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英国国家安全保障・投資法(NSI法):日本の投資家が知っておくべき英国外国投資規制の現在地

著者等
本田圭松田岳志室憲之介、Will Widdess(TLT LLP)、Calum Ross(TLT LLP)(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Europe Legal Update ~欧州最新法律情報~ No.41(2026年7月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 国家安全保障・投資法(National Security and Investment Act 2021、以下「NSI法」)は、英国における外国投資審査制度であり、2022年1月に施行されました。NSI法のもとでは、指定業種における取引又は安全保障上の懸念を生じさせうる取引に関して、英国政府に審査権限が付与されています。NSI法の制度は英国関連の企業や資産に関する幅広い取引が対象となり、英国在住・海外を問わず全ての投資家に適用されます。

 英国政府は、2026年7月14日にNSI法に関する年次報告書を公表しました。同報告書は、届出・審査の動向について重要な知見を提供するものであり、NSI法が実際どのように運用されているか、日本の投資家が認識すべき事項及び制度改革の見通しについて検討する一助となります。

 日本は英国に大規模な投資を行っており、2024年末には日本からの投資額が1,020億ポンドに達しました。日本と英国は、日英包括的経済連携協定(CEPA)や近時の日英経済安全保障パートナーシップ(ESP)を通じて、引き続き関係が深まっています。2026年6月には、日本政府が、90億ポンド以上のインフラや金融サービスへの投資及び90億ポンドまでの洋上風力への投資を含む、合計180億ポンドの対英国の投資を発表しました。さらに、日英の協力関係は、ライフサイエンス、量子技術、高度な接続性、エネルギー、重要鉱物など、高成長かつ戦略的に機微性の高い分野でも増加傾向が見られます。これらの多くの分野はNSI法上の指定業種に含まれているところ、日本の投資家は実務においてNSI法上の制度に接する可能性が高く、対英国の投資計画においては常に国家安全保障審査を考慮する必要があります。

NSI法の概要

 NSI法は主に以下の三つの制度で構成されています:

  1. 事前届出 – 一定の取引については、完了前に当局の承認が義務付けられています。
  2. 任意届出 – 安全保障上の懸念が生じる可能性がある場合、いずれの取引当事者も当局に任意の届出を行うことができます。
  3. 当局の審査権限(Call-in power) – 届出がない場合であっても、当局は裁量で安全保障上の懸念を生じさせるおそれがある取引を審査することができます。

事前届出の対象となる取引(Notifiable Acquisitions)

 事前届出が義務付けられる取引については、取引を実行する前に、当局に届出を行い、クリアランスを取得することが必要となります。買主に届出義務があります。2025-26年度の年次報告書によると、2026年3月31日までの12ヶ月の間に1,135件の事前届出が行われました。

 事前届出義務は、投資家が、英国の企業若しくは英国で事業を行う又は英国に商品を供給する外国企業の支配権を取得し、当該対象企業が17の指定業種のいずれかを営んでおり、かつ取引が以下のいずれかのトリガー事由に該当する場合に発生します。

  1. 当該取引により、直接又は間接的に、25%超、50%超又は75%超の対象企業の株式・議決権を保有することになる場合。
  2. 当該取引により、対象企業の議決権を直接又は間接的に取得することで、当該企業の事業に関するあらゆる種類の決議を可決又は拒否することができる場合。

 NSI法で指定された17の指定業種は、以下のとおりです:

 先端素材、先進ロボット工学、人工知能(AI)、民生用原子力、通信、コンピューター・ハードウェア、危機管理に関する重要なサプライヤー、政府への重要なサプライヤー、暗号認証、データ・インフラ、防衛、エネルギー、軍事又は軍民併用技術、量子技術、衛星・宇宙技術、合成生物学、輸送

 上記各業種の法的な定義は広範かつ技術的な側面もあるほか、特定の事業が対象範囲内かどうかは必ずしも明確ではないため、不確実な点がある場合は、早期に法的助言を受けることが推奨されます。

任意届出

 事前届出義務が課されていない取引においては、いずれの当事者も任意届出が可能とされています。トリガー事由に該当し、取引が安全保障上の懸念を引き起こす可能性がある場合は、たとえ対象企業が指定業種を営んでいなくても、任意届出を検討することが適切な場合があります。任意届出のトリガー事由には、事前届出のトリガー事由に加え、対象企業の方針に重大な影響を与える取得も含まれます。2026年3月31日までの12ヶ月の間に147件の任意届出が行われました。

 任意届出によってクリアランスを取得しておくことで、取引が当局の審査権限(後述)の対象から除外され、取引完了後のペナルティの対象にならないという一定の保証を得ることができます。

 事前届出制度の対象とは異なり、任意届出の対象となる取引には、株式・議決権の取得に限られず、土地・有形動産や、一定の無形資産を取得する取引も広く含まれます。

当局の審査権限(Call-in power)

 国務大臣は、上記のトリガー事由に該当する場合、安全保障上のリスクを生じさせうる取引を審査(Call-in)することができるとされています。当局の審査権限は、トリガー事由の発生から5年間行使することができます。留意すべき点として、かかる権限はNSI法施行前に完了した取引に対しても行使される可能性があります。例えば、2023年、英国政府はFTDI Holding LimitedによるFuture Technology Devices International Limitedへの投資を認識しました。かかる投資は2021年12月、NSI法の施行前に完了していましたが、政府がこの取引を認識した際、審査権限が行使され、最終的に株式の80%超の売却が命じられました。なお、当局によって実際にCall-inされる例は限定的で、2026年3月31日までの12ヶ月の間、実際にCall-inが行われた件数は60件に上り、そのうち6件は未届出の取引を対象としていました。

 当局が審査権限行使の判断をするにあたっては、以下の3つのリスク要因を考慮します。

  1. ターゲットリスク(target risk) – 取引の対象企業・資産が安全保障に脅威を与える方法で用いられている又は用いられる可能性。なお、2026年3月31日までの12ヶ月間の上位5業種は、防衛、政府への重要なサプライヤー、軍事又は軍民併用技術、データ・インフラ及び先端素材でした。
  2. 買収者リスク(acquirer risk) – 取引の買主が、対象企業を取得することによって安全保障上のリスクを生じさせうる特徴を有しているか。
  3. コントロールリスク(control risk) – 買主が取引対象について取得する支配権の程度。より強度の支配権は安全保障上のリスクを高める可能性があります。

審査結果・是正措置・ペナルティ

 国務大臣は、NSI法に基づく届出の後、クリアランスを通知するか、安全保障上のリスクを軽減させる措置を命じるFinal Orderを発出します(条件付きクリアランスの通知、当該取引の中止、解消、取消しが命じられる。)。クリアランスに付される条件としては、機微性の高い区域への立入制限、機密情報へのアクセス制限、知的財産権移転の防止などが挙げられます。なお、2026年3月31日までの12ヶ月間で発出された9件のFinal Orderのうち、5件は先端素材分野に関連する事案でした。

 クリアランスを得ずに実行された取引は無効となり、以下の内容を含む民事及び刑事のペナルティが課される可能性があります。

  • 全世界売上高の5%又は1,000万ポンドのいずれか高い金額を上限とする罰金
  • 関与した者に最長5年の拘禁刑
  • 取締役の資格剥奪

 事前届出を行わずに、事前届出義務の対象となる取得を完了してしまった場合、当事者は国務大臣に遡及的検証を申請することができます。

届出手続・審査期間

 NSI法の審査プロセスは取引スケジュールを大幅に伸長させる可能性があるため、最初から取引のスケジュールに反映しておくことが重要です。当局への届出後の審査プロセスは以下のとおりです。

  1. 受理期間(acceptance period)– 英国政府は5営業日以内に受理を通知することを目指していますが、実務上はこれよりもやや長くかかることが多いです。2026年3月31日までの12ヶ月間は、事前届出及び任意届出の提出から受理の通知までの間は、平均してそれぞれ10営業日と14営業日が経過していました。届出が不受理となる場合はさらに長い期間がかかる傾向にあります。
  2. 一次審査期間(screening period)– 届出が受理された日から最長30営業日の一次審査期間が始まります。この期間満了までの間に、取引はクリアランスの対象となるか、又は二次審査(Call-in)の対象となります。なお、過去3年間においては、届出があった取引の95%以上について、一次審査中にクリアランスが出されました。
  3. 二次審査期間(assessment period)(Call-inの対象となった場合)– さらに、二次審査の審査期間は、法令上最長30営業日とされており、この間に英国政府が全面的な安全保障審査を行います。一次審査期間の終了時に更なる調査が必要だと当局が判断した場合には、二次審査が行われます。
  4. 延長期間 – 当局は、上記の期間を45営業日延長することができ、当事者の合意があればさらに延長することができるものとされています。

NSI法の今後の展望

 NSI法の制度は2026年後半に改正が行われる見込みで、指定業種の範囲の変更や既存の定義の明確化が予定されています。例えば、新たに水分野の定義が導入され、人工知能分野に関する修正案では対象が高リスク活動に限定される予定です。半導体や重要鉱物の定義の調整も予定されており、これらの分野で事業を展開する日本の投資家にとっては特に重要な改正となる見込みです。

 これらの改正は明確性を高め、規制による過度の負担を軽減することを目的としていますが、根本的な制度運用が変わることは想定されていません。

日本の投資家のための留意事項

  • NSI法の適用有無を早めに検討すること NSI法は、英国に関連する事業や資産に関わる全ての買収や投資の開始時に検討されるべきです。届出書の分析や準備には時間がかかるため、早期に法務アドバイザーを関与させるべきです。また、完了済みの取引がCall-inされる可能性があるか、遡及的検証を求めるべきかといった点も検討するべきと思われます。
  • 特に指定業種の投資家は注意が必要であること NSI法の制度は先端技術、半導体、重要鉱物といった分野を重視しており、これらの分野の市場成長と相まって、これらの分野の投資家は特に英国の投資審査要件について十分に検討するべきです。
  • 取引スケジュールにNSI法を考慮に入れる必要があること NSI法が適用される場合、潜在的な審査プロセスとその期間は取引スケジュール上最初から考慮されるべきですし、クリアランスを取引実行の前提条件とするかどうかや、審査の期限に合わせてロングストップデートを設定するといった方法を検討するべきです。

 本ニュースレターは2026年7月時点の関連法及び実務に関する私たちの理解を表しています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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