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EU強制労働製品禁止規則(FLR)に関するガイドラインの発行と企業に求められるサプライチェーン管理

著者等
福原あゆみ
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.125(2026年7月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 EUでは、強制労働により製造された製品のEU域内での上市・流通やEU市場からの輸出を禁止する規則※1(以下「FLR」といいます)が制定されており、2027年12月14日から適用開始が予定されています。同規則に関しては、2026年6月26日に欧州委員会からガイドラインが公表※2されたところ(以下「本ガイドライン」といいます)、同ガイドラインは法的拘束力がないものの、企業がFLRの適用開始までに準備すべきデュー・ディリジェンスの内容等について具体化したものとして参考となることから、その要点を本稿で紹介します。

ガイドラインの概要

 FLRの概要については、過去のNL「EUにおける強制労働製品禁止規則の成立を踏まえたサプライチェーン管理」※3で紹介していますが、ここでは便宜上本ガイドラインの概要と併せて紹介します。

1. 適用対象

 FLRは、規模、収益、及び事業所の所在地等にかかわらず、すべての事業者に適用されます。また、FLRの規制対象となる「強制労働製品」には、生産、製造、収穫、採掘のいずれかの段階で強制労働が全部又は一部使用された製品がすべて含まれ、国産品か輸入品かにかかわらず、また業種、原産地や製品の種類を問わず適用されます(FLR 2条7項)※4

 強制労働は、1930年ILO強制労働条約(第29号)2条の定義が用いられており、強制の下で個人に課され、その個人が自発的に申し出たものではない一切の労働又は役務(児童労働を含みます)が対象となります。なお、FLRの適用はあくまで強制労働によって生産等された「製品」に限定されているため、サービスの提供は適用対象外とされています。

2. 規制内容

(1) 当局の調査プロセス

 所管当局(EU域外での強制労働の疑義については欧州委員会、加盟国内での疑義については当該加盟国の所管当局)は、強制労働の疑いがある製品について調査を行い、FLRで定める強制労働禁止への違反が認定された場合、製品のEU市場からの排除を命じる決定を下すことができます※5。調査から決定までの大まかな流れについては以下のとおりです。

※本ガイドライン13頁の図を基に作成

 調査は、予備段階の調査(予備調査)と本調査の二段階で行われるところ、当局はまず予備調査として、証拠隠滅のおそれ等手続を妨げる事情がない限り、後述する事業者への情報提供要請等を行い※6、事業者からの回答受領後30営業日以内に「実質的な懸念(substantiated concern)」の有無を判断し、これが認められた場合に本調査へ移行します。本調査でも同様に事業者への情報提供要請等が行われ※7、当局が強制労働により生産等された製品であるかの調査を実施します(当局は追加の情報収集のための現地調査を行う権限も有しています)。本調査は、原則として調査開始日から9ヶ月を超えない合理的期間内に終了しなければならないとされており、強制労働禁止の違反については当局側に立証責任があるとされています(FLR 20条)。

 なお、本ガイドラインでは、事業者が予備調査の段階において、強制労働の状況に対処するための適切な措置を講じていることを証明した場合には、当局はプロセスの複雑さ、強制労働終了の実現可能性、関与する利害関係者の数、当該事業者の規模・リソースを考慮した上で、当該措置を完了し強制労働を終わらせるための合理的な期間を定めることができるとされており、当該期間内に予備調査の根拠が解消された場合には本調査に進まないことが示唆されています(本ガイドライン4.5.3.2)。そのため、企業としては予備調査の対象となった場合には、強制労働リスクに対して適切なデュー・ディリジェンスを実施していることを示していくことが重要であると考えられます。

(2) リスクベース・アプローチの採用

 調査対象の選定と優先順位付けに際しては、FLRが定める基準に従ってリスクベース・アプローチが適用されます。具体的には、①国家による強制労働を含む強制労働の疑いの規模・深刻度、②EU市場に流通し又は入手可能となった製品の数量・規模、③最終製品に占める強制労働により製造等された疑いのある部品等の割合を総合的に考慮するものとされています(本ガイドライン4.3.1)。なお、①については国家による強制労働を含むものとされているところ、国家による強制労働は通常多数の人々に影響を及ぼし、構造的又は体系的な強制労働の慣行を伴うため、大規模かつ深刻なものとなる可能性が高いことが明示されています。

 また、所管当局が調査対象とすべき事業者を特定する際には、強制労働の疑義への近接性・影響力も考慮され、EU域外の強制労働の場合には輸入業者が主要な対象となる可能性が高いとされています(本ガイドライン4.3.2)。

(3) 企業に対する情報提供要請

 FLRは企業に対して具体的なデュー・ディリジェンス義務を課すものではなく、企業に対して強制労働製品に関する結果責任を課すものであり、その点は本ガイドラインでも明記されています(本ガイドライン1)※8。もっとも、当局は、FLRが定める強制労働禁止に違反している可能性があるか否かを判断するために企業に対して情報提供の要請を行うことができるところ(17条、18条)、当該情報提供要請には以下のような情報が含まれる可能性があるとされています。これらの情報についてはFLRの内容が本ガイドラインで具体化されたものであるところ、かなり広範な文書の提出が要求されうることが示唆されており、企業が実施した強制労働リスクのデュー・ディリジェンスの実施状況に対する評価を重視することが窺われます。

  • 事業者が事業活動及びサプライチェーンにおける強制労働のリスクを特定、予防、軽減、終結、又は是正するためにとった措置に関する情報

    • 企業の行動規範や方針
    • 経営陣、従業員、及びサプライヤー向けの研修資料
    • 調達方針、サプライヤー向け行動規範、強制労働の禁止に関する契約条項、及びサプライヤーの登録・モニタリング
    • 業種別のリスク評価
    • 予防措置の確立を証明する文書
    • 苦情処理メカニズムの確立を証明する文書
    • マルチステークホルダー又は業界の認証スキームへの参加を証明する文書
    • ステークホルダー・ライツホルダーの関与(エンゲージメント)、及びNGO、労働組合、地域社会との協議
    • 実施されたデュー・ディリジェンスの取組に関する報告書(適用される国内法及びEU法に準拠した取組を含む)
    • 是正措置計画及び実績評価
    • 第三者による独立監査報告書
  • 強制労働の疑いがある場所での労働条件に関する情報

    • 労働者へのインタビュー記録及び書面による証言
    • 社会監査(労働・人権に関する監査)
    • 労働環境や居住場所の写真・動画
    • 会話のメモ、メッセージ及び電子メールのやり取りの写し
    • 労働者名簿、雇用契約書、給与台帳、及び財務記録
    • 実施された調査の結果(例:労働組合や労働者代表による労働条件に関する調査)
    • 労働者の満足度、補償、是正措置及び予防措置を裏付ける情報
  • 強制労働の疑いがある調査対象の製品に関する情報

    • 製品の特定に関する情報(原産地証明、EU域内における在庫、流通、保管場所に関する情報等)
    • サプライチェーンの構造及び関係者に関する情報(主要な生産工程に関わる製造業者、生産者、及びサプライヤーのリスト、生産プロセスに関与する事業者による宣誓供述書等)
    • 施設及び所在地に関する情報(主要な生産場所の特定、入手可能な場合にはGPS座標等の位置情報等)
    • 取引及び物流記録(発注書、請求書、支払記録、在庫記録、出荷・輸送書類、輸出入記録等)
    • 生産及び生産能力の証明資料(生産指示書、工場の生産能力報告書等)

 企業は情報提供要請に対する全面的な協力義務があるとされ、協力しない場合には他の利用可能な事実から強制労働が認定されるなど事業者にとって不利な結果がもたらされる可能性があります(FLR 20条2項)。

 なお、本ガイドラインでは、企業におけるデュー・ディリジェンスの取組が強制労働不存在の証明に有用である一方、製品のトレーサビリティや責任ある調達慣行、認証制度、労働者主導のモニタリングなど他の手法も有効でありうる点を注記しています(本ガイドライン4.5.1.1)。ただし、実務上はこれらの取組もデュー・ディリジェンスの実施と重なる面が大きいと考えられます。

3. 違反の場合の効果及び制裁

 本調査の結果、強制労働により生産等されたものであることが判明した場合には、当該製品の流通が禁止され、当局は製品の性質により、EU市場から排除する(すなわち、事業者に廃棄等の処分を行わせる)決定を行います(ただし、EUにとって戦略的又は重要な製品については企業がサプライチェーンから強制労働を排除するまで一定期間処分を留保する可能性があります)(FLR 20条4項及び5項)。なお、本ガイドラインでは決定に対する事業者の再審査請求等の手続についても記載されています。

 加盟国は、FLRの違反に関する決定に従わなかった事業者に対する金銭的制裁に関する規則を定め、2026年12月14日までに欧州委員会に通知することが求められています。なお、本ガイドラインは、上記制裁の根拠について、FLRが求める強制労働の禁止自体への違反ではなく、禁止違反決定への不遵守(製品の販売継続・廃棄の不履行等)が対象であることを明確にしています。

日本企業への示唆

 FLRは、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)と異なり、特定の地域や製品について強制労働により生産等されたことの推定を定めるものではありません。もっとも、今後、強制労働リスクのデータベースが公表されることが想定されており※9、そこで強制労働のリスクが高いとされた製品・地域・業種等については調査対象となる可能性が相対的に高いものとして、サプライチェーンの中でより慎重にデュー・ディリジェンスを実施することが推奨されることから、今後、データベースの公表状況についても注目されます。

脚注一覧

※1
Regulation (EU) 2024/3015 of the European Parliament and of the Council of 27 November 2024 on prohibiting products made with forced labour on the Union market and amending Directive (EU) 2019/1937

※3
2024年12月発行「EUにおける強制労働製品禁止規則の成立を踏まえたサプライチェーン管理」(本ニュースレター No.101)をご参照ください。

※4
2027年12月14日以降にEU市場に投入又は提供されるすべての製品に適用されますが、同日時点ですでに最終消費者に到達済みの製品の回収を要求するものではありません。オンラインでの販売についてもEU域内のエンドユーザーを対象としている場合には、適用対象とされます。

※5
いかなる個人・団体も強制労働禁止に関する違反の疑義がある場合に当局に申告することが可能となっています。

※6
事業者は30営業日以内の回答が求められます(FLR 17条2項)。

※7
事業者には30~60営業日以内の回答が求められますが、正当な理由があれば期限延長の要求も可能です(FLR 18条4項)。

※8
ただし、EU域内・域外企業においてEU企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の対象となる場合には人権・環境デュー・ディリジェンス義務が生じる点に留意する必要があります。2026年3月発行「EU企業持続可能性DD指令(CSDDD)の改正に関するアップデート」(本ニュースレター No.116)をご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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