※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
1. はじめに
2026年6月9日、米国税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection、以下、「CBP」)は、「輸入者向け強制労働執行運用ガイダンス」(Forced Labor Enforcement Operational Guidance for Importers)(以下、「本ガイダンス」)を公表した※1。
これまでも、ウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act、以下、「UFLPA」)のみを対象とするCBPの運用ガイダンス(2022年6月13日付け。以下、「UFLPAガイダンス」)が存在していた。本ガイダンスは、UFLPAの運用だけでなく、北朝鮮関連産品に関わる対敵国制裁法(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act。以下、「CAATSA」)の運用、さらに、より一般的な強制労働産品の輸入禁止に関する根拠法である1930年関税法307条(19 U.S.C. §1307)及び下位法令に基づく引渡保留命令(Withhold Release Orders。以下、「WRO」)及び強制労働品認定(以下、「Finding」)の運用に関するガイダンスをも包括的にカバーする形で、前記UFLPAガイダンスに代わるものとして、まとめられたものである。
本ニュースレターでは、対象となる強制労働関連執行プロセス(下記「2.」)、本ガイダンスの実務上の主要なポイント(下記「3.」)、及び、米国向け輸出を行う企業としての本ガイダンスの活用(下記「4.」)について、その概要を解説する。
2. 本ガイダンスが対象としている強制労働関連執行プロセス
本ガイダンスは、大きく分けて、以下の3つの分野の執行プロセスについて、CBPの執行プロセスや輸入者としての対応指針を示している。
・ ウイグル強制労働防止法(UFLPA(P.L. 117-78))
2021年に制定され、翌2022年に運用が開始されたUFLPAは、中国の新疆ウイグル自治区において全部又は一部が採掘・生産・製造された物品、又は、UFLPAのためのエンティティ・リストに掲載された事業者によって製造された物品は強制労働により生産等されたものであるとして米国への輸入が禁止されるという反証可能な推定を定めている。この推定を覆すためには、輸入者は、物品が強制労働によって生産等されたものではないことを明白かつ説得力のある証拠によって証明し、UFLPA戦略に完全に従い、かつCBPからのすべての照会に完全に応答することが必要である。
・ 対敵国制裁法(CAATSA(22 U.S.C. § 9241a))
CAATSAは、北朝鮮の国民によって全部又は一部が生産等された物品は強制労働により生産されたものとして輸入が禁止されるという反証可能な推定を行うものであり、2024年以降、CBPは、CAATSAの対象となる貨物につき当該推定に基づいて米国への輸入を不許可としている。この推定を覆すためには、輸入者は、物品が強制労働によって生産されたものではないことを明白かつ説得力のある証拠によって証明しなければならない。
・ WRO及びFinding(19 U.S.C. § 1307)
CBPは国際サプライチェーンにおける強制労働の申立てを常時調査しており、上記のような特定の地域の生産品に限らず個別の強制労働の嫌疑に関し、WRO(引渡保留命令)を発し、あるいはFinding(強制労働品認定)を行うことができる。WROは、対象貨物を留置するよう港湾職員に指示するものであるところ、輸入者は、留置から3ヶ月以内に、原材料から最終組立てに至るまでサプライチェーンのいかなる段階においても強制労働が使用されていないことを示すことにより輸入適格性(admissibility)を証明するか、又は留置された物品を輸出もしくは廃棄しなければならない。
他方、Findingは、CBPに差押えを認め、その後、没収を可能にする措置である。Findingの対象となった物品は、直ちに差し押さえられることがある。
<WRO(引渡保留命令)とFinding(強制労働品認定)の要件・効果の違い>
|
確証の程度 |
要件の難度 |
効果 |
WRO (引渡保留命令) |
合理的な疑い (reasonable suspicion) |
相対的に低い |
対象貨物の留置 (detention) |
Finding (強制労働品認定) |
相当な理由 (probable cause) |
相対的に高い |
対象貨物の差押え・没収 (seizure・forfeiture) |
3. 本ガイダンスの実務上の主要なポイント
本ガイダンスは、大別して、①UFLPA、②CAATSA、及び、③WRO・Findingの3つのプロセスを“Forced Labor Enforcement Processes”(強制労働執行プロセス)を構成するものとして整理し、2022年のUFLPAガイダンスに代わるCBPの包括的な指針として、統合したものである。なお、本ガイダンスは、輸入者に対し、基本的にすべての審査請求をCBPの強制労働ポータル(Forced Labor Portal)を通じて提出するよう指示している※2。
本ガイダンスは、それぞれの強制労働執行プロセスについて、CBPによる執行の端緒、CBPによる措置・通知の内容、輸入者が行うことができる例外審査等の手続の進め方、輸入者が収集すべき情報・提出書類や構築すべき体制、執行のタイムラインなどについて、輸入者が留意すべき点を詳細に示している。
(1) 各強制労働執行プロセスの執行トラック
本ガイダンスは、①UFLPA、②CAATSA、及び③WRO・Findingの各強制労働執行プロセスについて、強制労働執行プロセスごとの一覧性の高いプロセスマップと、プロセス内の各ステップに関する詳しい説明を掲載している。また、各強制労働執行プロセスを対比する比較表を掲載している。そのため、本ガイダンスは、輸入者が、執行の端緒から始まり、留置、差押えその他それぞれのステップの内容、法的根拠、応答期間、当局側の処分の選択肢、そして、輸入者からの審査申請の方法の選択肢等を確認し、特定するのに役立つと思われる。
① UFLPAの執行プロセス
本ガイダンスは、UFLPAの執行プロセスについて、CBPがUFLPAの執行を開始する端緒となるパターンを、潜在的インプット(potential-input)と直接インプット(direct-input)の2つの経路に区分して示している。
潜在的インプットがある場合とは?
ある貨物と新疆ウイグル自治区又はUFLPAエンティティ・リストとの関連性につきCBPが疑義を有しているものの確信には至っていない場合を指す。このとき、CBPは、該当する貨物を留置又は輸入不許可とすることができる。輸入者は30日以内に応答しなければならない(最大2回の延長が可能ではあるものの、留置通知の日付から起算して合計90暦日を超えることはできない)。輸入者は、適用可能性審査(新疆ウイグル自治区又はエンティティ・リストとの関連性を争うもの)、又は例外審査(そうした関連性を認めたうえで、明白かつ説得力のある証拠により強制労働の推定を覆そうとするもの)のいずれかを請求することができる。
直接インプットがある場合とは?
物品の全部又は一部が新疆ウイグル自治区において採掘・生産・製造された、又はUFLPAエンティティ・リストに掲載された事業者により生産等されたものであることを示す証拠があり、CBPがそれを認定した場合を指す。CBPは当該物品を輸入不許可とすることができる。輸入者は、輸入不許可から180日以内に19 U.S.C. § 1514に基づく異議申立て(protest)を申し立てることができ(期間の延長は認められない)、その後、異議申立てが却下された場合には、却下された日から180日以内に米国国際貿易裁判所(U.S. Court of International Trade)に訴訟を提起することができる。
② CAATSAの執行プロセス
上記のとおり、CAATSAは、生産場所にかかわらず、北朝鮮の国民によって全部又は一部が生産された物品は、強制労働によって生産されたものであるとして輸入が禁止されるという反証可能な推定を設けており、対象となる輸入品はCBPにより直ちに輸入不許可とされる。輸入者は、例外審査の請求を180日以内に申し立てることが可能である(期間の延長は認められない)。重要な点として、UFLPAでは具体的な反証方法について指針※3が存在する一方、CAATSAに関する同様の指針は掲載されていない。本ガイダンスは、輸入者にCAATSAでの反証についてもUFLPA戦略※4の関連資料を参照するよう示している。
③-1 WROの執行プロセス
WROは、物品の全部又は一部が強制労働によって生産され、かつ輸入されている、又は輸入される可能性が高いとCBPが合理的な疑いを持った場合に、当該物品を留置できるとするものである。輸入者は、3ヶ月以内に輸入適格性を証明するか、又は、輸入不許可とされた物品の輸出又は廃棄をするかを選択することになる(期間の延長は認められない)。また、当該物品が輸入不許可とされた場合、輸入者は180日以内に異議申立てを申し立てることができる。
③-2 Findingの執行プロセス
CBPが、強制労働が使用されたことについて相当の理由を有し、かつ物品が現に輸入されている、又は輸入される可能性が高い場合、CBPは物品を差し押さえることができる。輸入者は、差押えに異議を申し立てるためには、原則として30日以内にCBPの罰金・違反金・没収担当室(Fines, Penalties, and Forfeitures Office)に対して申立てを行わなければならない。なお、Findingの対象となる物品は、WROに基づく場合のように単に留置されるのではなく差し押さえられるため、輸入者は当該物品を輸出することができない。
(2) 本ガイダンスにおけるその他のポイント
文書要件の強化及び英訳添付の必要性
例えば、適用可能性審査のための提出書類には、原材料から完成品に至るまで、生産の各段階における包括的なサプライチェーン追跡調査を含めなければならない※5。もっとも、輸入者に求められる証拠の種類、性質、及び範囲は、問題となる輸入の事実及び状況に応じて異なる。例えば、WRO輸入適格性審査については、標準的な原産地証明書は認められず、輸入者は19 C.F.R. § 12.43(a)に規定された様式を提出しなければならない。また、必要とされる輸入者の陳述書は輸入者自身が提出しなければならない。なお、すべての外国語文書には、英訳を添付しなければならないことが付記されている。
強制労働留置に対する金銭的保証
CBPは、強制労働が疑われる場合、輸入者に対し、留置された物品の価額の3倍に相当する額の単一取引型の基本輸入・輸入申告保証(ボンド)の差入れを求めることがある。また、輸入者は、審査手続が係属している間に発生するすべての保管費用についても責任を負う。
強制労働産品が輸入対象に含まれていた場合の対応(事前開示及び再引渡し)
本ガイダンスでは、強制労働産品が輸入対象に含まれていたことが分かった場合の対応について、輸入者が自発的に行動する場合(事前開示(Prior Disclosure))と、CBPからアクションがとられる場合(再引渡し(Redelivery))の二つのプロセスについても要点の解説がなされている※6。
まず、自社のサプライチェーンに強制労働による物品が含まれる可能性を発見した輸入者は、CBPが独自に違反を発見する前に、CBPに対して事前開示(Prior Disclosure)を行うことができる。これは、関税関係法令に違反したこと一般について、19 U.S.C. § 1592に基づき、輸入者側のアクションにより行うことができる行為であり、関税関係法令違反によって科される可能性がある制裁金(penalties)を、自発的申告により、大幅に免除又は減額させる可能性がある行為である。
次に、CBPは、CBPによる貨物の通関完了後、輸入者に対し、当該貨物を入国港(POE)へ返送するよう求めることができる。これを、再引渡し(Redelivery)という。CBPは、通関日から30日以内、又は条件付引渡しの場合であればその期間の終了後30日以内のいずれか遅い日までに、輸入者に対し、問題となっている貨物を入国港に戻すことを要求することができる。輸入者が貨物の再引渡しを行わなかった場合、CBPは、再引渡しの対象となる物品の申告価格の3倍に相当する損害金(liquidated damages)を輸入者に課すことがある。これに加え、状況によっては、追加的な制裁金(penalties)が課されることもある。
4. 米国向け輸出を行う企業としての本ガイダンスの活用
本ガイダンスは、直接・間接に米国市場に製品を出荷する企業において、新疆ウイグル自治区(ないしUFLPAエンティティ・リスト掲載企業)や北朝鮮国民による強制労働、あるいは、より広範な強制労働のリスクに鑑み、UFLPA、CAATSA、及びWRO・Findingといった執行プロセスへの対応指針を示すものである。実際にCBPが留置又は差押えを実施した場合には、その事案におけるCBPへの対応や場合によっては制裁金の負担、さらには、その他の関連する物品の輸入にも影響が広がる可能性があるため、その影響は無視できない。
米国トランプ政権は、2026年7月、1974年通商法301条に基づく追加関税について、60カ国に対して実行した際にも、各国の強制労働産品対策が不十分であることを根拠にしており※7、米国通商措置の中で、強制労働産品対策は、最も重要なテーマとなっている。
これらのリスクに対処するためにはサプライチェーンにおける透明性を維持することが重要になるが、特に企業にとって重要なサプライチェーンやUFLPAの執行の優先度の高いセクター※8については、本ガイダンスの附属書類で示すトレーサビリティに関する証拠書類のリストも参考になると思われる。
脚注一覧
※2
なお、輸入不許可通知(exclusion notice)に対する異議申立ては、強制労働ポータルではなく、ACEシステムから異議申立て(protest)モジュールを通じて申し立てることになっている。
※3
本ガイダンスの末尾にあるAppendix E及びAppendix F参照。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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