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<宇宙法アップデート> 宇宙活動法の改正について―「人工衛星」から「宇宙ロケット」へ:規制体系の転換と新制度の創設―

著者等
大久保涼髙橋優武原宇宙渡辺雄太(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.90(2026年7月)
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ニュースレター

業務分野

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下「宇宙活動法」といいます。)は、日本における人工衛星等の打上げと人工衛星の管理に係る許可制度や人工衛星等の落下等により生ずる損害の賠償に関する制度等を規定する法律として2018年に施行されましたが、近年の急速な技術進歩に伴い、従来の宇宙活動法では対応できない新たな宇宙活動が出現しつつありました。内閣府の宇宙政策委員会に設置された「宇宙活動法の見直しに関する小委員会」により「宇宙活動法の見直しの基本的方向性 中間とりまとめ」(2025年3月)が公表され、宇宙活動法の見直しの基本的方向性が示されると、その後、同小委員会に設置された「宇宙活動法改正ワーキンググループ」において、法技術的事項の検討が行われ、その検討結果等を取りまとめた「宇宙活動法の見直しの基本的方向性 最終とりまとめ」(2025年12月)(以下「本最終とりまとめ」といいます。)が宇宙政策委員会において公表されました。そして、2026年3月に「⁠人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律案⁠」が閣議決定され、第221回国会(特別会)に提出され、2026年6月11日に本法案が成立しました。改正内容は多岐にわたり、また、宇宙活動法の題名は「宇宙ロケットの打上げ及び特定人工衛星の管理に関する法律」に改められることになりました。本ニュースレターでは、成立した人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律等の一部を改正する法律(以下「本改正法」といい、本改正法による改正前の宇宙活動法を「旧法」、改正後の宇宙活動法を「改正宇宙活動法」といいます。)の改正内容のポイントについて解説します。

改正の背景-本最終とりまとめとの関係

 本最終とりまとめでは、改正の方向性として示した事項のうち、①早急に法改正を行うべき事項、②早急に法改正を行うべきであるものの更なる論点整理が必要な事項、③施行規則や審査基準の改正等により実現を図るべき事項、④更なる検討が必要な事項の4段階に整理しており※1、改正宇宙活動法はこのうち主に①に対応したものです。したがって、再突入(リエントリ)行為に係る許可制度の創設、サブオービタル飛行の規律(②)、日本人・日本法人が本邦領域外で行う打上げ等の規律、宇宙物体登録手続の法定(④)といった事項は、改正宇宙活動法には含まれていません。附則第5条(後述7.)においても示されているとおり、本改正法において措置されなかった事項は、引き続き検討され、段階的に制度化が進められることが見込まれます。

 なお、有人宇宙飛行(リスクを承知し訓練された関係者の搭乗を想定したもの)、再使用型ロケット等の降下・回収、ロックーン方式、許可手続の簡素化・迅速化、事故対応の在り方等(上記③)は、主として、施行規則・審査基準・ガイドライン等の運用面で対応するものとされています。

改正点の具体的内容

1. 規制の起点の転換―「人工衛星中心主義」からの脱却

(1) 改正前の状況

 本改正の画期的な点のひとつとして、いわゆる「人工衛星中心主義」からの脱却が挙げられます※2

 すなわち、旧法においては、「人工衛星」及び「人工衛星等の打上げ」がそれぞれ以下のように定義されており、「人工衛星」概念※3が、宇宙活動法の許可制度の枠組みの起点となっていました。

「人工衛星」・・・「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」(旧法第2条第2項)

「人工衛星等の打上げ」・・・「人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離すること」(旧法第2条第5号)

 上記の定義から明らかなとおり、本改正前において、「人工衛星」を搭載せずに行われるロケットの打上げは、打上げに係る許可の対象となる「人工衛星等の打上げ」に該当しないと整理されていました。これに関して、典型的には、①人工衛星もダミーペイロード※4も搭載しないロケット単体の打上げや、②ダミーペイロードのみを搭載したロケットの打上げ、③モニュメントや宇宙葬用カプセル、研究用物体等の打上げについては、「人工衛星等の打上げ」に該当しないと解されてきました※5。すなわち、上記①②③は、本改正前においては、「人工衛星等の打上げ」に係る許可制度の枠組みの外にあると整理されていたものの、それらの行為に内在する危険性等を踏まえて、宇宙空間の有害な汚染等の防止や公共の安全確保のため、許可対象に含めるべきことが指摘されていました。

(2) 改正の内容

 本改正法は、「宇宙ロケット」という新たな定義を設けた上で、「宇宙ロケットの打上げ」を打上げ等に係る許可の起点としました。「宇宙ロケット」「宇宙ロケットの打上げ」の定義はそれぞれ以下のとおりであり、「宇宙ロケットの打上げ」は、「人工衛星等」の搭載を前提とはしていない※6点が注目されます。

「宇宙ロケット」・・・「地球から発射するロケットであって、発射した場合に地球を回る軌道若しくはその外又は地球以外の天体に達する推力を有するもの」(改正宇宙活動法第2条第2号)

「宇宙ロケットの打上げ」・・・「宇宙ロケットを発射して加速し、これを地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置することをいい、これと併せて宇宙ロケットに人工衛星等を搭載した上で一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星等を分離する場合にあっては、当該分離する行為を含むものとする」(同第6号)

 これにより、人工衛星もダミーペイロードも搭載しないロケット単体の打上げや(上記①)、ダミーペイロードのみを搭載したロケットの打上げ(上記②)、モニュメントや宇宙葬用カプセル等の打上げ(上記③)についても、「宇宙ロケットの打上げ」として、明確に打上げに係る許可の対象になりました。これらの行為が許可の対象となることにより、政府補償の対象にも含まれることとなります(後述5.(1))。

 以上のとおり、本改正で、人工衛星を起点とした許可の体系(いわゆる「人工衛星中心主義」)から脱却し、打上げに関しては、宇宙ロケットの発射を起点とした許可の体系に改められています。

2. 人工衛星に関する概念の整理

 本改正法は、旧法の「人工衛星」概念を細分化し、概念整理を行いました。

(1) 人工衛星

 「人工衛星」は、今回の宇宙活動法の改正前から同法において規定されていた定義語ですが、改正宇宙活動法第2条第3号は、「人工衛星」の定義を「宇宙ロケットに搭載する人工の物体であって、地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置して使用するもの」としています。

 本改正法では、「宇宙ロケットに搭載する人工の物体」という点が明確化されていますが、「人工衛星」の定義内容自体には本質的な変更はありません。

(2) 人工衛星等

 本改正法においては、「人工衛星等」とは、「人工衛星」に加えて、「人工衛星以外の宇宙ロケットに搭載する人工の物体であって、地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置するもの」を指す概念として整理されました。

 上述1.(1)及び脚注5のとおり、従前、地球軌道等上に投入されるモニュメントや宇宙葬用のカプセル等が、「人工衛星」に該当するかどうか明らかではない旨の指摘がされていましたが、本改正法においては、それらは、「人工衛星等」に含まれることになります。

(3) 特定人工衛星

 本改正法においては、「特定人工衛星」の定義も新たに設けられました。改正宇宙活動法第2条第7号は、「特定人工衛星」を「人工衛星のうち、その位置、姿勢及び状態を制御することができるもの」と定義しており、「特定人工衛星」は、管理許可の対象として機能します。

 本改正前における「人工衛星の管理」に係る許可(旧法第20条以下)は、改正宇宙活動法では「特定人工衛星の管理」に係る許可へと改められ、管理許可の対象が、制御可能な人工衛星に限定されることが明確化されています※7

(4) 搭載前人工衛星等

 さらに、本改正法では「搭載前人工衛星等」の定義も設けられました。改正宇宙活動法第2条第8号は、「搭載前人工衛星等」を「人工衛星等(特定人工衛星を除く。)であって、宇宙ロケットに搭載する前のもの」と定義しています。これは、後述する搭載前人工衛星等の適合認定制度(改正宇宙活動法第18条の2以下)の対象を画する概念です。なお、「特定人工衛星」は、「搭載前人工衛星等」から除外される点に留意が必要です。

 以上の内容を表に簡単に整理すると、以下のとおりです。

改正前の用語 改正後の用語 改正後の条文上の定義又は実質的意味 留意事項・備考等
人工衛星 人工衛星
(用語自体は存続)
地球を回る軌道又はその外に投入・地球以外の天体に配置して、使用する人工物
  • 定義自体に大きな変更はない(改正後は「宇宙ロケットに搭載する人工の物体」という点が明確化された。)。
  • (改正前は「管理許可」の対象であったところ)直接対象ではなくなり、管理関連の審査・監督は特定人工衛星に紐づく。
人工衛星等 人工衛星
+
人工衛星以外の宇宙ロケットに搭載する人工の物体であって、地球を回る軌道又はその外に投入・地球以外の天体に配置される人工物
本改正法において新設された概念。
「使用」されないものについてもカバーする概念。
「地球を回る軌道若しくはその外に投入し、又は地球以外の天体上に配置する」という要件は残っている点に留意。
(管理許可の対象概念としての)人工衛星 特定人工衛星 位置・姿勢・状態を制御できる人工衛星 管理許可・管理計画・監督(報告徴収・立入検査等)の対象。
「管理許可」は特定人工衛星ごとに必要。
搭載前人工衛星等 打上げ(発射)前に宇宙ロケットへ搭載される人工衛星等(特定人工衛星を除く。) 軌道上で制御しないもの(モニュメントや宇宙葬用のカプセル等)も含まれる。
ロケット搭載前に「人工衛星等汚染等防止・安全基準」への適合認定を受けることができる。
人工衛星等の打上げ 宇宙ロケットの打上げ 人工衛星の有無を問わず、宇宙ロケット単体の打上げを許可・政府補償の対象に拡大 改正前は「人工衛星等の打上げ」を許認可の対象にしていたため、「人工衛星」を搭載しないロケットは、打上げの許可の対象外。
改正により、幅広く打上げ許可の対象に。

(改正宇宙活動法における「人工衛星」概念の整理)

3. 打上げ許可制度の拡充(改正宇宙活動法第4条・第6条)

(1) 許可申請事項の組替え

 宇宙ロケットの打上げを行おうとする者は、その都度、内閣総理大臣の許可を受けなければならないとされる点は現行法と同じですが(改正宇宙活動法第4条第1項)、打上げに係る許可の対象が上記2.(2)のとおり拡大することに伴い、許可申請書に記載すべき事項に関する法律の定めも組み替えられました。たとえば、改正宇宙活動法第4条第2項が、打上げの目的(同項第2号)、宇宙ロケットに人工衛星等を搭載するかどうかの別及び搭載する場合の事項(同項第5号)を追加したことが注目されます。

(2) 許可基準の再構成

 打上げの許可基準を定める改正宇宙活動法第6条も再構成されました。以下のとおり、宇宙ロケット打上げの目的に関する基準※8(同条第1号)、打上げ時の宇宙空間の有害な汚染等や公共の安全確保のための基準※9(同条第4号ロ)、ロケット打上げ計画の適切性とその遂行能力※10(同条第5号)などの基準が法律において定められています。

改正宇宙活動法第6条第1号:宇宙ロケットの打上げの目的が、基本理念に則したものであり、かつ、宇宙の開発及び利用に関する諸条約の的確かつ円滑な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。

改正宇宙活動法第6条第4号ロ:宇宙ロケットに搭載される人工衛星等の構造が、その人工衛星等を構成する機器及び部品の飛散を防ぐ仕組みが講じられていることその他の当該構造を月その他の天体※11を含む宇宙空間の有害な汚染並びにその平和的な探査及び利用における他国の活動に対する潜在的に有害な干渉(「宇宙空間の有害な汚染等」)の防止並びに公共の安全の確保に支障を及ぼすおそれがないものとするための基準(「人工衛星等汚染等防止・安全基準」)※12に適合するものであること。

改正宇宙活動法第6条第5号:ロケット打上げ計画が公共の安全を確保し、及び宇宙空間の有害な汚染等を防止する上で適切なものであり、かつ、申請者が当該ロケット打上げ計画を実行する十分な能力を有すること。

(3) 型式認定から「設計の確認」へ

 旧法の「人工衛星の打上げ用ロケットの型式認定」制度は、本改正法では「宇宙ロケットの設計の確認」制度へと改められます(改正宇宙活動法第13条)。かかる確認の申請主体は「発射前の宇宙ロケットについて所有権その他の管理の権原を有する者」と明記され※13(改正宇宙活動法第13条第1項)、当局による確認を受けると「設計確認番号」が付された「設計確認書」が交付されます(同条第4項)。打上げ許可の申請書に設計確認番号を記載すれば、設計に関する申請事項の記載を要しないこととされ(改正宇宙活動法第4条第3項)、審査の重複は避けられると考えられます。

 なお、旧法下では、人工衛星の打上げ用ロケットの型式認定を取得し⁠、同一型式のロケットを使用した他の打上げに適用する(当該型式の安全審査を省略する)ことが可能でしたが⁠、本改正後は個別のロケ⁠ットごとに設計確認を行う仕組みとなります※14

 また、旧法に定められていた、人工衛星の打上げ用のロケットの設計に係る「外国認定」※15の仕組みは廃止されます。これにより外国で設計されたロケットについても、全て改正宇宙活動法に基づく設計確認の手続を踏む必要がある仕組みとなりました。旧法のもとで外国認定の対象国を定める内閣府令は制定されておらず、利用されていなかったことも廃止の一因となったと推測されます。

4. 搭載前人工衛星等の適合認定制度の新設(改正宇宙活動法第18条の2~第18条の4)

 本改正により、「搭載前人工衛星等の適合認定」が新設されます(改正宇宙活動法第2章第4節。第18条の2~第18条の4)。

 内閣総理大臣は、搭載前人工衛星等について所有権その他の管理の権原を有する者の申請により、当該搭載前人工衛星等について適合認定を行います(改正宇宙活動法第18条の2第1項)。

 適合認定の対象は「搭載前人工衛星等」、すなわち、「人工衛星等(特定人工衛星を除く。)であって、宇宙ロケットに搭載する前のもの」です※16。特定人工衛星は、搭載前人工衛星等の定義から除外されており※17、管理許可等(改正宇宙活動法第20条以下)の対象となる特定人工衛星以外の人工衛星等についても⁠、宇宙空間の有害な汚染等の防止や公共の安全確保に適合しているか、事前に(ロケットへの搭載前・打上げ前に)審査する制度として設けられています。

 適合認定は、搭載前人工衛星等について所有権その他の管理の権原を有する者の申請により行われます。申請が行われた搭載前人工衛星等につき、その構造が「人工衛星等汚染等防止・安全基準」に適合していると認められると適合認定が行われ(改正宇宙活動法第18条の2第3項)、適合認定番号が付された「搭載前人工衛星等認定書」が交付されます(同条第4項)。この「人工衛星等汚染等防止・安全基準」は、上記3.(2)のとおり、宇宙空間の有害な汚染等の防止及び公共の安全の確保に支障を及ぼすおそれがないものとするための基準として、人工衛星等の投入先又は配置先を勘案して内閣府令で定める基準とされており(改正宇宙活動法第6条第4号ロ)、投入先・配置先(地球周回軌道、月面・月周回軌道、深宇宙等)に応じた基準設定が予定されています。

 適合認定を受けた人工衛星等の投入先・配置先又は構造を変更する場合には変更の認定が必要となり(改正宇宙活動法第18条の3)、構造が基準に適合しなくなった場合等には適合認定の取消し等がなされ得ます(改正宇宙活動法第18条の4)。

5. 損害賠償制度の対象拡大(改正宇宙活動法第35条・第36条・第53条)

 「人工衛星中心主義」からの脱却に伴う打上げ許可の対象の拡張や「人工衛星」概念の整理に伴って、被害者保護の徹底と責任ある宇宙活動の実現を図る観点から、損害賠償制度の整備・拡張が行われました。実務上の大きな影響として、宇宙ロケット単体の打上げやダミーペイロードのみを搭載したロケットの打上げを行う事業者が、打上げ時の事故により発生した損害について無過失責任を負うとともに、付保等の損害賠償担保措置を講ずる必要が生じることとなります。また、打上げ後の物体の落下に伴う損害に関して、軌道をコントロールできる人工衛星(特定人工衛星)以外の物体を打上げ又は打上げの委託をした者についても、その落下等に生じる損害について無過失責任を問われるようになる点も大きな改正点となります。

(1) ロケット落下等損害賠償制度の整備

 旧法のもとでは、ロケット落下等損害について、「人工衛星等の打上げ」(すなわち、人工衛星及びその打上げ用ロケットの打上げ)を行う者に無過失責任を課す(旧法第35条)とともに、責任を集中させています(同第36条)。そして、打上げ実施者は、ロケット落下等損害賠償責任保険契約及び政府とのロケット落下等損害賠償補償契約の締結等の損害賠償担保措置を講ずる義務を負い(同第9条第1項)、政府補償の対象とされています(同第40条)。上述のとおり人工衛星もダミーペイロードも搭載しない宇宙ロケット単体の打上げやダミーペイロードのみを搭載したロケットの打上げなどは、旧法の打上げに係る許可制度の対象外と解されていたところ、かかる許可の対象の拡充に関する議論と合わせて、これらの行為についても従来の人工衛星及びその打上げ用ロケットの打上げと同等の危険性を有するものであることから、第三者賠償制度の拡充の必要性が指摘されていました。

 本改正法により、宇宙ロケットの打上げに伴いロケット落下等損害※18が生じたときは、宇宙ロケットの打上げを行う者が無過失責任を負い(改正宇宙活動法第35条)、その者が打上げ実施者(許可を受けて打上げを行う者)又は国であるときは、当該打上げ実施者又は国に責任が集中することとされました(同第36条第1項)。また、打上げ実施者は、上述のような損害賠償担保措置を講ずる義務を負い(同第9条第1項)、また、政府補償の対象に含められることとなりました(同第40条)。ロケット落下等損害賠償制度の枠組みが「宇宙ロケットの打上げ」を単位として適用される結果、人工衛星等を搭載しないロケット単体の試験打上げやダミーペイロードのみを搭載したロケットの打上げにも、無過失責任・責任集中・損害賠償担保措置義務・政府補償という現行の枠組みがそのまま及ぶことになる点が特徴です。

(2) 人工衛星等落下等損害の賠償制度の整備

 旧法のもとでは、人工衛星落下等損害の賠償制度として、ロケットから正常に分離された物体の落下等に伴う損害に関して、その対象を人工衛星に限定して、国内等の人工衛星管理設備を用いて人工衛星の管理を行う者に無過失責任を課していました※19

 本改正法により旧法の「人工衛星」概念が細分化されたことに伴い、宇宙活動法第6章の表題が「人工衛星落下等損害」から「人工衛星等落下等損害」に改められ、損害賠償制度が拡充・整備されました。まず、宇宙ロケットから正常に分離された後の人工衛星等の落下等により生じた損害(人工衛星等落下等損害※20)について、当該人工衛星等が特定人工衛星である場合は、本改正前と同様、国内等の特定人工衛星管理設備を用いて当該特定人工衛星の管理を行う者は無過失責任を負います※21。また、国内の打上げ施設等を用い、かつ、特定人工衛星以外の人工衛星等を搭載して宇宙ロケットの打上げが行われた場合の当該人工衛星等による人工衛星等落下等損害について、①委託により当該人工衛星等を搭載した場合は当該委託をした者※22が、②それ以外の場合は当該打上げを行った者が、それぞれ無過失責任を負うことが追加されました。他方で、人工衛星等落下等損害については、改正前と同様、ロケット落下等損害賠償制度と異なり、損害賠償担保措置を講ずる義務や責任集中・政府補償の仕組みは設けられていません。

(改正宇宙活動法の損害賠償制度の概要)

損害の類型 賠償責任を負う者(無過失責任) 責任集中・損害賠償担保措置・政府補償
ロケット落下等損害
(発射後の宇宙ロケット。正常分離前の搭載物を含む)
宇宙ロケットの打上げを行った者
  • 打上げ実施者又は国に責任集中あり
  • 損害賠償担保措置義務・政府補償の対象
  • (人工衛星非搭載の打上げ等にも適用拡大)
人工衛星等落下等損害
(正常分離後の特定人工衛星)
当該特定人工衛星の管理を行う者(改正前と同様) なし(改正前と同様)
人工衛星等落下等損害
(正常分離後の特定人工衛星以外の搭載物)
  • 委託により搭載した場合:委託をした者
  • それ以外:打上げを行った者
なし

6. 関連法の改正(宇宙基本法・内閣府設置法・宇宙資源法)

 本改正法は、旧法だけでなく、宇宙基本法、内閣府設置法及び宇宙資源法についての改正も合わせて行っています。

 宇宙基本法については、目的規定(第1条)及び環境保全に係る規定(第7条・第20条)に「公共の安全を確保」する旨を加えるとともに、宇宙開発利用に関する基本的施策として、宇宙開発利用に係るロケットの開発等に必要な機器・技術等の研究開発の推進等が追加されています(第15条・第16条関係)。

 内閣府設置法については、宇宙政策委員会の調査審議の対象に、宇宙ロケットの打上げの安全の確保に関する重要事項が加えられます(第38条関係)。

 また、宇宙資源法についても、引用する法律の題名変更や「人工衛星」から「特定人工衛星」への用語整理等の所要の改正がなされています。

7. 施行期日・経過措置・検討条項(附則)

 施行期日は、原則として公布の日(2026年6月17日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされます(附則第1条本文)。ただし、宇宙基本法の改正(本改正法第2条)等は公布の日から施行されます(同条ただし書)。

 経過措置として、施行前に軌道等に投入・配置した現行法上の「人工衛星」の管理については、なお従前の例によるものとされます(附則第2条)。また、検討条項として、政府は、施行後3年を目途として改正法の規定について施行状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるものとされています(附則第5条)。前記「改正の背景-本最終とりまとめとの関係」のとおり、再突入行為やサブオービタル飛行等、今回見送られた論点の追加的な制度整備が、この検討条項を通じて今後具体化していくことが見込まれています。

おわりに

 改正宇宙活動法のもと、打上げに係る許可制度の対象外と解されていた宇宙ロケット単体やダミーペイロードのみを搭載した宇宙ロケットの打上げといった試験的な打上げや制御を行うことが想定されない搭載物についても宇宙活動法の規制対象に加えられるとともに、許可基準の拡充・明確化も行われました。これに伴って、これらの活動についても無過失責任の対象となるなど損害賠償制度についても整備・拡充が行われ、被害者保護の強化が図られました。

 具体的な許可基準等の内容については、内閣府令や関連するガイドラインにおいて規定ないし明確化が図られることになります。旧法下における打上げ許可に関する具体的な許可基準は「人工衛星中心主義」を前提とした体系となっていたため、改正後の「人工衛星」概念や打上げ・管理許可制度や新設される搭載前人工衛星等の適合認定制度に対応するための大規模な変更や整備が予想されます。許可基準等の具体的内容は事業上の影響も大きい事項であり、今後の内閣府令やガイドライン等の策定状況やパブリックコメント手続についても注視していく必要があります。

脚注一覧

※1
本最終とりまとめの解説については、弊所のテクノロジー法ニュースレター No.68「<宇宙法アップデート> 「宇宙活動法の見直しの基本的方向性 最終とりまとめ」の概要」(2025年12月)をご参照ください。

※2
小塚荘一郎ほか「座談会 宇宙活動法の改正と宇宙ビジネスの展望」ジュリスト1620号17頁〔石井由梨佳発言〕(2026)参照。

※3
なお、旧法においては、「人工衛星等」は「人工衛星及びその打上げ用ロケット」を意味しており(旧法第2条第3号)、改正宇宙活動法における「人工衛星等」の概念とは異なっていました。

※4
人工衛星に相当する質量・寸法等を有する人工の物体をいいます。実運用ミッションを担うものではなく、主としてロケットの試験・実証のため(又は搭載予定の人工衛星が何らかの事情により搭載できなくなった場合に重量バランスを崩さないため)に搭載されるものです。

※5
ただし、③については、本最終とりまとめにおいては、かかる搭載物が、「使用」する人工物に該当するか(「人工衛星」の定義に含まれるか)必ずしも明らかでない、と説明されているにとどまり、人工衛星に該当する可能性が否定されているわけではないと解されます。

※6
したがって、有人宇宙飛行(のための打上げ)についても、別途施行規則・審査基準・ガイドライン等を整備する必要はあるものの、法律上の位置づけとしては、「宇宙ロケットの打上げ」の一環として捕捉することが可能になったものと解されます。

※7
なお、これに伴い、法律全体を通じて「人工衛星の管理」、「人工衛星管理者」、「人工衛星管理設備」等の用語が、それぞれ「特定人工衛星の管理」、「特定人工衛星管理者」、「特定人工衛星管理設備」等へと置き換えられます。

※8
なお、旧法においては、ロケットに搭載される人工衛星の利用目的・方法について、同様の基準が設定されていました(旧法第6条第4号)。

※9
なお、旧法においては、人工衛星の管理に係る許可において、同様の基準が定められていました(旧法第22条第2号)。

※10
なお、旧法においては、人工衛星の管理に係る許可において、同様の基準が定められていました(旧法第22条第3号)。

※11
条文上は、「宇宙空間探査等条約第九条に規定する月その他の天体」とされています。

※12
かかる基準は、人工衛星等の投入先又は配置先を勘案して内閣府令で定めるものとされています。

※13
旧法では、申請主体は明記されていませんでしたが、本改正により明確化されました。

※14
同一型式の安全審査を省略することができなくなったことにより、個別の宇宙ロケットごとに設計確認を受ける必要があり、申請者の実務上の負担が増えることにならないか、今後の運用を注視する必要があります。もっとも、申請者の負担が増えないよう運用上の工夫が講じられる可能性も想定されるほか、近年では、ブロックアップグレード方式による開発が増えていることや開発が短サイクル化していること(H3ロケットにつき、志村康治ほか「進化を続けるH3ロケット 世界で選ばれる打上げ輸送サービスの実現に向けて」三菱重工技報 62巻4号(2025)参照。なお、H3ロケットは固体ロケットブースタ本数と1段メインエンジン基数を選択できる仕様となっています。)などを踏まえると、現在の実務上は同一型式の安全審査の場合と比べそれほど負担が変わらない可能性も高いように思われます。

※15
人工衛星の打上げ用ロケットの飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保する上で我が国と同等の水準にあると認められる人工衛星の打上げ用ロケットの設計の認定の制度を有している国として内閣府令で定めるものについての政府による認定の仕組み。

※16
したがって、ダミーペイロード、モニュメントや宇宙葬用カプセル等も適合認定の対象に含まれることになります。

※17
特定人工衛星は、改正宇宙活動法第20条以下の管理許可・管理計画・監督の対象となるため、搭載前人工衛星等の規律に服させる必要はないと判断されたものと思われます。

※18
「ロケット落下等損害」は、「発射された後の宇宙ロケット(これに搭載された人工衛星等(当該宇宙ロケットから正常に分離されたものを除く。)を含む。次号において同じ。)の落下、衝突又は爆発により、地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命、身体又は財産に生じた損害」と定義されます(改正宇宙活動法第2条第11号)。

※19
旧法第53条

※20
改正宇宙活動法第2条第14号

※21
改正宇宙活動法第53条第1項

※22
宇宙ロケットの打上げ許可の申請に当たって、当該宇宙ロケットに人工衛星等を搭載する場合、当該人工衛星等がその搭載について委託を受けたものである場合には、当該委託に係る契約の相手方を申請書に記載すること(改正宇宙活動法第4条第2項第5号ハ(1))となっており、人工衛星等落下等損害について無過失責任を負う委託者が申請書上明記されることになります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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