1. はじめに
中東情勢や、DX・GXの進展に伴う電力需要の増加等、変化するエネルギーの事業環境に対応するため、資源エネルギー庁の審議会である次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会及び電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGにおいて議論されてきた制度設計の検討結果のとりまとめ※1(以下「中間整理」といいます。)を踏まえて、第221回国会に「電気事業法の一部を改正する法律案」(以下「改正電気事業法」といいます。)が提出され、2026年7月17日に改正電気事業法が成立いたしました。
改正電気事業法は、安定的かつ安全な供給の更なる確保に向けて、(1)大規模送電線・大規模電源の整備の促進等、(2)電気事業の安定的・持続的な発展のための環境整備、(3)太陽電池発電設備等の安全性の向上が改正の主な概要とされています。より具体的に、電気事業者等の観点から影響がある大きな改正事項としては、以下の5点が挙げられます。
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大規模発電等用電気工作物の休廃止に係る協議
(大規模発電事業者は、大規模発電設備を休廃止しようとするときは、一定の期日までに、一般送配電事業者に協議をしなければならない)
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発電等用電気工作物整備等計画、基幹送変電設備整備等計画の認定
(大規模電源、大規模系統の計画の認定制度を設けるとともに、電力広域的運営推進機関が当該認定を有する大規模発電事業者、大規模一般送配電事業者に貸付けを可能とする)
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小売電気事業者の登録の取消事由の追加
(小売電気事業の登録の取消事由として、正当な理由がないのに小売電気事業を1年以上引き続き休止したとき等を追加する)
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卸電力取引所の多様化
(中長期取引市場を開設する中長期卸電力取引所、需給調整市場を開設する需給調整卸電力取引所について、経済産業大臣の指定を可能とする)
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登録適合性確認機関による事前確認制度の拡充
(太陽電池発電設備の設置等をする者は、当該設備の支持物等について、工事の開始前に、登録適合性確認機関による適合性確認を受けなければならない)
(出典:経済産業省「電気事業法の一部を改正する法律案の概要」(2026年3月))
2. 改正電気事業法の内容
(1) 大規模発電等用電気工作物の休廃止に係る協議
発電事業者であって、その事業用に供する発電等用工作物の出力の合計が10万キロワット以上の範囲内において経済産業省令で定める出力以上である者(以下「大規模発電事業者」といいます。)は、経済産業省令で定める出力以上の出力の発電等用電気工作物(以下「大規模発電等用電気工作物」といいます。)の使用を休止し、又はこれを廃止しようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、経済産業省令で定める日までに、一般送配電事業者と、使用の休止又は廃止の期日その他経済産業省令で定めるものについて、協議をしなければならないとされています(改正電気事業法第27条の28の2)。
中間整理では、供給力確保に向けた方策として、実需給の10年程度前に、国、電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」といいます。)、エリアの一般送配電事業者が、電源の休廃止に向けた検討状況等の情報を把握することができるよう仕組みを検討するとされています。
大規模発電事業者が事前に協議をしなければならない期日は経済産業省令に委任されており、現時点では明らかではありませんが、中間整理を踏まえると、休止又は廃止の10年前程度が予想されます。発電事業者としては、電源の休廃止は容量市場の落札結果や関係各所との調整等の様々な要素を考慮して判断する必要がありますが、本改正後においては、当該一般送配電事業者との協議についても、電源の休廃止のスケジューリングにあたって留意が必要です。
(2) 発電等用電気工作物整備等計画、基幹送変電設備整備等計画の認定
中間整理では、電源・系統への投資に対するファイナンスに係る検討事項として、電力の安定供給や、電力分野の脱炭素化といった需要家ニーズへの対応を迅速化する観点から広域機関による財政融資を活用した新たな融資制度を設け、長期・大規模な電源・系統整備への投資を支援するとされています。これに伴い、改正電気事業法では、(i)発電等用電気工作物整備等計画の認定制度、(ii)基幹送変電設備整備等計画の認定制度、(iii)広域機関が当該認定を有する事業者に対して資金を貸し付けできることが新たに規定されました。
広域機関から、資金の貸し付けを受けようとするものは、経済産業大臣から、上記(i)(ii)の計画の認定を受ける必要があります(改正電気事業法第27条の3の2、第27条の11の7、第27条の29の7、第28条の40)。
電源(発電用電気工作物整備等計画)については、その対象は、出力が経済産業省令で定める出力以上のものとされており、どの程度の出力の電源が対象かは現時点では不明確です。もっとも、中間整理においては、融資の対象として、再エネや原子力等の大規模な脱炭素電源に言及されているため、一定の大規模電源となることが想定されます。
系統(基幹送変電設備整備等計画)については、その対象が、送電用又は変電用の電気工作物であって、その電圧の値又は出力が経済産業省令で定める以上のものとされており(改正電気事業法第27条の3の2)、こちらも具体的な詳細は経済産業省令に委任されているものの、同様に大規模な系統であることが想定されます。
なお、(i)(ii)に係る計画の認定基準としては以下が規定されており(改正電気事業法第27条の3の2第3項、第27条の29の7第3項)、広域機関が貸付けの内容を決定する基準は、経済産業大臣が定めるとされています(改正電気事業法28条の50の2)。
<発電等用電気工作物整備等計画の認定基準>
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発電等用電気工作物整備等計画に基づき整備又は更新を実施しようとする発電等用電気工作物が、基幹送変電設備その他の電気工作物の設置及び運用の状況に照らして、継続的かつ安定的に電気を供給することができるものであることその他の経済産業省令で定める要件に適合するものであること。
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発電等用電気工作物整備等計画の実施期間、実施体制その他の事項が当該発電等用電気工作物整備等計画を確実に遂行するために適切なものであること。
<基幹送変電設備整備等計画の認定基準>
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基幹送変電設備整備等計画に基づき実施しようとする基幹送変電設備の整備又は更新が、当該申請に係る一般送配電事業者がその事業の用に供する電線路の容量を一定の値以上増加させるものであることその他の経済産業省令で定める要件に適合するものであること。
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基幹送変電設備整備等計画の実施期間、実施体制その他の事項が当該基幹送変電設備整備等計画を確実に遂行するために適切なものであること。
また、認定計画に従っていなければ、経済産業大臣は当該認定を取り消すことができるとされており、認定を受けた事業者は、実質的に認定計画に基づき事業を実施する必要があることになります(改正電気事業法第27条の3の3、第28条の29の8)。
電源・系統整備のための公的ファイナンスを議論するための、電力事業環境整備WGが立ち上げられ、第1回が2026年7月7日に開催されたところです。同WGにおいては、今後、経済産業省令に規定される大規模電源・大規模系統の定義や貸付けの基準等、詳細要件の議論がなされることが想定されるため、同制度を活用可能な発電事業者や一般送配電事業者は、引き続き議論を注視すべきと思われます。
(3) 小売電気事業者の登録の取消事由の追加
小売電気事業者として登録がされている者は700者を超えていますが、電気の供給実績がない小売電気事業者(以下「休眠事業者」といいます。)が約3分の1存在し、買収された休眠事業者による不正行為や、不正なスイッチング手続が行われる等、休眠事業者に係る不正行為が発生していたとされています(中間整理参照)。これを踏まえて、改正電気事業法では、経済産業大臣は、小売電気事業者が、正当な理由がないにもかかわらず小売電気事業を1年以上引き続き休止したときには、登録を取り消すことができるとして、取消事由を追加しています(改正電気事業法第2条の9第2項)。
中間整理では、供給計画、各種月報等で事業の休止や小売供給の不実施等を確認するとされていますが、中間整理のパブリックコメントでも言及があるとおり、トレーディングのみを行う小売電気事業者は「休止」に該当するのか、「正当な理由がある」とされるのかは明記がされておらず、今後の論点となると思われ、小売電気事業者にとっては、注視すべき改正です。
(4) 卸電力取引所の多様化
広く参照可能で適正かつ安定的な電力価格指標の形成に資するような中長期の電力取引の活性化を図ることにより、①小売電気事業者による中長期での供給力の安定的な調達が期待されるとともに、②発電事業者による電源投資や燃料調達に係る予見可能性の向上に資することから、今後、中長期取引市場を整備、開設することとされています。改正電気事業法では、この中長期取引市場について、経済産業大臣が指定を行い、適切に監督できるようにする規定が設けられています(改正電気事業法第99条の15)。現在の卸電力取引所と同様に、業務規定の認可、事業計画の認可、役員の選任・解任の認可等を経済産業大臣が行うこととし、報告徴収や立入検査の対象にもなり、中長期取引市場に対して一定の監督を行うことができるようにしています(改正電気事業法第99条の17、第106条、第107条)。
また、中長期取引市場と同様に、需給調整市場卸電力取引所も電気事業法上新たに設けられ、経済産業大臣が同取引所を指定することができるとされており(改正電気事業法第99条の19)、調整力の取引を行っている一般社団法人電力需給調整力取引所がこの指定を受けることも考えられます。
(5) 登録適合性確認機関による事前確認制度の拡充
太陽光発電整備の設備容量にかかわらず支持物等に関する事故が発生していることに鑑み、太陽電池発電設備の設計不備による事故を防止するため、太陽光発電設備の支持物等については、第三者機関(登録適合性確認機関)による工事前の技術基準への適合性確認の対象とすることとされました(下記図参照)。太陽光発電事業者にとっては影響がある改正ですが、この詳細は、経済産業省令の改正にもよるところと思われますので、引き続き省令の改正状況を注視すべきと思います。
(出典:経済産業省「太陽電池発電設備等の発電設備を巡る 保安上の課題と対応の方向性に係る取りまとめ」令和8年3月12日 P.12)
3. おわりに
改正電気事業法の施行は、交付の日から起算して9ヶ月を超えない範囲において政令で定める日とされていますので(改正電気事業法附則第1条)、2027年中には施行されるものと思われます。改正内容の詳細は、経済産業省令に委任されている点も多く、電気事業制度を議論する資源エネルギー庁の審議会で、中長期取引市場、電源・系統への投資に対するファイナンス、小売の量的供給力確保義務等、電気事業法改正に関係する詳細の議論がなされることが想定されます。上記のとおり、発電事業者、小売電気事業者、一般送配電事業者、電力卸取引所等広範囲のプレイヤーに対して、影響を及ぼす改正となっていますので、引き続き当該議論の注視が必要です。