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防衛装備移転三原則及び運用指針の改正と対外投資規制への影響
鹿はせる、洲脇結衣(共著)
- 国際通商・経済制裁法・貿易管理
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
政府は、2026年4月21日、防衛装備品の輸出ルールを定める「防衛装備移転三原則」及びその「運用指針」の一部改正を行いました。主に、「近年の厳しさを増す安全保障環境の下にあって、同盟国・同志国等のニーズに応じた防衛装備移転の推進を通じ、我が国との相互運用性の向上を伴う形で同盟国・同志国等の抑止力・対処力を強化することにより、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出する」※1という観点から行われたものです。
今回の改正の最大のポイントは、従来5類型(救難、輸送、警戒、監視及び掃海)に限定して認められていた国産完成品の海外移転について、安全保障上のパートナー国に対しては全ての完成品の移転を原則として認め得ることとした点にあります※2。あわせて、これまで「厳に抑制する」とされてきた防衛装備に係る対外直接投資(M&A・出資等)の取扱いも見直されることになりました※3。
本改正は、防衛産業に直接関与する企業のみならず、防衛関連分野への投資や国際的なサプライチェーンに関与する一般企業・投資家にとっても、外国為替及び外国貿易法(外為法)上の規制との関係で実務的に重要な意味を持ちます。本ニュースレターでは、改正の概要と、特に対外投資規制への影響を中心に、実務上の留意点を概観します。
日本は、防衛装備の海外移転について、昭和42年の佐藤総理による国会答弁(武器輸出三原則)及び昭和51年の三木内閣の政府統一見解(総称して武器輸出三原則等)により、慎重に対処することを基本としてきました。「武器輸出三原則」とは、(1)共産圏諸国向け、(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向け、(3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向け、の三つの場合には武器輸出を認めないという政策です。さらに政府統一見解により、武器輸出三原則対象地域以外の地域についても武器の輸出を「慎む」ものとされた結果、実質的にはほぼ全ての地域に対して輸出を認めないこととなり、政府は個別の必要性に応じて例外化措置(最終的に21件に止まった※4)を重ねてきました。
こうした例外化措置の積み重ねが包括的に整理されていない状況等を踏まえ、平成26年(2014年)4月1日、新たな安全保障環境に適合する明確な原則として「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、同日「運用指針」が国家安全保障会議で決定されました。この2014年の移行により、実務上は、案件ごとに例外化措置の該当性を判断するのではなく、あらかじめ定められた「移転を認め得る場合」の類型を審査する枠組みへと転換されました。また、移転を認め得る案件の類型や審査基準が明文化され、目的外使用・第三国移転への事前同意義務付けや最終用途誓約書の取得等、移転後の適正管理が制度として組み込まれました。さらに、「防衛装備」=「武器」及び「武器技術」という定義が明確化され、形状・属性等から客観的に武器専用品と判断できるかで該非判定を行う基準が制度上明確になりました。
なお、武器輸出三原則等について特段の廃止措置は採られていませんが、防衛装備移転三原則がこれらを包括的に整理・統合したものであるため、現在は防衛装備移転三原則に基づき審査が行われます。その後、2023年12月22日、2024年3月26日(グローバル戦闘航空プログラム関連)等の改正を経て、今般の2026年4月21日改正に至りました。
今回の改正は、完成品を含む全ての防衛装備の海外移転について、「安全保障上のパートナー国」に対しては原則として可能とするが、殺傷・破壊能力がある「自衛隊法上の武器」については審査を厳格化し、移転後の適正管理を強化するものです。主な改正点は次のとおりです。
【改正前後の比較表】
| 比較項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 海外移転可能な防衛装備 | 原則として、非戦闘目的の5類型(救難・輸送・警戒・監視・掃海)に限定されていた。 | 用途の限定なく、殺傷・破壊能力あるもの含め、全ての完成品を原則移転し得る。 |
| 防衛装備の移転先 | 安全保障面での協力関係(共同開発・生産関係又は安全保障・防衛協力に資する)、自衛隊等の活動又は邦人の安全確保、侵略・武力行使又は威嚇を受けている国に対する防衛装備の移転等、目的に応じて移転先が分かれていた。 |
装備品の性質(殺傷・破壊能力の有無)に応じて、移転先が限定される:
|
| 海外移転の審査 | 既存の審査項目:①相手国・地域において武力紛争の一環として現に戦闘が行われているか否かを含めた国際的な平和及び安全への影響、②相手国・地域と我が国の安全保障上の関係、③移転される防衛装備の性質、④技術的機微性、用途、数量、形態並びに目的外使用及び第三国移転の可能性等 | 武器(:殺傷・破壊能力あり)については、審査項目が拡張され、国家安全保障会議が①相手国・地域の安全保障環境(周辺国との関係を含む)、②輸出管理体制、③我が国の安全保障環境(防衛力整備・自衛隊の運用に与える影響を含む)を追加してより慎重かつ総合的に審査する。 |
| 国会の関与 | 規定なし(外為法に基づき政府が移転を許可) | 武器(:殺傷・破壊能力あり)の移転の可否について、国家安全保障会議で審査し、認め得ると判断した場合速やかに国会へ通知 |
| 移転後の管理 | 書面確認中心 | モニタリングを強化し、必要に応じ関係省庁の職員の現地派遣も行う。 |
| 対外直接投資(防衛装備関連) | 武器輸出三原則の精神に則り「厳に抑制する」 | 「防衛装備移転三原則の趣旨を踏まえた運用を行う」旨を運用指針に明記 |
なお、用語の整理をしますと、「防衛装備」とは「武器」及び「武器技術」をいい、「武器」とは輸出貿易管理令別表第1の1の項に掲げるもののうち「軍隊が使用し直接戦闘の用に供されるもの」をいいます※6。これに対して、「自衛隊法上の武器」とは、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械・器具・装置等」をいい、「護衛艦・戦闘機・戦車のようなものを含む(部品を除く)」とされています※7。
他方で、経済産業省のQ&Aによれば、「防衛装備」に当たるか否かは、当該貨物・技術の形状・属性等から客観的に「武器専用品(専用の武器技術)」と判断できるものとされ、いわゆる汎用品は防衛装備移転三原則上の「防衛装備」には該当しないと整理されています※8。軍向けの輸出であっても、その全てが「防衛装備」に当たるわけではなく、一般に民生利用・販売実績がある貨物や、これと客観的に同等といえる民生品が存在する貨物は「防衛装備」に該当しないとされています。民生品に一般的なカスタマイズ(塗装や寸法変更等)を施したにとどまる場合も同様です※9。技術についても、軍民両用の汎用技術は、輸出貿易管理令別表第1の1の項の「部分品」「附属品」が「他の用途に用いることができるものを除く」と解釈されることから、原則として規制対象(外為令別表の1の項)には含まれないと整理されています※10。
したがって、政府当局により「防衛装備」は比較的狭く解されており、いわゆる軍民両用の汎用品(デュアルユース品)は、そもそも防衛装備移転三原則が適用されないこととなります。もっとも、汎用品が「防衛装備」に当たらないことは、民間企業にとって、輸出管理上自由であることを意味しません。汎用品であっても、輸出貿易管理令別表第1の2項以下のリスト規制や、通常兵器キャッチオール規制(リスト非該当品を対象とする規制)の対象となる可能性があり※11、その場合は輸出するにあたって政府の許可を得る必要があります。
防衛装備移転三原則及び運用指針の改正に関連して、投資・M&Aの文脈で実務上特に注目されるのが、防衛装備に係る対外直接投資規制の取扱いの変更です。これは、防衛装備の海外移転の拡大という政策方針を、対外直接投資の場面にも反映させるものといえます。
ここでいう「対外直接投資」とは、居住者による外国法人の株式の取得や当該法人への金銭の貸付け(永続的な経済関係の樹立を目的とするもの)、又は外国における支店・工場等の設置・拡張に係る資金の支払をいいます(外為法第23条第2項)。現行の外為法上、ほとんどの業種では事後報告で対外投資を行うことができますが、一部の業種及び資本取引については事前の届出又は許可が必要とされており、武器の製造業及び武器製造関連設備の製造業は事前届出の対象業種とされています。事前届出の対象業種ということは、当局に届出をしてクリアランスを取得することで投資できることを意味しますが、実務上は、武器輸出三原則の精神に則り「厳に抑制する」とされてきたように、武器及び武器製造関連設備に対する対外投資は、基本的に認められてきませんでした。
しかし、今回の改正により、運用指針に「防衛装備移転三原則の趣旨を踏まえた運用を行う」旨が明記されました。具体的には、「防衛装備移転三原則の下で認め得るとされた防衛装備移転を伴う対外直接投資については、その認め得るとされたことを踏まえて外為法に基づく審査を行い、防衛装備移転を伴わない防衛装備関連の対外直接投資については、防衛装備移転三原則の趣旨を踏まえて外為法に基づく審査を行うものとする」とされています※12。改正後の防衛装備に係る対外直接投資について、これ以上の具体的な指針は現時点で示されていませんが、改正後の防衛装備移転三原則及び運用指針に鑑みると、武器の製造業・武器製造関連設備の製造業に係る対外直接投資の事前届出がクリアされるのは、防衛装備の海外移転が認められる安全保障上のパートナー国に限定され、中でも、殺傷・破壊能力を有する「自衛隊法における武器」又は武器製造関連設備については、日本との間で防衛装備品技術移転協定を締結している17カ国に限定される方針になるのではないかと考えられます。
もっとも、ここで立ち止まって検討すべき点は、政策として、武器等の防衛装備の海外移転の余地を広げることと、武器等に関する対外直接投資の制限を緩和することは、必ずしもリンクしないとも考えられる点です。今回防衛装備移転三原則及び運用指針が改正され、防衛装備移転の余地が広がった点について、「安全保障環境が厳しさを増す中、今やどの国も一か国のみでは自国の平和と安全を守ることはできず、防衛装備面も含め、同盟国・同志国とともに助け合うことが必要となっています。」※13と説明されており、いわば安全保障上の要請に基づく、パートナー国間の「互助」の必要性が出発点になっています。しかし、対外直接投資で想定されるのは、基本的に相手国企業への投資・買収であり、必ずしも安全保障上の要請に基づく互助の概念になじまないものもあると思われます。投資先国がパートナー国であったとしても、「三原則の趣旨を踏まえて審査」を行った結果、認められない場面も当然考えられます。したがって、「防衛装備移転三原則及び運用指針の改正により、軍事産業関連の海外投資を行いやすくなった」と考えるのは、やや早計かもしれません。
また、対外投資の事前届出対象となる「武器」及び「武器製造関連設備」の定義についても、整理しておく必要があります。外為法における用語は、依然として武器輸出三原則時代の用語を用いておりますが、同原則が確立した武器輸出に関する三木内閣時の政府統一見解によれば、「武器」は「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」であるとされ、「武器製造関連設備」は、「武器に準じて取り扱う」ものとされています。上記のとおり、2014年に武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に整理・明確化され、武器三原則における「武器」は、防衛装備移転三原則における「防衛装備」に相当します。防衛装備移転三原則において、「武器製造関連設備の海外移転については、これまでと同様、防衛装備に準じて取り扱うものとする」※14と記載されていることから、「武器製造関連設備」も「防衛装備」に準じて取り扱うことになります。その帰結として、外為法における「武器」及び「武器製造関連設備」は、防衛装備移転三原則における「防衛装備」同様、いわゆる軍民両用の汎用品を含まないものの、殺傷・破壊能力を有する「自衛隊法における武器」より広い概念と解されます。
このことから、いわゆる軍民両用の汎用品への対外投資については、外為法上の事前届出の対象にならないと考えられます。しかし、留意すべき点として、日本側における対外投資の規制がかからない場合であっても、軍民両用の汎用品又は軍事転用可能性が高い民生品の製造業への投資は、投資先国の対内投資規制に該当して、審査及びクリアランスの取得が必要になり、厳格な審査に付される可能性があります。この点は、日本が海外から投資を受ける、逆の立場で考えると理解しやすいです。実際、直近では、海外投資ファンドであるMBKパートナーズによる牧野フライス製作所の買収について、牧野フライス製作所が軍事転用可能性の高い技術を保有していることを理由として中止勧告がなされ、結果として買収は実現しませんでした。また、国内外の法令及び政府による規制の他に、企業グループ内の投資倫理に関する社内規程に基づき、軍民両用の汎用品に対する投資が禁止されている場合もあります。
今回の改正は、完成品を含む全ての防衛装備品の海外移転を原則可能とし、対外直接投資についても「厳に抑制する」から「防衛装備移転三原則の趣旨を踏まえた運用」へと方針を転換する、防衛装備移転制度の大きな転換点といえます。運用指針は外為法の運用基準であり、安全保障環境の変化等に応じて時宜を得た形で改正されるものとされているため、今後も改正・運用の動向を注視する必要があります。
防衛産業に関与する企業はもとより、防衛関連分野への投資やサプライチェーン参画を検討する一般企業・投資家においても、改正後の防衛装備移転三原則・運用指針の趣旨を踏まえ、外為法その他の経済安全保障関連法制への対応を早期に検討することが重要です。
※1
国家安全保障会議決定・閣議決定「防衛装備移転三原則」(2026年4月21日一部改正)2頁
※2
前掲注1の1~2頁
※3
国家安全保障会議決定「防衛装備移転三原則の運用指針」(2026年4月21日一部改正)7頁
※4
経済産業省「武器(別表第1の1項)」関連Q&AのQ1-2参照
※5
内閣官房、外務省、経済産業省、防衛省「防衛装備移転三原則・運用指針の見直し(見直しのポイント)」3頁
※6
前掲注4のQ2-1参照
※7
前掲注3の7頁
※8
前掲注4のQ2-1参照
※9
前掲注4のQ2-2、Q2-4、Q2-5参照
※10
前掲注4のQ2-6~Q2-8参照
※11
前掲注4のQ2-3、Q3-1-2参照
※12
前掲注3の7頁
※13
内閣官房、外務省、経済産業省、防衛省「防衛装備移転三原則及び運用指針の改正について(基本的な考え方)」Q1の回答参照
※14
前掲注1の2頁
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