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ニュースレター

経済価値ベースのソルベンシー規制における本邦初の構造劣後Tier2資本調達手段による米ドル建外債の発行

著者等
新木伸一御手洗伸(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Capital Market Legal Update ~キャピタルマーケットニュースレター~ No.59(2026年6月)
業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2026年4月22日、SOMPOホールディングス株式会社(以下「SOMPOホールディングス」といいます。)は、米ドル建シニア無担保社債(以下「本社債」といいます。)を発行しました※1。本社債は、2026年3月31日に施行された経済価値ベースのソルベンシー規制(以下「新規制」といいます。)の下で、払込済みTier2資本調達手段(構造上の劣後性を有するもの)への算入要件を満たす本邦初の債券となります。

 当職らは、本件に関して、本社債の設計からその発行に至るまで、日本法カウンセルとして全面的に助言・サポートしました※2。そこで、本ニュ―スレターでは、新規制の概要を概観した上で、本社債の主要なタームと実務上のポイントを紹介します。

経済価値ベースのソルベンシー規制

 保険会社に対するソルベンシー規制は、保険会社が将来の保険金支払義務を適切に履行するために十分な健全性を備えているかを確認するための規制です。日本では、2026年3月31日から、従来のソルベンシー・マージン比率に代わる新たな枠組みとして、経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されました。新規制では、①保険会社の資産及び負債を経済価値ベースで評価した上で、②ストレス環境下において発生するリスク量(所要資本)を計測し、③それに対する資本(適格資本)の十分性を評価します※3。それぞれの具体的な評価方法に関しては、令和7年金融庁告示第74号「保険業法施行規則第八十六条及び第八十七条等の規定に基づき保険金等の支払能力に相当する額及び通常の予測を超える危険に相当する額の計算方法等を定める件※4」(以下「本告示」といいます。)において定められています。

 本告示において、一定の要件を満たす資本調達手段については、適格資本への算入が可能とされています。本告示では、適格資本に算入可能な資本調達手段は、主なものとして大きく以下の3種類に分類され、それぞれの特徴は以下の表に記載のとおりです※5。なお、以下の表に記載の特徴を有していれば、当然に適格資本に該当するわけではなく、適格資本に該当するためには、本告示に規定された各要件を満たす必要があります。

主要な原則 算入制限のない
Tier1資本
算入制限のある
Tier1資本
払込済みの
Tier2資本
損失吸収能力
  • ゴーイング・コンサーン及び清算時に損失を吸収
  • ゴーイング・コンサーン及び清算時に損失を吸収
  • 清算時に損失を吸収
劣後性の水準
  • 最劣後(すなわち、最初に損失を吸収)
  • 保険契約者、他の非劣後の債権者、Tier2資本調達手段の保有者及び算入制限のあるTier1資本調達手段の保有者よりも劣後
  • 保険契約者、他の非劣後の債権者、Tier2資本調達手段の保有者よりも劣後
  • 保険契約者、他の非劣後の債権者よりも劣後
損失吸収への利用可能性
  • 完全に払込済み
  • 完全に払込済み
  • 完全に払込済み
永続性
  • 永続性を有する
  • 永続性を有する
  • 償還インセンティブを有さない
  • 当局による事前承認を条件に、発行後一定期間以降の償還及び任意の買戻しは認められる
  • 発行時から実質償還期限までの期間が十分に⻑い(償還インセンティブを有してもよいが、初回発生日が実質償還期限とみなされる)
担保権や強制的サービシングコストの不在
  • 配当・利払の停止につき、発行者が完全な裁量を持つ(すなわち、配当・利払が非累積的)
  • 担保権により毀損も無効化もされていない
  • 配当・利払の停止につき、発行者が完全な裁量を持つ(すなわち、配当・利払が非累積的)
  • 担保権により毀損も無効化もされていない
  • 担保権により毀損も無効化もされていない

 新規制の特徴の1つとして、上記の払込済みTier2資本調達手段については、本告示において、「構造上の劣後性を有しないもの」と「構造上の劣後性を有するもの」に更に分類されていることが挙げられ、本社債は、このうち「構造上の劣後性を有するもの」に該当します。以下では、構造上の劣後性を有するTier2資本調達手段及び本社債の概要について説明します。

構造上の劣後性を有するTier2資本調達手段及び本社債の概要

 構造上の劣後性を有するTier2資本調達手段(以下「構造劣後Tier2資本調達手段」といいます。)に該当するためには、発行者が保険契約を有しない保険持株会社であり、その発行代り金を、保険契約を有する連結子会社等に融通する必要があります(本告示42条4項本文。以下、連結子会社等に対して発行代り金を融通することを「ダウンストリーム」といいます。)。本社債についていえば、発行者であるSOMPOホールディングスが保険契約を有しない保険持株会社であり、本社債の発行代り金は、SOMPOホールディングスの子会社である損害保険ジャパン株式会社(以下「損保ジャパン」といいます。)への劣後ローン貸付金に充当することとされています。

 構造劣後Tier2資本調達手段については、残余財産の分配又は倒産手続における債務の弁済若しくは内容の変更について、他の非劣後の債権者に対して劣後的内容を有すること(以下「劣後性」といいます。)は要件とされていません。そのため、社債自体に劣後性は必要ではありません。したがって、構造劣後Tier2資本調達手段は、いわゆる劣後債である必要はなく、シニア債として発行することに特徴があります。本社債もこの点を踏まえ、シニア債として発行されています。

 他方で、本告示では、構造劣後Tier2資本調達手段について、ダウンストリームの手段が、上記の算入制限のないTier1資本調達手段、算入制限のあるTier1資本調達手段、又は払込済みTier2資本調達手段(構造上の劣後性を有しないもの)のいずれかに該当することを求めており(本告示42条4項1号)、これらの資本調達手段はいずれも、劣後性が要件とされています。そのため、構造劣後Tier2資本調達手段を発行した保険持株会社は、ダウンストリームした発行代り金に関して、ダウンストリーム先である保険会社等の他の非劣後の債権者に劣後することになります。このように、構造劣後Tier2資本調達手段は、資本調達手段自体には劣後性が求められていないものの、ダウンストリームの手段において劣後性が求められているという点に特徴があります。なお、本社債に関しては、SOMPOホールディングスから損保ジャパンへのダウンストリームの手段は、払込済みTier2資本調達手段(構造上の劣後性を有しないもの)の要件を満たすものとなっております。

 上記の点も含め、構造劣後Tier2資本調達手段に該当するためには、以下の表に記載したその他様々な要件を満たす必要があります。本社債はこれらを全て満たすように設計されています。

項目 要件 本告示条文
払込 発行者により現に発行され、かつ、払込済みのものであること。 42条3項1号
償還期限 発行時から実質償還期限※6までの期間が五年以上であること。 42条3項3号
期限前償還 償還等を行う場合には、発行後五年を経過した日以降に発行者の任意による場合に限り償還等を行うことが可能であり、かつ、償還等に際し、発行者の保険金等の支払能力の充実の状況について、あらかじめ金融庁長官の確認を受けるものとなっていること、又は発行後五年を経過した日より前の償還等であって、次のイからハまでに掲げる要件の全てを満たすものであること。

  1. 発行者の任意による場合に限り償還等を行うことが可能であること。
  2. 償還等に際し、発行者の保険金等の支払能力の充実の状況について、あらかじめ金融庁長官の確認を受けるものとなっていること。
  3. 償還等以前において、償還等される資本調達手段と同等以上の質が確保されるものに置き換えられること。ただし、発行時に合理的に予期できなかった税制上又は規制上の事由であって著しく影響の大きいもの※7による償還等の場合及び資本調達手段が基金の場合は、この限りでない。
42条3項4号
買戻し 買戻しに際し、発行者の保険金等の支払能力の充実の状況について、あらかじめ金融庁長官の確認を受けるものとなっていること。 42条3項5号
期限前償還又は買戻しへの期待 実質償還期限の決定において考慮されているステップ・アップ金利等又はその他の償還等を行うインセンティブを除き、発行者が発行時に将来にわたり償還等又は買戻しを行う期待を生じさせず※8、かつ、当該期待を生じさせる内容が定められていないこと。 42条3項6号
利息金額の算定方法 剰余金の配当額又は利息の支払額が、発行後の発行者の信用状態を基礎として算定されるものでないこと。 42条3項7号
期限の利益喪失 清算時を除き、発行者が債務の履行を怠った場合における保有者に対する期限の利益喪失についての特約が定められていないこと。 42条3項8号
担保 担保権による担保、保証その他これらに類する保有者を保護するための措置(発行者又は当該発行者と密接な関係を有する者※9による請求権の優先順位に影響を与えるような保証又は保全を含む。)によって、毀損し、又は法令上若しくは契約上無効とされていないこと。 42条3項9号
関係者の購入 保険会社等(連結ベースの計算においては連結子会社等以外の子会社等を含む。以下この号において同じ。)により取得されておらず、かつ、取得に必要な資金が保険会社等により直接又は間接に融通されたものでないこと。 42条3項10号
SPC形態 特別目的会社等が発行する資本調達手段である場合には、発行代り金を利用するために発行される資本調達手段が前各号に掲げる要件の全てを満たし、かつ、当該資本調達手段の発行者が発行代り金の全額を即時かつ無制限に利用可能であること。 42条3項11号

「構造上の劣後性を有するもの」に関する項目
項目 要件 本告示条文
ダウンストリームの手段 ダウンストリームの手段が、算入制限のないTier1資本調達手段、算入制限のあるTier1資本調達手段又は払込済みTier2資本調達手段(構造上の劣後性を有するもの以外)に掲げる要件の全てを満たすものであること。 42条4項1号
発行者(保険持株会社) 発行者が保険契約を有しない保険持株会社であること。 42条4項2号
ダウンストリームの追跡 保険持株会社が発行した資本調達手段の発行代り金が適切に追跡され、金融庁長官に確認されていること。 42条4項3号
ダウンストリーム先の所在 発行代り金を利用している連結子会社等が、剰余金の配当に対する適切な規制及び監督を通じて構造上の劣後性が適切に確保される規制上の枠組みを有する法域に所在していること※10 42条4項4号
関連書類の記載 発行者が日本に所在する保険持株会社の場合にあっては、契約書若しくは発行要項又はこれらの関連書類中に、発行者において当該債務は払込済みTier2資本調達手段(構造上の劣後性を有するもの)として取り扱われることを適切に記載していること※11 42条4項5号

 また、以下のロックイン条項がない資本調達手段に関しては、適格資本に該当する場合であっても、実質償還期限までの期間が5年以内になった時点から適格資本への算入額が段階的に減少します。

項目 要件 本告示条文
ロックイン条項※12 資本調達手段及びダウンストリームの手段について、実質償還期限での償還を行った場合に発行者のソルベンシー・マージン比率その他これに類する比率が一定の水準※13を下回らないこと又は当該償還を行った資本調達手段と同等以上の質の資本調達手段に置き換えられることを、当該償還の条件とする。 42条4項本文
38条3項本文

最後に

 本社債は、構造劣後Tier2資本調達手段の要件を満たす本邦初の債券であり、新規制の下における保険持株会社による資本調達の先例として、実務上も重要な意義を有するものと考えられます。とりわけ、シニア債としての特徴を持ちつつ、ダウンストリームの設計により構造上の劣後性を確保する点や、ロックイン条項を含む各種要件を発行条件・関連書類に反映する点は、今後同種の調達を検討する保険グループにとって参考になるものと思われます。新規制の実務運用が今後蓄積される中で、資本調達手段の設計及び投資家向け開示のいずれについても、引き続き実務の発展が注目されます。

脚注一覧

※1
SOMPOホールディングス発表による2026年4月16日付「当社による米ドル建シニア無担保社債の発行について」もご参照ください。

※2
本ニュースレターの著者のほか、当事務所の鈴木雄大弁護士が日本法弁護士として多方面に助言しました。

※3
経済価値ベースのソルベンシー規制の概要」3頁(金融庁保険課保険モニタリング室、2025年7月23日)

※5
経済価値ベースのソルベンシー規制の概要」5頁(金融庁保険課保険モニタリング室、2025年7月23日)

※6
実質償還期限とは、本告示38条3項において、「資本調達手段について、ステップ・アップ金利等その他の償還等を行うインセンティブを伴う償還オプションが最初に発生する日又は償還期限が到来する日のうちいずれか早い日をいう」と定義されております。

※7
金融庁の発表している令和8年3月付「経済価値ベースのソルベンシー規制に関するQ&A」35頁では、「税制上又は規制上の事由であって著しく影響の大きいもの」とは、以下の場合を指すものとされています。
税制上の事由:法令又はその運用若しくは解釈により、発行者にとって著しく不利益な税務上の取扱いがなされ、発行者の合理的な努力によっても回避できない場合
規制上の事由:規制の変更等により、当該資本調達手段が規制資本としての適格性を失うおそれがある場合又は適格性を失った場合

※8
将来にわたり償還又は買戻しを行う期待を生じさせていないことをどのような観点から判断すべきかについて、金融庁の発表している令和8年3月付「経済価値ベースのソルベンシー規制に関するQ&A」34頁では、デュレーションが契約上の満期より短くなるであろうことを示唆する(すなわち、買戻しやコールオプションの権利行使の意思を示す)ものとして合理的に考えられるコミュニケーションが投資家に対してなされているかどうかを考慮するものとし、そのようなコミュニケーションには、契約条件、投資家に対する文書その他の公式のコミュニケーションが含まれると記載されています。

※9
「発行者と密接な関係を有する者」について、金融庁の発表している令和8年3月付「経済価値ベースのソルベンシー規制に関するQ&A」33頁では、発行者の親法人等、子法人等及び関連法人等並びに当該親法人等の子法人等及び関連法人等が含まれると記載されています。

※10
金融庁の発表している令和8年3月付「経済価値ベースのソルベンシー規制に関するQ&A」36頁において、日本については、ソルベンシー・マージン比率に基づく早期是正措置をはじめとした保険子会社の健全性確保のための規制・監督上の枠組みを有していることから、当該要件を満たす法域と解釈して差し支えないとされており、日本国内の保険会社にダウンストリームする場合には、この要件は満たすものと考えられます。

※11
本社債に関しては、本社債の英文目論見書において、本社債が構造劣後Tier2資本調達手段として取り扱われること等を記載しています。

※12
構造劣後Tier2資本調達手段について算入額の段階的減少を発生させないためには、当該資本調達手段自体に加え、ダウンストリームの手段についてもロックイン条項を設ける必要があります(本告示42条4項本文)。

※13
「一定の水準」について、金融庁の発表している令和8年3月付「経済価値ベースのソルベンシー規制に関するQ&A」34頁では、「本邦の保険会社等の場合は、少なくとも100%以上である必要があります」とされているため、100%が一つの基準になると考えられます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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