるだけでなく、その除外事由の該当性を一体誰が判断するのかという手続き面のグランドデザインが極めて重要になります。No Action Requestのような迅速かつ安価な行政の事前審査メカニズムを設けるのか、あるいは現在のように会社側が自らのリスクで除外を判断し、最終的には裁判所での司法判断の蓄積に委ねるのか、米国実務のパラダイムシフトは、日本の今後の制度設計に対しても、一定の示唆を与えているといえます。

脚注一覧

※3
例えば、社会的影響を伴う人的資本管理(human capital management)に関する提案は、その問題が当該企業にとって重要であることを提案者が示さなくても、除外の対象とはならないとしていました。

※4
例えば、温室効果ガス排出削減目標の設定を求める提案であっても、具体的な達成方法を強制するものでなければ、「日常的な事業運営」を制限するものではなく、提案から除外されないとされました。また、国際的に確立されたフレームワークへの言及は、株主が評価する能力を有するトピックの指標として考慮されうるとしていました。

※5
Gibson Dunnの集計によれば、Russell 3000の企業について、2021年には802件の株主提案があったところ、2022年には868件、2023年には889件、2024年には929件の株主提案がありました。

※6
脚注5参照。

※10
脚注9参照。

※11
脚注9参照。

※13
Fonds des Missions v. UnitedHealth Grp. Inc., No. 26-cv-00970-RC (D.D.C. Apr. 15, 2026)

※14
As You Sow v. Chubb Ltd., No. 26-cv-00734-SLS (D.D.C. Mar. 31, 2026)

※15
DiNapoli v. BJ’s Wholesale Club Holdings, Inc., No. 26-cv-11075 (D. Mass. April 22, 2026)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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