• HOME
  • 著書/論文
  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の経過措置と施行前に締結される譲渡担保契約に関する留意点

Publication

ニュースレター

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の経過措置と施行前に締結される譲渡担保契約に関する留意点

著者等
松尾博憲淺野航平(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Finance Law Update ~金融かわら版~ No.97(2026年7月)
業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という。)※1及び「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和7年法律第57号。以下「整備法」という。)が昨年5月30日に成立し、同年6月6日に公布された。

 譲渡担保法は、公布の日から起算して2年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日が施行日とされており(附則第1条)、今後政令によって具体的な施行日が定められることとなる。

 当然ながら、施行日以降に譲渡担保契約を締結する場合には譲渡担保法の規律を踏まえる必要がある。譲渡担保を利用した与信取引を行っている債権者としては、施行日後における譲渡担保契約の内容やそれに関連した与信の在り方等について、譲渡担保法の規律を踏まえた検討を行う必要があり、施行に向けて議論を積み重ねていくことになると考えられる。

 他方で、譲渡担保法の経過措置との関係で、施行日前に譲渡担保契約を締結する場合においても、譲渡担保法の規律を意識して対応すべき点が存在する。

 そこで、本稿では、譲渡担保法の経過措置の概要を紹介した上で、譲渡担保契約を締結して動産譲渡担保権又は債権譲渡担保権を設定する場合において現時点から特に留意すべき譲渡担保法の規律として、主な2点を解説することとしたい。

1. 譲渡担保法の経過措置

 譲渡担保法は、原則として、譲渡担保法の施行日前に締結された譲渡担保契約及び所有権留保契約についても適用される(附則第2条)。

 これは、①譲渡担保法は、判例法理を明文化するとともに、合理的な法律関係を実現しようとするものであり、その規定を適用しても原則としては当事者の期待を害する程度が高いとはいえないこと、②同一の財産について施行日前に締結された譲渡担保契約に基づく譲渡担保権と施行日後に締結された譲渡担保契約に基づく譲渡担保権とが競合した場合において、仮に後者についてのみ譲渡担保法の規定を適用することとすると、法律関係が複雑になったり、適用関係が不明確になったりするおそれがあるためである※2

 もっとも、施行日前に締結された譲渡担保契約等の当事者は、その契約に譲渡担保法の規定が適用されることを予測していないため、その規定を適用することにより当事者の利益を害するなどの不都合が生じる場合には、個別の経過措置が設けられている。

 例えば、譲渡担保法において、譲渡担保権設定者について倒産手続が開始した場合における集合動産譲渡担保権及び集合債権譲渡担保権の効力が明確化されたが(第106条及び第107条)、現行法上は考え方が分かれていた論点であることから、これらの規定とは異なる効力が発生すると考えて集合動産譲渡担保権又は集合債権譲渡担保権を設定した当事者の利益を害しないよう、施行日前に締結された譲渡担保契約に係る譲渡担保権については適用されないこととされている(附則第14条)。このような経過措置が置かれている規定に対する対応については、施行日後に締結する譲渡担保契約を見据えて今後検討を進めていくことになると考えられる。

 そのため、譲渡担保法の施行日前に締結された譲渡担保契約に適用される規律は、全体の一部ではあるが、更に個別に特別のルールが設けられているなど、譲渡担保契約を締結して動産譲渡担保権又は債権譲渡担保権を設定する場合において現時点から特に留意すべきものもある。占有改定劣後ルール及び根譲渡担保権の譲渡に関するルールであり、それぞれについて順番に解説する。

2. 占有改定劣後ルールと順位保全の登記

(1) 占有改定劣後ルール

 譲渡担保法の眼目の一つといえるのが、いわゆる占有改定劣後ルールである。これは、同一の動産について動産譲渡担保権を含む複数の担保権の効力が及ぶ場合の担保権の順位に関する例外的なルールを定めるものである。

 そのような場合の担保権の順位は、同一の動産について複数の動産譲渡担保権が設定された場合には動産の引渡しの前後によって(第32条)、同一の動産について動産譲渡担保権と動産質権が競合する場合には動産譲渡担保権に係る動産の引渡しと動産質権の設定の前後によって(第35条)、また、動産譲渡担保権と企業価値担保権が競合する場合の順位は動産譲渡担保権に係る動産の引渡しと企業価値担保権に係る登記の前後によって定められる(整備法による改正後の事業性融資の推進等に関する法律(以下「改正後事業性融資推進法」という。)第18条第1項)のが原則である。

 これらの「動産の引渡し」には占有改定(民法第183条)が含まれるが、占有改定は動産の所在(現実の占有者)を譲渡担保権設定者のまま変更せずに行われる引渡しの方法であり、公示性が低いことから、動産を目的とする担保権や企業価値担保権の設定を受けて融資を行おうとする者を含む第三者がその有無を確認するのは困難であり、占有改定によって動産譲渡担保権の対抗要件が具備された場合にも上記の原則どおりの順位が定められるとすれば、円滑な融資の妨げとなる可能性がある。

 以上を踏まえ、譲渡担保法第36条は、譲渡担保法第32条及び第35条並びに改正後事業性融資推進法第18条第1項の例外として、占有改定の方法によって対抗要件を具備した動産譲渡担保権が、占有改定以外の方法によって対抗要件を備えた譲渡担保権又は質権、そして企業価値担保権に劣後する旨等を規定している。これが占有改定劣後ルールである。

(2) 順位保全の登記

 前記1の経過措置のとおり、この占有改定劣後ルールも、譲渡担保法の施行日前に締結された譲渡担保契約について適用されることとなるが、そのまま適用すると、施行日前に占有改定により対抗要件を具備することで他の担保権者に対して優先的な地位を確保していた譲渡担保権者が施行日後にその地位を失って不利益を被るおそれがあるため、個別の経過措置が置かれている。

 具体的には、施行日前に占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権について、施行日から起算して2年を経過する日までの間に動産譲渡登記を備え、かつ、かかる経過措置の適用を受ける譲渡担保である旨が登記原因として記録された場合には、占有改定の時において占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなすこととし、その順位を保全する機会を与えている(附則第5条)。これがいわゆる順位保全の登記である※3

 したがって、譲渡担保法の施行日前に締結された譲渡担保契約について、占有改定のみにより動産譲渡担保権の対抗要件を備えたものがある場合には、譲渡担保権者において、順位保全の登記を行うことを検討する必要がある。

 なお、順位保全の登記は、上記のとおり、施行日から2年間行うことが可能であるが、順位保全の登記が行われないまま施行日が到来すると、他の担保権者に対する地位が不安定となる。順位保全の登記がされるまでの間に、譲渡担保権設定者が債務不履行に陥って他の担保権が実行されたり、譲渡担保権設定者について法的倒産手続が開始したりと、他の担保権者に対する優先的な地位を確保すべき事態が突然発生する可能性もあることから、順位保全の登記※4を行うのであれば、可能な限り譲渡担保法の施行日までに行うことが望ましい。

 また、以上を踏まえると、今後、譲渡担保法の施行日までの間に動産譲渡担保権を設定する場合においても、設定のタイミングで動産譲渡登記により対抗要件を具備しておくのが望ましい。

 なお、順位保全の登記は、通常の動産譲渡登記と同様、登記権利者である譲渡担保権者及び登記義務者である譲渡担保権設定者の共同申請が必要となることに留意が必要である。

3. 根譲渡担保権の規律~極度額の必要性

 譲渡担保法において、根抵当権と同様に不特定の債権を担保する根譲渡担保権に関する規律が明確化されたことも注目に値する。根譲渡担保権に関する規律は、根抵当権の規律を参考に、それと概ね同様の内容とされているが、異なる点も存在する。

 その一つが極度額であり、根抵当権と異なり根譲渡担保権については極度額の定めが不要であるとする通説的な考え方や、後順位の根譲渡担保権が利用されるのは先順位の担保権者と後順位の担保権者とが利害を調整した上で協調して融資を行う場面が多く、極度額の定めによって後順位の担保権者の保護を図る必要性は大きくないという指摘を踏まえ、譲渡担保法は、極度額の定めを必要的とはせず、当事者が任意に定められるとすることにとどめた(第14条)※5

 他方で、譲渡担保法は根譲渡担保権の譲渡(全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡)に関する規定を設けたが、この根譲渡担保権の譲渡は、極度額の定めがある場合にしか行うことができないこととされている(第21条第1項参照)。これは、極度額のない根譲渡担保権の譲渡が可能であるとすると、根譲渡担保権の譲受人(新しい根譲渡担保権者)の下で当初の予測を超えて被担保債権が増大し、後順位の譲渡担保権者等の保護に欠けるおそれがあるためである※6

 また、根譲渡担保権の譲渡は、それを外部に公示するため、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の定めるところによりその登記をしなければ、第三者に対抗することができない(第23条)。このような根譲渡担保権の譲渡の登記をするためには、その前提として根譲渡担保権の登記が必要となることから、根譲渡担保権の譲渡の対抗要件を具備するためには、根譲渡担保権の登記を具備しておく必要があるということになる。

 この根譲渡担保権の譲渡に関する規律は、譲渡担保法の施行日後にされた根譲渡担保権の譲渡であれば、前記1の経過措置の原則のとおり、譲渡担保法の施行日前に締結された譲渡担保契約により設定された根譲渡担保権についても適用されるので、根譲渡担保権を設定する段階で、シンジケーションなどの局面における債権譲渡など、譲渡担保法の施行日以降の被担保債権の譲渡及びそれに伴う根譲渡担保権の譲渡が想定される場合には、設定時に極度額の定めを行うとともに、根譲渡担保権の登記を具備しておくことが望ましい。

4. おわりに

 本稿では、譲渡担保法の経過措置との関係で、施行日前に譲渡担保契約を締結して動産譲渡担保権又は債権譲渡担保権を設定する場合において特に留意すべき譲渡担保法の規律として、主な2点を紹介した。

 もっとも、譲渡担保法の規律は多岐にわたり、とりわけ、その施行に向けた準備においては、これにとどまらない検討が必要となる。

 例えば、動産譲渡担保権については、担保権の順位に関する例外的なルールとして、本稿中で紹介した占有改定劣後ルールの他に牽連性担保権の優先ルール※7が創設されており、このルールの適用を受けない担保権の設定を受ける担保権者としては、自らの担保権に優先する牽連性担保権が存在する可能性に留意する必要がある。また、集合動産譲渡担保権を設定する際の動産の特定方法については、譲渡担保法において実体法上のルールが明確化され、かつ、登記手続におけるルールも改正されているため、従前行っていた動産の特定方法を変更する必要がないか検討する必要がある。

 債権譲渡担保権についても、設定者について倒産手続が開始した場合における集合債権譲渡担保権の効力に関して、倒産手続の開始時に発生している債権のみを回収に充てる類型と、それに加えて手続開始後に発生する債権も回収に充てられる一方、共益費用等相当額を返還する必要がある類型という二つの類型のいずれを選択するかを集合動産譲渡担保権の設定時にあらかじめ定めておく必要があるから、その選択を行う基準やその方針について検討する必要がある。

 さらに、譲渡担保権の私的実行について、原則として担保権者が実行に係る通知を行ってから2週間は私的実行が完了しないというルール(いわゆる「二週間ルール」)が創設されたことから、これに対する対応方法について検討する必要もある。

上記のように譲渡担保法の施行に向けて施行日までに検討すべき事項は少なくなく、本稿は、経過措置の内容に鑑みて現時点から特に留意すべき論点を取り上げたものであるが、今後の検討の一助となれば幸いである。

脚注一覧

※1
本稿において、法令名を明記せずに記載した条文は、譲渡担保法の条文を指す。

※2
笹井朋昭ほか「「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」及び「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の解説⑽」(NBL1313号20頁)25頁参照。

※3
この順位保全の登記は、動産譲渡登記における詳細な記録事項について定める告示(「動産・債権譲渡登記令(平成10年政令第296号)第7条第3項の規定に基づき、法務大臣が指定する電磁的記録媒体への記録方式に関する件」(最終改正令和元年法務省告示第62号))の改正により可能とされることが想定されているが、本稿の執筆日現在、その改正は確認できていない。

※4
施行日前には順位保全の登記の根拠条文である附則第5条が施行されていないことから、厳密には「施行日後に順位保全の登記であると評価されるべき動産譲渡登記」と表現すべきであるが、ここでは単に「順位保全の登記」と記載している。

※5
笹井朋昭ほか「「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」及び「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の解説⑴」(NBL1297号4頁)10頁参照。

※6
笹井ほか・前掲注4)11頁参照。

※7
例えば、売買対象である動産を目的として当該動産の売買代金債務を担保するために設定される譲渡担保権のように、担保目的物と被担保債務との間に牽連性がある譲渡担保権について、牽連性のある債務を担保する限度で占有改定劣後ルールを排除する効力などを認めている。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

ファイナンスに関連する著書/論文

バンキングに関連する著書/論文

買収ファイナンスに関連する著書/論文

プロジェクトファイナンスに関連する著書/論文

事業再生・倒産に関連する著書/論文

  • HOME
  • 著書/論文
  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の経過措置と施行前に締結される譲渡担保契約に関する留意点