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トヨタグループ初の自己募集による公募型セキュリティトークン社債の発行

著者等
糸川貴視宮下優一遠藤努大野一行馬渡遥子(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Capital Market Legal Update ~キャピタルマーケットニュースレター~ No.60/NO&T FinTech Legal Update ~FinTechニュースレター~ No.16(2026年8月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 トヨタファイナンス株式会社は、2026年8月18日、ブロックチェーン技術を活用した社債、いわゆるセキュリティトークン社債として、「トヨタファイナンス第2回セキュリティトークン社債(愛称:TOYOTA Wallet つむぐボンド)」の発行を公表し、同日より募集を開始しました。今回の発行は、同社として2回目のセキュリティトークン社債の発行ですが、今回の取組みは、前回の発行を単に踏襲するものではなく、トヨタグループとして初の自己募集による公募型セキュリティトークン社債である点に大きな特徴があります。

 長島・大野・常松法律事務所は、今回の発行において発行体側リーガルカウンセルを務めています。セキュリティトークン社債は実例が蓄積されつつありますが、自己募集による発行事例はいまだ限定的であり、本ニュースレターでは、発行概要及び主な法的論点についてご紹介します。

発行概要

1. セキュリティトークン社債の概要

 セキュリティトークン社債とは、社債に表示される権利をトークン化、すなわち、ブロックチェーン等の分散型台帳上の記録により取引を可能としたものです。今回、トヨタファイナンス株式会社(以下「トヨタファイナンス」)が発行するセキュリティトークン社債(以下「本ST債」)は、自己募集という枠組みを活用して、トヨタファイナンシャルサービス株式会社(以下「TFS」)が提供するスマートフォン決済・モビリティサービスアプリ「TOYOTA Wallet」を経由して申込みができる仕組み等を採用しています。

 本ST債の概要は以下のとおりです。

銘柄名称 トヨタファイナンス株式会社 第2回無担保セキュリティトークン社債 (社債間限定同等特約及び譲渡制限付)
愛称 TOYOTA Wallet つむぐボンド
社債総額 10億円
年限 1年
払込期日 2026年10月27日
償還期限 2027年10月27日
ファイナンシャルアドバイザー SMBC日興証券株式会社
社債管理者 株式会社三井住友銀行
プラットフォーム ibet for Fin(提供会社:株式会社BOOSTRY)
発行体リーガルカウンセル 長島・大野・常松法律事務所

2. 自己募集に至った背景

 トヨタファイナンスは、2025年3月に、既に第1回セキュリティトークン社債(愛称:トヨタウォレットST債)を発行していますが、その際は証券会社による引受けを通じた販売形式でした。今回の第2回債においては、より良い投資体験とサービス提供を目指し、申込みから社債保有時の案内、特典提供までを一体的に設計することが可能な自己募集での発行という形が選択されました。

3. 本ST債の主な特徴

(1) TOYOTA Walletを経由した申込みの仕組み

 本ST債では自己募集の仕組みを採用することにより、発行体(トヨタファイナンス)は、商品設計、投資家への情報提供、申込みの受付、払込み及び社債権者の管理等の各プロセスを一体的に設計することができます。また、証券会社を経由する従来型の販売方法と異なり、発行体自身による広告、情報提供及び申込手続が投資家との主たる接点となるため、金融商品としての社債の内容及びリスクを投資家に適切に伝える観点から、募集に関する表示、広告、ウェブサイト及びアプリ上の導線を一体として設計することが重要となります。

 本ST債では、TOYOTA Walletアプリが社債の発行・管理等に係る各プロセスにおいて重要な役割を担っており、投資家は、このTOYOTA Walletアプリをインストール後、これを入口として、発行体の専用の申込ページに遷移した上で、本ST債の申込みを行う仕組みであり、投資経験の少ない個人投資家も参加しやすい設計となっています。一方、TOYOTA Walletアプリ自体は、トヨタファイナンスの親会社であるTFSの提供するアプリであることから、これに関連して後述の論点が問題となります。

(2) 特典の付与

 本ST債には、購入した投資家へのインセンティブとして、TOYOTA Wallet残高付与、モータースポーツの観戦体験、車の試乗体験等の特典が設けられています。なお、これらの特典は、商品設計上、本ST債の一部を構成するものとはしていません。

4. 発行スキームの概要

 発行体(トヨタファイナンス)は、自己募集の方法で直接投資家に対して社債の取得勧誘を行います。投資家は、TOYOTA Walletアプリから専用の申込ページに遷移した上で、申込みを行い、当選後に申込証拠金を振り込みます。社債管理者は、会社法上、社債権者のために元利金の弁済を受ける権限を有し、元利金は社債管理者を通じて投資家に支払われます。プラットフォームとしては、株式会社BOOSTRYが提供する「ibet for Fin」が採用されており、ブロックチェーン上での社債の発行・管理・権利移転・償還が行われます。

 本ST債は公募形式のため、金融商品取引法上の開示規制への対応として発行登録追補書類が提出されています。

主な法的論点

 本ST債の発行に当たっては、会社法上の社債にブロックチェーン技術を活用し、証券会社を介さず個人投資家向けに自己募集で発行するという観点、購入した個人投資家へのインセンティブとして多様な特典を付与するという観点等から、以下のような法的論点及び税務上の取扱いを検討する必要がありますが、この他にも多様な論点が存在します。

  • TFSが提供する決済アプリであるTOYOTA Walletアプリを活用した本ST債の販売に関する金融規制上の検討
  • 社債の発行手続・権利移転・償還をTOYOTA Walletアプリやibet for Finを活用してどのように行うか
  • 社債要項の内容設計
  • 特典設計における、税務上の利子該当性の検討
  • 特定商取引に関する法律上の広告規制等への対応
  • 発行登録追補書類の開示内容の検討
  • 投資家の個人情報の取扱いの対応
  • 証券会社を介さない自己募集における投資家向け説明の適切な実施方法の検討
  • その他各種レギュレーションの検討

 なお、関連して、2026年7月24日、金融庁より、社債発行企業のグループ企業によるデジタル社債等の勧誘に係る規制の緩和についてのパブリックコメント手続が実施されている点が注目されます。

最後に

 本ST債は、トヨタグループ初の自己募集による公募型セキュリティトークン社債として、TOYOTA Walletアプリという既存のモビリティサービスアプリと証券発行を融合させたスキームを活用し、証券口座を持たない個人投資家へのリーチを拡大するとともに、トヨタグループとの結びつきを活かした体験型特典というインセンティブを提供するものです。セキュリティトークンは、従来と異なるユースケースを投資家に提供していくことが期待される商品ですので、規制環境の変化も含め、当事務所としても最新の動向を継続してお伝えしてまいります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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